十二
天井からシャンデリア…
毛足の長い赤い絨毯…
壁の一部分が煉瓦になっていて、蒔きストーブが置いてある。
アメリカのテレビドラマから抜け出してきたような…そんなリビングの真ん中に何故かこたつが置いてあった…絨毯に座布団…の違和感が半端なかった。
「まぁ座れ…」
「あぁ…って堀こたつかよ…」
「床暖房もいいんだけど、どうもこたつの方が、落ち着くからなぁ」
「俺は頭の上のシャンデリアが気になって落ち着かないんだけど…」
「慣れれば気にならなくなるぞ!」
「そんなことあるか!」
「やっぱりタクミもそう思うか…まぁ、格好つけてお洒落にしたら、落ち着かないてな、せめてリビングにこたつが欲しいってなって、こんな造りになっちまったんだ…」
「金持ちはやる事が違うな…って?俺に言わせたいのか?」
「あっ、よく分かったな!どうだ羨ましいだろう」
「本気で言っているのか?」
「この建物を建てたときは、そんなことも考えたかもなぁ…」
そんな話を二人でしていると、サチがビールと焼きそばと彼女の手料理らしい肉じゃがとカボチャの煮物をのせたお盆をもってきた。
「残りものでもよかったら食べて」
「ありがとう…」
「サチ、お前も座って、皆で飲もうぜ」
「元からそのつもりよ」
他愛無い会話…何気ない笑顔…何だかあの頃に戻った気になってしまった。
タカシもサチもスパイラルのメンバーで…俺はただのリーマンでしかないのに…
「タクミ…飲み屋で歌ったんだって…だったらここでも歌っちゃおうか!?」
俺はサチの言葉にドキリとした。
「プロの前で歌えって
?………無理、無理、無理!ここ十年まともに歌ってないし!俺はアマチュアのヘタッピだぜ!」
「そんなの、言われなくたって、知ってるよ!十年前、お前の隣にいたのは、俺たちなんだから…」
タカシが笑いながら俺の顔を見て言ってきた。
「歌ってみ!あの頃みたいにさ…」
「俺…帰るわ…」
「お前は…そうやって…また、俺たちの前から居なくなるのか?」
「そういう訳じゃないさ」
「怖いのか?」
「ちょっと、タカシ!タクミが可愛そうだよ」
「サチ…」
「馬鹿野郎、可愛そうなのは俺たちのほうだ!つうか!お前が一番可愛そうだろう!サチ!…サチがお前をふったのは…」
「タカシ!やめて!」
「いや、はっきり言わないと、わかんねぇんだ!こいつは!」
「だから!やめてって!」
「あの時な…お前がスパイラル辞める一週間前か…サチが俺に電話かけてきたんだわ…悲しそうな声で告白されたって…悲しそうにさ…俺はおかしいなぁ?と思ったのさ…こいつはタクの事好きなはずだったから…俺がサチ…に告ったらタクが好きだからって言われたからな…」
「えっ…」
「…したらさ…こいつ…タクミが歌わなくなっちゃうどうしようってさ…好きだって、言ってくれたことは、嬉しいけど、歌じゃ食べていけないから、普通に働こうと思うんだっで、お前…サチにそう言ったんだよな…」
「確かに…そう言ったけど…」
「こいつ…落ち込んだって言うか…どうしていいかわからなくなって、泣きながら俺に電話してきたのさ…正直、俺もちょっと、ショックだったよ…タクミが音楽に対してその程度だったんだって思うとさ…ちょっと悔しくてさ」
「俺はただきちんとした形でサチと…」
「まぁ、お前がそういう考えを持つのも仕方なかったかもれないけどな…実際、バイトで食ってたようなもんだしさ…あの頃は…」
「……」
「で、なんとかしたいなって、知り合いの音楽会社の社長に相談したらさ…メジャーの話が急に決まってさ…タイミングが難しかったけど…これでタクミとまた、一緒にバンドが出来ると思ってさ…サチと抱き合いながら喜んだのを、タクミが見て…余計にこじれて…」
「そんな話…」
「誰もしてねぇよ…言えるような感じじゃなかったしな…メジャーの準備に忙しかったのと…今思えば、避けてのかな?」
「……」
「結局、お前は辞めちまったしな…」
「ごめん」
「謝る必要は無いぜ!結果的にはお前のお陰でスパイラルはここまでになったんだから…」
「どういう事?」
「最初はお前への復讐みたいな感じで、頑張った…そのうちお前に振り向いて欲しくて、頑張ってさ…やべっなんか俺までタクに恋してるみたいに聞こえそうだな…」
そう言いながらタカシは苦笑した。