第48話 『輝木』
「SMF!?」
リディスが自分に手伝えというのも珍しいが、それ以上にSMFがこの町に来ることにヒースは驚いた。
「戦況でも悪化したのか? 先月あんなに潰したのに」
「いえ、実験だそうです。それで校長に呼び出されて案内をしろと」
「マジか…で、手伝えって言うのはあのババアの命令か」
「あなた、校長に少しを敬意を」
「何が敬意だ。あの五十越えの戦えない奴が、のんびり座っているだけじゃあないか」
と、ヒースは憤慨した。
ヒースの嫌いな者は、ムカつく事をする、または人が戦ってる時にイスにふんぞりかえっている奴である―――もちろん、そう思っているだけであるが。この場合、貴族や軍の司令官である。
「敵はフリークス、一つ残らず殲滅する。それだけだ」
「単純ですわね。あなた、校長も色々と」
「やっているってんだろ、それが気に入らん。みんな戦え、総力戦だ」
そう言ってヒースはグラスの中の酒をいっきに飲み干した。
「なにが聖騎士だ、特権だ、権力だ、訳がわからん。そんな物くれてやれ」
「今日はやけにいらいらしていますわね」
「お前もそのわざとらしいお嬢様言葉もやめとけ、みっともない」
「…色々と重要なのよこれが」
はあ、とため息をつくリディス。ヒースの言いいたい事はは彼女も同じだからだ。
聖騎士になりたいというのがリディスの夢だった。父のように、弱き民を守り、戦う聖騎士に憧れていた。
その一心で、必死にがんばった。リディスの父がどこかにいってしまった時も、がんばった。そして聖騎士になった。だが、
「聖騎士の公務のほとんどが、名ばかりの議会、貴族のパーティとか催しばかり、戦いなんて」
「だから白百合騎士団を作ってその団長になった訳だ。暴れたいから」
「それはあなた…こうでもしない限り、フリークスの戦う事ができない」
リディスは天井を見た、意外とせまいバーだった。
「…南部戦線に行けたらなあ」
極東連合軍がその総力を挙げて奪還しようとしている極東南部。人間界で言えばベトナムのあたりである。
聖暦3001年の第二次フリークス侵攻、それ以来、極東南部はフリークスの実行支配域になっていた。
そこを、奪還する。それが極東連合軍の目標であった。
極東南部を奪還すればフリークスの本拠、南極への侵攻作戦への足がかりとなる。
連合軍は必死だった。それにリディスは加わりたい。
「協会は許可してくれない。それは連合軍のやることだって」
「聖騎士はおとなしく内政をやっておけって? 馬鹿馬鹿しい」
「そうよ、まったく。極東連合軍を信用しているんだろうけど。あんな軍隊のどこが頼りになるっていうの、無能の集まりよ、あれは」
「ただし、SMFのレオス元帥は違う。だろ、閣下だけは違う。SMFと、レオス・オブライエン元帥だけは」
ヒースは、彼女にしては珍しく真面目な顔で言った、しかも閣下とつけて、
「レオス元帥は違う、あれは本物だ、戦いをしっている、フリークスが全力を挙げて戦うべき存在だとしっている」
「SMFの本拠としている極東列島はまさに、対フリークス戦の最前線。南部戦線よりもはるかに厳しい。そこを守っているんだから当然でしょう。あれは違う、あの司令官は他の無能とは違う」
「同感だな、前にこっちで休暇を取ったとき、実は会ったんだ」
「会った、休暇?」
リディスは驚いてヒースに問い詰めた。あのレオスがここに来た?
