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第五話 ⑫


『すぐに決着だ』

 スマートフォンから届くフィーネの言葉へリンダは返事をしなかった。

 いや、出来なかった。

 リンダはナックルから眼が離せないでいた。

 変形に掛かる時間はたったの五秒。

 ナックルが右耳のスイッチ、リンダに決して押させてくれなかったスイッチを押した瞬間、ナックルの右半身がガチャガチャと膨張した。

 それはまるで、組みあがっていたパズルを解くかの様だった。

 最小密度までくみ上げられていた金属製の右半身がその形状を組み直す。

 ガチャガチャガチャガチャ!

 高速で組み直されていくナックルの右半身。

 だが、その変形が行き着く先は元の形では無い。

 たった五秒でナックルの姿は人間の物から化物へと変形した。

「……鉄の、巨人」

 そこに居たのは歪なサイボーグだった。

 人間の左半身に、機械の巨人の右半身を無理矢理接合した様なフォルム。

 辛うじて左脚が地面に接しているが、ほとんどの自重を、象を思わせる巨大な右脚で支えていた。

 そして、何よりも眼を引いたのはその右腕だった。

 ナックルの全身よりも二周りほど大きな黒光りする右腕。

 リリーが作り出した土の巨腕よりも大きな巨大な鉄腕。

 如何なる技術か、その巨腕の密度は変形前から減っておらず、むしろ更に高密度に成っているとリンダは何故だか一目で理解した。

 リトルハーフジャイアント。

 それはあまりに歪な変形だった。

 最早人の形を保っていない。

 右半分だけのロボットに辛うじて人間の左半身がくっ付いている。

 アタッチメントであるはずの義腕と義足が本体の様に見えた。

「すごい」

 リンダは興奮していた。

 規格外の存在が想像を超えた世界を今この場で作り出している。

 それをリンダはこの眼で見ているのだ。

 ブォンッ!

 ナックルは巨大な鉄腕を大きく振り被り、

「……行くぞ」

 ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

 今までで一番大きな爆発と共にリリーへと突撃した。

「えエ! オドリましょウ!」

 リリーは笑顔を浮かべ、自身へと迫り来るナックルの鉄腕へと彼女が作り出した土の巨腕を繰り出した。

 重厚な土の巨腕はナックルの鉄拳を真正面から迎え撃つ。

 土と鉄、巨腕同士のぶつかり合いは一瞬で勝敗が着いた。

 ナックルの巨人の鉄拳の衝撃にリリーの土の巨腕は一瞬で砕け散り、リリーの体へと到達する。

 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

 土のドレスとナックルの拳が強烈な衝突音を上げ、リリーの体は砲弾の様に後方へと殴り飛ばされ、庭を横切って。二十メートル先の外壁へと激突する。

 ジュウウウウゥゥゥゥゥゥ。

 ナックルは地面を焦がしながら、巨大な右脚と人間大の左足で歪に立ち上がる。

 リリーのその体へ重大なダメージを受けた様だ。

 頭部はギリギリで守れたのだろう。

 しかし、絢爛な土のドレスは見る影も無くボロボロに崩れ去り、その奥に見える胴体は罅だらけだ。

 後一発でも同じ攻撃を受けたら、リリーの体は砕け散るだろう。

 その追撃をナックルが止める気が無い事は誰が見ても明らかだった。

 ナックルは先程と同じ様に、巨人の鉄拳をリリーへ放たんと構えていた。

「降伏するか?」

 短く聞いたナックルの言葉に、壁を背にギリギリで立っていたリリーはフルフルと首を横に振った。

「イいエ。イチド うけタ ダんスから オりたリナド シマセん」

 そう言いながら、リリーはまた全身にあの土のドレスを纏い、その左腕に土の巨腕を作り出した。

 だが、それは最早張りぼての鎧だった。

「そうか」

 ナックルは小さくその左眼を細め、右脚を爆発させた。

 ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

 その直後、先程と同じ様な衝突音が響き、リンダの耳に何かが潰れる音が聞こえた。



 ナックルの鉄拳は外壁ごとリリーの体を破壊した。

 崩れた外壁からモクモクと土煙が上がっている。

 ガッシャン、タン、ガッシャン、タン。

 右脚と左脚を歪に交互に出しながら、ナックルはリンダの所へ歩いていく。

 今のナックルには右半身の感覚が無かった。

 リトルハーフジャイアント。

 右半身の金属を組み替え、決戦用の突撃体へと体を変形させるこの形体。

 完全に人の形を失った右半身には既に神経接続が切断されている。

 おかげで普段の形体ならば躊躇してしまう様な大突撃も出来てしまうが、逆に言えばこの形体に成ってしまうと突撃などの全力の動きしか出来なくなる。

 その代償として、破壊力は普段とは段違いだ。

 これがナックルの切り札だった。

 だが、一度切ってしまった神経接続を直すのは並大抵の事ではない。元の右半身の形に戻して、感覚が正確に戻るのには半年は掛かるだろう。

 さっさとリンダを連れて、この場から離れなければ成らないとナックルは息を吐いた。

「……待ちなさい」

「ここから先は通しません」

 けれど、その道を遮る様にアルとメルが立ち塞がった。

 リリーを壊した事で彼女達を拘束していた土が崩れた様だ。

「……邪魔だ」

 短く言って、ナックルは右腕を大きく横薙ぎに振った。

「「ッ!」」

 ベキャァ!

 双子のゴーレムはまとめて叩き飛ばされ、身体中の機関が砕ける音をたてながら外壁へと激突する。

 核は壊れていない。遠からず再生するだろう。だが、逃げるのには充分だった。

 ナックルはテラスの真下まで歩き、リンダを見上げた。

「良し、じゃあ逃げるか、リンダ」

 左手を伸ばしてリンダが飛び降りるのを待ったが、リンダはするさま首を振った。

「待って、ナックル! お願いがあるの!」

「ん?」

『ナックル、こいつは、あのゴーレムを助けたいんだってさ』

「マリアも助けて」

 ナックルは何が何だか分からなかった。

 今、自分は切り札を使ってまでこの場を切り抜けた。後は、当初の目的を果たすだけだと思っていたというのに、いきなりのリンダの言葉だった。

 だが、頼む立場だというのにリンダの眼には真っ直ぐな力があった。

 もしもここでナックルが断ったとしても、リンダはマリアを助けに行くのだろう。

 ただ、ナックルの手を借りればマリアを救える可能性が最も高い。

 だから、ナックルを頼ろうとする。

 いっそ清々しい程の利己的な効率主義。

 ナックルはそう言う物が嫌いではなかった。

「……詳しく話せ」

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