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幻想機動輝星  作者: sabuo
序章 ある研究員の記録 『ZERO』 IS SLEEPING
34/74

第26話 Cプラント表層部屋台破壊事件

遅くなりました。第26話です。

笑われている。

みんなに笑われている。

小さな燕尾服を着た、子供がいた。

小さい頃の俺だった。

俺の右手には弓、左手にはヴァイオリン。立っているのは舞台。大きなコンサートホールだった。そして小さい頃の俺は、観客に笑われていた。

(ああ、あれか…)

俺がこの世界に来てから、こんな夢しか見ないせいで、俺はもう慣れてしまっていた。これは恐らく…

(六歳の頃か)

すると小さい俺は突然走り出して、舞台袖の方に行って見えなくなった。俺は、小さい頃の俺が走っていった方に行く。

行き先は大体分かっていた。俺は、楽屋の前に立ち、扉を開けた。誰もいない楽屋。その奥で、壁に備え付けられた鏡の前で泣いている俺がいた。惨めに、泣いていた。正直に言って見たくない。小さい頃の俺は、ふと鏡を見た。

惨めな顔をした、小さい頃の俺が写っていた。本当に惨めな顔だった。そして俺はしばらく黙っていて、そのうち目の端から涙を流し始めて、また泣き出した。

(なんで泣いているんだろうな…)

原因ははっきりしている。俺だ。俺のせいだ。

全部俺が悪い。

何もかも。

(だから、泣いていたのかもな)

…そういえば、この時からじゃ無かっただろうか?


俺が鏡を見ることを避けるようになったのは。




bokuwa kokoni iruyo





「……すう」

状況を説明しよう。

俺の上で、金髪ケモ耳幼女が寝ている。詳しく言えば俺の上でギガル皇国の神様が寝ている。

即ち、リナイ・イナクが寝ていた。

「……くー」

可愛い寝顔で可愛い寝息をたてながら、寝ている。正直襲いたい。

(が、我慢だ!)

ここで下手な事をすると、イータに斬られる。ほぼ間違いなく。だけど…

(尻尾…触ってみたいな…)

寝間着姿のリナイの尻の部分から、金色の尻尾が生えていた。普段、学校では見られない貴重な物だ。触らない手は無い。

俺は慎重に、リナイの尻尾の触った。

「ひゃ……すう」

一瞬喘いだが、すぐ寝息をたてだした。大丈夫らしい。さて、尻尾の触り心地は…

(モフモフッ!)

なんだこのモフモフした尻尾は。毛布でもこんなにモフモフではない柔らかすぎる。人類がいかに高品質な柔軟剤を開発したとしても、この柔らかさには及ばないだろう。さすが神と言った所だろうか。

そのまま尻尾を揉んでみる。

「ふえぁ…ん、にゃあ…」

一瞬、鼻血が出そうになったが気合(?)で止める。尻尾は思った通りすごく柔らかい。いや…なんというか…

(圧倒的柔軟性ッ)

一体全体どういう構造してんのコレ!? 弾力が全く無い。いや…なんだ? なんなんだ!? 

なんて表現すればいいんだこの感触は!?

(シィット!!!)

何がラノベ作家志望だ、笑わせる…金髪ケモ耳幼女の尻尾の感触を文章化できないとは実に嘆かわしい。強いて言うなら…

モフモフしているのはもちろん。フサフサで柔らかくてフニャフニャでだけど丁度いい弾力があってそれでもモフモフ感は失われていなくって…要は、

(最ッ高に触り心地&揉み心地がいい!!)

さすが神、恐るべし。

「…ひえあ!」

リナイが大きな喘ぎ声を出した。瞬間、となりに寝ていたイータががばっと起きて辺りを眠そうな目で見た後…また寝た。

(いや、起きろよ)

お前のご主人様が色々とアウトな事されているのを気づけよ…やってるのは俺だが。

「は…は…」

ん? 誰の声だ今の…リナイ?


