ウホウホ教室
※一応ギャグ小説ですが、精神的・身体的グロ表現がありますので、苦手な方はご遠慮ください。
公立猩々小学校3年2組の学級崩壊は、日本教育史上類を見ない凄惨さを誇り、加速度的に教職員の精神を蝕んで行った。
生徒たちは勿論、その親までもが教師を人間扱いしなかった。
PTA主催で乱発される趣旨不明瞭なイベントに、奴隷のように駆り出される教師たち……父兄の都合を考えて、休日出勤は当たり前……それでいて、何かトラブルがあれば、責任は全て学校側に押し付けるという強硬姿勢は、我々のバイタリティを徐々に奪った……。
図に乗る親たちの下、それ以上に増長したKIDSたちは、授業中でもお構いなしに携帯ゲームに勤しむのである。中にはスマホで授業風景を撮影して、ネットに拡散する剛の者までいる。ゲーム機や携帯端末を買い与えてもらえない低所得者の子供にいたっては、縦横無尽に教室内を駆け巡る始末。
いや、そんなのはまだかわいい方だ。
先月なんて、教室内の机全部がグラウンドに投げ出されるというビーバップハイスクール的な状況まで発生した。教卓まで放り出されているという念の入りようである。
主犯格の少年Aは「すべては妖怪の仕業です(ドヤァ……)」などとクソ寒いコメントを吐き捨てて、担任をストレス性の生理不順に陥れた。
副担任のO先生はこの日、少年Aをやや強めに叱責した。無論、言葉で叱りつけただけで、身体的な暴力は一切用いていない。しかし、Aの親はこの叱責について「口臭を利用した悪質な体罰ザマス」と身勝手に息巻き、日教組に意見書を提出したのだった。
O先生は意見書を提出されたことよりも、自身の口臭を指摘されたことにひどく傷心し、ついには自ら命を絶ってしまった。
副担任を含めて、このクラスに関わった合計6名の教員が、次々と屋上から飛び降りて異世界転生を果たしている……。
そんな惨憺たる3年2組を持ちなおそうと、一人の教師が立ちあがった。
つまるところ、それは私である。
私は3年2組の担任をしている。
教師経験わずか3年の私であっても、このクラスが相当イレギュラーにイカレているということは、容易に判断出来た。そして、そう思える程度には、精神の正常を保てていた。
というか、この荒廃したクラスで正気を保てているのは私だけだろう。
KIDS達は皆問答無用にイカレている(正常なKIDSも当初は居たが、そういう子は皆転校してしまった……まあ、賢明な判断ではある)。
マトモな先生たちは先述の通りファーラウェイしてしまっている。
まさに、我がクラスの情況は、精神衛生的地獄のハイエンドという域に達している。
しかし、どうして、そんな過酷な状況下で、私は正気を保てているのか。
その秘訣は、ひとえにアニマルセラピーにあると言えるだろう。
動物の無垢な心に触れることで、大抵の精神的問題は解消すると私は思っている。
事実、私は日常的にハツカネズミの交尾を観察することで、日々のストレスを解消しているのである。
KIDSたちの情操教育においても、動物の飼育を体験させるということは、非常に有意義であると、私は確信して疑わなかった。
だから私は、
「君達、動物は良いぞー」
と言って、KIDSたちに、新しいクラスメイトを紹介した。
しかし素直でないKIDSたちは、
「だまれ、腐れ眼鏡!」
「ふざけんなよ!」
「クセーんだよ、羊水腐ってんじゃねーの!?」
と罵るばかりで、一向に動物に関心を示そうとしなかった。
あろうことか、私のポケットマネーで購入したハムスターちゃんをボールに見立ててキャッチボールを始める始末。
最終的にハムスターは、窓から放り出され、グラウンドの上に叩きつけられ、絶命した。
胸を痛めながらハムちゃんの遺体を回収しに向かうと、悪食のハシブトガラスが、遺体を啄んでいた。
