第5話 異世界生活一日目(後)
第五話です。
『選ばれし者』
世界に十三人しかいない『神の力』と呼ばれる神格武装を操れる者達。
『神の力』の使用時の特徴として
使用者の武装化(武器や防具の自動装着)
身体能力、治癒力の向上及び魔力の増大
などが挙げられる。
そしてその力は未知数だ。なんせ30m級のロボット出すことが出来るからな・・・まあそれは置いといて、
『神の力』は強大だ。故にそれを狙う奴も多い。
中学三年生の時、俺は親友である葛葉陽一郎と共にその抗争に巻き込まれた。
街中で銃撃戦したりトラックで特攻かけたり、挙句の果てには町中でロケットランチャーをぶっ放したり。
まあでもなんとか学校の運動場を爆破して事なき事を得たが、
葛葉と俺は今後の来るであろう報復や追っ手を危惧し、ある部活動を立ち上げる。それが『歴史研究部』だ。
俺達が進学するした時、『祇園高校歴史研究部』になったが、ここでは歴史研究部で通していく。
メンバーは十四人。
そのうち選ばれし者は十三人。
つまり、選ばれし者全てが歴史研究部に入っていることになる。
俺と葛葉は部員にナンバーを付けていた。
それも交えて簡単に部員を紹介しよう。
№1 葛葉陽一郎 部長 歴史研究部創設メンバー 俺の親友 綾乃の彼氏
№2 出雲綾乃 歴史研究部創設メンバー 茜の親友 葛葉の彼女
№3 一條紫苑 魔術師 俺の弟 シスコン
№4 淀屋橋大河 俺の親友 イケメン 桜の彼氏
№5 トム・アークライト 俺の親友 神聖魔法の使い手 イギリス人
№6 三千院涼子 魔術師 お嬢様 百合
№7 柳瀬桜 後輩 弓の達人 大河の彼女
№8 橘飛鳥 真面目 武士道 百合
№9 一條薫 魔術師 俺の妹 ブラコン
№10 北野アリアス トムの彼女 聖職者希望 日系アメリカ人
№11 交野勝 後輩 紫苑の友達 浅葱の彼氏
№12 黒崎浅葱 後輩 茜の妹 勝の彼女
№13 黒崎茜 歴史研究部創設メンバー
№0 朽木光男 歴史研究部創設メンバー
計十四人
俺が№0なのは、俺が選ばれし者ではなかったからだ。
普段は部室(仮)で雑談したりしていたが、いざ戦うとなれば、街中で銃撃戦をやらかしたり、爆破したり、
魔法で当たり一面吹っ飛ばすくらいはいつものことだった。
で、それが少々まずい事態に進展すると空爆やら都市破壊級魔法を使ったり、
明らかにまずい事態になると・・・うん、やめておこう。
今から考えたらかなりヤバイことをやっていた。
けどまあ、すごく楽しかったのは確かだ。
本当にいい部活動だった。
その部活動が世界を滅ぼしたのだが。
「!!」
それを目にした次の瞬間、俺は体を動かしていた。
ナイフ。
前方、浅葱。
彼女の右突き。
それに対して俺は右足を踏み出し、右肩を前に、右に避けようとする。
出来ない。
動かない。
働かない。
遅れる。
遅い。
体の動きが遅くなっている。
なぜだ?
