求められないI need you
2月が終わって少し。
花の咲いていない桜の下で彼女を待つ。
遠い遠い、崇拝ともいえる憧れだった彼女と
待つことを許されるような関係になってから何度目かの待ち合わせ。
先輩を待っているこの時間は、
いつもは何時間でも平気なくらいなのに、
「ごめんね、待たせた?」
普段は無条件で嬉しいはずの声も
「いえ…今来たところです。」
真っ直ぐ見れるはずの姿も、左胸の飾りが苦味をもたらす。
赤と白のめでたい色。
去年まではこの色になんの思いも抱かなかった。
今の私にとっては親の仇のようにすら思える色。
「ご卒業、おめでとうございます。」
この言葉に真剣になるのはもっと先だと思っていた。
「うん、ありがと」
ふわりと花がほころぶような笑み。
今日という門出の日に相応しく、実際、先輩の心は嬉しさに満ちているのだろう。寂しさなど、未練など微塵も無く。
「外の高校に…行かれるんですよね…」
「うん。県内だけどね」
小中高一貫のレールから外れてまで先輩が追い求める何か。
それはなんてことはない普通の公立高校にあるらしい。
通うにあたって、昔住んでいた、とか親戚の家がある、というわけでもないので春から一人暮らしをするのだと言っていた。
なぜ?と一度だけ聞いたことがある。
先輩は困った顔をして、愛が欲しいからよ、と言っていた。
「…先輩、」
「なぁに?」
「 ……行かないでください…」
考えていた先輩が好きそうなロマンチックな台詞も、
練習していた先輩が絆されてくれそうなあざとい表情も、
しぼんでどこかに消えてしまった。
吐き出せたのは子どものような駄々。
私のこの気持ちじゃ、だめなのだろうか
わたしじゃ、だめなのだろうか
「ごめんね。」
ふわりと与えられた、餞別のような抱擁とともに
「」
私の、初恋と呼ばれそうななにかは終わった