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七
「お願いされても…」
俺は、言葉を濁した。
「舞桜がこんなに生き生きしてるのはじめてみたの…少しだけ彼女に付き合ってあげて…」
ママの真剣な眼差しが俺を見つめる。
俺の瞳を静かに見つめるその虹彩の奥に困惑の顔をしながら、どこか楽しそうにしている自分の顔が小さく写っていた。
思わず、はっとして顔を逸らすと、そこには、小さく笑った舞桜の顔があった。
ただ、その笑みはとても儚げで今にも泣き出しそうな感じに見えた。
迷子になった子供が無理して笑って…周りの大人を心配さないようにしている…そんな感じ…だ。
「一曲だけなら…」
そう、一曲だけ今夜だけ、…そう思って彼女にこたえた。
「うん!」
彼女は飛びっきりの笑顔で大きく頷くと、俺の曲を…俺たちの曲を弾き始めた。
勝手に曲を決め、演奏する彼女の隣に俺は立った。