第14話 戦生研
第十四話です。
「あれ、光男君?」
そう言うのはレオス総司令だ。
聖暦3017年 4月29日 月曜日
俺は学校が終わった後、まっすぐ山城基地に帰ることにした。
ん? 29日は昭和の日じゃないかって?
ははは・・・・・無かったよ。
で、まっすぐ帰る理由は何か、単純だ。呼び出しを食らった。
上司的存在である、エルメス局長に。
(こりゃ例の自作WGの件かな・・・)
まあでも行かないわけにもいかず、一応ナーバルには連絡し、山城基地、戦技研にあるエルメス局長のオフィスに向かうことにしたのだが。
そしたら、ちょうどレオス総司令がエルメス局長のオフィスから出て来た所だった。
「レオス総司令、お久しぶりです」
「久しぶり。君もエルメスに呼び出されたの?」
「はい。理由は聞いていませんが。総司令はどうして?」
「いや、右手のコレを見てもらっててね」
そう言って総司令が見せたのは、包帯でぐるぐる巻きにされた右腕だった。
魔法文字が書かれている。
「・・・何かの封印ですかそれ?」
「うん。よく分かったね、これで右手の魔術回路を封印しているんだ」
「何故そんな事を?」が
「昔、メアリーと戦った時に少々無理してね、魔術回路がズタズタになってしまってさ。結果がこれと言うわけ」
「修復できないんですか?」
「無理だねこりゃ。それに、こういう状態の魔力回路や魔術回路を放置するとまずい事、君も知っているでしょ」
「はい。身に染みております」
七歳の時、実際に体験して分かっております。
あれは痛かった。割とマジに。
そう考えると、あの実験で魔術回路が吹っ飛んだのはいい事だったのかもしれない。
「月に何度か、不定期で状態を見てもらっているんだ」
「封印の維持ですか」
「そう。僕の場合は特にね・・・!!!」
総司令がダッシュした。
一瞬で加速し、一瞬で見えなくなった。
「今の、魔法とか使わなかったよな・・・でも何故に?」
瞬間、
赤い光が見えて。
赤い眼ががこちらを見ていた。
赤い、瞳孔が縦に長い眼が、こちらを見ていた。それは吸血鬼の赤い眼だった。
というか、
メアリー副司令が目の前にいた。
「光男君。正直に答えて欲しいのだけれど・・・レオスは何処に?」
「・・・すいません。早すぎて見えませんでした」
というか、
「どうしてここに総司令がいると分かったんですか?」
「ん? 勘だけど」
吸血鬼の勘って、ニュータイプ能力の間違いじゃあないのか?
それはそうと、
「そんなに血がいるんですか」
「うん…最近レオスったら血を出し渋るようになってね。昔の内に眷属にすべきだったかな?」
「眷属・・・つまり血を吸って主と下僕の関係、主従関係を結ぶってことですか?」
「違うよ」
「・・・え?」
違う? 違うの?
「違うんですか?」
「うん。よくある間違いなんだけどね」
メアリー副司令は語りだす。
「何も、眷属=下僕じゃないの。眷属は基本的には『継承者』なんだよ」
「『継承者』・・・何を継承するんですか?」
「血」
「血?」
「そう。主の血を継ぐ。主が死んだ時、その位と力を受け継ぐもの。それが『継承者』。眷属だよ」
「・・・初耳です」
俺の魔法関係の知識がどんどん壊されていく。もっとこの世界の事を知らなければ。
「あれ、でもそれって『基本的』ってことですよね。そうでは無い眷属もいるんですか?」
「もちろん。もっとも、今はこれが主流だろうけどね・・・要はさっき君が言った主従関係としての眷属」
「主流っていうのは」
「今時、吸血鬼は継承者を作らない傾向にあってね。主従関係をいっぱい結んで、仲間を増やすことに専念しているの」
「だから眷属を・・・でもなんでですか?」
「それはね」
メアリー副司令は言った。
「吸血鬼の数が大幅に減っているの」
「減った? 吸血鬼の数がですか?」
「うん。『南極事件』よりも前の話だけどね。吸血鬼の数がいきなり減ってしまって」
「・・・極東連合発足の影響ですか?」
「人間の血を自由に吸えなくなったからって? それもあると思うけど・・・あれは違う」
副司令は断言した。
「その前から数が減ってきてた吸血鬼は、更にその数を減らしてね」
「だから主従関係を結んで、つまり主従関係としての眷属を沢山作っていると」
「そういうこと。だいたい面倒くさいしね、『継承者』としての眷属を作ることは」
「そうなんですか」
「そうだよ。吸血鬼の作法とか、血の吸い方とか、人間の誘い方とか、戦い方とか、儀礼とかその他諸々、全部主が教えなくちゃなんないからね」
「大変なんですね」
「うん・・・最近私も作ったけどってあああ!!!」
副司令が声を上げた。
そして端末を取り出し、亜音速で入力し、通信をかけた。
「もしもしメアリーだけど。アリア、あなたアルマニアに連絡かけた!?・・・ああ、そっちもなのね」
そのまま続ける。
「分かった。私から連絡しとくわ・・・あの2人を教育してるの私だしね。ええそれじゃあ」
そう言って、副司令は通信を切った。
「ごめん。ちょっと急用が出来たから。またいつか!!」
次の瞬間、もう副司令はダッシュして、見えなくなっていた。
・・・・・遠くのほうで、派手な音がしたのは気のせいだろうか?
