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第二話 ①

「おお」

 午前十一時。スノーホワイトタウンの見事に白く化粧された町の外見にナックルはガイドブックを片手に嘆息した。

 他の町に比べて一回り小さい建物が並び立ち、その建物の壁はいずれも雪の様な淡い白で統一されていた。流石、メルヘンシティ随一の観光スポットと言われるだけある。

 初めて見る景色と言うのはテンションが上がる物で、町を見るのが好きだったナックルはいそいそとホテルで貰った観光冊子を広げてスノーホワイトタウンの名物の項目を見た。

 どうやら、町の中央に名物の大理石で作られた巨大な噴水があるらしい。早速ナックルはそれを見に行く事にした。

 町民達は観光客を見慣れているのか、フードを目深に被ったナックルを見ても不審な表情をせず、むしろハーイと気前の良い挨拶させ返したりした。

 自分の様な怪しい外見の男が歩いているのに珍しいとナックルは思いながら、テクテークと目的の噴水広場へと辿り着いた。

「ほう」

 確かにガイドブックに書いてあるとおり、見事な噴水がそこにはあった。

 純白の大理石が雪花の形を模して形作られ、その真ん中から大人三人は簡単に包めそうな程の量の水が噴き出している。

 十メートル離れた所からも涼しげな冷気が伝わり、昨日と変わらない炎天下も相まってある種の楽園だった。

 公園にはクレープ屋やタピオカ等を売っている屋台が幾つかあり、恋人であろう若者達が連れ添っている姿が目立っていた。

 これは良い。ナックルは顔をほころばせ、噴水へと近付いていく。せっかくだからスノーホワイトシティ名物と言うレインボードリンクを飲んでみようと思ったのだ。

 ナックルは屋台に近付いてニコニコと笑う店主に小銭を渡した。

「おじさん、レインボードリンク一つ。Lサイズで」

「あいよ! ちょっと待っていてね。お客さん観光かい? 珍しい身なりをしているね。半分金属の顔なんて初めて見たよ」

「観光というか旅をしているんです」

「旅!? 良いねぇ! やっぱり男子足るもの広い世界に憧れるよね! まあおじさんはメルヘンシティ生まれメルヘンシティ育ちなんだけどね」

「それも充分良いですよ。屋根が無い所で寝るのは体に堪えます。ほら雨が降ったら錆びちゃいますし」

「何とまあ! それじゃあ後で腕の良いメカニックを紹介してあげるよ!」

 店主は客商売に慣れているのか、ただ単に馴れ馴れしいのか、ナックルに色々と話しかける。

 人と話すのがナックルは嫌いではなく、むしろ好きな方で、店主との話は楽しかった。

 ナックルの視線の先で、店主はジュースサーバーの七つの注ぎ口にコップを忙しなく当て、七色のキラキラ光る不思議なドリンクを完成させていく。

 後十秒もあれば出来るだろう。

 そんな時だった。

「ナックル!」

 ナックルの後方から鋭い聞き覚えのある高い少女の声が聞こえた。

 その声には驚きの色が強く出ていて、ナックルは反射的に後方へと振り返った。

「あ、リンダじゃないか。おはよう。昨日ぶり」

 ナックルから十メートルほど離れた場所に昨日あった灰髪の少女、リンダが立っていた。

 リンダは昨日と同じ様な白いワンピースを着ている。

 彼女はナックルを見て、眼を見開き、息を飲んだ。

 まるでナックルがここに居る事が信じられないかのように。

「ああ、やっぱりナックルね! こんな所で何をしているの!?」

「見ての通り観光だが? ここは名物スポットなんだろう? あ、おじさん、すいません、受け取ります」

 リンダの存在に気を取られ、ついドリンクを受け取るのを忘れていたナックルは、軽く頭を下げて、店主へと手を差し出した。

「……?」

 だが、先ほどまでのにこやかさは何処へやら、店主は表情を固くして、無言でストローが刺さったレインボードリンクをナックルへと押し付けた。

「あ、ありがとう」

 戸惑い気味にナックルが礼を言うが、店主は一切の返事をせず、屋台の奥へと行ってしまう。

 急激な対応の落差にナックルは釈然としない物を覚え、首を傾げながらリンダの元へ歩いていった。

 ナックルが目の前に来た瞬間、リンダは断りすら入れずにナックルの右頬を触った。

 ペチペチペチペチ。

「ああ、冷たい。あなたはやっぱり昨日のナックルね」

「何を当たり前な事を」

 リンダのおかしな態度にナックルは左眉を潜めながら、噴水前にあるベンチの一つへと腰掛けた。

 リンダもそれに続きナックルの右隣へと座る。

 その時ナックルは気付いた。つい先ほどまで賑やかだった周囲がシーンと重苦しい沈黙に包まれている。

 あまりの周囲のテンションの落差。一体何が起きたのか。

 全ての物には理由がある。

 では、さっきと今で変わった事は一体何か。

 ナックルは周囲を見渡した。

 観光客らしき一団は楽しげに喋っているが、それ以外の町民と思われる者達は皆口を真一文字に閉じ、不自然にこちらへと視線を向けていなかった。

 どういう事か、考えている内に、リンダがナックルへ問い掛けた。

「ナックル、あたしと別れた後、何か無かった?」

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