第2話 初陣
遅くなってしまい申し訳ありません。
コックピットの中は意外と広かった。
左右にそれぞれレバー、ペダルなどその他計器類が設置されていた
(まるで戦闘機だな)
「で、どうやって操縦するんですか?」
「とりあえず席に座ってシートベルトをしめてくれ」
総司令の指示に従い、僕はシートに座りシートベルトをしめる。
「よし、ハッチを閉めろ!」
胸部装甲が閉まり、コックピットが暗くなる。同時に計器のランプが点灯する。
低い駆動音が次第に高くなっていく。
『メインシステム起動シークエンスを開始、ジェネレーター出力上昇、主モニター点灯、戦略情報ネットワークに接続』
システム音声とともにモニターが点灯し、外の様子をうつす。
格納庫内では作業員がテストの準備をしているらしく、慌しく動いていた。
『「マイクテスト、テステス。光男君聞こえるか?』
格納庫内の上部に設置されている箱のような部屋、窓からはヘッドセットをつけた総司令がいた。
『はい、ばっちり聞こえます』
『それはよかった、早速だけどそこにヘッドセット無い?』
『ヘッドセット・・・このイヤホンとマイクがセットになったようなものですか?』
『そうそれ、早速着けてくれ』
ヘッドセットをつける。瞬間、機体の状況、武装及び残弾などの情報が頭に入ってくる。
(何かに繋がっている?)
この感覚は前にもあった。
『接続終了、うまくいったようだね、それはC−MOSと言って・・・早い話が機体と操縦者をつなぐシステムなんだ』
「機体と操縦者を繋ぐ・・・あの、これって」
『うん、一応WGには魔法技術も使われているよ、そうでもしないと操縦なんて、ましてや全高約12メートルの二足歩行型ロボットなんて作れる訳がないよ。基本的には君は操縦する際思考するだけでいい、まあ別にペダルやらレバーを使っても構わないけど』
魔法技術も使われている。
もしかして、このC−MOSは前に俺がやっていたあの強引な技をシステム化したものなのだろうか。
だとすれば世界の魔法技術はに前居た世界より相当進んでいる。
『そういえば総司令、僕ヘルメットとか耐Gスーツとかないんですが』
『ああ、そんなものは必要ないよ。コックピット周辺に魔法術式をかけているから』
「魔法っての力ってすげー」
魔術師の俺が家に生まれ、散々魔法術式をかけられ、文字通り魔改造された戦闘機(F−14)で戦っていた俺が言うのもあれだが。
『よし、それでは試験を開始する。まず始めに歩いて格納庫の外に出てもらおう』
「了解」
まあ、最初はそうなるよな、脚がついているのに歩けないのでは意味が無い。
僕は歩くように思考する。
すると、鋼鉄の右脚が動き一歩踏み出す、続いて左脚が動き・・・歩行する。
『続いて、右腕・・・は武器を持っているから、左腕を動かしてみて』
頭の中で思考すると、WGの左腕が動き、更に指を動かす思考をすると、連動してWGの指が動いた。
(F-14を動かしていたときと同じだ)
感覚もまるで同じだ。頭の中で思考したように、イメージ通りにうごく。さっきの仮説は間違っていなかったということだ。
『初搭乗で歩行ができるとは・・・よし、じゃあ次飛ぼうか』
「いきなり!?」
『前にF-14を乗り回していたんでしょ』
いやまあ、たしかに乗り回していたけど、竜と派手な空中戦を繰り広げたこともあるけど・・・新品のF-35で見事なベイルアウト(緊急脱出)を披露したこともあるけど。
『大丈夫、初搭乗で歩行できるんなら十分だ。それにこれからフリークスの群れに突入するわけだけど、歩くことが出来るなら余裕で殲滅できるから』
飛行した後にそのまま敵の群れに突入して殲滅するってそれもう実戦だろオイ。
(まあいい)
感覚は掴んだ。
「分かりました、やってみます」
『よろしい、ではルートを表示する。それにそって移動しろ』
「了解」
