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第五話 ⑨


 バタン。

 ドアを閉じ、マリアは二階の廊下へと飛び出る。

 左右へ視線を向けると、右側から丁度ゴーレムが部屋を破壊しながら出てきた所だった。一部屋一部屋破壊しながらマリア達を探していたのだろう。

 あのまま先ほどの部屋に隠れていたら遠からず圧殺されていたに違いない。

 巨人体ゴーレムはまだマリアに気付いていないようだった。

 スーッとマリアは大きく息を吸い込んだ。

「メイ! こっちを見なさい!」

「GA」

 巨人体は一度動きを止めバラバラと破片を落としながらマリアへと顔を向ける。

 顔に埋め込まれた赤いガラス球が一度瞬いた。

 マリアは巨人体へ背を向けて走り出す。

 巨人体と成ったゴーレムの思考回路は単純だ。見え見えの囮だとしても着いて来る。

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 後方から破砕音を撒き散らし、巨人体ゴーレムがマリアへ追ってくる。

 マリアは左腕を大きく振って三階へと続く階段へと走り出す。

 巨人体にとって邸の中はさぞ狭いだろう。床が抜け落ちないのが嘘の様だ。

 いつか必ず捕まるが、しばらくは逃げ回れるはずだ。

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 マリアは階段を駆け上がり、三階へと到達した。サンドリヨン邸は三階建て。上り階段は西側にしか無い。もう下の階に下りるのは不可能だ。

 それで良い。最早マリアはリンダの元へ戻る気は無い。

 リンダを裏切り続けてきた自分が、今更彼女の隣に立てるなど思っていない。

 マリアは待っていた。リンダをルカードから救い得る存在を。

 リンダは知らないが、いや、知らない内に処理されてしまったが、今までリンダを救おうとした人間は何人も居た。

 だが、その何れも只の人間で、ゴーレム達と渡り合う等不可能だった。

 マリアはそんな人間がリンダへ近付く度にルカードへ報告し続けてきた。

 その全てはルカードからの信用を得る為だ。

 待って、待ち続ける毎日だった。

 リンダの孤独を誰よりも間近で観察し続ける日々だった。

 かつての親友が向けてくれた、かつての親愛は、既にマリアへ向けられないと分かっていた。

 だが、とうとう現れた。

 ナックル・L・ゴールドマン。

 巨人体ゴーレムをたった単身で破壊した人間。

 彼ならば、きっとリンダを救えるはずだと、マリアは賭けたのだった。

 マリアの裏切りも途中でルカードにバレて閉まったようだったが、ナックルをこのサンドリヨン邸に連れて来る事さえ出来た。

 出来る事なら、昨日の内に素知らぬ顔でナックルをサンドリヨン邸へと連れて来てリンダを攫ってしまいたかったが、それは叶わなかった。

 けれど、今、後一歩でリンダを救える所まで、今、自分は迫っている。

「ここで、失敗して堪る者ですか!」

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 かつて、メイと呼ばれていた巨人体ゴーレムの叫び声の中、マリアは自分を鼓舞する様に声を張り上げた。



 ガガガガガガガガガガガガガガ!

 見る見るとサンドリヨン邸の庭園が破壊されていく。

 リリーの左腕が一薙ぎされる度に、噴水が砕け、木花が宙を舞う。

 ナックルの右足が火を噴く度に、土が弾け、噴煙が舞い散った。

 そんな暴力的な竜巻の中を縫う様にアルとメルがナックルを狙って駆け抜けている。

「たのしい デスカ?」

「まあな!」

「それはナニヨリ」

 リリーは人形の顔のままナックルへと剛腕を振るい、それをナックルはダァンッ! とバックステップで避ける。

 そこにはアルとメルが背後から待ち構えていた。

「ハァ!」

 ナックルは肘鉄を喰らわせる様に右腕を振り、彼女達を同時に弾き飛ばそうとする。

「アル!」

 メルの短い言葉に、アルはしゃがみその肩へメルが乗り、そのままジャンプした。

 ナックルの右腕はアルの頭上、メルの足下をすり抜ける。

 出来てしまった隙をメルは見逃さなかった。

「メル!」

 すぐさま立ち上がったアルの肩をメルは掴み、大道芸人の様に体勢を変え、蹴りをナックルの首へと放つ。

「ちっ!」

 ナックルは躱すのを諦め、首を屈め、自身の右頬へとメルの蹴りを誘導する。

 ガキン!

