表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/38

第三話 ③

 夕日が落ちようとして来る頃、ナックルがマリアに連れて来られたのはメルヘンシティ中央部にあるシンデレラタウンのある館の前だった。

「でかいな」

 ざっと見、三千平方メートルほどの大きさの土地をぐるりと七メートルほどの灰色の壁が囲っている。その奥の中央部分に何部屋あるのか分からないほどの三階建てのテラス付きの豪邸が建てられていた。

「こちらです」

 先行するマリアに付いて行き、ナックルは門へと近付いていく。

 ト、ト、ト。

 門に着くと、そこには二人の同じ顔をした栗色の髪をボブカットに切り揃えたメイドが立っていた。

「アル、メル。ご主人様へ客人です」

「マリア、今日はお客様の予定はありません」

「マリア、後日アポイントを取ってください」

 アルとメルと呼ばれたメイドはどこか無機質にマリアの言葉を一蹴する。

「ご主人様の研究が大きく前進するのです。通しなさい。責任は私が取ります」

「門番の私達の役目は許可無き者は何人たりともこの館の敷地に入れない事」

「たとえ、当家筆頭メイドのマリアの言う事でもそれは崩しません」

 アルとメルの声には例外を認めない無機質さがあった。

 さて、どうするのか、とナックルはマリアの背を見つめた。

「しょうがありません」

 マリアは態度を崩さない双子の門番に溜息を吐いた。

 そして、そのまま姉が妹の頬を触るような優しさと自然さでスッと両手の手で双子の頬を触った。

 直後だった。

「「マリアッ!?」」

 双子は糸の切れたマリオネットの様にマリアの両腕へと倒れ込んだ。

 眼は開いているが体は言う事を聞かない様でビクビクと双子は震えている。

 マリアは双子を優しく地面に倒してナックルへと向き直った。

「何をしたんだ?」

「秘密です。これで私の裏切りもバレたでしょう。晴れて私達は一蓮托生ですね」

 すまし顔でマリアは門を引き開けた。

「さあ、リンダの所へ行きましょう」

「ああ」


 敷地内に入った瞬間、ナックルの脳裏に真っ先に浮かんだ言葉は実験場だった。

 見事な庭園。

 切り揃えられた木花。

 汚れ一つ無い噴水。

 見れば見るほど庭付き豪邸という言葉の想像通りの風景だと言うのに、ナックルはそこに生を感じなかったのだ。

 この館は死んでいる。そんな印象をナックルは持った。

 石畳の床に固い足音をたてながら、ナックルとフィーネは館の重厚な木組みのドアへと到着する。

 フィーネは周囲をさらりと見渡した後、ナックルへ再度作戦を口にした。

「では、ナックル様。館に入り次第、私はご主人様達の所へ行きます。その間にリンダの所へ行ってください」

「三階にある一番大きな部屋だよな?」

「そうです」

「了解。その後、リンダ次第だが、俺はリンダを連れてルカードとやらの所へ行く。もしかしたらルカードを殺すかもしれない」

「承知しております」

「良し。じゃあ、行こうか」

「ええ」

 一度、マリアは瞳を閉じて意を決した様にドアを開いた。

 扉を開けた直後、マリアの眼前に移ったのはゴーレムの巨大な拳だった。

「え?」

「ちっ!」

 固まったマリアと違ってナックルの行動は迅速だった。

 ナックルは左手でマリアのメイド服の背中部分を後方へ投げ飛ばすように引っ張り、同時に放たれたゴーレムの拳へ右手で殴り付けた。

「ラァ!」

 即座にゴーレムの拳は砕け散り、岩石片が周囲へと突き刺さる。

 これで終わりではない。

 飛び散った岩石変は巻き戻しのビデオテープの様にゴーレムの右腕を形作り、その間にゴーレムは左腕を振り上げていた。

「掴まれ!」

 ナックルすぐ後ろへ叫び、マリアは即座に従った。

 ダァン!

 マリアがナックルの首へと抱きついたのを感じるや否や、ナックルは右脚から爆発射出し、後方へと無理矢理のステップを踏む。

 瞬間、ナックル達がコンマ一秒前まで居た場所へゴーレムの左の拳が振り下ろされた。

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォン!

 轟音が辺り一帯へと鳴り響く。

 正面玄関は見るも無残に形を変え、出来の悪いオブジェと化した。

「どうして?」

「バレていたんだろうな!」

 呆然としたマリアの言葉にナックルはハッと笑いながら答える。

 状況は良く無い。場所は敵の本拠地。戦力数不明。戦闘と言う意味では足手纏いが一人。

「さて、どうする?」

 ナックルは右腕を引きながら、土煙の向こうからのゴーレムを待った。

 ゴーレムは一秒二秒と間を持たず、土煙より突撃してくる。

 それも数は一体では無い。

「五体かよ!」

 思わず悪態を付く。一体何処にこんな土の巨人を隠していたと言うのか。

 ナックルは右脚を爆発させてジャンプし、鉄腕を一番前に居て両腕を振り上げていたゴーレムの頭へと打ち込んだ。

 どうやら核の位置は変わらないらしい。核を砕いた感触と共にゴーレムは停止し、その場で土塊へと戻った。

 だが、その間にナックルは残り四体のゴーレムにぐるりと囲まれた。これでは頭にある核を潰すのは難しい。

 先ほどの様にゴーレム自体の体勢に隙があればナックルでもワンアクションンで壊せるが、今の様なゴーレムとして隙の無い体勢に成るとツーアクションはかかる。

 一対多数の戦いに置いて二呼吸必要な行動は致命的だ。

 ゴーレム達の拳が落石の様に降り注いだ。

 ナックルは避け切れ無い物に右腕を合わせ、紙一重で回避していく。

 目標から逸れた巨人の拳は地面へと吸い込まれた。

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォン!

「ナックル様!」

「お前は逃げろ! 後で見つける!」

 幸いマリアはまだ囲まれていない。今の内に彼女だけでも逃がさねければますます状況は苦しくなる一方だ。

 マリアもそれをすぐに理解した。

「申し訳ありません! ご武運を!」

 入ってきたばかりの門をマリアは走り抜け、ナックルの視界から消えていく。

 事態は小さくだが好転した。未だ劣勢だが足手纏いの事を考えなくて良い。

 右脚の爆発を最小限に押さえながら、ナックルはゴーレム達の攻撃を掻い潜っていく。

 昨日、このゴーレムを一度戦ったのが幸いした。

 ゴーレムは製作者毎に戦闘方法の癖が出る。

 その癖は昨日のゴーレム戦で大体だが理解できていた。

 パターンさえ掴めれば何体相手だって避け切れる。

 ただ、今のままだとナックル側からの有効打が無かった。

「セイ!」

 裏拳の要領で右腕を振り、数体のゴーレムの腕を一辺に叩き割った。

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 鼓膜を割らんばかりの音の中でもナックルの表情は変わらない。

 鉄の瞳は真っ直ぐに勝機を探している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