表示されたルートにそってWGを歩行させながら考える。
それは、初めてF-14を飛ばした時に考えたことと同じだった。
(魔法を行使するときと同じだな・・・魔法を行使しているわけでもないのに)
今、俺は『歩く』をという思考しているわけだが、実際魔法を行使する際も同じことが必要だ。
魔法を行使する際、魔力などが必要になるが、最も重要なのは思考すること、頭の中に明確なイメージを持つことである。まあ、そんな事簡単にできないから詠唱とかするんだが。
そう思いつつ、右手を見る。
(やっぱり魔力回路が暴走したのか・・・)
あの時、右手にある魔力回路が暴走してこの事態、つまりは俺の世界移動の原因のトリガーを引いた可能性は十分ある。
しかし、魔力回路だけでは魔法を行使することは理論上できない。いや絶対に出来ない。魔力回路は魔力の流れを制御するだけだ。
魔法を行使するための魔術回路、またはそれに準ずる魔方陣、術式などがないと魔法は行使できない。何か別の要因がある。
・・・といっても、何か思い当たる節がある訳ではない。
(携帯と電子レンジをくっつけた訳でもないしな)
そうしているうちに目的地に到着した。前には滑走路が伸びている。
『よし、それではこちらの指示にしたがって離陸してくれ』
「了解・・・そんなに簡単に出来るものなんですか?」
『まあな、そうでもしないと迅速な展開が出来ないからな。よし、脚部の高速軌道輪を展開しブースタースイッチをオンにしてくれ』
「脚部の高速軌道輪を展開し、ブースタースイッチをオン・・・こうですか?」
脚部の高速軌道輪が展開し、背中と脚のブースターに緑色の光が集まっていく。
『よろしい、離陸する際はペダルを踏み込むんだ。あとは機械が勝手にやってくれる。戦闘機の操縦よりか遥かに楽だろう。では後は管制塔の指示に従って離陸しろ。君のコールサインは『ルーキー1』、管制塔のコールサインは『ヤマシロ・タワー』だ。離陸後、目的地までの航路はマーカーが示してくれる。マーカーを伝って行くんだ。作戦領域到達したら、そのまま領域内の敵を殲滅しろ』
「了解・・・じゃなかったルーキー1了解」
『その調子だ。いつもこの時間帯は輸送機とかで混んでいるけど、今日は珍しく混んでないからすぐにくると思うよ。じゃあまた後で』
事実そうだった。直後、管制塔から通信が入った。
『ルーキー1、こちらヤマシロ・タワー。聞こえますか?』
「ルーキー1よりヤマシロ・タワー、感度良好です」
『ヤマシロ・タワーよりルーキー1、これより滑走路へ誘導、離陸は5番滑走路を使用します』
「ルーキー1了解」
表示されたルートを走行し、5番滑走路に着く。
『ヤマシロ・タワーよりルーキー1へ、離陸を許可します』
「ルーキー1了解」
一回だけ深呼吸し、しっかりと前を見据える。空は青く澄んでいた。
(初めてF-14を飛ばした時は、夜だったな)
「ルーキー1、テイクオフッ!!」
ブースターから緑色の光が噴き、鋼色の巨体が猛スピードで滑走路を移動し、飛んだ。
機体はどんどん加速し、高度を上げていった。
「しかし珍しいですね、あんなに静かに機体をうごかす初心者は。大抵の場合色々と騒ぐんですが。よくあんなの見つけましたね総司令」
「まあね」
20年間の睡眠から目覚めたばかりだがな
「機体の操作、並びに把握、この短時間で彼はWGの操縦を体得しています。初搭乗だっていうのに」
「それに関しては同意だよ。いくら戦闘機を操縦していたって言ってもね・・・」
命令に口答えせず、目の前の問題に対して冷静に対処する。
(慣れているな・・・)
それも魔法関連で。そうで無ければこの短時間で操縦を体得することはありえない。
「ルーキー1、作戦領域に突入します」
「よし、回線をつなげ」
「うわあ・・・」
F-14を飛ばしていたときと同じ要領でマーカーを辿っていくと、そこにあったのは都市だった。
