第51話 レバリスク市
聖アラストリア王国。
その歴史はアルマニア帝国時代まで遡る。
聖史暦2790年、第二次神魔大戦末期、アルマニア帝国の最高指導者『魔帝』がクーデターによって行方不明になり、アルマニアは崩壊し、第二次神魔大戦は終結した。
結果、アルマニアは四つの国に分裂した。そのうちの一つがHAK(聖アラストリア王国)である。
―― エマ・タチバナ著 「世界の脅威、フリークス」より抜粋――
『REBARISUKU・TOWER、REBARISUKU・TOWER。This is SMF・FLEET、AHC−801、OUMI‐YAMASHIRO。7Th−SMS、Request、Clearance、For、REBARISUKU・GROUNDPORT』
『This Is、REBARISUKU・TOWER。Clearance、OK。Touchdown、GROUNDPORT・E5…Wait、Whatyou?』
『光男君、滑走路侵入許可でてる? どうなってるの、聞かれてるよ』
「やば、忘れてた」
回線をオープンに、レバリスク市管制塔に着陸許可を願う。
「This Is SMF・FIGHTER、7Th−SMS、F-1、KAGAYAKIBOSHI。Request、Clearance
For、REBARISUKU・AIRPORT」
『Wait…OK、F-1、Touchdown、RUNWAY・D5。WIND20』
「Roger、REBARISUKU・TOWER…THANK」
「…朽木君、イングリッシュうまいね」
後席、フライトオフィサのオールが言った。俺は機器の最終点検をしながらそれに答えた。
「簡単な事しか話せないよ。英語…イングリッシュはむしろ苦手だ」
テストでは赤点ぎりぎりで保っていた。ほぼ奇跡に近い。
「しかし、イングリッシュとはな。ここでは…えっと、アルマニア語だっけ、それが使われるのかと思った」
「連合軍の通信はイングリッシュだよ、でも公用語はジャパニーズだ」
「人間界ではどちらもイングリッシュだが」
そういいつつ、俺はモニターに表示されたコースを描くように操縦桿で操作する。
「と、コースに乗ったよ。このまま一直線にランウェイD5だ」
「オール、何かあったらすぐ言ってくれ、着陸は初めてなんだ」
「レーダーと目視で見張ってるよ…僕だって初めてだ、頼むよ?」
「期待に沿えるようにがんばる」
下には草原が広がっていた。緑色の大地、HAKレバリスク市外縁部、第二内壁部の草原だ。
「…馬がいっぱいいるな、下」
「牧場って聞いたよ。HAKでは馬は必須だからね。未だに」
「自動車使うよりかはましってか、まあそうだろうな」
そうだ、暇があったら馬にでも乗ろうか。『レバリスクで食べまくり』計画を考えていたが、それだけではつまらなさそうだ。色々とチャレンジしよう…異世界だし、色々と体験しといたほうがいい。そう思いながら操縦桿を操作し、微調整する俺であった。
「…と、後三キロだよ、ランディング・スレッド。アクティヴ。魔法陣展開」
「リバーサブースター(逆加速器)作動用意…接地と同時に点火する」
「かなり強引だね」
「しょうがないだろう」
それにしても、広い平原だ。山が見えない。
「だたっぴろいなここ」
「人間界ではモンゴルとかいう所らしいよ。でも人間界の方はこんなに平たくないんだって」
「だろうな…ていうか、ここモンゴルか」
俺はモンゴルというと、チンギス・ハンを思い浮かべる。フビライ・ハンも同時に。
チンギス・ハン…チンギスハン…ジンギスカン。
「ジン、ジン、ジンギスカーン…たーららたーららたららららららジン・ジン・ジンギスカーン…」
「何の歌?」
「ジンギスカン」
滑走路を目視で確認する。後二キロ、あっという間だ。
高度を下げて、機首を上に上げる。
「エアブレーキ作動。速度落とし」
「速度落とし、500キロ」
「オーケ…タッチダウン、レディ」
滑走路に差し掛かる。地面すれすれに、滑走し、
「タッチダウン、ナウッ!!」
リディス・マリアファスとヒース・アルバは、SMF第七特務戦隊を向かえにいくために陸港に行く途中、ふと凄まじい爆音が聞こえたので振り返り、一機の戦闘機が地面すれすれを滑走して滑走路に入った瞬間。バンと言う音を立てて着陸し、その一秒後に機首下から緑色の噴射炎を放出しながら、機体下部から火花を散らして減速して行くのを見た。
その通り道に真っ黒な痕ができているのも、摩擦熱による炎も。
「ふーう」
着陸し、リバーサブースターを点火した直後、火災警告が鳴り響いてあたふたしていたらコックピット内に大量の消火剤が噴出し。あたり一面真っ白になって。一時はどうなることかと思ったが、
「ま、無事でよかった」
「光男君光男君、ちょっと周りの人の目を見てみようよ、すっごい目つきしているけど」
「フム」
確かに、滑走路上の兵士の目つきが悪い。が、
「夜勤明けなんだろ」
「僕が思うに、滑走路オーバーランした挙句、そのまま格納庫に突っ込んで倒壊させた事が原因なんじゃあないかな?」
「そうか?」
まあそんな冗談を言いつつ俺とオールは滑走路脇で輝星のソリに座っていた。
空が青い。雲ひとつなかった。
「…来ちゃったな、HAK」
「うん。僕もまさか行くことになるとは思っていなかったよ」