前は出来たのに。
いやいい。
とにかく突き出された手を掴もうとする。
遅れる。
だめだ、避けられない。
刺さる。
刺さらない。
誰かの手が、浅葱の右手を掴んだ。
「姉の獲物に手を出すとは・・・いい度胸じゃない」
茜だった。
「放してよ姉さん!! そいつのせいで・・・そいつのせいで!!」
浅葱の目は、怒りに燃えていた。
だが、姉の茜は対照的に、落ち着き払って。
「光男君が何も傷ついてないと思って?」
「・・・! その左手、まさか」
「今、光男君の両足と左腕は義体化している。それに比べてあなたどうよ、五体満足のくせに」
「それでも・・・それでも」
「あなたは友達に裏切られた事に対する憤りを光男君で晴らそうとしているだけ。それに」
茜は一泊置いて言った。
「生きているからいいじゃない・・・交野君も同じ意見でしょ」
「はい・・・浅葱、ナイフを下ろして」
「でも・・・」
「もういいんだ・・・もう終わったことだから」
琵琶湖 浜大津港 船着き場
目の前の水面はどこまでも続いている。
船着き場には何隻か船が停泊していたが、あたりに人影はいない。
俺たち二人を除いて。
「ごめんなさい」
俺は頭を下げ、謝った。
「俺があんな作戦を立てたばっかりに・・・」
「・・・いいですよ先輩。もういいんです」
勝は、申し訳なさそうに言った。
「だが・・・」
「いいんです。こうやって無事に生きていますし。むしろ謝りたいのは僕のほうです。茜先輩から聞きました・・・葛葉先輩に撃たれたって」
「それは完全に俺のせいだ。俺の自業自得だ・・・そういうことにしてくれ」
「朽木先輩、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「お互い、傷つきましたね」
「ああ」
「朽木先輩は、いつ目覚めたんですか?」
「つい昨日だ。だからまだいろいろと物事の整理が追いつかず混乱しているが」
「そうですか・・・どうりで昨日茜先輩がチャットでハイになっていた訳だ」
「茜から聞いていたのか?」
「いえ、ただ『今日は私より先に学校に行って」と」
「恐らく俺とお前を鉢合わせにしたくなかったんだろうな・・・ところで勝、俺が生きていたこと知っていたか?」
「まったく知りませんでした。朽木先輩に会うまでは」
「・・・なるほど」
言わなければ嘘では無いとはそういうことか。
「勝は今どこに住んでいるんだ?」
「学校の寮です。茜先輩がそうするように頼んだらしくって」
「茜が?」
「ええ。『二人には平和な異世界生活を送って欲しい』って。だから戦略機動隊にも入隊していないんです」
「そうか・・・」
茜も申し訳なく思っているのだろうか。
歴史研究部の創設メンバーの一人として。
「朽木先輩は戦略機動隊に入ったんですか?」
「成り行きだがな。しかしただ入っているのもあれだからな・・・俺たちがこの世界に来た理由を探ってみようと思う」
「あるんですか、そんなもの」
「分からない。無いのかもしれない。だが何もしないというのは俺の性に合わない」
「相変わらず凄いですね、そこまで考えるなんて」
「全然凄くないよ・・・むしろ衰えたよ。体の一部が無くなってしまったし、それに俺はもう一生魔法を使うことが出来ない」
「・・・どういうことですか」
「・・・右脳の一部がやられている。『手術』しようがない。もう駄目だ」
WGの操縦には影響はない様だが、ただでさえ脳にダメージを受けていたのに右脳の一部がやられていてはもう無理だ。
魔法を使役するだけの思考力は完全に発揮できなくなった。
手術をしようにも脳がやられていては意味がない。
完全に詰んだ。
「俺の魔法を使うという望みは完全に消えた訳だ・・・ははは」
「珍しいですね。先輩が弱音を吐くなんて」
「弱音ぐらい吐きたくなるさ・・・俺は葛葉の事を恨んでいないし、この世界に来たことも別に、むしろいい事だと思っている」
だけど。
「後悔ですか?」
「うん。なにか別の結末があったのではないかってね」
昨日の夜中、ふと起きたときそう思った。
意味がないとは分かっている。
けど、そう思ってしまう。
「前の俺はそんなこと思わなかったんだがな。もしあったとしても絶対に言わなかっただろう。弱くなったよ、ほんと」
「でも、それでも前を向いていられる先輩は凄いです」
「そうすることしか出来ないの間違いだ・・・でもありがとう。何か困ったことがあれば力になるよ。俺でよければだが」
「それは僕の台詞ですよ。何かあれば連絡を。端末を使えばすぐです」