機体を慎重にホバリングさせつつ、下をよく見ると、そこには道路や車、線路らしきものがあった。
間違いなく、ここは現代の、人間界の物だ。
(異世界になんでこんなものが・・・ていうかどっかで見た気が)
『あーあー、テステス。光男君、聞こえる?』
「はい、聞こえます」
『よろしい。まず君が居る場所、つまり作戦領域なんだけれども・・・実は人間界の東京なんだよね』
「東京?」
なるほど、道理でビルの数が多いと思った・・・て
「なんでそんなものがこの世界に?」
『20年前の南極での大爆発、その際おきた重力震やらなにかよく分からない何かのせいで人間界がこちらの世界に『侵食』し、地形やら建築物がこちらに再現された・・・というのが我々の見解だ』
「詳しいことは分かっていない。そういう認識でいいですね」
『いいよ別に。しかし、再現度が凄いよそこ。前に調査したら。実際の建物と寸分違わなかったよ』
「まるで精巧に作られた特撮用のセットみたいですね」
しかし厄介だな・・・
「こんなところで戦闘をするとビルに激突しそうなんですけど」
『まあ、ビル程度ではその機体は壊れないから安心して、ああそれで、一つ重要なことを言い忘れていてね。だからこうして通信している訳だが』
「なんですか?」
『攻撃するときは、武装を選択して、ちゃんとロックオンしてから撃つこと。照準マーカーが赤になった時にトリガーを引くだけでいいから』
「それ普通発進する前に言う事柄ですよね!?」
というか最初に教えることだろう。
「あっ総司令、この機体稼動時間はどれくらいですか・・・戦闘中にエネルギーが切れて死ぬなんてイヤですよ」
『それに関しては気にしなくてはいい、半永久機関の一種を搭載しているから一応稼動時間は無限だよ』
さらっと凄い事を言った気がするが、レーダーを見てすぐに頭の外に追いやった。
レーダーに感、高速で飛来する物体が5、前方から突っ込んでくる。周辺にも多数の反応、
迎撃行動。
ロックオンしてトリガーを引く。
右腕の10式機関砲が火を吹く。
連射するのではなく、一発一発丁寧に。
迎撃の後、急速上昇、体に負荷がかかる。
慣れた感覚だ。
背部に懸架されていた10式榴弾砲に換装し、発砲。
辺りに集まってきた敵を一掃、更に一発打ち込み、機関砲に換装しようとしたところで、敵からの対空砲火、ビームのようだ。
左腕の盾を前面に押し出しながら機関砲を発射しつつ接敵、至近距離に近ずき右腕に内蔵されたブレードで切り裂こうとしたとき、
初めて敵の姿を、フリークスを見た。
人型のそれは生物のようで、機械にも思えた。そして、叫び声を
悲鳴を聞いた。
「XXXXXXXXXX!!!」
ブレードで切り裂き、離脱。同時に2体、こちらに突っ込んでくる。
ブースターを切り、道路に回転しながら着地しながら榴弾砲に換装、キャタピラでバランスをとりつつ発射、間髪いれず次の行動に移る。
左腕部のアンカーを射出しビル群を駆け上がりつつ、後から来た群れに対して機関砲を発射し、そのまま空中に跳躍。
肩部に内蔵されたマイクロミサイルをばら撒く。
(大切なのは、常に移動すること)
敵に狙いを定めさせないこと。再現された東京のビルの合間をくぐりぬけながら戦う。
考えるな。
「ほえー、初搭乗っていうのにあんな戦闘機動が出来るとは」
「でもあの操作技術と観察眼、いくらなんでも・・・」
「おかしいっていうんだろ。けど、まだあの兵器を使いこなせてない。まだ初心者だ」
「どういうことですか?」
「あいつの動きはまだまだ二次元的だよ」
WGは人型であるため、戦闘機よりも三次元的な戦い方ができる。彼もそれを理解している。しかし、応用できていない。
まあでも、あそこまで動けるのなら後は慣れだ。
しかしあの自ら積極的に動いていくスタイルはとても魔術師のする動きとは思えない。魔法を行使する際、魔術師は大抵遠距離から、あまり動かずに攻撃を仕掛ける。
