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幻想機動輝星  作者: sabuo
序章 ある研究員の記録 『ZERO』 IS SLEEPING
18/74

第13話 唐橋工廠

第十三話です。

「聖暦2790年、首都バナレスでクーデターが発生し、アルマニア帝国が分裂、崩壊したことで第二次神魔大戦が終結しました。

その民や、土地の多くは、分裂後にできたウィザドニア王国、及びバビロス帝国に吸収されましたが、魔帝の直轄領であった首都バナレスやその周辺に住んでいた民は、独自に自治を始めました。これが『独立都市パルテラ』または『旧アルマニア』と呼ばれる地域です。

そしてその翌年、『森の民』が『ギガル皇国』を建国、更に第二次神魔大戦で聖パルテラ王国がアルマニア帝国から得た土地が独立し、『聖アラストリア王国』が誕生。同年この四ヵ国が相互不可侵条約を締結し、第二次神魔大戦後に誕生した四ヵ国の領土が確定しました。これを『パルテラ体制』と言います。しかし・・・」

ルース先生は授業を続ける。

聖暦3017年 4月25日 木曜日

浜大津総合学校 2年E組 4時間目 歴史の授業

ルース先生の講義に集中しながら、俺は先日のバイトの時の記憶をリプレイしていた。

バイト明けの食堂での一件。

あの後、エルメス局長は朝食を食べるや否や、食堂から飛び出して行った。(総司令は副司令がスタンガンを使って起こした)

その日の夜、山城基地のGプラントで見かけたが、その後ろに『悪霊退散』と書かれたはちまきを頭に巻いた、胡散臭そうな陰陽師的な何者かが複数人いたのでそっとしておいたが、しかし、

(なんだったんだアレは・・・)

仮面。

赤い目。

そして、白い二つの目。

(最後のあれだけ違和感がある・・・)

本当に、あれは何だったのだろうか。

「えーでは・・・浅葱さん、ここ分かりますか?」

「はい」

そう言って、左後ろで浅葱が答える。

(・・・?)

・・・なんだろうこれ、なんだこの感じ。

俺は後ろを見る。

浅葱が席を立って先生の質問に答えている。そこまではいい。しかし、

(ロザリオ?)

首に、銀の十字架、ロザリオがある。それは茜がつけてたのと同じように見える。というかあいつ、

あんな風にアクセサリーを着ける奴だったか?




「あの・・・ちょっと、いいですか?」

話かけられた。

4時間目が終了した時だ。紫色の髪をした、大人しそうな女子生徒。名前は確か・・・

「イラクス・アーノイド?」

「覚えててくれた・・・ありがとうございます」

「お、おう」

なんだこいつ、クラスメイトに敬語? 正しいと言えば正しいのだが。

(なるほど、気弱枠か)

こういった女子と会うのは初めてだ。しかし、対応は教本(ライトノベル)で身に付けている。

「どうかしたか?」

「朽木さんは、魔力について研究していると聞いたのですが」

「うん」

あれ、なんでそんな事を知っているんだこいつは。

その事を聞こうとしたとき。彼女が切り出した。

「あの・・・私達の研究にアドバイスをお願いできませんか?」

・・・研究?



