6――疑問と答え
椿はあたふたしながら茶碗蒸しをレンジに入れ、菜緒の方を向いた。
「それで、なんだっけ?」
無邪気な声で言われ、咎める気力を削がれる菜緒だった。
「なぜ千寿電気の業績が伸びなくなったか」
そう言われてやっと思い出した椿。
「そうだったそうだった。んんー……。どうしてだろね?」
椿の雑な匙の投げ方に一言二言告げたかった菜緒だが、ぐっと呑み込んで答えた。
「高橋電気よ。最近うちにもチラシがきてるでしょ?」
菜緒の言葉をきっかけに、椿の中の疑問が解けて繋がった。
「そっか。そういえば千寿電気の近くに新しく電気会社ができたんだよね。確かそれが高橋電気……」
高橋電気は全国展開を掲げる大手企業。言ってみれば千寿電気とは正反対な会社だ。
そして、そんな会社ができたら千寿電気の業績が伸び悩むのも理解できる、と椿は一人納得した。
「大手企業の高橋電気は千寿電気の強敵になったってところね。そしてそのライバルである高橋電気の副社長が高橋荘治……千寿電気に勤めている金城美代子の元彼……」
菜緒の妙に達観したような声が狭い部屋に響く。
「つまるところ、二人は『ロミオとジュリエット』状態だったってこと?」
椿は自覚しているのかしていないのか、菜緒とは正反対の明るい声で応えた。
「まあ、その可能性もあるってことよ」
椿のように単純に考えるなら、その可能性しかないのに。
菜緒は椿を少し羨んだ。私はいつも複雑に考えてしまう、と。
「で、菜緒、もう一つ聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
椿の声の雰囲気が変わった。
そのことに気づいた菜緒は少し身構えた。
「『本当に事故だったのか』って疑うってことは、菜緒は事故じゃないって考えているんだよね。……どうしてそう思うの」
冷たい声だった。いや、怒りを隠している声にも聞こえた。
話題が話題だから、菜緒は椿の態度の変化にそこまで驚かなかった。
「まさか、事故じゃなければいいって思ってる?」
「違うわ」
菜緒は即答した。
「事故じゃないからいいとか、そんなこと考えるほど私は汚れてないわ。事故であれ、事件であれ、一人の命が失われているのだから、どっちだからいいとか、そんなのないわよ。どちらにしてもいい気はしない。そうでしょ?」
菜緒はできるだけ感情的にならないようにゆっくり話したつもりだ。
「……そうだね」
椿の声の雰囲気が少しだけ和らいだ。
「関連してあのことを思い出すから、事故じゃないことにしようとしてるのかと思ったよ。でも、そうだよね。菜緒なら揺らがずに真実を見据えるよね。ごめん」
純粋な椿の言葉が菜緒の胸を刺す。
心のどこかでは、椿の言った通りに望んでいた節もあったのかもしれない。
少しだけだとしても、思い出してしまったのは事実なのだし……。
菜緒がネガティブ回路を働かせようとしたとき、電子レンジの清々しいあの音が鳴り響いた。
おかげで菜緒は一瞬にして正気に戻った。