「はっくしょん!!」


瞬間、俺の体は指向性地雷(クレイモア)に吹っ飛ばされるように飛んで、ドアを突き破り廊下へシュートされた。




「う、うう…」

神の攻撃を受けるのは初めてではないがしかし…

(くしゃみだけであそこまで吹っ飛ぶものなのか?)

まだ力が不安定なせいだろうか? まあ、どちらにせよ…

「…はあ」

眠れない。

聖暦3017年5月18日…いや、0時を過ぎているから19日か。

戦略機動隊山城基地Cプラント表層部。

眠れない俺は、外の空気を吸おうと表層の外縁部をぶらぶら歩いていた。夜は嫌いではない、むしろ好ましい。

(見られなくて済む)

いや、別に何か悪事を働こうとかそんな訳では無くて、ただ人にあまり見られたくないからだ。

…確かに戦闘ヘリ(ガンシップ)で夜襲かけた事あるけどな!! そしてそれを墜落させてしまったりな!! もちろんそれは『ある所』から奪取した物だったりな!!

(その『ある所』が在日米軍だったから余計にたちが悪い)

ばれてない…と思う多分。まあ、そんな事をするつもりは無いとだけ言っておこう。それはそうと、

「…腹が減ったな」

今日の夕ご飯はカツ丼定食二人前、いつもより多く食べたつもりなのだが…

「でもこの時間、食堂開いていないしな…」

山城基地の居住区であるCプラントにある第一食堂は朝4時から夜1時まで空いている。今の時刻は午後1時31分、空いていない。

「…仕方が無い。購買で何か買おう」

あれだけは24時間営業だった筈、そう思いながら俺は歩いて、

「…ん?」

見つけた。

今時珍しい(?)屋台を。そしてそこに、眼鏡を掛けた男が、

「あれ、朽木君?」

レオス総司令がいた。




『…同17日、第一回バビロス連邦議会にて、最高議長が選考が行われ、旧バビロス帝国帝王、『竜王』ガルト・リナンシュが最高議長が選ばれました。ガルト最高議長は連邦議会には出席しなかったものの、『バビロス連邦の発展に全力を尽くす』との短い声明を発表しました…次のニュースです。南海での海賊出現が増加している事について、FEULC、極東連合首脳会議は』

「はあ…そうだ、その対策案検討しなきゃあ駄目だったんだ…どうしようかね」

ラジオから流れてくるニュースを聞いて、総司令はため息をついた。

南海、つまりは東シナ海の事だが、

「南ですよね…こっちにも影響あるんですか?」

「大有りだよ。あそこはうちの海上補給路なんだ…航空艦を使う手もあるけど、なんせ海を渡るからね。色々と計算しなきゃならないし、なにより堕ちた時のリスクが大きい。そう易々と出せるもんじゃあないよ」

航空艦があっても、船は頼りになる。そう、レオス総司令は言った。

「…ていうか、一つ言っていいですか?」

「なに?」

「ここ…なんですか?」

Cプラント外縁部。ヘリ発着場(ヘリパッド)の近くには、係留された作業車両や、対空機関砲が設置されている。そしてその後ろに表層施設があり、その間に…屋台があった。

「おい、おにぎりできたぞ」

「あ、ありがとうございます」

三個あるうちの一個を一口入れてみる。

(普通においしい)

中に入っていたのは鮭、メジャーだがいい…けど。

「なんで料理長がいるんですか!?」

「修行だ…こうやって毎晩欠かさずこの屋台を出している。そうでもしないと料理の腕が落ちる」

「意識高いですね…毎晩ここに?」

「ああ。まあ、客は少ないがな…来るとすれば、レオスぐらいだな」

「いつもお世話になってマース…まあ、そんなところだよ」

レオス総司令はそう言ってお茶をすすった。

「…そういやどうしてここに? リナイ神はどうしたの?」

「いえ……リナイ神は茜が警護しています。そういうのは茜の方が向いているんで」

「そうか…いや、正直ありがとう。リナイ神の保護を引き受けて」

「いえいえ、そんな事は」

保護しないほうがおかしい。

で、俺は聞きたかった事を聞いた。

「襲撃犯の足取りはどうなりましたか?」

「舞鶴までいってぱったり消えたよ…恐らく潜水艦だ。それもかなり高性能の」

「原潜ですか?」

「いや、それだけはない…極東連合のどんな国も原子力に関する技術を持っていない、原発もだ…第一、極東連合は原子力関連の施設、技術の保有、またそれに関する研究を禁止している」

