ハロウィンとは年に一回のいたずらをしても許される日!(聖さんとシロナさんのハロウィン2016年ver)
「Trick or treat!」
学校も終わり帰宅後、自室でのこと。私こと蓮佛聖は目の前の少女こと日吉シロナに何の前触れもなしにそう切り出された。
「……はい?」
あまりにいきなりすぎたため、私の返答は何のおもしろみも無い一言だけにとどまった。というか正直意味不明であった。
「えぇー、聖ちゃん反応薄いよー!」
しかしシロナの方はと言えば、私の反応の薄さが不満だったようだ。私との距離を詰めながらシロナは言葉を重ねる。
「今日は何月何日で何の日ですか!はい、聖ちゃんどうぞ!」
シロナのテンションに押されてではあるが、私は今日は何日だったっけと頭を巡らせる。
「今日は10月……31日……あぁ、なるほど」
日付を口に出したところでようやくシロナがいわんとしていることがわかった。
「ようやくわかりましたか。今日はハロウィンなのです!」
そう、今日はキリスト教文化圏でいうところのハロウィンであったのだ。
「そんなわけで聖ちゃん、Trick or treat!」
私がようやく今日という日について理解したところで、すかさずシロナはさっきと同じ文言を口にしてきた。これは推測するにお菓子をちょうだいということだろう。
「ちなみに私としてはいたずらでも可!むしろそっちの方が私的には楽しい!」
……どうやら私の予想は外れたようだ。何でこの子はこんなに目をキラキラさせているんだろう?そんなに私にいたずらしたいのか!……したいんだろうなぁ。
「えっと、お菓子って何かあったっけ?」
私は若干の身の危険を感じたので、どうにかお菓子を差し出すことでこの場を納めようとする。いや、決して保身に走ったのでは無い。あくまでイベントを楽しもうとしているだけだ。
「あー、今これしかないや」
カバンの中を探すと飴が出てきた。お母さんの味でできているというミルク味のあれだ。
「なーんだ、お菓子もってたのかぁ」
シロナさんや、なぜちょっとがっかりな感じなんですか?ハロウィンってこういう趣旨のお祭りでしょ?決していたずらがメインじゃないよね?
「でもせっかくの聖ちゃんからのプレゼントなのでありがたくもらいます」
しかしシロナはがっかりな感じを瞬時に引っ込めると今度は満面の笑みでもって私の手から飴を受け取る。
「聖ちゃんありがとうございます。せっかくですから聖ちゃんもハロウィンやってみません?私もちゃんと準備してありますから」
「え、そうなの?」
これは初耳だ。まさかシロナが一人でそんなことをやっていたとは。
「あはは、といっても別にそんなすごい物は用意してないんですけどね」
少し恥ずかしそうにはにかむシロナ。言ってくれれば私も何か用意したのに。
「そっか。じゃあせっかくだしここは私も。Trick or treat!」
思うところはちょっぴりあったが、ここは素直にシロナの言葉に従うこととした。
……だがこの言葉が失敗だったとこの後すぐに知ることとなった。
なのでここは正直に言おう。けなげな雰囲気のシロナに騙されたと!
「いいよ聖ちゃん。じゃあ……はい」
そう言うとシロナは私に手を差し出す……ことはなくなぜか身体ごと差し出してきた。
「あの、シロナ、さん?」
私はどうなっているのかわからず、とっさにシロナの顔をのぞき込んだ。するとそこには黒曜石のような大きな瞳に桜色の小さな口……で邪悪に笑っているシロナがいた。
あぁ、何か失敗したんだな私。
「ねぇ、聖ちゃん」
「……はい」
ゆっくりと言葉を紡ぐシロナの姿は、いたずらが成功した子供のようである。しかしそれでいて子供では決して出せない妖艶さで持って私の耳をくすぐる。
「お菓子はね、実はないの」
「えぇっと、そうなん、だ」
「うん、そうなの。聖ちゃんさっき言ったよね、お菓子をくれないといたずらするって。だからね」
「……」
「お菓子を用意してない私は聖ちゃんにいたずらされちゃうの」
「……」
あぁ、なるほど。今回はそういうことか。
私が半ば呆然と今回のことについて理解を進めていく中、シロナはというと私の手を持ったまま、私のベッドの上によこたわる。
「とっても恥ずかしいけど……えっちないたずらでも、いいよ」
ベッドの上から潤んだ瞳で私を見つめてくるシロナ。しかしそれでいて、つかんでいる私の手は離さない。
「ねぇ、聖ちゃん。私、なにされちゃうの?」
シロナの言葉疑問の形こそ取っているが、実際には違う。捕まれている私の手はどんどんシロナの胸の方へと近づけられていく。
「シロ、ナ、だめ」
とっさに拒絶の言葉を口のするが、そのあまりのか細さに私はびっくりする。
「……ひじりちゃん」
顔が熱い。心臓がどきどきする。
そして当然そんなことでシロナが止まるはずもない。私の手はいよいよシロナの体に触れそうになる。
……その寸前で。
「なぁんてね」
突然シロナが起き上がると自身の体をベッドの上に座るようにする。そして私はというと、反対に捕まれていた手をそのまま引っ張られベッドに座らせられた。
「どう、驚いた?驚いた、聖ちゃん?」
さっきまでの雰囲気はいったい何だったのか。シロナは今度こそ本当に邪気のない笑顔で私のことを見た。
「……驚いた」
しかし私は事態の急変にただ呆然とつぶやくのみだった。
「とりあえずいたずら成功。今年のノルマ達成かな」
そして聞こえてくるのはそんな声。
「……ハロウィンはいたずらする日じゃない」
「何を言いますか!ハロウィンとは年に一回のいたずらをしても許される日ではないですか!」
「いやいや違うから!それになんか同じようなことを前にも聞いた気がするんだけど……」
鼓動はまだ速いけど、一気に脱力してしまう。もう!ホントにもう!
「そこは見解の相違かな。それと聖ちゃん、えっちないたずらは本当にやってもいいよ」
「……やらない」
「えぇー、私は気にしないよ」
「やらないったら、やらないの!」
ちょっと迷ってなんてないんだからね!
こうして今年のハロウィンは過ぎていったのでした。
余談
「ちなみにこちらが本物のお菓子です」
「……何で素直にそっちを渡さないの?」
「それは私がおもしろくないからです。あと私にいたずらされて困ってる聖ちゃんが見たかったからです!」
「……ばーか」
「あれ?これはもしかして割と本気で私をののしってます?うわー、これはこれで珍しいです。もうちょっとお願いします!」
「……へんたい」
「ふわぁぁ」
「……えぇぇ」
おしまい