第10話 Lithium
第十話です。
WG三個小隊計12機が超低空で飛んでいく。
十五式『ファルコン』 戦略機動隊の最新型。鋭角的なフォルムが特徴的だ。
12機それぞれ、異なった兵装を懸架しているものの、長銃身の滑空砲を手に携え、背中には新たにブースターと水平翼を装備した、対空中距離支援装備である所だけは共通していた。
その下を俺は、自転車に荷台をつなぎ、物資を運んでいた。
聖暦3017年 四月十五日 月曜日
いや、既に0時を過ぎているから十六日か。時刻は0時37分、深夜である。
いつもならこの時間帯は爆睡しているのだが、起きていた。いや、俺だけではなく山城基地自体が起きていた。
起きているというより、絶賛戦闘中だ。
フリークスの侵攻だ。
21時ごろ、高松の防空レーダーが未確認飛行物体群を捕捉。僅か三分後。第一種戦闘配置が発令された。
22時13分、軍団規模のフリークスが梅田基地に侵攻。その中を抜けたワイバーン型レベル4によって中書島防衛線を突破されたのがその三十分後。
もっとも、山城基地まで後一歩という所で、戦技研が『偶然』開発中だった、
試作仮想銃身形成式物理ボルト突入型強制魔力圧縮放射砲、通称『NYN砲(名前がやたらと長い砲』
という明らかにヤバイ物で瞬殺されたが。
そして0時37分、山城基地上空のフリークスは大方撃破され、上空では多数の航空駆逐艦や航空巡洋艦によって構成された航空艦隊が西に向かって移動を始めていた。
さっき聞いた話によれば、梅田基地と連携し、殲滅戦に移行するらしい。
恐ろしいことに、ここまでやっておいて死傷者ゼロである。もっと恐ろしいのは、月一でこの侵攻があることである。
「毎月こんなことやっているって・・・大丈夫なのかこれ!?」
「大丈夫だ、もうテンプレ化しているからな・・・戦技研が『偶然』開発していた秘密兵器でワイバーン型が瞬殺される所まで」
「そこまで!?」
荷台には物資と一緒に二人の男子生徒が乗っている。赤髪に角を生やしている男子と金髪で背中から羽を生やしている男子、
同じ浜大津総合学校2年E組のザーフ・エンダーストンとラビラトス・トラスナーだ。
「しかし朽木君が戦技研所属だったとは驚いたよ」
「俺はお前達が物資運搬のバイトをやっていたことに驚いたよ」
深夜の山城基地、プラント上のあちこちでで多くの人や魔族がミサイルやらWGの部品を運んでいた。
俺達も同じく物資運搬のため、戦技研のあるGプラントに向かっていた。
ちなみに、なぜ俺が自転車を漕いでいるのかといえば、二人が自転車に乗れないからだ。納得。
「ヒュー、中書島の方も凄かったけどこっちもこっちですごい賑わいだな」
「ザーフ、お前中書島の砲台群で働いたことがあるのか?」
「ああ、確かあれはラビーがアラストリアからこっちに来たころだから・・・」
「一年前だよ。親元を離れてこっちで生活するための生活費を稼ぐために、中書島の砲台群で働いていたんだ」
「あれは傑作だったな。俺とラビー、後アーサーやバルボルドと一緒にバイトしたんだ。そのバイト初日にフリークスの襲撃があってさあ。ラビーが対空砲台の砲身に入ったんだよ」
「やめてよザーフ君。あの時は僕だって慣れていなかったんだよ・・・まさかあの長い筒が大砲だって想像つかなかったんだから」
「だからって入るか普通!? その夜だけでも散々色々やらかして、もうヤバかったな、色々と」
「笑顔の絶えない職場だったんだな」
プラント間の連絡橋を猛スピードで駆け抜ける。こんなに漕ぐのは久しぶりだ。
そんな時、ザーフが聞いてきた。
「そういや、お前はなんで浜大津総合学校に来たんだ?」
「こら、そういうこと聞かない。分かっているでしょ」
「だがなあ。俺らもふくめて浜大津総合学校のEクラスっていうのは、基本的に、それもかなり訳ありな奴しかこないからな。ラビーも気になるだろ」
「そうだけどさ・・・朽木君、答えなくても良いんだよ」
俺は自転車を漕ぎながら答えた。
「別に、親友に殺されて気がついたらここにいただけで、後は成り行きだ」
「「・・・マジで?」」
「マジ」
本当です。
「ああーそうだな、分かった、うん。これ以上は詮索しないでおく」
「そうしてくれ」
あんまり話したくないのは事実だ。
「でも、ザーフが言ったように、浜大津総合学校に来る人は基本的に『訳あり』な人というのは僕も思うよ・・・僕もそうだから」
ラビラトスが空を仰ぎ見ながら言った。
「僕はね、人助けがしたいんだ」
「人助け?」
「うん・・・だからここに来たんだ。自分の手で、地道に人を助けたいんだ・・・親の力を借りず」
自分の手ということに引っかかったが、深く詮索しないでおこう。『訳あり』である理由に思えた。