 槍で突かれた様な音をたてながら、頬の流線型に従って、表面を削りながらメルの蹴りは宙へ舞う。

 ダァンッ!

「邪魔だ!」

 ナックルはすぐさま右足を爆発させ、体当たり気味にアルとメルを弾き飛ばした。

「「くっ!」」

 ズザザッ。アルとメルは膝を地面に擦らせながら体を起こす。

 このまま追撃に入りたいところだったが、リリーの存在がそれの邪魔をする。

「ワタクシを むししないデ」

 ゴウッ!

 音が鳴らんばかりの勢いを持ってリリーの土塊の拳がナックルの後方より迫る。

 ダァァンッ!

 ナックルは一気にジャンプしてサンドリヨン邸の庭を横切る様に突っ切り、壊れた噴水へと着地した。

 ジュウウウウウウウウウウウウウウ!。

 連続使用で強い熱を持った鉄の脚が一瞬で噴水に残った水を蒸発させる。

 これで少しは冷えただろう。ナックルはすぐさまそこから跳び立つ。

 そろそろ脚を冷却しなければならない。だが、間近に迫った巨人体達がその隙を与えなかった。

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

「うるせえ!」

 ダァンッ!

 もう巨人体の動きは完璧に把握した。

 最早右足の爆発を使うまでも無い。

 ナックルは迫ってきた巨人体達の腕を掻い潜り、頭部の核を一息に破壊した。

 これで後は、リリー、アルとメル、巨人体が五体。

「「みんな!」」

 アルとメルが表情は乏しいまま悲痛な声を上げる。

 彼女達にとってこの巨人体達も大事な仲間なのだろう。

 ナックルは申し訳ないと思う。もしも、自分がこの町に来なければアルとメルはゴーレムとして平穏に暮らしていたかもしれない。

 謝罪はしない。ナックルはライフレス。彼は発明戦争をもう起こさせる気は無かった。

 ナックルは判断する。ルカード・サンドリヨンは発明戦争をもう一度起こさせるに足る人間だ。

 その発明は止めなければならない。たとえ、ルカードを殺してでもだ。

「さあ、来い!」

 ナックルは相手を挑発する。右足の熱は危険領域に到達した。これ以上自分から突撃はするべきでない。カウンターを狙う戦術に切り替えたのだ。

 アルとメルが残り五体と成った巨人体を引き連れてナックルへと再度突撃をしようとする。

 しかし、それはリリーのたった一つのため息で阻まれた。

「ハァ」

 ピシッ。

 アルとメル達の体が固まる。

 カウンターを狙っていたナックルも同じだった。

 ただ一人、リリーだけが言葉を回す。

「ダメダメです」

 刹那だった。リリー達の周りに居た。巨人体ゴーレム達の体が全てドロドロに崩れ出した。

 いや、それだけではない。先ほどまでナックルが核を破壊した証である、周囲に散乱した土塊も泥と化していた。

「リリー!」

「止めて!」

「マンゾクニ オどれナイヨウナ ゴーレムなんて イリマセン」

 巨人体の様に泥と化していないアルとメルの叫び声が響くが、数秒も経たない内に庭にあった巨人体ゴーレムは全て只の泥と化してしまった。

 リリー達の足元へ泥の波が押し寄せ、粘性を持ったソレは彼女達の膝下まで達した。

 ナックルの脳裏にリリーの左の巨腕が生まれた場面が過ぎる。

「おいおい」

 果たして、ナックルの直感は正しかった。

「オキャクジン。シツレイいたしマシタ。マサカ アレほどダンスガ ヘタ ダッタなんテ。ツギハ ワタクシとオドリマショウ。ワタクシ とダケ オどりマショウ」

 リリーの周囲へ泥が渦を巻いて集まっていき、それは一つの形を作った。

「……良いドレスじゃねえか」

 そこに居たのは土塊のドレスを着たリリーだった。先程まで来ていた豪奢な白いドレスに重なる様に土塊の層が何層も重なり、両腕ナックルを軽く三人は簡単に掴めそうな土の巨腕が作り出されていた。

「おホメいたダキ キョウエツシゴク です」

 一度頭を下げた後、リリーはダンッ! っと猛烈な勢いを持ってナックルへと突撃してきた。

 迎え撃つため右腕を放つ準備をした時、ナックルはアルとメルを視界の端に捉えた。

彼女達は口元まで土に埋められていた。どうにかもがいて出ようとしているが、拘束が解ける気配は無い。

 正真正銘リリーは、一対一でナックルと戦うつもりなのだ。

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