第五話 ①
午前四時。空は白み、日の出まで後幾許も無い時間。
ナックルとマリアは再びシンデレラタウンに来ていた。
建物の間の影に身を隠し、少しだけ出した左目でナックルはサンドリヨン邸を見つめる。
昨日と同じ様に、アルとメルと呼ばれた双子のゴーレムが門番として立っている。
見つかれば戦闘は避けられない。
ナックルはマリアへと眼を向けた。
マリアの右手にはナックルが手渡したスマートフォンが持たれている。既に通話状態に成っていてフィーネと繋がっていた。
『どんな感じ?』
「門番のゴーレムが二人見える。他のゴーレムは今の所視界には居ない」
『なるほど、門番に見つかったらまたわらわらとゴーレムが現れるだろうね。それも昨日よりも早く』
「ああ。だからこそ正面突破だ」
ナックルは鉄の右手を二回開閉させた。動きは普段通りスムーズ。
「マリア、フィーネ、最終確認だ。俺は今から屋敷に突撃してゴーレム達を引き受ける。その間にマリアはフィーネの指示に従ってリンダを探す。見つかったらリンダを連れて逃げろ。出来ればリンダを捕まえたと俺に伝えてくれ。無理なら構わん」
「はい。必ずやり遂げます」
マリアの瞳は決意に燃えている。
「良し。じゃあ三十秒後作戦開始だ」
ナックルはジリッと右足に力を込めた。
ダァン!
ナックルは爆風に乗ってサンドリヨン邸へと突撃する。
「「!」」
門番のアルとメルは即座にナックルの存在に気付き、門へと向かってくるナックルへ体を割り込ませた。
「邪魔だ!」
ナックルは右腕を振るってアルとメルを薙ぎ払う。
しかし、それは失敗した。
ガァン!
と、ナックルの右腕がアルの左腕に受け止められたからだ。
その腕の質感は人間の物では無い。
「帰りなさい侵入者」
「ここは我らの屋敷」
「新生当家筆頭メイドのアルとメルの名に賭けて」
「狼藉は許しません」
流れる様に言葉を紡ぎ出し、アルがナックルの右腕を掴んだ。
ナックルは即座に右腕を引き抜こうとするが、アルの腕力は想像を超え、一瞬の隙が出来る。
その隙を狙って、メルが左足を蹴り出した。
「ちっ!」
ナックルは右足を蹴り上げて腹を狙ったメルの左蹴りへと合わせる。
ガァン!
また、硬い音がしてナックルは勢いに乗って後方十メートルほど跳んだ。
マリアに聞いた通りの性能だ。
門番型メイドゴーレム、アルとメル。
昨日相手していたゴーレムとは性能が違う。
ナックルが構え直したその時だった。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
地鳴りの様な音を立てて、サンドリヨン邸の塀を跳び越えて土塊の巨人達が現れた。
轟音と共に地面が割れる。
「お出ましか!」
数は七体。足りなかった。
マリアの情報ではサンドリヨン邸にはゴーレムが全部で二十体居る。
まだまだ多くのゴーレムを惹き付けなければ成らない。
「行くぞ!」
ダァン!
ナックルは右足から爆炎を噴かせ、ゴーレム達へと突撃した。
*
『さて、ボク達も行こうか』
「はい」
前方で破壊音を撒き散らしながら突撃したナックルを見送ってマリアは耳にスマートフォンを当ててサンドリヨン邸の裏門へと駆けて行く。
このスマートフォント言う物を使うのは初めてだった。どうやら周波数式無線装置と用途は同じな様だが、ここまで薄く軽量でくっきりとした会話が出来るほどの機器の記録は無かったはずだ。
ナックルが言うにはライフレスの仲間達が作った、性格には再現した通話機器らしい。
さて、ナックルの陽動が上手く言っていれば裏門の警備も薄くなるはずである。
そう期待したマリア達の予想は正しかった。
十メートル先、裏門にて赤髪のメイドが立っていた。
名前は確かメイだ。
「フィーネ様。見張りが一体居ます」
『ゴーレムかい?』
「はい。ただ一体ならば私でも対処出来ます。どうしますか?」
『五秒待ちな。占おう。………………良し、九十パーセント大丈夫だ。そのまま行ってしまえ』
「分かりました」