よし、話を聞こう。

「その研究っていうのは・・・」

「実は・・・今自作のWGを作っているんです」

「自作のWG?」

「はい。実は今、ある問題があって」

「問題? いったいどういう」

「その・・・魔力関連で」

「魔力で?」

「ええ。私達ではどうしようもなくて」

なるほど。それで、

「俺にアドバイスをお願いしたいと」

「はい。朽木さんは戦技研に所属していると母から聞きました。お願いします。アドバイスをお願いします」

なるほど、そういう話なら。

「分かった。協力しよう」

「あ、ありがとうございます。では早速この後・・・」

「いや、いくらなんでもその『問題』を聞かなければアドバイスのしようも無いんだが・・・それにその自作WGを見ないと対策を立てられない」

「そうですか・・・じゃあ今日の放課後、見てもらうというのは」

「うん、いいけど」

「では、放課後、戦技研の唐橋工廠・・・て、分かりますか?」

「ああ、聞いたことはあるけど」

「ではそこで待っています」

そう言って彼女は礼をした。

「ありがとうございます」

その顔は、どこかで見た気がする顔だった。




「じゃあ、光男君は放課後、唐橋の方に行くことに」

「そういう事」

浜大津総合学校 食堂

俺はオールと昼食を食っていた。

ちなみに、今日の昼食は鯖飯定食である。

「しかし、学生が勝手にWGなんて作っていいのか?」

「禁止はされてないよ。もっとも相当お金がかかるけど」

「だろうな」

参考までに、三式WGが一億ゴルド、日本円で一億円するらしい。兵器の値段にしては安いほうなのかもしれないが、高い金額なのは事実だ。

もっとも、三式は小型WGな訳で、標準サイズのWGになるとその倍の金額が余裕でつくだろう。

「逆に言えば、金と技術さえあればWGを作っていいという事になるのか」

「そういう事になるね。まあ就職の時、役に立つのは事実だね」

「どういう事だ?」

「WG技術者志望なんかは学校に在籍中、何か論文とか研究とか色々。もちろんWG開発とか発明とか。とにかくそういった事をしていると後々有利なんだ。どこも技術者を欲しているのは事実だからね、そういった人を探しているんだよ」

「今からアピールしておく訳か」

「早い人は在籍中に就職するよ」

「それは早いな・・・みんなどんな所に?」

「大抵はヤマシログループ系列の企業だけど・・・近頃は(ウィザドニア)(インダストリアル)が兵器開発産業のシェアを伸ばしているからね、そっちに行く人も多いよ」

「そうか・・・お前はどうなんだ?」

「僕? 僕は・・・まだ決めてないよ。でも一応の対策として、WGの整備と機体骨格(フレーム)の研究をしているよ」

「そうか・・・」

みんな色々考えているんだな。

「俺も研究を再開させるかな・・・」

「? 何か言った?」

「いや・・・そうだ、いつかお前の家に遊びに行っていいか?」

「いいよ。いつでもとは言えないけど」

「だろうな」

そう言って俺達は食事に集中し出した・・・だが、途中で箸が止まった。

「・・・光男君」

「・・・ああ」

俺達は、言う。

「「ここのご飯、うますぎる」」




「ここか・・・」

唐橋工廠。

人間界で言うならば、大津石山の瀬田川の傍に位置するのだろうか。

戦技研の、主に試作機を製作するための工廠だったらしいが、前の再編統合で、試作機製作は山城基地で行われるようになり、ここは用済みになった筈だが。

(今もここ、戦技研が所有しているんだが・・・よく借りられたな)

工廠は五つの川に面した格納庫と、搬入用の線路、事務棟などで構成されている。

俺は門を開け、事務棟に入る。

入るとそこには無人のカウンターがあった。

「すいません、誰か居ますか?」

「はーい」

答える声があった。その声の主は、

「はい、おまたせしました・・・て、朽木、どうしてここに?」

「そう言うお前こそ何故ここに居る。メルト」

メルト・ランズデイだった。

「別に、友達の頼みで手伝っているだけよ。そう言うあなたは?」

「イラクスに頼まれてな。お前達のWG、問題があるんだって?」

「ああそういう・・・て、もしかしてイラクスが呼んだのあなたなの!?」

「うん」

「・・・信じらんないわ。まあでもあなたにどうこうできる問題だとは思わないけどね」

「さいですか」

その時、奥からイラクスが来た。

「朽木さん、来ましたか」

「ああ。早速だがWGを見せてもらいいいか?そこで問題を聞きたい」

「分かりました。メルト、格納庫の鍵は?」

「確かザジルが持っていった筈だけど」

「じゃあ格納庫にいるんだね。朽木さん、ついて来てください」

そう言うイラクスの後を行く、事務棟の裏口から外に出、格納庫に向かう。

格納庫の大きさは大体50mぐらい、結構大きい。

「ここです」

イラクスが格納庫の扉を開ける。俺はその中に入る。

「・・・おおう」

そこには、まだ組み立て途中のWGがあった。高さは大体18mぐらい、まだ装甲をつけていない。一応五体はついていて、コックピットはついているが、内部骨格がむき出しのままだ。