自ら突っ込んでいくやつはいない。
(比較的中距離に保ちつつ、そして、常に動くことを心がけている)
魔法を行使する魔術師にしては、随分積極的な行動をする。
まるで、魔法を一切使わず戦ってきたような・・・
「総司令、武蔵野第三より報告、観測所のレーダーが未確認物体を確認、現在、当作戦領域に向かって高速で移動中。かなりデカイそうです。」
「・・・嫌な予感」
戦闘開始から約2分
にもかかわらず俺は銃や剣のようなもので武装し、魔法のようなものを使う人型(正式には人型レベル2と言うらしい)フリークス3体を同時に相手するという地味に凄いことをしていた。
てかこの三体に強くないか?あきらかに他の人型に比べて動きが違う。
地味にジェットストリームアタック的な攻撃仕掛けてくるし、
フリークスの中にも特別な個体がいるのだろうか。
ブースターを吹かして後方にそのままの姿勢で飛翔しながら、左腕に装備された盾で銃撃(地味に精度が高い)を防御し、右手に内蔵されたブレードで剣による攻撃を裁き、後ろのほうからの砲撃をよけながら、
(これで終わらせる!!)
隙を見てミサイルを叩き込んで決着をつける。人型の三体は回避行動をとるが間に合わなかったらしく、ミサイルのいくつかが当たり、三体とも爆散した。
そしてその後ろからまたもや小型種の群れが突撃してきた。
落ち着きながら集中し、各個撃破していくが、ある事に気付く。
(おかしい)
敵の数が増えている。
「敵の増援か・・・しかし、いったいどこから」
突撃砲もそろそろ残弾が少なくなってきた。榴弾砲も同様にあと一発のみだ
増援元を潰すのがこの場合もっとも有効な手段だろう。
そう思ったとき、通信が入る
『あールーキー1、戦闘中すまないけど・・・ちょっといいかな』
「なんですか?」
『実は・・・ちょっとまずい事態が発生してね』
「まずい事態?」
瞬間、その『まずい事態』がビル群を吹っ飛ばして出てきた。
あたりに立ち込める土煙、視界が完全にシャットアウトされる。
レーダーに反応、識別は、敵、フリークス。
『・・・ちょっと大型なのが来ちゃってね』
土煙の中から巨大な何かが出てきた。
まるで巨大な竜、いや『巨大な竜のようなもの』というのが正しい。
700メートルは悠に超えているだろう。
敵の詳細が表示される。
『タイプ:ワイバーン レベル3 フリークス』
突然起こった出来事に混乱しつつも、僕は叫ぶ。
「いや、大型とかそういうレベルじゃねえぞこれええええ」
レベル4はあれか、某怪獣王か!?
機体を反転して逃げた。
当然だ。あんなやつ何の対策も無く戦ったら余裕で死ねる。
そして、その判断は正しかった。
「突っ込んできた!?」
ワイバーン型はこちらを見つけるなり、辺りのビルを壊しながらこちらに突っ込んできた。
(あの巨体で飛ぶのかよ!?)
こちらに体当たりするつもりなのだろうか、そう思ったとき、ワイバーン型の口から大量の小型種がでてきた。
「増援はコイツからか!!」
ただ体当たりをする訳ではないらしい。だがすぐに対処する。肩部マイクロミサイルを発射し出てきたフリークスを一掃し、機関砲を発射、しかし、はじかれる。
(硬い)
体内に直接攻撃を与える。または一気に吹き飛ばすか。
そう思った時、またもやワイバーン型の中から大量の小型種が突撃してきた。
機関砲で応戦、すべて撃破する。しかし、
「弾切れ・・・」
機関砲をワイバーン型目掛けて投げつる。
そのとき、想定外の事態が起きる。何かが後ろに当たったような衝撃、そして
「榴弾砲が!?」
背後からの攻撃だろうか、榴弾砲が爆発した。
(いったいどこから)
ワイバーン型の口を見て、気付く。
忘れていた。たしかに相手は竜のようだ。ただし、それは形だけの話だ。
中身まではそうとは限らない。
(触手!?)