「…極東法ですか」

核兵器、生物兵器、化学兵器、大規模破壊兵器の研究、開発、保有の全面禁止。

原子力、霊魂、古代遺跡の研究、それらに関する技術保有の規制を根幹に、数百の項目からなる極東連合の規範。どちらかというと憲法に近い。

遺伝子治療とか人体改造とか、そういった事も規制がかかってた気がする。

「表向きはみんな守っているけど…やっているんだろうな」

「いや、あなたがいいますか総司令!?」

ここもすごくぎりぎりなラインでやっているだろうに。

「しかし舞鶴で消えたとなると…大陸の方の武装集団でしょうか?」

「思い当たる節を探っているけど報告はまだだ…安心してくれ、報告はする」

「ありがとうございます」

情報は知って損じゃない…一部例外があるが、

「で、結局リナイ神の処遇はどうなるんですか?」

「…しばらくは君の所に置かせてくれ。いまこっちでもみ消しをやってる」

「もみ消し?」

「さすがに襲撃を許したなんては言えないからね……『謎の落雷』っていう方向でいく。いま情報局が写真を捏造しているから」

「…久しぶりに社会の暗部を見た気がします」

「君の昔話を聞きたいよ」

そう言って、レオス総司令は天ぷら丼を一気に食べ、水を飲んでから言った。

「エルメスから聞いてって頼まれたんだが…腕の様子は?」

「問題はありません。前と同じ感覚です…とても人工的に造られた物だとは思えませんよ」

「そうか…腕に違和感とか、そういった類の物は?」

「いいえ」

「…幻肢痛(ファントムペイン)は無しか…ありがとう」

「どういたしまして」

そういえば、

「総司令。エルメス局長はアレサについて何か言っていましたか?」

昨日、いきなり部屋に突入して来て強奪して行ったきり見てない。

「定期健診って聞いているよ…彼女の人工筋肉には、君と同じように、魔族の細胞を入れたりとかなんとかして、ある程度の『改造』を施しているからね」

「…さらっと凄まじく恐ろしい単語が聞こえた気がしますけど…極東法抵触してますよねソレ!?」

ワタシハナニカサレタヨウダ。

しかし…幻肢痛か、確かに両足と右腕をばっさりやられた俺は、それがあってもおかしくない。

(この義体の特性か?)

俺の義体には人工筋肉が使われている。ただ、それは使用者の細胞を使って培養し造られた筋肉という意味であって、機械的な物ではないのだ。

確かに骨格は人工だが、だいたいは前の腕と同じだ。

まあどちらにせよ無くてよかった。あれは結構やっかいな物と聞いたことがあるが…幻肢痛?

「…あれ?」

「どうしたんだ?」

「最近…どうも『痛み』を感じないようになってきて…」

その時、上空を一機のヘリが飛んでいった。夜間哨戒中のヘリだった。しかし、

(こんなに低空を飛ぶものか?)

総司令もおかしいと感じたらしく、端末で連絡をとった。

「CP? レオスだけどさ、Cプラントを哨戒中のヘリ、なんかすごく低い所を…怪異反応!?」

レオス総司令がいきなり立ち上がり、辺りを見まわして言った。

「そんな兆候は確認できないが…反応大きめ? おいおい、怪異避けの呪符は交換したろうに…分かった。警戒を強化しろ」

俺はふと、自分の後ろ、ヘリ発着場を見た。

ライトは点灯されてなく、視界が悪い…ライトが点灯していない?

