一
「はぁ…疲れた…おかしいなぁ…デスマーチでも無いのに…最近疲れがとれないような…」
俺は独り愚痴ともぼやきともつかない独り言を言いながら、家へ向かった。
家と言ってもアパートだが…
間取は2Kの築三十五年のプレハブアパート所々痛んでは来ているが、住み心地は悪くない。
そんな我が家まであともう少しというところで俺は大事な事を思い出した。
「夕飯どうするかなぁ」
そう…家に帰っても飯がないことを思い出した。
一応米はある…でも、これから帰ってご飯を炊くのも面倒だ。
「コンビニは案外高くつくし…牛丼は昼に食べたしなぁ…飯食うのも面倒に感じてきたなぁ…このままこんな気持ちで一生終わるのかなぁ…気分転換でもしたいけど…何をしたらよいものやら…」
十年位前なら、悪友と一緒に飲みに行ったり、カラオケしたりできたけど…
中年独身で気がついたら、友人と名の付く奴等は、めでたく、結婚して…家族持ちになり、疎遠になってしまった。
正月に年賀状が届く程度の付き合いと言えば分かるだろうか?
「酒でも買って家で飲むか…給料前だしなぁ…スーパーで見切り品の惣菜を肴にするか…今の時間やっているのは、駅前のスーパーくらいか…」
俺はスーパーに向かった。
途中、近道をしようと駅裏の繁華街の細い路地を抜けていった。
何組かの男女にすれ違う。
派手と言うか、短いと言うか、そんな女たちが男の腕にしがみついている。
まぁ、大方、金で恋愛を語る人達だろう。
俺には関係の無い世界だ。
そんな時、俺に声をかけてくる者がいた。
きっと、客引きだろう。
いかにもお金の香りのしない俺に声をかけるなんて、なんて間抜けな奴なんだ。
「ちょっと、兄ちゃん何シカトしてんじゃわれ!」
客引きだと思い無視をしていたら、どうやら達の悪い恐いお兄さんだったらしく
、ドスの効いた声が響いた。
どうやら、今日は運が悪いらしい…
「お待たせ」
近くで陽気な女の声がした。
今の俺にとってはどうでも良いことだが…
でも、少し気になり周りを見渡すと、人影はなかった。
次の瞬間、不意に俺の右手に何かが触れ…強引に引っ張られた。
「のわっ!」
俺は驚きのあまり思わず声をあげた。
「さぁ、店に行こう」
小さな女の子が俺の手を引っ張っていた。
「なんだ彼女待ちかよ!紛らわしいな…そうならそうと言いやがれ!」
そう言って、がらのわるい男は去っていった。
しかし俺は何がなんだかわからないまま、彼女に引っ張られ小さな酒場の前まで連行されてしまった。
「ここまで来れば大丈夫でしょ」
そう言うと彼女は俺の手をあっさり放した。
どうやら、絡まれそうになった俺を助けてくれたようだった。
「ありがとう」
俺は礼を言った。
「良かったら、よって行かない?ここ私の働いてる店なんだ」
彼女は礼なら金で返せとばかりに、店の扉を開けた。
もしかすると、新手の客引きかもしれないたぁ…などと思いながらも俺は彼女の誘いにのった。