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そこにいて  作者: 河岸ミント
5/19

舞桜はソファーのステージから降りると、俺に微笑んだ。

「これでも…元アイドルなの…」

「えっと、フレなんとか?」

「そう、なんとかじゃなくて、フレグランス」

「嘘?」

「ほんと」

「君…いた…?」

「居たわよ!三年前まで!…左端に三列目だけど…マイクのスイッチ切ってたけど…」

「マジですか」

「マジです」

「すごいね…」

俺はそう言って口を閉じた。

「あれっ?思ったより驚かないのね…」

「いや、ビックリしすぎて声にならないだけで…」

「そう…もっと驚いて欲しかったんだけど…久しぶり歌ったら、喉渇いちゃった…新しい飲み物持ってくるね」

そう言って、彼女はカウンターの反対側のドアに消えていった。

「飲み物ならここにあるのに…」

俺は、テーブルの上に置かれた、焼酎のグラスに手を伸ばした。

酷くぬるい焼酎の水割りが喉を伝って行った。

「今.新しいのお作りしますね…それにしても久しぶりね舞桜が歌うの…驚かせてご免なさいね」

気がつけば、ママがテーブル席に来てくれていた。

「いえ、俺も歌好きな方ですし…ビックリしたけど…悪い気はしないですし…」

「ご免なさいね…私カウンターに戻った方が良さそうね…」

「へっ…」

ママがそんなことを言いながら、そっと立ち上がってカウンターに戻って行った。

「お待たせ」

彼女は左手に『ほ~いお茶』の2リットルのペットボトルと右手にスピーカー付のエレキギター『ずーさん』を持って現れた。

無理して持っている性か何故か般若の様な険しい表情をしていた。

「何故?エレキ?」

俺が声をかけると彼女はにこやかな顔をしながら、フフッと笑った。

「これならカラオケ代、気にしないでいいでしょ」

「…歌声喫茶か?新手の流しか?…」

「……なにそれ?」

「店員が営業妨害してどうするんだ…」

「これの何処が営業妨害な訳?」

「……天然か?…」

「はっ?何のこと?」

「ママさんに聞いてみたら?」

「えっ…ママ?良いよね?」

彼女が恐る恐るママに声をかけた。

「はぁ…舞桜、ほんとはダメなんだけど…お茶千円なら…いいかなぁ…」

「えっ?二百円なのに?」

「持ち込み料よ!ギターも千円でいいかなぁ…」

「ギターもお金取るの?」

「嘘よ!舞桜の今日のバイト代で勘弁してあげる」

「ママの鬼!」

「般若の貴方に言われたくないけど、内容によっては目を瞑ってあげる」

「ほんと?」

「今日だけよ!」

「ありがとう!ママ最高!」

そう言って、彼女はテーブルの上にペットボトルを置くと、ソファーのステージに再び立ち、信じられない曲を弾き始めた。 

「…おい…何で知ってるんだ?」

「無題だっけ?…そうだよね?」

「とりあえず無題…」

「で、これは?」

そっ言って、彼女は別の曲を弾き始めた。

「そこにいて…」

懐かしい、自分ですら忘れかけていた、曲を彼女は弾き続けた。

十年ほど前の記憶が甦る。

何で彼女が俺の曲を知ってるんだ?

そう思いながら、彼女の演奏する姿を俺は、ただ呆然と見ていた。

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