第三話 ②
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午後三時頃、ナックルはリンダと出会ったレッドキャップタウンの公園のベンチに座り、途中で買ったアイスキャンディを食べていた。
「何処に居るんだ?」
あれからあの手この手質問と聞く相手を変えてリンダの情報を掴もうとしたが、誰一人有効な情報を語る者は居なかった。
発明戦争でナックルは機械兵と呼ばれる兵士だった。情報収集等は専門外である。
ホワイトクラウンという発明品があれば質問した相手が何を考えているのか分かるのだが、あれは当の昔に破壊されてしまった。
「どうした物か」
フィーネへ電話してみようかとも思ったが、今必死で情報収集をしている彼女を邪魔するのは得策では無い。
手詰まりだった。
ナックルが現状用いられる手の中でリンダの居場所に繋がる物は何一つ無かった。
諦めるわけにはいかなかった。
あの凄惨な発明戦争。それを引き起こし得る存在がこの町に居る。
「でもなぁ。実際どうしようも無いな」
フィーネの二日も電話を待っていれば、必ず彼女は有益な情報を仕入れてくる。
待っていれば確実にナックルはあのゴーレムを発明した人物に辿り着けるだろう。
それまで待つしかないのだろうか。
そうナックルが溜息を吐いた時だった。
「ん?」
ナックルの前方からメイドが歩いてきた。
マリアと呼ばれていたあのブロンドヘアーの眼鏡姿のメイドだ。
マリアは明らかに明確な意思を持って真っ直ぐにナックルへと歩いてくる。
「ナックル・L・ゴールドマン様、リンダ・サンドリヨンの直属メイド、マリアと申します。不躾な依頼をしてもよろしいでしょうか?」
眼鏡の奥のマリアの瞳は涼しげだったが、強い意思が込められていた。
「言ってみろ」
「リンダを助けてください」
言葉と共にマリアは深々と頭を下げた。
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味でございます。リンダは今、シンデレラタウンにある私達の館、サンドリヨン邸に居ます。そこに居るリンダを攫ってこの町から出て行っていただきたいのです」
あっさりとマリアは今日一日ナックルが探し回り、見つからなかった情報を口にした。
だが、有用な情報と共にリンダを連れて逃げろという言葉も口にされた。
「リンダを攫って欲しいとは?」
ナックルの質問にマリアは淡々と答えた。
「私達にはご主人様が居ます。名前はルカード・サンドリヨン。ご主人様は錬金術師です。錬金術を知っていますか?」
「元々は金を精製するための術。まあ、そんな事は不可能だったんだが。金を作りだそうという過程で色々生まれた。ほとんどの理論が今でこそ否定されたが、錬金術師の存在が無かったら現代の科学は生まれていなかったかもしれないと言われている。こんな所か?」
「充分です。ただ、私達のご主人様は本物です。本物の錬金術師なのです。ご主人様はタダの土塊を金塊へと変える術を持っております」
「それと同じ様にただの人間もゴーレムに出来るってのか?」
コクリとマリアが頷いた。
間違いない。
このルカードという男がナックルの追う〝発明者〟だ。
「何で俺にそんな話を? お前はそのルカードって男に仕えているんだろう?」
「リンダのためです。私はリンダさえ幸せなら他に何も望みません。そして、ナックル様、貴方がゴーレムを倒すのを見ました。ナックル様ならばきっとリンダを助ける事が出来ると思ったのです」
「おいおい。俺は好き好んでゴーレムと戦う気は無い。一体倒すだけでも一苦労だからな」
肩を竦めたナックルにマリアはズイッと一歩近付いた。
「問題ありません。今ならばゴーレムと鉢合わせる事無くルカードかリンダに会えるはずです」
「根拠は?」
「私はサンドリヨン家筆頭メイド。ルカードから信頼を勝ち取っています。まさか私が裏切るとはルカードは思っていないはずです」
「なるほど。その話を信じられるか? ただの罠にしか見えないぜ? のこのことお前に着いて行ったらゴーレムに囲まれてジ・エンドみたいな未来が見えるさ」
ナックルの言葉にマリアは視線を逸らさず即答した。
「もしも私がナックル様を裏切ったのならば、その場でこの首を圧し折って構いません」
瞳には強い力が篭っている。
しばしその眼と向き合い、ナックルはベンチから立ち上がった。
「良いだろう。今からお前の館に行ってやる。そのルカードという男、もしかしたら殺す事になるかも知れないが」
マリアは恭しく頭を下げた。
「構いません。どうかリンダを救ってください」
「手は伸ばしてやる。後は本人に任せるさ」