電装品の方もまだ設置が終わっていないらしい。推進系もまだ形になっていない。

「これが、私達のWGです」

イラクスが言う。

「名前はまだ決まっていません」




「で、問題っていうのは?」

「魔力コンデンサーだ」

そう言ったのは、

「ザジル?」

作業服姿の竜人、ザジル・バルボルドだった。

「お前もこのWGの製作をやっているのか?」

「ああ。機体の動力系をやっている。ちなみに、お前の事をイラクスに教えたのは俺だ。前の襲撃の時、言っていたろ」

「ああ」

そういえばそんな事言ったな。まあいい。

「それで、魔力コンデンサーがどうしたんだ?」

「自作の魔力コンデンサーの容量が全く足りないんだ。今のままだと動くことすら出来ない」

なるほど、そういう事か。

魔力コンデンサーとは、WGの起動用魔力、及びWGの推進用魔力を貯めるものだ。

まあ、推進用魔力については一式の時点でブースターの消費魔力がかなり抑えられてあり、全く問題無い。むしろ今はそれ以上に抑えられている。だが起動用魔力、つまりWGの動力源である魔力生成機関(MPGE)、ウィザード・ジェネレーターの点火用魔力は増大し続けている。詳しく話すと結構時間がかかるので要点のみを言うと、生成される魔力が多い程、点火用魔力の量が多くなるということだ。例をあげると、戦略機動隊の最新鋭機である十五式に搭載されているウィザード・ジェネレーターが生み出す魔力は、一式の約四倍、点火用魔力も約四倍に増加している。じゃあそんなに高い出力のウィザード・ジェネレーターを載せなければいいのだが、これにも訳がある。が、これを話すとかなり時間がかかるので、話さないでおく。通常はウィザード・ジェネレーターに搭載され、その余剰出力で魔力を蓄積させているが、追加で機体の背部に装備することがある。

まあ、要は結構大事な物なのだ。その容量が足りないとなると、

「相当高出力なウィザード・ジェネレーターを載せるのか?」

「そういう事になるな・・・出来るか?」

「分からん。これは戦技研でも問題になっていることだ。取りあえず機体の設計図でも見せてくれ」




「うひゃあ・・・」

なんだこの数値、

「十五式の約二倍ってどういう・・・」

「分からん。それと、それは必要最低限、最終妥協点だ。これ以下の出力は認められない」

「こんな出力・・・ウィザード・ジェネレーターも相当デカイだろこれ」

「ああ・・・そのせいで機体のサイズも大きくなってしまった。それで」

「また消費魔力が増大して、更にそれを補うため大型のウィザード・ジェネレーターを搭載、それで機体サイズを大きくするはめになったと」

「そういうことだ」

とんだ悪循環だ。

搭載されているウィザード・ジェネレーターは固定式。

一式にも使われた、もっともスタンダードな形式だ。

「これ、全部自作か?」

「ああ。人工魔力石の製造からな」

「そこからかい」

こいつらマジにやる気だな。

「私が作ったんです」

イラクスが説明する。

「使用する人工魔力石を高純度にしようかと思ったんですけど・・・そこまでの加工技術も持ち合わせていなくて」

「なるほど。だから大きさでなんとかすると」

「そういうことです」

なるほどね・・・

「取りあえず原因の原因らしきものを伝えていいか」

「なんですか」

「ジェネレーターの出力が高すぎる」

いや、それ以前に、

「なんでこんなに魔力が必要なんだ?」

ここまで無くても普通に動くはずだが・・・

「ウィザードライフルを運用するためだよ」

答えが返ってきた。それは、茶髪の、角を生やした女子、同じクラスの、

「ナーバル・イーター?」




「・・・ようは、このWGはエネルギー系の兵装を使うことを前提に設計されているのか?」

「そういうこと。ただ作ってもあれだからね、他とは違う物を作りたいわけよ」

そう、この機体開発の発案者であるナーバルは言った。

「世界初の、エネルギー系兵装の単独運用が出来る機体。それが私達の作るWGよ」

「成程、だから高出力のウィザード・ジェネレーターが必要なのか」

一応、エネルギー系兵装について言うと。

ガンダムでよくあるビームライフルやビームサーベルの様な物だと思ってもらいたい。この世界で言うなら魔力砲だ。

だが、WGに搭載できるエネルギー兵器は、精々個人携帯用クラスしか搭載できず、実戦では役に立たないので、これはWGの兵装に当てはめられない。WG用兵装としてのエネルギー兵器が、現状で単独運用できない理由として、砲撃に使用する魔力が足りない事がある。故に、実戦で使うWG用のエネルギー兵装は高出力ジェネレーターを搭載した大型オプションユニットが必要であり、問題になっているが。

