第6話 アレサ
第六話です。
「・・・つまりこの『大草原』会議で極東連合の発足と、加盟国であるウィザドニア、アラストリア、バビロス、ギガルの領土が定められたわけです。領土の分割による領民の移動は予測に反してスムーズに行われ・・・」
翌日、聖暦3017年 4月11日
浜大津総合学校 2年E組
俺はルース先生による世界史を学んでいた。
ん? 全裸で倒れていた白髪の女の子はどうしたって?
ははは、そのような報告はされてないよ・・・それより君、シベリアで木を数えるバイトをやってみないかい?
[光男君、それはバイトではなくて・・・]
[言わない方が身のためだぞ・・・というか授業中にチャットするのやめてくれるか、今世界史やっているし]
と、情報端末でツイートする。
この情報端末、通信やメールの他にも、インターネットらしきものやらチャット機能など、様々な機能が搭載されているらしい。
その機能を色々試していたわけだが。
[でもさすがに今はやめてくれ、今後のことを考えるにこの世界の歴史が重要になってくるだろうから]
[・・・本音は?]
[I like history very much ]
[言うと思ったよ・・・そうじゃなきゃ歴史のテスト毎回百点なんて無理だしね]
[まあな・・・そんなわけで授業中はやめてくれ]
[分かったけど、ほんとにあの女の子どうするの?]
あの後、とにかくあそこに置いといたらいろいろまずいので、705号研究室(茜の研究室)から俺たちの部屋に移したのだ。
途中、何度かその女の子は何かと聞かれたが、妖精ですと答えたら納得してくれた。曰く、
「山城基地で出現するのは珍しいが、世界的に見ればよくあること」だそうだ。
よくあることなのかよ。
まあ、結局目覚めなかったが、何も害はないと判断し、そのまま学校に来たわけだ。
それを今ここで考えてもだぶん結論はでないだろうから、後に回す。
[帰ってから検討する。じゃあの]
そう書いて俺は端末の電源を切った。
その直後、俺に質問が飛んできた。
「では光男君、極東連合の各国の有名な教育機関を答えてください・・・ああ、うちについての説明はいいですよ」
「わかりました」
まったくもって問題ない。
予習は済ませてある。
「まずアラストリア王立学院、聖術や戦闘術に主眼を置いています。特に騎馬戦が強いことで有名です。女子生徒によって組織された通称『白百合騎士団』は極東連合でも一目置かれる存在です」
「その理由、言える?」
「はい。『白百合騎士団』は一定数のWGを持ち、その技術、戦術は極東連合のほとんどの国軍の手本になっているからです」
「はいその通り。じゃあどんどんその調子で他の有名な教育機関を言ってください」
「はい。次はバビロス帝国学校。戦闘術。それも過激な奴や錬金術、航海技術を教えていること有名です」
「バビロス帝国学校には教導を理由に、生徒によって構成された艦隊がありましたね」
「『砕氷艦隊』です。多数の海上艦や航空戦艦によって構成された艦隊で、その強さは同国軍の主力艦隊である『北海艦隊』と同等とも言われています」
「いいですね。じゃあ次はギガルの有名な教育機関について」
「ギガル皇立塾です。精霊術や鉄鋼技術を重点的に教えています。小規模な生徒と兵器で構成された特殊部隊『山岳隊』があることで有名です」
「なぜ、ギガル皇立塾では鉄鋼技術を教えているのですか」
「ギガルには豊かな鉱床と、古くから神話と共に伝えられてきた鉄鋼技術が存在し、その技術は他国のそれを遥かに凌駕しているからです」
「よくできています。じゃあ最後にウィザドニアについて」
「ウィザドニア王立学園です。魔法技術と独自のWG運用論によるWG戦闘術を教えていると言われています」
「『言われている』という事は本当の事か分からないってことだよね・・・そこらへんの理由、知っている?」
「そもそも学園の施設自体が高いステルス性を持っていて、公にはあまり情報を発信せず、結果として情報が不足している・・・でしょうか?」
「よくできました。というか完璧ですね・・・もしかして先生いらない子!?」
「いえ、そんな事はありませんよ。ただ歴史が好きなだけで」
「そうなんだ・・・じゃあついでに質問。なぜ各国の教育機関が戦力を持っているか、光男君の考えをどうぞ」
「極東連合発足以前の体制が原因です。極東連合の各国は元々二つに分かれて戦っていましたから。その時の因縁が今に至り、教育機関が戦力を持つようになったと考えます。『学生が自主的に戦力を持った』と言えば問題になりませんし、実際のところも同じような状態になっていると思います」
「・・・先生、本当にいらないかも」
まあいいでしょう、とルース先生は授業を再開した。
(しかし学園同士で戦ってるって・・・よくある話だな)
(それについては同感です。定番と言っても過言ではないかと)
(そうだよな・・・?)
(どうかされましたか?)