「おい。何故そこで突っ立っているんだ、朽木研究員」
後ろでそう言うのは、
「エルメス局長」
「魔力回路の状態観察?」
「ああ。君のそれは呪いに近く、傷にも近い。我々にとっても興味深い話だからな」
そうか、そういえばそうだったな。
俺の右手の状態、正確には右手の魔力回路については何も分かっていない。
回復しているのか、それとも壊れているか。
分かっていることと言えば、一回魔力回路が暴走したことぐらいだ。
「ちょっと見るぞ」
そう言って、局長は俺の右手の甲、傷の付いた痣を観察し始めた。
・・・後ちょっとで胸に届きそうなんだが。
というか局長の胸、意外とデカイなおい。
そう思っている内に、終わった。
「終わりですか?」
「ああ」
そう言って、局長は机に向かい、パソコンで何かを入力し始めた。
時折、何か考える素振りをし、また入力し出す。
そして、
「終わった」
「何か分かりましたか?」
「何も」
ですよね。
「まあこんな事だろうとは思ったけどね。なんせ君が寝ている間に散々検査して何も分からなかったからな、その右手は」
「そうだったんですか」
「ああ。色々と調べさせてもらったよ。無駄だったがな。さて、私の用は終わって・・・いなかったな」
「というと?」
「朽木研究員。一緒に『戦生研』まで行こうか」
「・・・・・」
嫌な予感しかしない。
『戦生研』
正式名称は『戦略機動隊生物研究所』
文字通り生物関連の研究をしている。
山城基地のBプラントにある。
Bプラントにある施設は大抵重要、あるいは『ちょっと国際問題になるかな?』な所だ。
で、戦生研はどちらかと言えば後者に当たるという噂だ。
何故噂なのかと言えば、それは単純明快。入ることが出来る人が極端に少ないからだ。
故に、入ってくる情報も凄く少なく、また信用出来ない。
そういう所に行くわけだ。
(一説では、極東法に抵触する生物兵器の研究をしていると言うが・・・)
実際ありそうで怖い。
というかあの人達(戦技研の変態技術者)ならやりかねん。
一応、戦生研は医療局と合同で運用しているが。あの人達を止めるには十分でない。
・・・・・前見た時、明らかにやばそうな兵器作ってたからなあ。
そういえば、あの事を聞くことを忘れていた。
「局長、実は僕、今自作WGの開発を手伝っているんですが・・・」
「自作・・・ああ、唐橋で作っているあれか。君が手伝っているのか!?」
エルメス局長はキラキラした笑顔で、
「別にいいぞ。むしろ大歓迎だ。どんどんやってくれ」
「どんどんやっていいんですか・・・」
アバウトだなオイ。
「物によっては、戦略機動隊で採用する」
「マジですか!?」
「ああ。現在開発中のWGが少々壁にぶち当たっていてな・・・汎用機なんだが」
「汎用機?」
「ああ。今までは可能な限り汎用化して、それでも対応出来ない場合は特化機を作って対応してきたが、もうそれでは対応出来なくなりつつある」
「だから、革新的な汎用機が必要だと」
「その通り。現在開発が進められている機体は、装備変換無しでの全領域対応機を目指している」
「装備変換無しでですか?」
「ああ。まずはこの世界のあらゆる領域に対応できる機体だ。そういや、君達のWGはどんな物だ?」
「ええと」
正直そこらへん、あまり煮詰まっていないんだが。
ナーバルが言うには、
「一応、装備変換有りでの多目的機を目指しています」
「それは装備変換有りで、様々な任務に対応できる機体という事か?」
「ええ。今はそういうコンセプトでやっています」
「なら尚更だ。少しでもいいものを前線に出したい。もう危うい所まで来ているからな・・・先日の一件といい」
その意味を問おうとしたが、また今度にしようと思った。
戦生研に着いた。
「・・・・・」
これはこれは、だ。