「…総司令。ここのヘリパッド。さっきライトついてましたよね」

「そりゃそうだ、無ければ…」

気づいたようだった。料理長は作業を中断し、調理器具や食材関連をそっと遠ざけて、屋台から機関銃を取り出した。

総司令と俺も拳銃を引き抜いて、暗闇に照準を合わせた。

沈黙。

そして、

「回避ッ!!」

俺は左に跳ねた。

火球が屋台を粉々に粉砕した。





(燃えている…いや、渦巻いている?)

それは、人に見えた。だが、明らかに人ではなかった。ただ、人の形をとっていた。

(輪郭が見えない!?)

黒い影が、闇の中でもはっきりと分かる黒い影が、『そいつ』を取り巻いていた。

「    」

右手がゆっくりと動き、オレンジ色に染まった。

「伏せろッ!!」

総司令が俺の体を体当たりで飛ばした。瞬間、オレンジ色の熱線が飛び、さっきまで俺がいた所に穴が開いた。いや溶けた。

じゅうじゅうと焼ける音が聞こえる。穴からは湯気が立っていた。

作業車両の陰に隠れ、様子を伺う。

(…探している?)

まるで何かを探しているように感じた。そいつは一歩一歩、こちらに向かってきた。だが、俺達の事を見失っている様だった。いや、この距離で見失うって…

(こいつ、目が悪い?)

ならば勝機がある。長期戦は不利。

「俺が仕掛けます」

「任せた。俺が援護する…ジョナスッ!!」

「当たるなよッ!!」

機関銃の音と、銃火を確認した俺は、突っ込みながら発砲。威嚇射撃。だが、反応が無い。

(吸収した!?)

ならば、接近戦だ。こいつは動きが鈍い。

腰に隠していた短刀を右手で引き抜く。リナイから貰った物だ。そしてこいつには、

「チェストォ!!!」

思いっきり突き刺した瞬間、体に痛みが走った。

「ッ!!」

痛い。

両足と、左腕。その全てが痛い。俺は引く抜こうとした。が、

(…抜けない!?)

左腕で体に触れる。掴み、右肩から短刀を引き抜いた。

「     」

声にならない、うなり声のような声。だが分かる。これは、

(吠えている?)

そう思った時、頭の中に『思考』が入ってきた。いや、記憶が、情景が、色んな感情が入ってきた。それは、フラッシュバックに近い物だった。現れては消え、現れては消え。だが、それらは全て、

(…なんだこれは?)

いつのまにか膝をついていた俺は、そいつを見上げた。黒い影に包まれた人の様なそれは、こちらを睨んでいた。

「お前は…」

移り変わるスピードが速くなっていく、

「お前は…」

更に加速していく。まるで終わりに向かっていくような、

「お前は…」


「お前はなんだ!?」


最後の情景、それは、

「!!!」




「……光男君!? 光男君!?」

「…は!?」

また眠っていたらしい。俺は立ち上がって周りを見た。

ヘリパッドのライトは点灯していた。辺りには異常は無かった。甲板に空いた穴は…消えていた。

(…幻覚?)

見れば、屋台が粉々になっていた。現実だ。じゃあ、

「さっきのは…いったい?」

「怪異だろう…大陸では多いと聞くが、ここでは滅多に見かけない。特に、あんな奴は?」

「だが、どうも普通ではなさそうだぞ」

機関銃を肩に担いだ料理長は、辺りを再度確認してから言った。

「あの怪異、光男。どうもお前を追っていた様だぞ」

「俺を?」

「ああ…少なくとも俺にはそう見えた。何か感じたか?」

「…『憎悪』」

いや違う。

「何か…強い、マイナスな感情でいっぱいでした」

「マイナスな感情?」

総司令が聞いてくる。

「具体的には?」

「…一つの感情だけで動いているようには…複数の、強い感情。それが全部ごちゃまぜになっていて…ただ、その中で、一番強い感情がありました」

「それは?」

俺は言った。

「恨み(ヴェノム)」



だがそれでも、だ。

(なぜ、最後の情景にあれが?)

なぜ、最後にあいつの顔が?

(なぜ…葛葉が?)



第26話、いかがでしたか?

今回は前回の続きという形をとっています。次回もなるべく早く投稿したいと思っています。

この物語を読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。

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