それも戦闘機で、とオールは付け足した。
「しかし、まずったね。着陸」
「爆発炎上しなかっただけマシと思え。人間の飛行機はおおよそ脆いんだ」
機体を見る限り、どうも俺は機体を地面に押し付けるように激突させてしまったらしい。
機体が無事だったのが本当に不思議だ。付け加えるなら着陸用ソリも無事なのはおかしい。
「機体下部見た、光男君? すごいよこれ」
「本当にな、真っ黒こげだ…マジでどうなってんだこれ」
こんなに擦ってぜんぜん大丈夫とは。ザジル・バルボルドの作った装甲は丈夫らしい…いや、そもそも戦闘機にこんな装甲はつけない。それはつまり、
「戦闘機なんてただの通過点ってか」
「フェイズ2の事? あのロボット?」
「ああ…この戦闘機はそのコアパーツって訳だ。まあ、でも試験しない訳にはいかんとにかく欲しいのは魔力波動炉のデータだ。いまだに魔力出力の変動パターンがつかめない…データ取ったよな」
「一応。解析する? ここで」
「暇だからな、やろう」
そう言って俺たちはコックピットハッチに飛び入り、消火剤のプールにダイブした。
レバリスク郡は大きな三つの壁に囲まれている。
その全長についてのデータは明かされていないが、結構長いらしい。
だが、長さは長いが、何もすごく高い壁という訳では無い。せいぜい3メートルから5、6メートル。内奥にいくにつれ高くなっている。ベルリンの壁みたいな物だ。それでも長い歴史がある。
そしてレバリスク市はその最深部に位置する。
その傍にレバリスク陸港はあった
俺たちが輝星をトレーラーの載せて行った時には既に近江山城は着陸し、艦の各ハッチを開放し荷揚げを行っていた。
「お、来たかお前ら」
陸港作業員に指示を行っていた赤髪の鬼は俺たちを見つけると手を振りながら走ってきた。
彼の名はザーフ・エンダーストン。近江山城の艦橋要員で、三毛猫には武装関連で携わっていたと俺は聞いていた。
「凄まじい着陸だったな、輝星は?」
「消火剤まみれだ。コックピットの中はな。バルブ抜いて放出したけどまだ結構溜まっている」
「内部機器が防水使用で助かった。データとったから近江山城で解析したいんだけど。なるべく早く」とオールがカセットテープを見せる。
「今、中でHAK側の…誰だっけ? まあとにかく今アヴェントの奴が話し合いしているから。そいつらが監察してからだな。一応、人の土地の近くで兵器の試験をするからな。それぐらいは、それにまだ、色々と作業が残ってらあ。それが終わってからだ。多分、夜までかかるぜ」
「今日はやめとこう、オール。一応保管だけしといて、解析は明日で」
「そうしようか、光男君。そうだ、ザーフ君。輝星をトレーラーで引っ張ってきたけど艦に入れておいてくれないかい」
「おう、荷を降ろし次第しよう…え、試験するんじゃあないのか」
「いや、ちょっとね。修理というか改修すべき点が見つかって」
「そうか…そいつはどこに?」
「あそこ」
オールの指差す方、大型のトレーラーが止まっている。オールが運転してきた物だ。
「あれか、分かった。で、オール、お前はこの後はどうなんだ?」
「艦内チェックを手伝うよ。光男君は?」
「アヴェントの所にいくよ。俺も一応責任者だし。ザーフ、あれを頼む」
「任せとけ」
…艦に戻る直前、ザーフの「あんじゃこりゃああああ!!??」という絶叫を聞いた気がするが、俺とオールは無視した。
「では、試験は明日からということですね?」
「ええ。本日は貨物の運搬、及びスタッフの休養を執り行いたいと…ここに来る途中、フリークスに遭遇しましたので」
「聞いています。災難でしたね」
「いえいえ…こちらも色々と無理を」
「フリークスは極東のみならず世界の問題です。それに対する新兵器の開発は、我々HAKにとっても有益です。当然の行為です」
「そうですね、ではまた明日。ありがとうございました。わざわざ聖騎士の方に来てもらって」
「いえいえ…しかし、凄い物ですね、あれは一体どういう物なのですか、何を目的とした物ですか?」
「え、ええ。まだそれはお答えできないというか。対フリークスの新兵器としか…ええ」
話し合いは第一作戦室で行われていると聞いて向かったら、すでに話し合いは終わっていたらしい。作戦室からアヴェントと、2人の女騎士が出てきた。
1人は赤髪の女騎士。もう1人は金髪の女騎士だった。
金髪の方からは、お嬢様オーラ的な物が出ていた。恐らく貴族出身。
赤髪の方からは、騎士というか、戦士のオーラが出ていた。出世して騎士になったのだろう。
と、そんな観察を俺は一瞬でした。そして挨拶しようとしたが、先にアヴェントが俺に気づき、俺を紹介した。
「噂をすれば、彼があれを開発した、朽木光男『博士』です」
「え」
いつのまにか博士にされていた。それに「いや、博士じゃないから」と抗議しようとしたが、それを言うより先に赤髪の女騎士に挨拶された。
「どうも、始めまして。私はヒース・アルバといいます。そしてこちらはリディス・マリアファスです」といい、ヒースはリディスを指した。リディスはたどたどしく、
「よろしく…おねがい、します?」
と、たどたどしい日本語で挨拶した。
それが、リディス・マリアファスとヒース・アルバとのファースト・コンタクトだった。