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時戻し屋の日課  作者: 宮里作楽
case1 金城美代子
5/20

3――子犬のような同居者

「まったくもう。また後回しにするんだ、菜緒」


 金城の姿が見えなくなってから、店の奥から現れたツインテールの少女。


「人聞きが悪いわね。じっくり考えさせていると言ってちょうだい、椿」


 菜緒は軽く目をつむり、自分の右後方にいる少女――雛岸椿(ひなぎし つばき)――に言葉を放った。



「というか椿、あなたまた盗み聞きしてたのね。趣味が悪いからやめた方がいいわよ」


 菜緒はパーティションを元の場所に戻し、店仕舞いを始めながら椿を咎めた。


「一緒に住んでる仲だし、いいじゃないのー」


 椿は軽々しい足取りで菜緒の元へ近づき、店仕舞いの手伝いを始めた。


「私がよくてもお客がねぇ……。って椿、まだシャッター下ろさないで。看板がまだ店の外だから」


 シャッターフック棒の先を天に掲げている椿の動きがぴたりと止まる。


「ありゃりゃ、ごめんね菜緒」


 椿はフック棒の先を地に向け、跳ぶような軽々しさで店の外へ出ていった。



 すぐに戻ってきた椿の手に、畳まれた立て看板が抱えられていた。


『時戻し屋 ――どうしてもやり直したい過去、やり直しませんか――』

 深緑色のボードに、白いチョークでシンプルに書かれている。他に書かれているものといえば、右下に小さく書かれた営業時間のみだ。


「この看板、なんか地味だよねー」


 椿が声のトーンはそのままで言うので、冗談で言っているのかと思った菜緒。

 しかし椿の目は抱え込んだ看板に真剣に向けられているので、本気で看板のデザインを考えているのだと分かった。


 この子はいつもそうなのだ。口調から感情がなかなか読み取れないことがある。ただ、目は正直者なのだ。16年とプラスアルファの時間を一緒に過ごしているから、性格は互いによくわかっている。


「真面目にやるなら、あなたに看板のデザイン任せてもいいわよ?」


 菜緒がフック棒を手に取りながら言うと、椿は目を輝かせた。


「それマジ!? ありがと! 喜んで引き受ける!!」


 椿は長い脚を折り曲げ、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「はいはい、喜びはわかったから飛び跳ねないの。看板が壊れるわ」


 呆れ顔で椿を見つめる菜緒。椿はその視線に気づいたようだ。

 飛び跳ねるのを止め、看板を店の奥に持っていく。


 菜緒はシャッターを下ろそうと、フック棒をシャッター下部に開いている穴に掛けるが。


「菜緒待って! あたしがやる!!」


 わざわざ走って戻ってきて、子供のような輝いた目を向けてくる椿を見て、菜緒はつくづくこう思うのだった。


 ――子犬みたいね……

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