「お忍びで、と元帥はおっしゃっていたが絶対に違う、偵察だろう。元帥はこの対フリークス戦争全ての事を考えているよ」
「どうしてそんな事を、というか来たら絶対に騒ぎになっているのに、そんな事無かったのにいつのまに?」
「ああ、そりゃあそうだ、だって見た目半ズボンにコートのおっさんだから」
「ぶえっくし!!」
SMF山城基地第一食堂で早めの昼食を摂っていたレオス・オブライエンはくしゃみをした。
「どうしたレオス、風邪か?」
と、金髪の鬼、ジョナス・イーター料理長は聞いた。
「いや、違う…誰か俺のうわさをしたんだろう」とレオスは言った。
「お前のうわさをしている奴なんていつでもいるだろうに」
「それな…しかし、心配だな」
「例の七特(第七特務戦隊)か? 例の学生グループと戦技研の魔力部門のエースの?」
「正にそれだ、航空重巡洋艦一隻だけじゃあやばくないかと思ってな」
「護衛をつけるべきだと? だからあれほど」
「十分前まではそう思っていなかった、最新情報だ。近江山城がフリークスに遭遇したらしい、防空圏のすぐ近くで」
「…確かルート32を使っていたな、あそこで遭遇したのか?」ジョナスは特性ソースを仕込んでいた手を止める。
「被害は」
「無い、新型のミサイル、XMPS-2を二発消費しただけだそうだ」
「ああ、例のお前が『高すぎる』て嘆いてた奴か…まさか」
「そのまさか、だ。例の新型、TX01で迎撃したらしい」
「そうか…しかし尋常じゃないな、あのルート32で遭遇するとは」
「それなんだよ問題は、護衛艦ぐらいつけるべきだったかな…朽木君に護身用の武器は持たせたんだけど」
「…なあ、一つ聞いていいか? これだれにもらった?」
格納庫に向かう途中、茜とアレサと合流し、そこで俺はアレサにある物を差し出された。
「レオス元帥から直接、今朝もらいました」と事務口調で言うアレサ、その手には一振りの太刀らしき物が握られていた。
「これを、レオス元帥が?」
「ええ」
俺はその太刀を手に取り、鞘から出す。
刀身が無かった。
「…ねえ光男君、これ、どう見たって刀身が無いんだけど、柄しかないんだけど」と茜。
「うん」
俺はその柄を振って、調べる。木製の柄、一切の装飾が無い。
本当に何も無かった。ただの、『柄のように加工した、ただの木』
「って、これ『輝木』じゃねえかッ!!」
「何それ」
無理も無い、知らなくて当然だ。これを作った人間は既に死んでいる、それも平安時代に。
「これはな…朽木鈍造という刀工の作品だ。お前は絶対知らん。なんせ平安時代の人間で、無名だからな」
ここでいう無名とは、もちろん普通の人間にとってもだし、魔術師にとっても、という意味である。
知っているのは現代日本において数名のみ、俺含む。
「しかし、実は誰よりも早く、武器と魔法の融合について研究していたんだ。そしてこの輝木は朽木鈍の最初期作品だ」
「…でも、刀身が無いよ」と茜が申し訳ないように言う。
「私、人殺しの技をいっぱい持っているけどさ、もちろん刀での戦い方や殺し方も。でも柄だけっていうのはちょっと…まさか、刀身は別にあるとか」
「レオス元帥からもらったのはこれだけです。鞘の中にも何も入っていませんでした」とアレサ。
「失礼ながらマスター、これは使えないものでは?」
「いや、これでいいんだ。記録にもそう書いてあるんだ。刀身が無い、と」
「だったらこれ、どう使うの?」
「こう使う」
基本は同じのはず。だが大事を取って、ちゃんと段取りを取ろう。
「『用意』」
輝木に対して、意識を集中させる。
「『起動』」
魔力回路に体内の魔力を入れ、起動。
「『伝達』」
体内魔力を魔力回路を通じて輝木に送る。
「『放出』」
瞬間、柄から緑色の魔力が吹き出た。問題はここから。
「『形成』」
刀の形をイメージする。日本刀、刃渡り1mぐらいで。
「『固定』」
吹き出た魔力が刃の形になる。
「『完了』」
柄から、緑色の魔力の刀身が形成されていた。緑色の光剣。
刀工朽木鈍造作、『輝木』
「これが輝木、だ。使用者の魔力を柄から放出し、それを刃にする刀だ。使わない時は魔力を切ればいい。手入れも無用。よく考えたもんだよこれ」
「…マスターは魔術師なのですか」
「一応、ただし魔術や魔法は使えないよ」
「…魔術回路が無いから、ね」と茜が言う。
「光男君の今のは、魔術では無く、光男君の欠点を生かした固有能力的な物よアレサ。それゆえ光男君は魔法を使えない」
「そう言う事だ、一応お札は使えるが」
しかしよくもまあこんな物を持っていたものだ。柄である杉(伝承によれば南の島にある杉、恐らく屋久島の屋久杉と思われる)は新品同様、綺麗だった。
「最後の記録は第二次大戦中、満州に送られ、さらにそこから西の方に送られたと書いてあったが…どこでこれを見つけたのか」
「…アフガンとか?」
「…まさかな」
まあそれにしても、と茜は輝木を様々な方向から見て、言った。
「まさに光男君向けの武器ね、これ。魔力を流し込むのは光男君の得意とする所だし」
「まあな。それを考えて総司令はこれをくれたのかもしれない」
輝木を振ってみる。軽い。刀身である魔力には重さが無い。柄は木製だから、すごく軽い。
「切れ味はどうだか分からんが、まあ無いよりマシだろ」
魔力の流れをせき止め、刀身を消して鞘に戻す。
「使わない事を祈るばかりだ」
「戦闘は私がやるから安心して光男君…そりゃそうと、これジェダイの騎士が使うアレなんじゃあ?」
「それな」