竜の形をとるワイバーン型の口から何本もの触手のようなものがでていた。
あれに後ろから回り込まれていたようだ。
「でかいだけではなさそうだな・・・」
そう思っている内に触手の第2波が来る。明らかにさきほどの攻撃より触手の数が増えてる。
「数で攻める気か!?」
さらに触手の展開と同時に小型種が口の中から突撃してくる。路面をけって跳躍し、そのままブースターで機体をビル群の上まで上昇しながら回避行動、一つ、二つ、三つ、四つ・・・全部避け、そのまま反転。
「フルファイア!!」
ミサイルの残弾全てを発射する。小型にミサイルのシャワーを浴びせる。同時に盾を構えながら突撃、後ろから回り込むように来た2本の触手に対してミサイルコンテナをパージしぶつける。右腕の内蔵ブレードを展開、突撃する。
(後100m・・・)
下降し、ワイバーン型の正面に突撃しながらあることに気づく。ワイバーン型の口から紫色の光が・・・
「回避!!」
後一秒、反応が遅れていれば死んでいた。すんでのところで右側に機体をそらす。そこにワイバーン型の口から放たれた紫色のビームが、放たれる。左腕をもっていかれる。警告が鳴り響く。無視してワイバーン型の横を通り抜け、直後、触手が追い討ちをかけてきた。回避しようとするが、左腕を失ったせいで重心が傾く。それでも可能な限り避ける。急激な、変則的な回避運動。フレームが軋む。そして、
「えっ・・・」
接続が外れた。
「システムエラー!?原因はなんだ?」
「分かりません。何かに機体との接続を邪魔されているようです」
「衝撃でC−MOS本体が壊れたというわけではないのか?」
「ええ、そのようです。しかし何がどうなって・・・」
「検証は後だ、試験を中止、武蔵野基地群に出動命令!!総司令権限を使っても構わない」
「了解、武蔵野基地群に通信、送ります!!」
ビルに突っ込んだようだ。
自分の体の状態を確認する。
(骨は折れていないようだ)
しかし、何故機体が制御できなくなってしまったのだろうか、頭から落ちたヘッドセットは、見たところ無事らしい、
「システムが壊れたという訳では・・・!!」
そのとき、様々なことが同時に起こった。一つ目は右手の魔力回路が再起したこと、二つ目はその直後、ヘッドセットを付けていないにも関わらず機体との接続が回復したこと、三つ目は接続が回復して分かったことだが、触手がもう目の前に来ていたこと、四つ目は・・・周囲の時間が停滞した。
全てがゆっくりと動く。
機体も、
触手も、
俺の動きも。
ゆっくりと、しかし確実に動いていく。
慎重にスローモーションで飛来してくる触手を的確に(といってもこちらの動きも遅くなっているのだが)避ける。
時が本来の速さになり、さっきまでいたビルが触手によって破壊されたのを確認すると、そのまま距離を取る。追撃、触手は六本
「避けて見せる!!」
速度を落とさず機体を微妙にずらし対処。触手が反転して正面から突っ込んでくる。
「思考爆発!!」
瞬間、時が再び停滞する。
いや、自分の思考が速くなっている。
爆発している。
右腕に内蔵されたブレードを展開し、スローモーションで突っ込んでくる触手を切り裂く。そして、時は元の速さに戻る。
「まちがいない。『眼』の能力だ」
なぜ使えるのだろうか。
いや、それ以前になぜ俺は機体を制御できているんだ?ヘッドセットはつけていないのに。
「魔力回路が本来の機能を取り戻し、C−MOSから制御を奪ったのか!?」
ふと、自分の足元から膨大な量の魔力を感じ、察す。
(魔力精製機関!?)