なるほど、ここはかなりヤバイ物を研究しているらしい。
「ここで何を研究しているかは言えない。もっとも、君はコレを見て大方分かるだろう」
「ええ・・・これ極東法に抵触してますよね」
「ぎりぎりセーフだ。これはまだ『治療』の範囲だ。君の義体も」
「これだけでしょう。他にもありますよね、これ以外にも」
「ああ。もう一度言っておくが、ここで見たものは一切口外しないように」
「分かりました」
「よし・・・起動開始」
機器が動き出す。
「具体的にはこれ、何に使っているんですか?」
「一応義体だ。それ以外には使っていない。こんな風にしたのはまだ二例目だ」
「あくまで体を安定化させる『治療』だと」
「ああ。決してこれを大量生産することは無い。もうそれは立派な兵器だ。第一、それを作るためには脳を大量生産するか、それとも小型化した電脳を載せるか・・・一番手っ取り早いのは魂をそのまま載せることだな」
「極東法にばっちり抵触しますねー」
「まあな。だが彼女の場合、こうでもしないとかなりまずかった」
「具体的にはどういう」
「彼女の元の体は霊体、完全な実体を持っていない。それ故に、いつ消えるか分からない状態だった」
「魔力の影響ですか?」
「そうだ。大抵の精霊は何てことが無いんだが・・・だが彼女の場合は違った。恐ろしく不安定だった。魂がそのまま出てる状態だった」
「相当ですね・・・どうしてこんな研究を?」
「WG制御システムの開発中にな、少し漫画を読んでいてな。そうだこれ使えるんじゃないかって思って・・・気づいたらこの有様だ」
「もしかしてそれ・・・公安九課が出てくる奴ですか」
「・・・何故分かった」
「・・・もうなんか雰囲気で分かるんですよ」
「そうか・・・まあだから君が前、メルト・ランズデイとの決闘で見せたあれは、我々の興味を引くものだった」
「どうでしたか?」
「ああ。やはりクラッキングをしたのは彼女だ。君の脳はそれを補助し、そのまま体験したんだ。魂を通じて」
「その魂のリンクについてなんですが・・・」
「ああ。それも彼女の能力だろう」
カプセルから有機培養液が出てくる。
「で、結局これは何と言えばいいんですか?」
「『魂』が入った『人形』だ。体の骨格以外はすべて生体、生身。それ以外は強化骨格だ。君のそれに似ている。もっとも君のそれは人工繊維でできているが」
「なるほど・・・それはそうと」
俺はそれをじっと見て、述べる。
「どうしてこんな体に?」
「本人たっての希望でな。某自動人形っぽくしてくれと。無視したが」
「なるほど」
「構造は人間だ。ちゃんと食事も出来るぞ」
「マジですか・・・機能もですか?」
「機能もだ。ちゃんと心臓もあるし、脳もある・・・生殖器もな」
「ナニを考えてるんですか・・・でも、よくここまで出来ましたね」
「当然だ。戦略機動隊一の医者に協力してもらったからな」
「誰ですかそれ?」
「ガサイだ。医療局局長の。あいつは普通の手術のみならず、医療に関してはなんでも出来るのでな。再生医療も」
「そんなにすごい人だったんだ・・・じゃあこれにも」
「あいつが再生医療で培ったノウハウもつぎ込まれている。本当よくやったよ・・・そこに至らせるまでにどれだけ苦労したか」
「どういうことですか」
「あいつ、最初はこれの製作に付き合う事を拒否していたんだ。だから・・・」
「だから?」
「君の病室から出た直後に拉致して、そのまま一週間監禁してやらせた」
「・・・マジですか」
「ああ。終わったら何かぶっ倒れたので、戦技研が独自に入手した、日本のある山奥にある村の特産品、『赤い水』だったかな名前は・・・それ飲ましたらあいつ、すぐ復活して目から血を流しながらどっか行ったよ」
「それ屍人化してませんか!?」
誰か!! 誰か宇理炎を!!