「そういった夢を持ってここに来た、ラビーのように出自の『訳あり』もいるがなあ、だが大半は俺みたいな奴だぜ」
「俺みたいな奴?」
「難民」
ザーフは答えた。
「難民、あと迫害、差別とかから逃げてきたやつが大勢を占めている。俺も極東連合出身ではなく首長会議連合側の国から逃げてきたんだよ」
「・・・・・」
「そしてそういった人が浜大津総合学校に入校する・・・基本的に訳ありな人という理由、朽木君分かった?」
「ああ、理解したよ」
この世界にも、難民や差別があるのか。まあ、そういう暗い面っていうのは物事に付き物だからな。
そう思った時、頭上を、多くの黒い影が飛んでいった。あれは・・・
「魔女!?」
まちがいない。魔女だ。
魔女帽子に黒いローブ、手には杖、だが跨っている箒は明らかに金属でできている。というか、むしろロケットみたいだ。
前に魔力砲が搭載されている。ハイテクである。
「あれはIMT製の航空箒『ストラトス・ウィッチ』・・・アルトリカ大隊だよあれ!!」
「ラビラトス、知っているのか?」
「うん。戦略機動隊の精鋭魔女で構成された部隊なんだ。その大半は旧アルマリアの出身って言われてるけど・・・でもなんでだろう。
あれは相当な時にしか出ない筈だけど・・・」
答えは目の前に発現した。
ハンドルを思いっきり切って、それを回避する。それは
「フリークス!?」
の死体、それも一つじゃない、大量に落ちている。現在進行形で。
上空を見ると、さっきのアルトリカ大隊がフリークスと戦っていた。小型種、だが数が多い。千体はいる。
「なあ、ザーフ、敢えて聞くが・・・これもいつも通りか?」
「いや、この時間帯の主戦場は大山崎あたりの筈だ。なぜこんなにいる?」
「僕もそう思う。これは撃ち漏らしなんかじゃないよ朽木君」
「だとすると・・・」
その時、端末が鳴った。出る。
「はい朽木ですが?」
「光男君、すぐ戻るんだ!!」
エルメス局長、だが、その声は明らかに焦っていた。
「何があったんですか?」
「・・・事実を述べる。舞鶴が突破された」
「舞鶴って・・・舞鶴基地ですか?」
「ああ、完全に油断していた。状況はかなりまずい。美山の観測所から報告で、ワイバーン型レベル4、十体を確認そうだ」
「十体!? それってかなりまずくないですか?」
「まずいというかヤバイぞこれは、とにかくプラント表層部は危険だ。すぐ戻って来い!!」
「了解!!」
ギアを上げ、自転車をかっ飛ばす。
幸いなことに、戦技研のあるGプラントへの連絡橋は近い。今までに出したことの無いスピードで、多くの建物が立ち並ぶプラント表層部を疾走する。
後ろから、前から、左右から、フリークスが落ちてくる。その一つ、それも一際でかい奴が下にあったGプラントとの連絡橋もろとも落ちていった。
「朽木君、橋が!!」
「ザーフ!! ラビラトス!! 自転車に加速術式を!!」
「なっどうして?」
「いいから早くしろ!!」
「分かった・・・ザーフ君!!」
「ああ、任せとけ!!」
ギアを最大まで上げる。車輪に魔方陣が展開、術式が加わり、更に加速する。
「おい・・・朽木お前まさか」
「そのまさかだあああ!!」
一度やってみたかった事をやらせてもらおう。
「上がれえええええ!!!」
飛んだ。
「まったく戻って来いとはいったが・・・隔壁を突き破れとは言ってないぞ」
「「「おっしゃる通りです」」」
Gプラント、第二層外縁部。
エルメス局長と俺の後ろには自転車と、荷台と、ザーフと、ラビラトスと・・・大きな穴があった。
「・・・これ経費で賄えますかね?」
「どうだか・・・まあ、これで設備予算追加申請の言い訳が出来たからいいか」
いいんかい。
「というか、どうやって隔壁を破ったんだ?」
「いや・・・激突寸前で何をトチ狂ったのか右パンチを繰り出したところまで覚えているんですが・・・ザーフは?」
「いや俺も、壁に激突したところまでは覚えているだが」
ザーフも覚えていないか・・・
「そうか。じゃあ内部で腐食でもしていたのか・・・一応これ某怪獣王の熱線に耐えることができるんだが」
「過剰防衛だと思うのは気のせいですか?」
なぜあの規格外生物を基準にしたし。
「まあいい。とにかく現状はさっき言った通りだ、設備の補修やWGの整備こっちの仕事も増えたせいで人手がまるで足らない」
「具体的にはどれぐらいですか?」
「そうだな・・・あそこの二人を見るといい」
見れば、レオス総司令とメアリー副司令が燃え尽きていた。真っ白に。
「総司令!?」
「ああ、呼びかけても無駄だ、さっきなんか『大きな星が点いたり消えたりしている。アハハ、大きい・・・彗星かな』とかなんとか言っていたからなあ」
「精神崩壊していませんかソレ!?」
というか、あれ?
