第17話 Master of Shadow
第十七話です。
(意外と早いな)
特急並みだ。
この列車、重要な物運んでいる筈なんだがな・・・まあ、偽物かもしれないが。
総司令の言葉を思い出す。
『ここに五つのコンテナがある。内、一つが本物の積み荷だ。これらを運んでもらう。で、どのコンテナをどんな輸送手段で運ぶかについては・・・』
(くじ引きで選ぶか普通?)
まあ、そのほうがいいかもしれんが。そんなことよりも・・・
「なんで一緒に行くことになったんだ? イータ。そして」
それが一番疑問だ。イータの横に座っている金髪の女エルフ。眼鏡を掛けているその女性は、
「ルース先生」
5月2日 23時47分
俺達は特別輸送列車で山城基地に向かっていた。
窓が無いため、今、どこを走っているか分からない。しかしかなりスピードを出している。
茜、アレサ、リナイ神は輸送列車の仮眠室の方に行った。
イータがものすごく反対したが、リナイ神の「・・・ねむたい」の一声によって黙った。
・・・茜がリナイとアレサを見て顔を赤らめながらハアハアしてた事については見なかったことにするとして、
「まあ、イータは分かる・・・総司令の指示だろ」
「その通りだ。さすがに元帥の指示は無視できな」
「元帥!?」
え? え?
「元帥!? 元帥なのあの人!?」
「ああ。レオス・オブライエン元帥だ。極東連合軍の二大元帥の1人。彼の極東連合に対する影響力は強いぞ」
「普段の様子からは全然そんな感じしないけどな・・・」
「まさか。極東連合一の切れ者だぞ。見た目で判断しないほうがいい」
「まあな」
言われてみれば。
「・・・というか、イータさん。本当はそんな口調なんだね」
ルース先生は言う。
「普段はこう・・・おっとりした感じで」
「ええ、もちろん演技です。浜大津総合学校にリナイ様がいる事は極秘なので、私も護衛だと悟られないように」
「「極秘なんだ・・・」」
もうばらしているが、
「それで、一体全体どうしルース先生がここに?」
「先生も総司令の指示でね。頼むって懇願されて仕方が無く・・・どうしよう。明日の授業の用意まだなんだけど」
「お疲れ様です」
先生が多忙なのはこの世界でも同じか。
「でも一体なんで先生に頼んだんだろう・・・先生、もしかして元戦略機動隊出身ですか」
「まあね・・・二十年ほど前の話だけどね」
・・・マジかい。
「昔ははっちゃけてたなあ・・・でもまあ、今は四十過ぎの、日々残業の生活を生きるただの先生だよ」
「意外です。先生が戦略機動隊出身だったなんて」
「昔の話だって・・・でもまあ、たまにお手伝いする事もあるけど」
「故に今回この作戦に参加している訳ですね」
イータの言葉に内心頷く。
元軍人なら信頼出来るという判断か・・・でもなんで先生に頼んだのだろうか。
「お手伝いって具体的には何を」
「えーと、詳しくは言えないけど・・・戦技研や戦生研でよくお手伝いしてるよ」
「「お疲れ様です」」
何もされてない事を祈ろう。そういや、
「一応聞きますけど・・・先生は戦略機動隊にいたころ、何をやっていたんですか?」
「ええと・・・WGの操縦をね」
「WGの操縦?」
もしかして、二十年前の北極事件の際も・・・
「××××××××××!!!」
「「「!!!」」」
聞こえた、今、間違いなく聞こえた。
「イータ、リナイ神を!! 先生も行って下さい。俺は状況を!!」
「頼んだ!!」
「無理しないでね!!」
2人が仮眠室の方に行ったのを確認した時、電話が鳴った。運転室直通のだ。
「こちら兵員輸送ベイ。運転室、何がありましたか!?」
運転室からの応答は、予想通りだった。
『敵襲!! フリークスだ!!』
「総司令は何か言ってきたか!?」
『無い。通信障害が発生している!!』
「ウィザードシステムの通信機能は試した!?」
『・・・駄目だ、ウィザードシステム、応答無し!!』
(前の襲撃と同じか・・・)