(いや、ちょっと確認させてくれ)
(どうぞ)
(これは俺の心の声だよな)
(はい。いわゆるモノローグと言う奴です)
(俺の妄想に近いものだよな)
(はい)
(・・・お前誰)
(申し遅れました。私はあなたのサポートをさせていただく、キャ・・・名無しといいます。以後お見知りおきを)
(お前キャロル・ドーリーって言いそうになったろ)
(何故分かったのですか)
(一部の人しか分からないだろうけど、俺はミグラントだったからな・・・いや、ほんとに誰だお前)
(自分でも分かりません・・・ただ)
(ただ?)
(どうも私は某オービタルフレームの独立型戦闘支援ユニット的な存在だと思います)
(ADAさんですね分かります)
(しかしあなたとは一度会っているはずですが)
(どこで?)
(どこかの倉庫のような研究室らしき所で一度会いましたが)
(あの全裸女子おまえかあああああああ)
(そういうことになります。はい)
(・・・まあいい。とりあえずお前今どこにいるんだ?)
(分かりません)
(分からない? お前今自分の体からテレパシー的な何かを飛ばしているんじゃあないのか?)
(そういうのではなく・・・いわゆる幽体離脱といわれるものと推測されます)
(把握した。とりあえずお前については帰ってから検討するから今はちょっと黙っていてくれ・・・頭が痛い。)
どうして次から次へと色んな事が起こるんだ?
「ねえ、前座っていい?」
そう言ったのは太った緑色のオーク、同じクラスの奴だ。
名前は、
「同じクラスの確か・・・オール・オートンだっけ?」
「うん。憶えてくれてありがとう」
「まあな、いいよそこ座って」
浜大津総合学校 食堂
多くの学生が昼食をとっている。
いろんな奴がいることに驚いた。
どうもここは俺が思っている以上に様々な種族が在籍しているようだ。
オールが話しかけてきた。
「君は僕のこと、なんとも思わないの?」
「なんともって?」
「いや、君は僕のこと避けたりしないから」
「どうしてそんな事をする必要があるんだ?」
「いや、僕はオークだからさ、ほら色々・・・」
ああなるほど、そういうことか。
「別に俺は見た目で人を判断しないよ。それよりそのスープ冷めるぞ」
「ああごめん」
そういってオークはスープを飲みだした。
俺もカツカレーを食いながら、一息ついたところであることを思い出し質問する。
「お前、たしかWG整備科だっけ?」
「うん。そうだけど」
「具体的には何やってんの?」
「WGの構造と整備の仕方、まあWGの全てを学ぶといって良いよ」
「へえ・・・」
整備の仕方のみならず構造まで学ぶとは。
「じゃあお前、WGの動力源について説明できるか?」
「ウィザードジェネレーターのこと? 別にいいけど、でもどうしてそんなことを?」
「魔力に関して私的な研究してきたんだよ、魔力を無限に生成できるウィザードジェネレーターは興味があって」
「・・・光男君ってウィザドニア出身?」
「どうして俺がウィザドニア出身だと?」
「だってウィザドニアは魔法技術開発に積極的だからさ、てっきり光男君もそうかと」
「いや違うな。俺は日本出身だ」
「日本?」
「あ」
まずい
よく考えてみればこの世界にとって日本は異世界の国だ。
ドジった。
日本についてどう説明したものか。
侍という戦士の国と説明すればよいだろうか?
「たしか、サムライと言われる独特の髪形をした剣士や、ニンジャと呼ばれるアサシン、ジエータイという世界でも珍しい特殊生物『カイジュウ』に対抗する軍隊、オタクと言われる文化人がいて、リキシという太った格闘家がいるというあの日本?」
「・・・・・・」
訂正したほうがいいのか、そのままでいいのだろうか、判断できない。
面倒臭いので放っておこう。
「うん。その日本のとある有名な魔術師の家の出身だ。もっとも絶縁状態だが」
「その魔力回路はそういう・・・理由は聞かないよ。僕を含めてここにはいろいろ問題を抱えた人が来るからね」
そう言ってオールは説明を始めた。
「何、別に難しい話じゃないよ、魔力石の崩壊を知っている?」
「何度かこの目で見たことがあるが・・・まさかあれを使っているのか!?」
「うん。魔力石を崩壊ぎりぎりまで活性化させてそれを維持し、封印して魔力石で制御しているんだよ」
「たったそれだけ・・・いやそれでも相当な技術がないと出来ないよな。けどそれ、制御に使う魔力石の純度がかなり高くなければ維持できないと思うんだが」
「その通り。自然に存在する魔力石の活性化状態を維持し制御するためには、純度がとても高い魔力石でないと崩壊を引き起こす」
そう言ってオークを一泊入れこう言った。
「それが自然に存在しない魔力石だったら?」
「・・・人工魔力石か!?」
「そう。天然の魔力石を砕いて再構成した人工魔力石は純度が天然の魔力石よりかなり低いから問題がない」
「その分安定性が高いし作りやすい・・・か」
後はそれより純度の高い人工魔力石を作って制御すればいい。
この世界の技術力なら容易だろう。
間違いない。
この世界の魔法技術は俺が前居た世界より一世紀以上進んでいる。