「いまいち慣れないんだがなこの端末・・・まあいい、じゃあまた明日学校で」
「また明日・・・忘れ物だけはやめてくださいよ。あの事件の再来になりますから」
「・・・無論だ。朝の全力疾走マラソンはもういい」
そう言って、俺は船着き場を後にしようとした。が、その目の前に浅葱がいた。
「さっきのことについては謝罪する・・・が、一つ聞いておきたいことがある」
俺の一つ年下の女子とは思えない声で言った。
「葛葉陽一郎の事を恨んでいないというのは本当か?」
「・・・ああ」
そう言って船着き場を後にする俺の後ろのほうで、こんな声を聞いた。
「朽木光男・・・おまえは何も変わっていない」
山城基地に戻ったのは午後4時半過ぎ、
そのまま茜の案内で戦技研のあるプラントへ向かった。
プラントの上には様々な施設が立ち並んでいる。
日が傾き始めている空を仰ぎ見ながら歩く。
「大きいとは思ったが・・・まさか一辺が一キロの六角形型プラントを七つ結合した多層式正十二角形型プラントだとはな」
「計算が正しければ総面積94,5キロ平方メートル、地理的にみればそんなに大きくないけどこうやって歩いてみると意外と大きいんだね」
「軍事的に見てもな、まあでも、ここだけでは無いんだろうな」
「どういうこと?」
「戦略機動隊が発展するにつれて施設も大きくなってきたんだろう。六角型のプラントにしたのはそういうことだ、拡張しやすく、強度が高い。でも技術の発展に伴ってでかい施設が必要になったからプラント周辺・・・つまり京都盆地内に施設を置くことで対応しているんだ。プラント部分は中枢や管制機能、その周辺に飛行場、格納庫、プラントに作れない大規模な研究施設とか。事実、そのほうがリスクが低いだろうからな・・・このプラントだけでも結構大きいが」
プラントだけで京都盆地のかなり多くを占めているだろう。
「つまり光男君の駄文を要約という名の意訳をすると、山城基地はプラントだけでなく、京都盆地内の施設を含めて一つの基地を形成しているってこと?」
「だいたいあってる」
「なるほど・・・どうりで調べても全容がつかめないと思ったらそういう・・・」
そういいながら俺たちは『EF‐13連絡橋』に着いた。
「ここは?」
「Fプラントに通じる連絡橋、プラントの間は連絡橋で繋がっているんだよ。ここからFプラントを通って戦技研のあるGプラントに行くんだよ。憶えていない?」
「ああそういえば渡ったような・・・そう考えると移動の便悪いなここ」
また一辺1000メートルのプラントを移動しなければならないのか。
「しょうがないって・・・うん?」
「どうした?」
「あれって・・・局長?」
みれば、白衣に黒髪の女の人がいた。トラックに乗っている。
「黒崎研究員か、ここで何をしているんだ?」
「彼を戦技研に連れて行こうと・・・彼、戦技研に配属になったので」
「そこの彼か・・・君、名前は?」
「朽木光男です。今日から戦技研にお世話になります」
「・・・! そうか、君が昨日配属された」
女の人は満面の笑みでこういった。
「私の名はエルメス・アーノイド。戦略機動隊技術研究局局長だ」
「昨日レオスから聞いたときは冗談かと思ったよ。ただでさえ人員不足な戦技研に新たな人員。しかも黒崎の言っていた魔術師の家の生まれだとは、来てくれただけでも感謝するよ」
「やっぱりこの世界でも魔術師は重宝されるんですか?」
「ああ。いや、魔術師の家の生まれでもよい待遇が望める、いや望んでいい。特にここではな」
「そうなんですか」
エルメスさんの運転するトラックに乗せてもらい、Gプラントへ向かう。
「ところで朽木研究員、話によれば君は魔術関連で私的に研究していたそうだが、何を研究していたんだ?」
「僕が研究していたのは魔術というより・・・魔術や魔法を行使する際に使われる魔力そのものを研究していたんです」
ここで魔法を使う際に必要になるエネルギー、魔力について簡単な説明をしよう。
魔力 そのまんま、高圧になると発光する。
魔力流動体 魔力が物質化した物。 スライムみたい。
魔力構成体 魔力流動体が圧縮されたもの。つまり魔力の塊。
魔力石などがこれにあたる。
魔力粒子 魔力が粒子化した物。
この状態になるには大体火力発電所一機分の魔力が必要。基本緑色。
霊力 超高濃度圧縮魔力 霊脈(地脈ともいう)に流れているもの。
周囲の環境に大きな影響を与える。 ヤバイ
霊力粒子 超高濃度圧縮魔力粒子 霊力が粒子化したもの。
ちなみに、魔力に関してはありとあらゆる法則、方程式などの類は絶対に当てはまらない。
考えるだけ無駄である。
