0. 序
この樹紀の国は、この世の創り主である偉大な王アルジンに遣わされた歌の魔法使い、歌司が治めている国である。
この国は世界の東の端にあって、国の北側と西側は広大な森に覆われ守られている。その森を守り木々や動物を管理するのは“森守り”と呼ばれる森で暮らす人たちである。彼らは森の木々と仲良しで、ウタ・ツカサに教わった魔法の歌で木々と話をすることができる。木々との暮らし、動物たちとの暮らしは大切でやりがいもあるものだが、森の奥に住んでいる彼らは、町との行き来もままならない。
そこで、歌司は彼らにほんの少しの間“魔法の帽子”を貸し出した。それはなんでも取り出せるわけではなかった。ただ、必要な時に、帽子は必要なものを教えてくれるというのだ。
15歳になると一人前の頭巾をもらい、森で働くようになる森守りは、必ず二人(以上で)一組になって行動することになっている。森は広大で危険も多い。慣れているからと侮ることは危険なのだ。
一人前になって1年間西の森で働いていたシンは、相棒を変えるように言われた。一度相棒になってしまえば一生一緒というわけでもないのだし、相棒が変わることなどいくらでもあることだ。しかし、シンがいた森と今度行く森は国の反対側にあり、あまり交流のないところであった。そんなところに行かなければならない必要がシンにはあったのだ。
シンの秘密と、何の役にも立たないような帽子が絡む頃、物語は少しずつ動いていく。
シンは新しく組む相棒が住む北東の森(鷲頭の森)に行く前に、虹森で歌司から“魔法の帽子”を渡されていた。一年間は北東の森の家に置いておいて、誰でも使って良いというのだ。
一見古ぼけた、頭陀袋のようなその帽子は、鷲頭の森の家の居間の戸棚に誰にでも見えるように置かれることになった。
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■登場人物紹介■ とくに読まなくても大丈夫だと思いますが、参考までに。
シン:主人公。16歳。南西の森から来たばかりの、2年目の若い森守り。
無口で無表情。生い立ちに秘密あり。
ガク:主人公2。19歳。シンの相棒となる鷲頭の森(北東にある森)に住む森守り。
明るく人気者。動物と話ができる。
ウタ・ツカサ:世界に7人いる魔法使いのうちの1人。歌の魔法を使ったり、教えたりする。
歌司は、樹紀の国の人たちの職業に応じて、必要な魔法を歌にして教えているため、誰でも小さな魔法を使うことができる。
シオン:河童という人種の中でも、珍しく人間が好きで、よくガクのために姿を現して役に立とうとしてくれる。
ワタル:21歳。ガクの元相棒。鷲頭の森に住む先輩。大雑把ではあるが、それなりに世話焼き。
ヒロ:25歳。鷲頭の森に住む先輩の中で仕事ができ、色々と仕切ることができる人。
ゲン:12歳。見習い2年目の子ども。
なぎ:町に住むカラクリ師の女の子。21歳。
ベイ:シンが兄と慕い、会いたいと思っている。本編には登場しない。
テト:シンが南西の森にいたときの相棒。ガハハ系で心配性。