第五話 ②
フィーネが持つ発明品の名は〝ラプラスの悪魔〟。能力は超直感的な確率計算の付与。フィーネにはこの世の全ての確率が分かる。
マリアはフィーネの言葉に従って、右手を開いた。バチバチと手の平からスタンガンの様に紫電が生まれる。
ゴーレムは結局の所、電気信号で体を動かす土塊の人形だ。電流を体内へ流してしまえば一時的に体を動かせなくなる。
だが、それも人間体の時の話だ。土の巨人に変身されてしまってはマリアの電流は外皮に阻まれてしまう。
建物の陰に隠れ、マリアは息を乱した。
ここまで走ってきたからではない。
マリアはこの屋敷の中でリンダ以外の唯一の非戦闘用ゴーレムだ。他のゴーレム達のように巨人体へ返信できるわけではない。
チャンスは一度きり。それを逃したらリンダを救う事ができなくなってしまう。
『落ち着きなゴーレム』
「はい。ちょっと待っていてください」
マリアは左手のスマートフォンをロングスカートのポケットに入れて両手を手ぶらにした。
一度マリアは深く息を吸って、マリアは覚悟を決めた。
ダッ。
陰から出てマリアは見張りのメイドへと走っていく。
全速力だ。二秒もすればマリアの手が見張りへと届く。
「ッ! マリア!?」
見張りが自分へと走ってくるマリアへと気付くが、その時には既にマリアとの距離は五メートルを切っている。
土塊の巨人に成るのには一秒弱の時間が掛かる。
「ふっ!」
伸ばされたマリアの右手が見張りの胸へと当たり、瞬間マリアは手の平から紫電を放った。
バチッ。
短く何かが弾ける様な音がして、見張りは膝から崩れ落ちた。
「謝らないわよ」
振り返らず、マリアは裏門からサンドリヨン邸へと侵入した。
前方からはナックルの戦闘に依る物だろう。破砕音と激突音と爆発音が引っ切り無しに響き渡っている。
マリアはスマートフォンを持ち直し、左耳に当てた。
『上手く行った様だね』
「はい。リンダは一体何処に居るか分かりますか?」
『お前の目星は?』
「地下の調整部屋か生成部屋、又は監禁部屋です」
『……一番、確率が高いのは調整部屋だ。そこへ行ってみな』
マリアは顔を強張らせる。
想像よりも調整部屋に行くのが早い。襲撃に焦ったのだろうか。
「分かりました」
マリアは息を潜めて裏口の戸を開ける。ナックルのおかげか屋敷に居るメイド達は出払っている様だ。
地下にある調整部屋へのルートを頭に思い描きながら、マリアは足音をできるだけ消してサンドリヨン邸を歩いていく。
サンドリヨン邸には東と西に二つの大きな階段があり、二階から先には西側の、地下室にはこの裏口からでも見える東側から行けた。
外からは未だ轟音が聞こえるが、屋敷内はマリアの記憶よりも静かだった。
だが、マリアは息を殺してゆっくりと歩いていく。
本当は今すぐにでも走り出してリンダの所へ行きたかった。
しかし、もしも曲がり角で他のメイドに出くわしてしまったらお終いである。
確かに電流を浴びせれば相手が誰であれ、無効化できる。
けれど、伸ばした手を避けられ、あまつさえ他に増援を一人でも呼ばれたら、マリアの戦闘能力ではリンダを救い出す事はできないのだ。
音に出来る限り集中してマリアは東側の階段を下っていく。
この下にリンダが居るはずだ。
時間は四時を回った所。リンダの解体はまだまだ先のはずだ。
階段を下りながら、マリアはルカードの所在を気にした。
ルカードは今何処に居るのだろう。
外の戦闘音は聞こえている。
ルカード自身に戦う力は無い。
そんな男がこの場合何処に行くだろう?
マリアはルカードから見た今の状況を少し考えた。
ふと、マリアは階段を下り切る前に脚を止めた。
『どうしたんだい? 早く行きな?』
「……フィーネ様、占って欲しい事があります。ルカードが今、リンダと共に居る可能性はどれくらいですか?」
電話越しの沈黙は数秒だった。
『……おっと、吃驚。七十三パーセントだ』
「そう、ですか」
マリアは歯を噛み締めた。
可能性の一つとしては考えていた。
ルカードが今最も執着しているのはリンダだ。
むしろ、リンダ以外に執着が無いと言っても良い。
ルカードから見れば、今この屋敷を襲っているのはナックル達以外に考え辛く、ナックル達の目的がリンダである事も明白だ。
ならば、リンダを守ろうとするのは当然だろう。
ルカードがそう言う男であるとマリアは誰よりも深く知っていた。
マリアはスマートフォンを首と左肩に挟み両手からバチッと紫電を出し、右手側のだけその勢いを弱めた。対ゴーレム様の出力から人間用の物へ。
マリアは一度深く息を吐いて、左手にスマートフォンを持ち直し、階段下りを再開した。
「誰が相手であれ、私はリンダを救うだけです。フィーネ様、指示を」
『任せな。最高勝率のタイミングを教えてやる』




