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第二話 ⑤

 ホテルセブンリトルズに戻ったのはそれから一時間後の事だった。

 部屋にてナックルは荷物を纏めていた。ショルダーバックに荷物を詰めていく。

 だが、それはリンダの言う通りにメルヘンシティから出て行くためではない。

 むしろ逆だった。

 メルヘンシティから出て行くわけには行かなくなってしまった。

 あらかたの準備を終え、ナックルはフィーネへと電話を掛けた。

『はいはい~。どうしたの~』

 ナックルの言葉は短かった。それで充分だったからだ。

「〝発明者〟がこの町に居る」

『何だって?』

 緩かったフィーネの声色が変わった。

 にまにまとした笑いが今消えているに違いない。

「調べてもらいたい事がある」

『何だい? 何でも調べてこようじゃないか』

 世界各国の要人とパイプを持っているのはこういう時に心強かった。

「メルヘンシティに居るリンダ・サンドリヨンって灰色の髪をした少女について。間違い無くこいつが〝発明者〟に関わっている」

『了解。二日以内に揃える。待っていて』

 ピッ。

 フィーネはナックルの返事を聞かずに通話を切った。

 ツー、ツー、と音を鳴らす電話をポケットに入れて、ナックルは必要な荷物を持って部屋を飛び出した。

 ナックルの眼は鉄の様に冷たい瞳だ。

「千年振り、か」

 ホテルリトルセブンズを出て、ナックルはつい呟いた。


 昔々の、遠い昔の話だ。発明戦争があった。

 人々は今自分が何を使っているのか理解せず発明を行使して、眼前に居る敵を殺し、また敵に殺されていた。

 その発明を人類が使うべき物なのか、使って良い物なのか、使うならば一体どういう価値観を身に付けるべきか。

 その全てを無視して実用化され続けた発明品は、十全にその能力を行使されたが、最適に使われる事が無かった。

 発明戦争中期。誰とも無く何処でもなく、世界の各地で、ある指向性を持った発明が生まれた。

 それは不老不死。

 簡単に兵士が死んでいくのだから、死なない兵士を作れば良い。

 死なないならば死ぬ様な装備だって扱える。

 思えば、あの頃から人間は狂っていた。

 最後まで持たなければ成らなかった人道的な最後の一線を、ああも簡単に放り出せたのから。

 不老不死の発明が生まれ、実用化されるまでに十年も掛からなかった。

 人間がその体を保たなくなるのにも時間が掛からなかった。

 ライフレスと呼称された色々な兵士が生まれた。

 音速で飛べる翼を持ったり、

 脳に電極が刺さり驚異的な第六感を身に付けたり、

 スライムの様な液体に成ったり、

 色んなライフレスが居た。

 その中には、体の一部を特殊合金に差し替えた兵士達が居た。

 金属の兵士達は義手と義足に詰められた薬莢を爆ぜさせ、爆風に乗って戦場を駆け抜けた。

 そんな人間を捨てた兵士達が主役となった発明戦争は中期から終盤まで続いた。

 しかし、発明戦争はやはり異常な戦争だったのだろう。

 とうとう、不死者を殺すという矛盾に満ちた発明が生み出された。

 瞬く間に不死者は駆逐され、戦争は元の一つきりの生命を胸に戦う様相へと舞い戻った。

 ナックルとフィーネはそんな数少ない不死者の生き残りだった。

 いや、死に損ないだった。

 共に戦場を駆け抜けた仲間は皆死んでしまった。

 死ななかった事を後悔しなかった訳では無い。

 あのまま、あの発明戦争の中死んでしまえればどんなに自然だっただろう。

 けれど、ナックルとフィーネは死ななかった。

 あの戦場で、ナックル達は玉砕ではなく、生きる事を選んだのだ。

 発明戦争末期、戦う意味を失った不死者達は引力に引かれる様に集まった。

 敵だった不死者も味方だった不死者も関係ない。

 そして、死に損ない達は一つの誓いを立てた。

「二度と発明戦争を起こして堪るか」

 一パーセントの閃きは一パーセントのままに。

 世界各国に散らばった不死者達は旅をしたり、定住したり、昔取った杵柄とは違うが、日々生きながら世界を見守って今日まで生きてきたのだ。


 *


「何? ゴーレムが負けたのか?」

 男はブロンド髪のメイドの報告に万年筆をカタッと机に置いた。

「はい。膝を破壊され倒れた所を、頭部の核を殴られ破壊されました」

「……ゴーレムの存在を知っている?」

 メイドの報告に寄ると、その右半身が金属で覆われた男は躊躇い無くゴーレムの核を砕いたという。

 これで男が雇っていた黒服達全員が死亡したという事に成る。

 初めてあのゴーレムを見て、すぐさま弱点たる核を狙う事など思いつくだろうか。

 しばし、男はどうするか考えた。

 少なくとも一体のゴーレムではあの半鉄人を殺せない。

「しばらくその鉄人を見張れ。おかしな動きをする様なら報告しろ」

「かしこまりました」

 メイドは恭しく頭を下げ、部屋を出て行こうとする。

「あ、待て」

 その背を男は呼び止めて追加で命令を出した。

「リンダを連れて来い」

「仰せのままに」

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