人工魔力石など机上の空論でしかなかった。
しかしこの世界ではそれを使い半永久機関を作り上げた。
しかもその構造は単純で、簡単に説明できるもの。
技術さえあれば誰でも作れるだろう。
「・・・笑える話だ」
「何が?」
「いや別に、死んだと思ったら異世界に飛ばされて、色々なことを体験して、挙句の果てには先人たちが必死になって作ろうとした物をこうも簡単に説明されて、もはや何がなんだか分からなくて逆に笑えるよ。まだこの世界に来て三日目だっていうのに」
「・・・君も相当訳ありみたいだね」
まあでも、とオールは、
「君とはなんだか仲良くなれそうだな」
「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ」
オールが差し出した右手を、俺はしっかりと握った。
「オール・オートンです。よろしく」
「朽木光男だ。光男でいい」
こうして、俺にこの世界初の友達ができた。
「へえ。あのオークが・・・まあ確かに悪い人じゃないからね」
帰り道、列車に揺られながら山城基地に向かっていた。
本当は学校の近くを散策してから帰りたかったが、例の全裸の女の子について、本人同席の話し合いをすることにした。
「しかしお前が悪い人ではないと言い切るのは珍しいな」
「当たり前だよ。情報局から得た信頼できる情報だから」
「・・・俺が起きる前に相当な手回しをしていたようだなお前」
なにをやったし。
「それはいいとして、本当に彼女なの?」
「ああ。どうも本人も自分が何者か分からないそうだ」
「よくあるパターンねそれ・・・さっきエルメス局長にチャットで聞いたけど。妖精って大抵は自分の役割とか、そういったものを生まれてきたときから分かっているんだって」
「役割・・・」
「うん。妖精に関してはまだ分かって無い所が多いらしくて。あまりはっきりとした事はいえないみたい」
「後は本人に聞くだけか」
もっとも、なにも分からないだろうが。
部屋に入りドアを閉め、
廊下を歩いて、
リビングを見ると、
そこには全裸の白髪碧眼の女の子がいた。
・・・いや、体系的に見てまだ半分ロリか?
「問おう」
しゃべった。
ならば答えなければならない。
「・・・どうぞ」
「貴方が私のマスターか?」
一瞬の沈黙。
俺はこのネタに対して、
如何なる応答をするべきか、
頭をフル回転させて、
提案し、
検討し、
決定し、
応答する。
「フェイトオオオオオオ!!!」
「自分の記憶を辿ろうとしたのですが、やっぱり何もなくて。自分の名前すら分かりません」
「そうか・・・」
山城基地 寮
リビングで俺たちは彼女について、彼女自身も交え話し合いをしていた。
ちなみに、彼女にはタオルを古代ローマ人風に着てもらった。
別に俺は女の子の裸ぐらいよく見てきたが、
部屋の外から何者かが乱入してくる危険性。
さらに、乱入した奴がこの状況を見て誤解する危険性。
それらを考慮した。
何が起こるか分からない
異世界だしな。
俺が質問する。
「自分が何者であるか分かるか?」
「いいえ。ただ、あなたを支援するという使命のようなものがあります。理由は分かりませんが」
「となるとやっぱり妖精かなあ」
「・・・いや、そうでもないらしいよ」
そう茜は否定した。
「今この子を端末でスキャンしてみたけど・・・正体不明ってでたわ」
「正体不明?」
っていうか端末にそんな機能あんのかい。
どんだけ機能あるんだよ。
ハイテクすぎるわ。
それはそうと、
「正体不明・・・よくあることなのだろうか」
「うん。よくあることみたい」
「よくあることなの!?」
この世界カオスすぎる!!
「でも、魔力で構成されてるみたい」
「魔力で?」
「うん。でもそんなにはっきりと実体化してない・・・まだはっきりとした形をもっていないみたい」
「形をもっていないか・・・」
よく分からんが面倒なことになりそうだなこれ。
カオスな事に発展しそうだ。
「とりあえずこいつの事は保留にしよう。いくら考えても埒が明かん」
「それもそうだね。後日検討するということで」
「それは先延ばしというのでは?」
「「君、シベリアで木を数えるバイトをしない?」」
「先ほどの発言を訂正、ひどく正しい判断だと思います。同志」
ふむ、素直でよろしい。
「だが名前が分からないというのは不便だな・・・仮だけど、名前を付けておこう」
「それもそうですね。私も不便だと思います。何か名付けてくれたら幸いです」
「そうだな・・・」
適当に決めるって訳にもいかないしな・・・そうだ。
「アレサっていうのは?」
「・・・なるほど、発音しやすいですし分かりやすい名前ですね。採用します」
そう言って、
アレサは席を立ち
礼儀正しくお辞儀をして、言った。
「今後ともよろしくおねがいします」
「で、元ネタはなんですか」
「プロトタイプネクストに決まってんだろうがアアアアア!!!」
第六話、いかがでしたか。
これからは光男とクラスメイトとの話を中心に書く方針です。
この物語を読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。