数式で表すとこんな感じ。
通常
1+1=2
魔力(ある一例)
1+1=65382!(コンマ毎秒ごとに変わる)
たとえスパコンで求めたとしても当たる確率は限りなく0に近い。
数学や物理を余裕でぶち壊しまくる。
同じ答えは無いと言っていい。
「だからまあ魔術師の研究目標からは遠ざけられていて・・・だいたいが魔術師にとって一番重要なのはやはり魔術ですからね」
「だが君はそこに敢えて踏み込んだ訳だ」
「魔法や魔術が使えない俺にとってそれぐらいしかできなかったんですよ・・・やっぱりもう研究されてますか?」
「まあな。でもそこまで深くは探らなかったよ。放出される魔力の量の測定に成功しただけだ」
「・・・マジですか?」
「ああ。マジだ」
「・・・なあ茜」
「何、光男君?」
「ここ、前の世界より低く見積もって一世紀は進んでいる」
「・・・マジで?」
「マジで」
ノーベル賞100個分だ。
しかしそれはそうとだ。
「俺、正直役に立ちますか?」
「もちろんだ、凄く役に立つよ!! 凄く助かるよ!!」
そう言うエルメスさんの顔は誰がどう見ても喜んでいた。
相当な人員不足だったらしい。
いかにもな所だと思った。
廊下には大量のダンボール箱や本、記録用紙やら空の容器(『糧食局謹製醤油ラーメン』と書かれている)が積み立てられてたり。
文字通り、魔窟だった。
「すまん、これでもマシな方なんだ」
「敢えて聞きますが・・・マシじゃない時って、どんな様子なんですか?」
「締め切り直前のアニメーション製作会社」
「把握しました」
つまり修羅場ですね、分かります。
「上から一層目と二層目は事務室や会議室、三層目から七層目までは研究室、七層目以下は・・・触れないで置こう。君は確か茜君の研究室だったね、茜君、案内は任せた。勤務時間は午前九時から午後六時までだが、君は都合のいい時に来てくれればいい。来て欲しい時はこちらから連絡する・・・別に何を研究してもらっても構わない。生態兵器以外でな。禁止されている」
「分かりました」
「あと、間違っても研究室で試作した爆弾に火を付けないこと、前それで下水道管が壊れて色んな意味で大惨事になったからな」
「詳しくは聞かないでおきます」
「今日はここの空気を吸っておくだけでいい。何かあったら連絡してくれ、ではまた」
そう言ってエルメスさんは行ってしまった・・・明らかに廊下に置かれている物が多いほうに。
「茜、あれ大丈夫か?」
「多分大丈夫・・・だと思う」
その間はなんだその間は。
「まあいい。それで茜、お前の研究室は?」
「第七層・・・つまり最底辺ってこと」
「さいですか」
まあその方がいいかもな・・・事故った時の影響と言う意味で
Gプラント 第七層 茜研究室
室内にはパソコンらしきものと机、本棚、顕微鏡、実験材料の入った棚、水道・・・と、大量のダンボール箱。
「ごめん。元々ここ倉庫代わりに使っていたらしくて・・・資料とかその類が・・・」
「うん、把握したからいいよ」
でも一通りの実験はできそうだ。
「そういやお前、何研究しているんだ?」
「特に何も・・・ただここにある本やら資料を読んでいただけ、それ以には全く」
「そうか・・・じゃあここにある器具、使っていい?」
「別にいいけど・・・何かの研究をするの?」
「いや・・・どちらかというと解析だな」
そういって俺はカバンからある物を取り出す。
「それは何?」
「フリークスの欠片だ。俺が初戦闘した機体に突き刺さっていたらしい」
「そう・・・で、それが何か」
「いや別に」
ただ、何かを感じた気がした。
「とりあえず・・・顕微鏡で見てみるか」
そう言って欠片を、触った。
その事象は、突然起こった。
偶然かもしれない。
欠片が、光った。
いままでにこんなことは無かった。
ここにくるまで何度も俺はこいつに触れている。
だから、何が原因で起きたかは分からない。
でも、事実だ。
そして、欠片が弾け、研究室が一瞬、光に包まれた。
最底辺の研究室でよかったと思う。
上の方だったら間違いなくばれていた。
それにその後確認した物・・・というより人を見て、本当によかったと思った。
女の子だ。
白髪の女の子。
全裸。
全裸の女の子が・・・床に倒れていた。
確認しよう。
まだ、異世界生活一日目である。
第五話、いかがでしたか。
設定ですが、当初のものから一部変更しました。
それに伴い、今までの話も一部変えました。
この物語を読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。