そう思った時、カプセルが開いた。
そこにあったのは、少女の体だ。
白く、透き通った肌、白い髪。
だがそれは確かに人間の体だった。
生で出来た、人間。
そして、それはしっかりとこの世に存在していた。
そして、その眼が開いた。
それは緑色だった。
「・・・お久しぶりです」
アレサだった。
「そう囁くの、私のゴーストが」
「それは攻殻だああああああ!!!」
「で、調子どうよ」
「はい。大丈夫です。体の感覚はしっかりとあります。食欲もあります。故に、私は人間の体を手に入れたことを確認しました」
山城基地 食堂。
俺はアレサ(リニューアル)と話し合っていた。色々と確認したかったしな。
アレサは言う。
「マスター」
「・・・マスター?」
「はい。マスター。あなたは私の主人的な存在なので」
「あー、じゃあその服はそういう事なのか?」
アレサの服装。
流石に生まれたままの姿では色々と問題になるので、どうしようかと思案した所、アレサは予め用意していたらしい服を着た。
メイド服である。
「ああ、心配なさらず、肩の所にちゃんとここに戦略機動隊のロゴがあるので。制服です」
「これでいいのか制服・・・」
「それでいいのだ」
「言うと思ったよ」
「しかし、これだけでは銃火器を使う荒事に対応出来ません」
「滅多に無いと思うけどね」
「メイド足る者、様々な事を想定しなければなりません。そこで」
アレサはスカートをたくし上げた。そこから、大量の武器が落ちた。
明らかにスカートの面積
「ナイフから対空ミサイルまで装備しております。身辺警護はお任せを」
「ああ、うん」
突っ込んだら負けだ。
「後お部屋についてですが」
「分かっている。茜には事情説明しとくよ」
「助かります。ついては明日から私も学校に行かせて貰います」
「分かっ・・・オイ待て」
今何と言った?
「学校?」
「はい。明日から浜大津総合学校二年E組に転入します」
「・・・マジで」
「マジで」
マジなのかそうなのか。
またカオス成分が増えたなおい。もう気にしてないが。
「と、言う事ですので・・・?」
アレサの目線の向こう、こちらのテーブルに来るのは、
「副司令」
「ああ、光男君・・・そのメイドちゃんは?」
「説明するとかなり長くなる自信がありますが」
「じゃあいいよ・・・はあ」
疲れている。明らかに疲れている。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと連絡をね、私の継承者について」
「継承者・・・眷属ですか?」
「ええ。一応然るべき所に報告する事になっているからね」
「そうなんですか」
「ええ・・・たださっきそれで呼び出し食らってね」
「誰にですか?」
「魔王」
「ああ魔王ですか・・・へ?」
魔王? 魔王って・・・
「ウィザドニアのですか?」
「ええ。極東連合評議会の議長であり、ウィザドニアの王もやっている魔王にね・・・はあ」
「なんで呼び出し食らったんですか?」
「私が継承者がいる事連絡したせいで、今相当ヤバイ事になっているらしくってね・・・その弁明に、今夜ウィザドニアに行く羽目になってしまって」
「連絡しただけでですか?」
「うん。そういうことで、ここで早めの夕食を摂っていこうと思ってね・・・ああ、レオスにこの事伝えといて。あの人見つからないから」
「分かりました」
「じゃあ、またね・・・・・ああ、今夜はレオスを搾り取ろうと思ったんだけどな・・・」
そう言いながら、メアリー副司令は重たい足取りで、注文カウンターに向かい、
天ぷらそば十人前を頼んだ。
第十四話、いかがでしたか。
今回は久しぶりにアレサを登場させました。また改稿すると思いますのでご了承ください。
次回もなるべく早く投稿しようと思っています。
この物語を読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。