いよいよまずくなってきた。
「今どこを走っている!?」
『金沢は既に通過した!!』
「敦賀までは何分で着く!?」
『分からない。こうなったら・・・聞こえるか? お前WG動かせるか!?』
「出来るぞ!!」
『速度を上げてこのまま奴らから逃げる。強行突破だ!! 三式で援護を頼む!!』
「分かった!! 何とかやってみる!!」
『頼んだぞ!!』
そこで通信が切れた。
「光男君!!」
茜が仮眠室の方から来た。
「茜、イータや先生は!?」
「大丈夫、保護している。何があったの!?」
「フリークスの襲撃だ。これから強行突破する」
そう言った時、列車が速度を上げた。どんどん加速している。
「三式で列車を援護する。お前はあいつらを!!」
「分かった。任せて!!」
そう言って、茜は来た方へ走っていった。
こういう時の茜は本当に有能だ。
(あっちは任せていいか)
俺は三式が格納されている列車の格納庫に向かう。
(しかし・・・何だろう、この違和感)
そうだ。さっきのフリークスの声だ。あれが何かおかしかった。
(でも・・・なんだろう)
そう思いつつ、俺は格納庫に入り、格納状態の三式に入り、起動を開始する。
今更ながら、この三式のコックピットが意外と狭いことに気づく。本当に今更ながら、
「武装は・・・バズーカとライフル、それから盾か」
肩部ミサイルは無い。代わりにブースターが増設されている。脚部もだ。代わりに装甲は薄くなっている。
うまく扱える自信は無いが、やるしかない。
「・・・三式出るぞ!!」
格納庫が開いて外を認識した時点で見つけた。
左右に山が見える。その間にある平地に敷かれた線路の上。数は4、形が違うが恐らく小型種。追ってきている。
恐らく、と言うのは、
「EDD(敵識別装置)がアンノウン(未確認種)を出した・・・新種か!?」
どちらにせよヤバイ状況にあるのは確かだ。
俺が居るのは進行方向の車から数えて四つ目。四号車。
前にあるのは装甲機関車だ。
(足場に使う)
高速走行中の列車の上で、俺は機体を飛ばし、機関車の上に着地、同時にバズーカを構える。
(弾頭・・・散弾か、ならVTF(近接信管)で)
モード変更、狙わない。
「ファイア!!」
バズーカが火を噴く。そのまま三連射。散開して回避しようとするが、一匹が落ちた。
(対処は同じか・・・)
左右から来る。二匹。落ち着いて対処する。散弾だから直当てしなくていい。そのまま発射。撃墜。
四匹のうちの一匹がいつのまにかレーダーからロストしたが問題ない。
「気づかないと思ったかッ!!!」
俺はバズーカを真上目掛けて撃つ。
そのすぐ後、機体の前に穴だらけのフリークスが落ちてきた。
念のため周囲をスキャンするが、反応は無い。
「運転室、敵の排除に成功した。そちらは?」
『まってくれ・・・繋がった。通信が回復した!!』
「現状報告等お願いします。また来ます」
『了解した』
俺は通信を切り替え、茜に繋ぐ。
「茜、そっちは?」
『全員無事。そっちは?』
「第一波は殲滅したが、第二波が来るだろうな・・・ただ」
『ただ?』
「EDDがアンノウンを出した。普通のフリークスじゃない」
『・・・わかった。そっちは任せたよ、光男君』
「お前こそ」
通信を切る。
列車が更に速度を上げた。
(このまま逃げ切れれば御の字なんだがなあ)
まあありえないが。
・・・しかし、このフリークス、穴だらけになっているけど、確かに形状が違う。
普通の小型種は槍の様な形をしているが、こいつはまるで・・・
(エイ?)
いやそもそも、なんかこいつ妙に生物っぽくないか? いつもはこう・・・なんか無機物的な物が混じっているんだが。
『おーい、光男君、聞こえるか?』
通信。その声は、
「総司令!? 大丈夫ですか!?」
『大丈夫大丈夫・・・航空艦のドリフトで吹っ飛ばされて後頭部を強く打っただけだから』
「洒落になっていませんよそれ!!」
ヤバイ所に当たってるよそれ!!