無限に魔力を作り続ける機関、
夢の機関。
半永久機関。
そしてだれもが作成に失敗した。
それが、搭載されていた。
エネルギー保存の法則ガン無視である。
「まてよ」
妙案を思いつく。
もしかしたら、ワイバーン型に相当なダメージを、いや一撃で倒せるかもしれない。
成功率は高いとはいえないが、手段を選んでいる暇はない。
最大速度で飛ぶ、ワイバーン型に対して十分な距離をとり、コントロールパネルを操作する。
(機体外魔力粒子放出量・・・これか)
操作すると機体各所から緑色の粒子が溢れだし、やがてあたり一面に広がる・・・というか、なんか広がるの早くないか?
(いったいどんな構造しているのだろう)
後で調べる必要がある。そうしている内にワイバーン型が突っ込んできた。
「うまくいくといいが・・・」
あの時は完全に事故だったからなあ、しかし、今回は魔力回路が、それも大量にある。重要なことはいかに強く思考すること。
そう思い、思考する。
「爆ぜろ!!」
瞬間、辺り一面が緑色の光に飲み込まれ、爆発する。
吹っ飛ぶ。
ビルが崩壊する。
路面にヒビが入り、はがれる。
その一帯が、都市区画ごと吹っ飛ぶ。
消し飛ぶ。
更地になる。
跡形もなく。爆発する。
そのとき、何か悲鳴のような音を聞き、何かが機体に突き刺さった。
戦闘開始から約五分。
俺の初陣は呆気なく終わった。
「よし、試験終了、お疲れ様・・・しかし想定外の事態とはいえ初戦でレベル3を撃破、しかも一撃、おまけに十分未満で試験クリア。やるじゃないか」
「ええまあ・・・でもまさか一撃で終わるとは思っても見ませんでしたよ」
まあ、あそこまで魔力粒子を放出して爆発させたらああなるよな・・・
4時間後、格納庫で左腕が無くなり、頭部にワイバーン型の残骸が突き刺さった1式の前で休憩しながらレオス総司令と会話していた。
「しかしあの最後の技、あれってもしかして魔力爆発?」
「ええそうです。前にちょっとした事件で偶然起こしてしまったんですよ。さっきのあれはそれを再現したんですよ」
さっきのようにあそこまで広範囲に爆発しなかったがな!!
「その時の経験を活用した訳か。まあでも、君、よくあそこまで戦えたね。なにか秘訣でも」
「余計なことを考えないようにしているんですよ・・・そうでもしないと集中できないんで」
もっとも理由はそれだけではないが。
極力思考を短く、状況描写は必要最低限にする。あることを体得する途上において見つけた戦法だ。
「それに、前は魔改造したF−14戦闘機で常時マッハ2以上で戦っていましたからね、空中戦には慣れてます」
「なるほど・・・まあ、君のような人材は我々も欲しかったところだし」
「?それって一体」
「君は合格だよ」
「・・・合格?」
「うん」
「えーとそれってつまり」
「そう。君はいまから戦略機動隊の一員だ」
・・・軍人になりました。
「ああ安心して、ちゃんと給料は昇給するし、ボーナスも出る。労働時間は一日8時間を厳守、有休や産休はもちろん怪我についても保証があるよ。基地には隊員一人一人の住居があって、食堂もある。食堂代はタダ、更に悩みを打ち明けられるカウンセリングが常駐。みんなの笑顔が絶えない職場だよ」
「条件がよすぎて逆に怖い!!」
「これが、制服か・・・」
総合棟の人事課前の廊下、夕方。謎の情報端末らしきもの、IDカードと時計、(と新しいメガネ、いつの間に作っていた?)、そして拳銃とナイフを支給された。その後同時にもらった制服に着替え、制服を検分していた。(ぼろぼろになった学生服と壊れたメガネはそのまま引き取った。あと、一式に付いていたフリークスの残骸の一部を記念品としてもらった。大丈夫なのだろうか)
迷彩柄のズボンに白地のシャツ、そして緑色の上着。前のボタンはしめなくていいらしい。
(意外とラフだなおい・・・)
そう思いつつ、自分の写真が貼られたIDカードを見る。
「戦略機動隊か・・・」
就職先が軍隊、それも正体不明の敵とロボットで戦う軍隊か・・・
「あいつが聞いたら、笑うのかな」
似合っているというのか。それとも、
(葛葉には、葛葉なりの道があったんだろうな)
まあ生きているからいいか。
ポジティブに捉えよう。
でもまあ、殺されるという経験はもうしたくないがな!!
