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第一話 ④

 *


 薄暗い部屋だった。

 明かりは壁際の数本の蝋燭の炎のみ。

 時代遅れの光源を使った部屋は不気味な雰囲気に包まれていた。

 部屋の中央には天蓋付きのベッドが置かれている。

 そのベッドの脇にくたびれたワイシャツを着た線の細い壮年男性と灰色のネグリジェを着た灰髪の少女が立っていた。

「リンダ、ああ、リンダ。私の愛しいリンダ」

 男の掠れた低い声が部屋に響いた。愛を語る言葉は粘っこく熱を持っている。

「嬉しいですご主人様。私などにその様な言葉を言ってくださるなんて。勿体無くて涙が出てきそうです」

 少女はニコリと笑い、一歩男へと近付き、スッと体を男へ擦り寄らせた。

「愛している。その灰色の髪も、灰色の瞳も、流れるような鼻先も、薄らとした唇も、張りを持った首筋も、言っていたら切りが無い」

「本当に嬉しいです。ここまで愛していただけるなんて夢にも思いませんでした」

「そんな事は無い。リンダ、お前は最高なのだ」

 そう言いながら男はリンダの肩に手を掛けて、パサリとネグリジェを床へと落とした。

 一糸纏わぬ、彫刻の如く美しい肢体だった。

 ゴクリと男が唾を飲み込む音がした。

 その瞳に獣欲の色が混ざる。

「ご主人様」

 少女のその一言で男の理性は崩壊した。

 ベッドへと押し倒された少女は一度深く眼を閉じて、自身を硬く抱き締める男の右頬を触った。

 その頬は熱を持ち、硬くなく、柔らかかった。

「愛してください」

 ニコリと少女は人形の様に笑った。


 二時間後。

 少女は息を乱してベッドに蹲っていた。腰から下には男が被せた毛布が掛けられている。

「リンダ、良かった」

 すぐ後ろから声が掛かった。

 背中から彼女を抱き締める男の声だ。

「褒めて、いただき、幸いです」

 声を出すのも辛かったが、少女は何とか声を出した。

 出来る事なら体を起き上がらせたいと思ったが、疲弊した四肢はリンダの言う事を聞いてくれなかった。

 このまま眠りに落ちてしまおうかと、少女は思った。シーツは乱れてしまったが、このベッドは高級品だ。

 寝心地が良い事は嫌と言う程知っている。

 けれど、思い出した様に呟かれた男の言葉に少女は一度閉じた瞳を薄く開けた。

「リンダ、昼間にお前が話していた男の事なんだが」

「……はい」

 次に男が言う言葉をリンダは分かっていた。

 これまでもあった事だ。

「もう会えないぞ」

「……はい」

 リンダの声は平坦だった。

「それだけだ。おやすみ、愛しいリンダ」

「おやすみなさい。ご主人様」

 男が眼を閉じて寝息をたて始めたのを耳元で聞きながら、少女は薄く開いていた瞳を閉じ、意識を切った。


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