『まあ、メアリーのあれよりましだって・・・それよりも光男君、ちょっと衝撃の事実言っていい?』
「何ですか?」
『積み荷が積載されているのは君の乗っている特別輸送列車』
「・・・・・」
『いや、本当に偶然だって!! 決して意図した訳じゃあないから。連絡とって確認したら他全部偽物だったから結果的に君の所という事に・・・』
「・・・分かりました」
『そうそう、事実をしっかりと受けと』
「後で副司令にあなたの居場所を密告させてもらいます」
『それだけはやめてええええ!!!』
まあいいとして、
「しかし総司令。現有戦力ではちょっと心細いです。さっきEDDが」
『こちらでも確認している。僕も君の思っているであろうことに同意するよ・・・・・尋常じゃない』
「多分、何か想定外の事をやってきますよこれ」
『だろうね。今そっちに増援を出した。MB(機動砲台)4機。それで敦賀まで持ちこたえてくれ』
「了解」
言ってるそばからレーダーに反応が出る。数は4、
「さっきの小型種的な奴か!!」
バズーカを放つ。
かわされた。
「学んだなッ!!!」
バズーカを乱射、まぐれで一匹落ちた。
(だがまぐれだ)
弾切れになったバズーカをパージ、ライフルを装備する。
「FCSの精度なら・・・」
捉えた。FCSが自動的に標準を合わせる。合った。
「落ちろッ!!」
ライフルが火を吹く。右上から来た奴が落ちた。
「・・・左!!」
左、真っ直ぐに突っ込んでくる。右腕のライフルでは間に合わない。故に左腕アンカーを放つ。当たった。
そのまま左腕を振って右側の地面に突っ込ませる。とどめにライフルを放つ。
「掃討終了・・・いや!?」
レーダーにまだ反応がある。アンノウン。方角は、
(後方、約1キロ・・・進行方向か!!)
まずい。この先はトンネルだ。塞がれたらマジに万事休すだ。だが先頭車両に行くまでの時間がロスだ。
「運転室!! 狙撃する。足を止めるな!!」
『減速じゃあないのか!?』
「ああ。現状維持を求む!!」
『了解!!』
俺は三式を狙撃モードに切り替える。その時、
『聞こえるか!? 聞こえるか朽木研究員!!』
「局長!?」
頭上で大型輸送ヘリが列車と速度を同期してホバリングする。懸架されているのは、
『HAKからの贈り物、使ってやろうじゃあ無いか!!』
『了解、A‐MOS起動、連携システム作動開始・・・降ろします!!』
降ろされた。それは、
「機動砲台!!」
四脚が地面に着地した。両腕が機関砲の高機動型だ。着地と同時にブースターを吹かして列車を追い越していった。
『さすがHAKの無人型MB、機動力が高いな・・・朽木研究員、展開中のMB連携プログラムを送った。活用してくれ。頼んだぞ!!』
「了解!!」
ヘリが戦域を離脱し始めたのを確認し、俺は狙撃を開始する。
(・・・でかい奴がいるな)
進行方向。突っ込んでくる小型種の向こう、トンネル前にタランチュラ型らしき奴がいる。アンノウン。
小型種はMBに任せてこっちは・・・
「ファイア!!」
撃った。着弾。
「まだまだ!!」
そのまま四発、五発ほど入れる。それでやっと、倒れた。
MBの方も小型種を撃破したようだ。俺は列車の上から三式を退かせ、列車の横に付けて並走。周囲を警戒する。
トンネルに突入した。
大きいトンネルだ。
高さ約七メートル。ただでさえ二線四本の線路を使用する特別輸送列車でも余裕で入る。
五メートルごとに照明がある。
その中を、特別輸送列車一編成と、MB4機、WG一機が高速で駆け抜ける。
(これを出れば敦賀か・・・)
まだ安心できない。俺は念のため、茜に連絡を入れる。
「茜、そっち大丈夫か?」
『うん。今は仮眠室でみんな一緒だよ』
「そうか・・・まさかリナイやアレサに何かしてないだろうな」
『ははは、私はただリナイ神の猫耳を舐めたりアレサの足を舐めていただけだよ』
「変態すぎて笑えない」
・・・ていうかリナイは神様なんだけどなあ、大丈夫なのかそんな事して。
『でも実際の所、今どうなっているの?』
「敦賀まで持ちこたえてくれとの事だ・・・まあ、もうすぐ着くが」
でもなんだろう・・・さっきからやけに静かな気がするが。
『そうだね・・・・・リナイちゃん? リナイちゃん!?』
「どうした!?」
『リナイちゃんが・・・』
攻撃された。
「!!!」
進行方向。何かが攻撃してきている。それは、
「MB!?」
前を先行していたMBだ。4機、明らかにこちらを狙っている。
「ええい!!」
応戦する。前から突っ込んできた奴を蹴り飛ばす。後続がそれを避けた。
「分かりやすいんだよ!!」
ライフルで蜂の巣にする。高機動型故に装甲は薄い。
(当たらないこと前提にしているか・・・!!)
