三
俺は飲み屋のトイレの窓から真っ暗な外へと逃げ出そうとした。
窓の下を目を凝らして見れば、エアコンの室外機のようなものが見えた。
俺は躊躇なくそれに足をのせた。
バキッ!
不意に室外機だと思っていたものが、壊れた。
「えっ?」
どうやらそれはダストボックスだったらしく、プラスチックのフタをおもいっきり踏み抜いた俺は、バランスを崩して地面に倒れこんでしまった。
派手な物音を響かせたせいか、俺が逃げ出したトイレの窓の隣の窓がいきよい良く開く。
「この!痴漢野郎!」
と叫びながら、舞桜がモップを片手に下半身はジャージのパンツをはいて、上半身はスポーツブラ姿で外へと飛び出してきた。
「今日こそは捕まえて…って、てててりゃ…」
ポカ
俺の頭を彼女が軽く叩いた。
「随分いい趣味ね」
「はっ?、これは誤解だ!誤解」
「私の着替えを覗こうとしてたんでしょ!」
冷たい彼女の視線が突き刺さる。
俺は地面に横たわり彼女を見上げる形になっているせいか、やけに彼女が大きく見えた。
そして、軽く混乱している俺は思わず、現実逃避よろしく、彼女の胸元に視線がいってしまった。
「どこ見てるのよ!まったく!なにが誤解よ!」
「はっ?何も発展途上に…」
「この!えっろ野郎!さっきの男につき出してやる!」
「まて!ごかいだ!」
「五階も六階もないから!」
「ちょっと、ちょ、痛、痛っ!」
彼女が俺の耳を鷲掴みして、思いっきり引っ張ってきた。
「騒がしいわね!って、ちょっと、舞桜!何やってるの!」
「ママ!コイツ痴…」
「お客様に何やってるの!襲うなら店の中でやりなさい!」
「「へっ?」」
「彼氏が出来ないからって、見境無さすぎよ!ママがもっといい男紹介するから!盛りのついた猫みたいな事しちゃだめよ!」
「誰がこんなやつ襲うのよ!」
「なんだ!喧嘩か?…恥女か?恥女が男襲ってるぞ!」
騒ぎを聞き付けた酔っぱらいが、俺たちの前に現れた。
「違う!違うから!」
彼女の叫び声が辺りに響き渡っていた。