「ん?」
俺は遅まきながら、ある事に気づく。
「もしかしなくてもこれ、ライトノベル的な事態になっている?」
異世界に行くとたとか、よくある展開な気がするが・・・
「いやまて、早々に結論をだしてはいけない」
ここは一つ、状況を整理しよう。
1、目覚めたら異世界。
2、ロボットで敵と戦う。
3、ピンチになった時、失われた能力発動。
4、能力を買われなんらかの組織に入隊。
ライトノベル的な事態だ。うん間違いない。
どれもラノベではよくあることだ。
・・・というか、何で一日でそうライトノベルによくありそうな展開を四つも体験しているんだよ。
訳が分からん。
たが、一つだけ言える事がある。
「今俺は非常にカオスな世界で非常に面倒な事態になっているッ!!」
いやまあ、今まで散々カオスな事を経験してきたけどさ、ここまでカオスな事はさすがにねえよ。
なんなんだよ魔法が存在している異世界でロボット扱う軍隊に入るって。
面倒だ。
非常に面倒だ。
魔法というファンタジー要素があるにも関わらず、巨大ロボットというSF要素がある非常にカオスな世界でそのロボットを扱う軍隊に入るという非常に面倒な事態になっている。
略して非常事態。
「・・・まあいい」
起きてしまった事は仕方が無い。
過去に戻ることは出来ないのだから。
だから現状を受け止めて、対処しよう。
当面の間は様子を見つつ、この世界について知ることを目標とする。
特に、このような魔法と科学が交じり合ったカオスな世界では大切なことだ。
それに考え方によってはこの事態は俺にとってよい機会だ。
ライトノベル作家を志望している俺にとって、この世界を知り様々な経験を積むことはとても有意義な体験になるだろう。
ネタはそこらじゅうに転がっている。
この世界の伝記や物語を調べるのもありだろう。
自分に振りかかった災難を否定的に捉えるばかりではいけない。
むしろ、それをチャンスだと思う。
それが俺の基本理念だ。
たまには自分の身に振りかかった災難を楽しむのもいい。
「まあ、この世界をじっくりゆっくり堪能したいだけなんだが」
「じっくりゆっくりは無理だよ。だって、その前に私が光男君を殺すから」
聞き覚えのある声、振り向く前に拳銃を掴み、振り向
「相変わらずワンパターンなんだから」
けなかった。代わりに背後から抱きつかれ、両腕の自由を奪われ、俺の喉にナイフがあたる・・・が、そこまでは想定内だ。
体はただ添えるだけ。体を後ろに落とし、相手の足を引っ掛ける。
相手がバランスを崩したその隙に距離を置き、銃を構える。だが、その手が震える。
初めて銃を握ったからではない。ただ、相手が怖い、それだけだ。
「あーあー、逃げられちゃった・・・まあ、いつもやっていることだし、まあ元気そうでよかった。まだ心は壊れているけど」
ソイツはこっちに向かってきた。
「やあ、光男君」
そう、メガネをかけた黒髪の彼女は、笑顔でそう言った。
そこに居たのは
「殺しに来たよ」
京都祇園高校歴史研究部部員
黒崎茜だった。
俺の楽しい異世界生活終了のお知らせ。
第2話、いかがでしたか。
今回一番描写に手間取ったのは戦闘シーンです。途中何度も書き直しあの形になりました。
今後、特に第三話の投稿はいつになるか分かりません。気長に待って頂ければ幸いです。
この物語を読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。