「その技術開発のせいで、資金がかなりまずいことになっていることも忘れてもらっては困るわね」

そう言うのはメルトだ。

「大体センサー系統からおかしいのよ、15キロ以上の目標を捉えるセンサーって、それを通常装備で? 開発者の私が言うけどもこういうのは大抵狙撃戦で使われるものよ」

「いや、この機体、色々な用途に使える機体にしたいからさ」

「それはつまり汎用機ってことか」

俺は質問する。

「そう。攻撃、防衛、狙撃、爆撃、強襲、偵察、物資運搬、後方支援、作業、とにかく色んなことに使える機体にしたいんだ」

「俺も作りたいがな、機体の名前すら決まっていないんだぞ、いつも行き当たりばったりだろ」

「管制システムも新規に作るのも大変なんです。色々なことに使えるようにするには高度な魔術集積回路が必要なんです」

「・・・なるほど」

大方状況は飲み込めた。

ついでに、解決策も、

「と、まあこんな状況でさ、まずは動力系の問題から解決したいんだ。他にも問題あるけどさ・・・」

「・・・分かった。動力系だな」

俺は言う。

「今日中に」




「今日中にって・・・出来るのあなた!?」

「ああ。別に、大規模な改装をするわけじゃない。ウィザード・ジェネレーター周りをなんとかすればいい」

俺はいる物を伝える。

「人工魔力石、それを砕く粉砕機、そして圧縮機、それぐらいあるだろ。後金属製の容器、そうだな・・・オイルの空缶がいいだろう。それを二、三個。後魔力供給パイプ。後、新規のウィザード・ジェネレーターを製作。小さいのでいい。人工魔力石はまだ着けるな。機体への魔力供給パイプの口とは別に、魔力コンデンサー用の口を作ってくれ」

「それでいいのか」

「ああ」

「分かった。三十分で造る」

そう言ってザジルは行ってしまった。

「粉砕機と圧縮機は?」

「ああ、あそこのあれだけど」

見ればなるほど。格納庫の壁際に、作業台とベルトコンベヤーがついてる機械、円筒型の機械が置いてある。

「人工魔力石は?」

「えーと格納庫にあるのは全てあの袋にあります。倉庫のほうには掃いて捨てるほどあります。ただかなり低純度で・・・」

「それでいい」

俺はまず、粉砕機のスイッチを入れ、袋に入った緑色の人工魔力石を全部投入する。

「ちょっあなた何をやっているの!?」

「加工している」

「見れば分かるわ!! 何故に全部投入するのよ!?」

「まあ見とけ」

すると、ベルトコンベヤーから人工魔力石の欠片が出てきた。それを全て袋の中に入れ、また投入する。

「イラクス。倉庫から人工魔力石をあと十袋、持ってきてれ」

「は、はい」

そう言ってイラクスは格納庫を出て行き、そして十袋持って帰ってきた。そしてそのまま粉砕機に入れる。

そうして出てきた物を、また粉砕機に投入する。それを繰り返し、調節して、大量の粉末ができた。

「で、これをどうするの」

俺は行動で答える。

圧縮機の中にそれらをすべて入れ、圧縮する。

結果出来上がったのは。

「何コレ」

円柱型の人工魔力石だ。

だが、さっきより緑が濃くなっているし、サイズも小さい。

「朽木、言ってたのが出来たぞ」

そう言ってザジルの指す方、目新しい。機体についてるのよりも小型な物が出来ている。

サイズを測り、これをカットする。

「俺がやろうか?」

「頼む」

ザジルはそういうやいなや、カット用のブレードであっという間に人工魔力石を立方体に切った。

「物を切り取るのは慣れている。コレぐらいでいいか?」

「ああ。これなら入る」

俺はそれをウィザード・ジェネレーターにいれる。

「じゃあ、一応起動してみようか・・・って起動用の魔力忘れてた」

「作業用のウィザード・ジェネレーターならありますけど」

「十分だ」

魔力供給パイプで二つを繋ぎ、計測器をセットし、

起動する。




「・・・何コレ」

メルトが見ているパソコンには、ジェネレーターの魔力出力(魔力の生成量)が出ている。その数値は、

「前の十倍!?」

それだけじゃない。魔力コンデンサーの容量も大幅にアップしている。

「もっと研究を続ければまだまだ改良出来るだろうけど、今はこれぐらいしか。ナーバル、足りるか?」

「・・・まあなんとかいけるかな。今作ってるウィザードライフルの魔力消費量によるけど。ザジルは?」

「もうすこし少し欲しい。ブースターの改良はまだ終わっていないが、一応・・・というか、何をやったんだお前」

「そうよ。あなた、一体何をどうやってここまで改良したの!?」

「改良っていわれても・・・」

俺がやったのは、

「圧縮しただけだよ」

「「「・・・圧縮?」」」

圧縮だ。

「あんまり知られてないけど・・・というか知ってる人いないだろうけど。人工魔力石や魔力石って穴だらけなんだよ」

「穴? 魔力石に穴があるのか?」

「ああ・・・恐ろしく小さいけど」

俺も顕微鏡で小1時間見ないと分からなかった。 

「それが人工魔力石も魔力石も。どちらにもあるんだ。それも大量に」

「初耳ね・・・でもそれとこれが何の関係が?」

「そうだな・・・スポンジを知っているか?」

「ええ、もちろん。皿洗い用、武具掃除用、台所掃除用、天井掃除用、布団掃除用、壁掃除用、風呂掃除用、靴掃除用、衣服掃除用、書籍掃除用、絵画掃除用、体洗い用、使用用、保存用、布教用、保管用、使い分けているわ」

