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プロローグ

 深夜。水平線の向こうに太陽が生まれた。

 それを見つめる異様な一団が居た。

 夜空を照らす輝きはあまりに強く、一団は一様に瞳、いや、光を感受する機能を制限した。

 光を見つめ続けてどれほどの時間が経っただろうか。

 雷光に遅れて雷鳴が轟く様に、世界は一つの音に包まれた。

 何かが爆発する様な、

 何かが消失する様な、

 何かが生誕する様な、

 そんなあまりに大きな音だった。

 あまりに大きな音だったから、世界はある意味でその一瞬何よりも静かだった。

 雑多な音も細かな音も、声も思考も、何もかもがその音に包まれて、他の音は何も存在していない。

 轟音に包まれた静寂は時間にして十秒程で失われた。

 ただ、音が聞こえた先、水平線の向こうでは未だ太陽が燦々と輝き、空を染め上げている。

 本物の夜明け前まで、水平線の向こうで太陽は輝いていた。

 それを見つめ続けた異様な者達が居た。

 全体的に人型を保っていた集団だったが、人の形を誰一人残しては居なかった。

 両腕が大翼に成った者。

 体が半透明に透けた者。

 頭に針鼠の様に電極が刺さった者。

 身体中に金属片が貼りついた者。

 異様な風貌をした誰もが、誰かが声を出さなければ成らないと分かっていた。

 そんな貧乏籤を引いたのは、集団の一番前で、太陽が生まれ、そして死ぬのを見ていた男だった。

 男は一団へと振り向いて、ガシャンッと音が鳴った

「親愛な死に損ない共。発明戦争が終わったぞ」

 異様な一団の中で、男の外見が最も異常だった。

 腕が無かった。

 脚が無かった。

 首が無かった。

 頭が無かった。

 あるのは円柱状の胴体だけ。

 褐色の金属柱がカメラの付いた面を後方に居た一団へと向けていた。

「我々が見捨てた戦争が終わった。命を捨てた我々が、その命を使うべきだった戦争が終わってしまった」

 金属柱は何処から声を出しているのか分からない。だが、その声は決して機械的な電子音ではなく、何処か暖かな男の低い声をしていた。

「見ろ。あの光の中で、我らが同胞達は死に絶えた。何と立派な最後だろう。与えられた役目、果たすべき使命、求められた役割、その全てを彼らは見事に果たした。あれぞ、ライフレスが迎えるべき終焉だ」

 その言葉に、ライフレスと呼ばれた一団達の一部は眼を伏せた。

 しかし、それを金属柱は許さなかった。

「顔を上げ、前を見ろ。我々が放棄した未来があそこにはあったのだ」

 表情など無いはずなのに金属柱は確かに笑っていた。

 それは嘲笑だろうか、それとも苦笑だろうか。一体どういう意図で笑ったのかは本人にしか分からないだろう。

「死に損なった我々は発明戦争終結を持って死ねなくなった。まあ、我々はライフレス。命を失った存在だ。今更、死にたいと言うのもおかしいだろう。なぜなら何度でも死ぬ機会はあったからだ」

 その言葉に誰ともなく苦笑した。金属柱の言う通りだった。

「主義主張は違えど、我々は皆、高らかな玉砕では無く、誇らしい最後では無く、惨めな敗走を、価値なき生存を選んだ者だ」

 一団はそれぞれ瞳を閉じた。自分達が役目を放棄した日の事を思い出していた。

 それは苦い記憶だった。幾多の戦友を裏切り、数多の期待から逃げた、思い出す度に視界が歪む思い出だった。

「だが、恥辱の槍に貫かれようとも、侮蔑の炎に包まれようとも、我々がした選択を否定してはならないのだ」

 金属柱の言葉は一団の総意だった。

 そうだ。我らはやってはならない選択をした。

 だが、発明戦争をドロップアウトした我らこそ、発明戦争を外から見続けた我らだからこそ、分かることが、見えたことがあるのだ。

「一先ず、私は旅に出る」

 金属柱はきっと今笑っている、微笑でも苦笑でも無い。にっこりと見た者が笑ってしまうような笑みを浮かべている。

「君達はどうする? 長い、長い永い時間がある。無為に過ごすには辛い時が待っている。私の旅に着いて来ても良い。もちろん、何か他の事を始めても良い。ただ、この場で私は誓いを立てることを許してくれ」

 一拍、間を置いて、金属柱は大きく宣言した。

「ここにアルベルト・ニーチャは誓いを立てる。この先の私の人生、常に最優先事項として発明戦争の阻止を掲げよう。いつ、如何なる時、発明者並びに発明品を見聞きしたならば、全力全霊を持って、発明を阻止する。手段は問わない。二度と、もう二度と、この様な戦争は引き起こさない。私は世界の監視者と成ろう」

 それは確かに誓いだった。

 それと同時に代替行為だった。

 発明戦争で命を落とさなかったライフレス。

 役目を放棄した自身への戒めの言葉だった。


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