慌てて「やめい! やめい!」と怒鳴りかかったものの、カラスは遺体を咥えたままファーラウェイしてしまったのであった。
「ごめんねハムちゃん……墓標も立てれなくて……」
しかし、この程度で心が折れる私ではない。
こんな事態に備えて、もう一匹ハムスターを用意しておいたのである。
教室に戻った私は、
「君達、やっぱり動物は良いぞー」
と言って2匹目のハムスターをKIDSたちに紹介した。
しかし素直でないKIDSたちは、
「ギャアアア!(脱糞 ※直腸ごと)」
「じょjっじょjっじょおヴぁヴぁ(失禁 ※膀胱ごと)」
「たすけて……たすけてクレメンゼン還元……(土下座 ※大脳ごと)」
と言って盛り狂うばかりで、ちっとも私の話に耳を貸そうとはしなかった。
……。
――やはり、無理があったか。
ここにきて、俄かに自信を喪失し始めた私であった。
――どうしよう……。
――折角一匹6000万円もするハムスター(学名:ゴリラゴリラゴリラ)を密猟者から買い受けたのに……。
「ちょっと、ハムちゃん! ストップ! ストーップ!」
私の制止も顧みず、ハムちゃんはKIDSたちと戯れるのに余念がない。
その戯れっぷりは実にアグレッシブで、私は間合いに踏み込むことすらできなかった。
次第に教室一帯に血煙が立ち込めて、鉄と脂の匂いが充満し始める。
なんというか、思っていたより外科的なアニマルセラピーが展開されてしまっている。
「はいはい、そーこーまーでー! 掃除委員の子が大変でしょー! なー? A君……て、あれ? A君!」
おかしい。
本日掃除係のA君が居なくなっている。
「まーた脱走したか、Aめ……」
と言って、私はため息を吐いた。
まったく、困ったものである。
力なく項垂れる私の手の平に、ハムちゃんは優しくA君を乗っけてくれた。
「ハムちゃん……」
「ウホ」
これぞ、アニマルセラピーである。
俄かに元気が湧いてきた。
やはり、ワシントン条約を違反してまでハムちゃんを購入して良かった。
しょんぼりしていても、何も始まらない。
ハムちゃんは、きっとそう伝えたくて、私の手の平にA君を乗せてくれたのだ。
「おお! こんな所にいたのか、A! それにしても激ヤセしたな! 体重が1/10くらいになっているぞ! でもまあお前は肥満気味だったから丁度いいか! アッハッハー」
アニマルセラピーによって、ハムちゃん転落死のショックから回復した私は、快活に笑いながらA君の頭を撫でてやった。
素直でないA君はニコリとも笑わなかった
だが、それはいつものことなので、A君をそっと席に戻しておいた。
私の気持ちが通じたのか、A君は机の上で大人しく転がっている。
狂騒はいつまでも終わらない。
しかし、それもいつものことである。
今に始まったことではない。
「はーい。みんなー、社会の教科書開いて―」
だから私は、いつも通り、喧騒をBGMに、午前の授業を開始するのであった。
「ニシローランドゴリラはー、アンゴラとかカメルーンに生息していて―、主食は現地の子供たちです。
人の子を食べて霊的に成長したゴリちゃんはー、○翼ゲリラと同程度の知能を有していると言われています。
新しいクラスメイトのハムちゃんも、もうすぐ□□政権打倒を標榜して、行政にデモ行進の許可を申請するでしょう。
ちなみに私は△△△△の会員ですが、次の参議院選では××党に投票しようと思っています。
どうだい?
ワイルドだろ~?
他の会員に知れたら袋叩きだぜ~。
あっれ~、如何したみんな?
今日はやけに元気ないな~。
てか、みんな痩せすぎ。
痩せスギちゃん、なんつって。
あっ! コラッMさん!
いい加減直腸を仕舞いなさい! 病気になりますよ!
ええ~、っという具合に、ドイツではゴリラに人権を認めさせる運動が大変盛んですが――」
3年2組は、本日も平常運転であった。
―――fin―――