「スポンジ使い過ぎだろそれ」

使用用っていったい・・・・・まあいい。

「あれ、小さい穴がいっぱい開いてるだろ」

「ええ」

「水入れて絞るよな?」

「ええ」

「水が抜けるよな?」

「ええ」

「見たら穴無くなってるよな?」

「ええ」

「それと同じ事」

「把握したわ」

把握しやがった。

具体的に言うなら、人工魔力石の穴を無くした。密度を上げたのだ。

「だけど、まだまだだけどね。もっと圧縮すれば、生成する魔力も比例して多くなるだろう。まだいける」

「あれ、でもそれじゃあ制御できなくなるのでは?」

そう言うのはイラクスだ。

「ウィザード・ジェネレーターの核が、人工魔力石なのはそれが理由なのでは?」

「それは純度の問題だ。魔力の量では無いよ。確かに自然界に存在する魔力石なんか核に使ったらそりゃ制御出来無いって」

だけど、

「でも純度が低い人工魔力石なら問題は無い。いくら圧縮して魔力生成量を高めたとしても」

もっとも限度と言うものはあるのだろうが、

「まあこんな感じだ。感想は?」

「一つ質問だけど・・・いいかしら」

メルトが質問して来た。

「それは、あなたが開発した技術なのかしら」

「うん。たった今開発した」

「今? じゃあ発想はいつなの?」

えーと、あれは俺が実験台にされる前だから・・・

「俺が七歳になる前にはもう考えていたと思う」

「・・・本当?」

「本当。実証は無かったけど」

妄想の域だ。

「・・・ねえ朽木君。ちょっといいかな?」

ナーバルが聞いてきた。

「私達のWG開発、協力してくれない、かな?」

「・・・へ」

俺が? 俺がか?

「俺なんかでいいの?」

「うん。いいよ。凄く助かる。いつ来てもいいから。いやお願いします!!」

そう言ってナーバルは土下座してきた。

もはや芸術と言うべきレベルの美しい土下座だった。

(・・・まあ。いいかもな)

ちょうど暇だった。

「分かった。けどちょっと話し合いと言うか、上司的な人に相談してからで判断していいか?」

一応軍の、研究機関所属だからな。

そこらへん聞いといた方が身のためだ。

安全第一。これ重要。

「じゃあ検討はしてくれるんだね!!」

ナーバルが顔を上げ、キラキラした笑顔で聞いてきた。

「う、うん」

「ありがとうございまああすッ!!」

そう言って、ナーバルは頭を地面に叩き付けた。

・・・コンクリート床にひびが入ったように見えたのは目の錯覚だろうか?

「・・・そうだ、ナーバル。名称の件、こいつに決めさせればいいのでは?」

「ちょっと、あなた本気!?」

「ああ。どうせ俺達にはネーミングセンスなんて一つの欠片も無いんだ。イラクスもそうだろ?」

「ええ。ここは一つ、朽木さんお願いします」

「・・・・・」

どうしよう。いきなり問題が降ってきた。

俺だってネーミングセンス無いよ。マイナスだよ。

でも適当につけることも、かといってこの機体はみんなにとって大切だろうからな・・・

そうだ、ここはこの機体開発の発案者であるナーバルに意見を聞こう。

「ナーバル、どんな感じの名前がいい?」

「うーん・・・かわいいのがいいかな?」

「前の名称案はかっこいい感じの名前だった筈だけど」

「あれは前言撤回、猫を知って意見変わった」

「それと似たような台詞を前にも聞いたが」

「うっさい。こんどは本気、マジと書いて本気」

「「「ちゃう。本気と書いてマジと言うんじゃ」」」

(しかし、『かわいい』か・・・)

かわいい。

かわいい。

猫、

猫、

かわいい、猫。

「三毛猫」

「「「三毛猫・・・」」」

それで決定した。




第十三話、いかがでしたか。

今更ですが、先日、プロローグを割り込み投稿しました。

よかったら見てください。

第十四話は、なるべく早く投稿しようと思っています。

この物語を読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。


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