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第五話 ④

 メルの重さは見た目どおりの物では無い。重く硬い感触がして筋繊維が悲鳴を上げる。

 しかし、ナックルは一切の躊躇い無く、アルへとメルを投げ付けた。

「くっ!」

 アルはメルを抱きかかえる様に受け止め、一瞬の隙が出来る。

 それを見逃すナックルではなかった。

 ダァンッ!

「ッ!?」

 瞬間の爆発でナックルは右の拳を構えながら、アルとメルに距離を詰める。

「ウラァ!」

 そして力任せに拳をメルの心臓目掛けて放った。

 アルが身を捩ってメルを庇おうとするが間に合わない。

 ナックルの拳がメルの心臓部へと深く突き刺さり、アルごとメルを後方へ打っ飛ばした。

 ズザザ、とアルとメルは地面に落ちた後、転がり、一体のゴーレムの足にぶつかって停止する。

 身体中にダメージが堪っているに違いないが、アルは迅速に起き上がり、メルの肩を揺らした。

 けれど、メルはピクリとも動かない。

 いや、動けないのだ。心臓部分が陥没していた。核が頭部にあるとは言え、心臓部の機関を砕いた感触がナックルにはあった。再生するまで立ち上がれるのは不可能だ。

 ダァンッ!

 ナックルは追撃する。爆風がコートの裾をはためかせ、進路上で邪魔をする巨人体のゴーレムに対しては一息に飛び上がり、頭部を殴り付けた。

 ガキン。核が砕け、やっと一体のゴーレムが土に還る。

 本命はアルとメルだ。止めを刺す気でナックルはアルとメルへ近付いていく。

「っ! みんな!」

 アルの号令に巨人体はすぐさま反応し、壁のようにナックルへと立ち塞がった。

 瞬間、ナックルはアルとメルへ止めを刺す事から、この場の巨人体ゴーレムを出来る限り破壊する方に思考をシフトさせる。

 今ならば、アルとメルの邪魔も無い。巨人体を破壊するのは容易い事だった。

「GUAAAAAAAAAA!」

 ナックルの前方に立ち塞がる巨人体は十二。その全てを相手する必要は無い。一対多の戦いで最も怖いのは囲まれる事。一方向にしか居ないのなら大した脅威ではない。

 巨人達のルーチンならばナックルを囲みこもうと行動するだろう。

 だが、彼女らは今動けない。今ここで壁を薄くしたらナックルの拳はアルとメルを壊すのだ。

 ダァン!

 ここぞとばかりにナックルは鉄拳を振り回す。

 ゴーレム達もナックルを潰そうと腕を振るが、硬度が違う。

 ナックルの鉄拳はケーキのスポンジを壊す様にボロボロと巨人体達の腕を破壊した。

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 巨人体達は叫びを上げる。動きに不自然さは無いから、痛覚は切ってある筈。奮い立たせるための叫びなのだ。

 彼女達にとってナックルは侵略者。

 決められた仕事を淡々とこなす平穏な日々を壊しに来た忌むべき相手。

 ここで引くわけには行かないのだ。

「悪いな!」

 言葉だけナックルは謝罪した。その顔に申し訳なさは無い。

 ダァン!

 ナックルの鉄拳が一息に三体のゴーレムの顔面を破壊し、核が砕け散る。

「くっ! メル、回復した!?」

「あと、十秒」

 壊されていく同胞の姿にアルがメルへと呼び掛ける。

 アル単体ではナックルを止められない。

 アルとメル二体の連係と巨人体ゴーレムの威力が合わさって初めてナックルを止められるのだ。

「十秒あれば充分だ!」

 ナックルは声を張り上げて敵の動揺を誘う。

 実際の所十秒ではあと七体の巨人体を破壊するので精一杯だ。

 メルが復活したらまたイタチゴッコの様な状況が始まるだろう。

 無論、先ほどと違い、アルとメルは無理に攻めて来ないに違いない。

 そうなればジリ貧だ。ナックルの生身の部分が疲労負けする未来が見えている。

 それでも構わなかった。

 これだけ戦力を削られれば必ず増援が来る。

 そうなった時こそ、切り札の使い時だった。

 ダァン! ダァン!

 残りの巨人体は九体。

 二連続で爆炎を生み、ナックルの鉄拳がゴーレム達を屠っていく。

 それをアルとメルが歯軋りして見ていた。

「ハハハ! 脆いなお前達は!」

 さあ激昂しろと言わんばかりにナックルは更に一体巨人体を破壊し、残り六体に成り、もう一体を破壊せんと拳を構えた。

 その時だった。

「ダメダメ です」

 声が聞こえた。

 ゾワッと、ナックルの背筋に怖気が走り、その勘に従ってナックルはダアァンッ! と後方へと跳び上がった。

 瞬間、ナックルが拳を放たんとしていた巨人体のゴーレムの体が膨れ上がった。

 膨張は瞬間的だ。

 辿る末路が簡単に想像出来てしまうほどに。

「リリー!? 駄目!」

 アルが何か叫んだ直後だ。

 バアン!

 空気を入れ過ぎた風船の様に巨人体ゴーレムが弾けた。

 如何なる技術か、爆ぜたゴーレムの体は泥の様な半固体に変わりベチャベチャ音を立てて地面へと落ちる。

 一体、何が起きた。ナックルはアニが声を向けた先、正門の奥、サンドリヨン邸正面玄関へと視線を向けた。

 白い少女だった。

 白い豪奢なドレスを着て、白い手袋を着け、白い肌をしている。

 そして、髪と瞳も白い少女だった。

 色素が全て抜け落ちた白髪は腰まで垂れていて、ボーっとした白い瞳は全ての光を呑み込みそうだった。

 少女は何処を見ているのか定かでは無い瞳を方向だけはナックルへと合わせている。

 表情は無。

 見ようによっては微笑している様に感じる人間も居るだろう。

 見ようによっては泣いている様に感じる人間も居るだろう。

 それは人形の顔だった。

 ナックルは確信する。

「なるほど。ここからが本番って訳か」

 あれはリリー。

 マリアが話したサンドリヨン邸で最も警戒しなければならないと言っていたゴーレム。

 ルカード・サンドリヨンが作製した最悪のゴーレムだ。

「ワタクシ イジョウに ダメダメ。あなたタチ ほんとうニ リンダ だった モノ なのデスカ?」

 凛とした少女の声が歪に響いていた。

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