壁から来た。右側面の壁、列車の右側。そこを走っている俺には、前から突っ込んでくる。
「だからなんで単純なんだよ!!」
もうちょっと工夫しろ・・・いや、十分工夫されていた。
ライフルで穴だらけにした後ろ。一機隠れていた。
機関砲をこちらに向けてロックした状態で。
「ッ!!」
盾を使う。避けないほうがいい。関節狙いだ。
一定の距離を保ったまま、攻撃してくる。それに対して俺は盾を構えたまま突っ込んだ。
高機動型であるが故、一気に距離を詰める。そしてそのまま、押し通す。
「おおおおお!!」
列車を追い越しながら、壁に当てる。火花が飛び散る。機関砲が壊れた。
ライフルを押し当て、放つ。
一瞬でMBが穴だらけになった。残骸を落としながら、俺は列車と速度を合わせるように、減速する。
(今のは・・・)
明らかに正常な動作ではない。誤認した訳でもあるまいに。
(・・・操られていた?)
ハッキング。
衝撃が走った。
後ろから押さえられる。そこから、『侵入』されているのを肌で感じる。それは、
「三式!?」
二号車に格納されていた奴。コックピットライトが点灯していない。無人だ。
センサー部分が赤く光ってる。
そして、その腕、こちらを押さえている両腕から、何かが入ってきていた。
それはC‐MOSを伝って凄まじい速さで機体を乗っ取り、そして俺に、
「・・・やめろ」
入ってきた。
「・・・やめろ」
凄い速さで、侵入される。
「・・・やめろ」
記憶が、掘り出される。
「やめろ」
抉り出される。
「やめろ」
触れられる。
「やめろ」
「やめろ」
それは、
「やめろ」
心だ。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
胸から、何か黒い物が出た。
どす黒い、何か。
それは機体の上半身を吹っ飛ばし、とりついていた三式を蹴り飛ばした。
同時に、俺の三式バランスを崩して、地面に接触した。
その横を、列車がものすごいスピードで駆け抜けていった。
俺は、倒れるように三式の残骸からでて、後ろを振り向こうとした瞬間、
鉄の塊が、飛んでいった。
それは線路に接触し、火花を散らして、止まった。
俺は後ろを見た。
黒い、人型の何かがいた。
黒い。
黒い。
黒い、
黒い何か。
それの頭と思しき部分には、仮面がついていた。
眼の部分からは白い点が見えた。しかしその仮面は、黒い半円が着いていた。
笑っていた。
俺は眠った。
「はいはいレオスです・・・ああ、久しぶり・・・『棺』なら山城基地に無事に届いたよ。その事で連絡しようと思って・・・はあ!?
嘘だろ・・・なんでまた・・・本人の意向?・・・まあそういう事なら・・・分かった、何とかしよう。ところで今どこ?・・・ああ、『緑宮』にいるのか・・・じゃあ今そこにあいつ居るのか? 出来れば話がしたいんだが・・・ああ、頼む・・・久しぶりだな。元気にやっているか?・・・今オールナイトの休憩タイム?・・・幸せそうでなりよりだよ。ところでさ、聞きたいことがあるんだけど・・・そう。レバリスクベースからの・・・やっぱり観測したか。結果は?・・・・・あれまあ・・・・・分かった。それ速報だろ? 続報があれば伝えてくれないか?・・・頼む・・・そうか、いやありがとう・・・よろしく頼む・・・分かった、メアリーに言って置くよ、ではまた・・・・・魔王」
第十七話、いかがでしたか。
サブタイトルは、ゲーム『ペルソナ3』のBGM名から取らせていただきました。
よかったら聞いてみてください。
この物語を読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。