総司令も副司令も、シャツにズボン(もちろんメアリーさんはスカートだが)と、前に見たラフな服装ではなく、
「正装?」
「さっきまでギガル皇国のほうに行っていたんだ。公務でな。まあでもいつもこんな服装だから特に着替える必要は無いさ・・・ここ一週間は例の下水道事件のせいでクリーニングに出していたがな」
「なるほど」
どうりであんなラフな格好だった訳だ。
「それで戻ってきてこれだ。無茶するよまったく。まあいい、とにかく君はそこの二人といっしょにWG整備区画に向かってそこで指示を仰げ」
「「「了解!!」」」
俺達は整備区画へと向かう。
「なあ、朽木君、一つ聞いていい?」
走りながらラビラトスが聞いてきた。
「朽木君、WG整備区画への道順分かるの?」
「ああ、それがどうした?」
「いや、僕、バイトでここに来るとよく迷うからさ」
「ああそういう」
確かにここ意外と複雑なんだよな。というかそもそも大きいし、普通迷うわな。だけど、
「大雑把に把握しとけば迷わずにすむと思うんだが」
「だって、ザーフ」
「・・・お前凄いな。俺は毎回迷うんだが」
「地図でも貰ったら?」
・・・いや、ちょっと待てよ。
「ラビラトス、バイトでよくここに来るといったな」
「うん、言ったけど」
「いいのかそれ?」
「うん。それがどうしたの?」
「いや」
ここは軍事施設、それも結構重要なところの筈だが。そんなところにバイトを入れていいのか?
「具体的には何を?」
「資料の運搬とかそんなのだよ。ザーフは何やっていたっけ?」
「WG整備区画での雑務、意外と楽だぜ、現場の人達もいい人ばかりで。憩いの場と言っていい」
(憩いの場って、それ要するに暇っていうことじゃあ)
そう思った時、目的の場所についた。整備区画へのハッチだ。
爆発事故を想定(!?)しているため、ここのハッチは他のハッチより厚く、ハンドルも固い。
「ザーフ、手を貸してくれ」
「分かった」
二人がかりでハンドルを右に回す、が、
「なんだこれ・・・やけに固いぞ」
「ああ、いつもバイトしている時は・・・こんな・・・はずじゃあ」
「あの・・・二人とも」
ラビラトスが言った。
「それ、左に回すんじゃ」
「「・・・・・」」
その発想はありそうで無かった。
俺達はハッチを開け整備区画に入った。
「307号機、及び308号機帰還!!」「被害報告!!」「307、右足のアクチュエータ系の出力低下、308頭部破損!!」「307は37番に、308は基部外して新しいの付けろ!!」「13式、発進準備完了!!」「13式、出ます!!」「21番、だれか電装品関連に詳しい奴来てくれ!!さっぱり分からん!!」「班長!!253号機アウトです!!」「予備ハンガーの七式を出せ!!」「あの特攻兵器をですか!?」「無いよりマシだ!!ミサイルガン積みで行けえ!!」「了解!!」「弾薬はまだかア!!」「届いてません!!」「遅い、遅いぞ!!大津からの物資はもう届いている筈だぞ!!問い合わせろォ!!」「こちらGプラント第三層WG整備区画!!弾薬がまだ届かない。確認求む!!」『こちらEプラント!!今地下の方から送った!!五分後には着く!!』「第八層!!受領したらそのままシャフトクレーンをつかって上げてください!!」『第八層了解!!』『こちら135号機!!メインブースターがイカれた!!収容求む!!』「甲板聞こえましたか!?」『ああ!!西11リフトを使う!!乗ったらすぐ降ろすぞ!!』「了解!!35番開けてください!!」『アラァァァァァム(警報)!!!』「班長!!西3と5、7がやられました!!」「応援要請を出せッ!!」『メーデーメーデー!!こちらGプラント整備区画、リフト西3、5、7が破損!!補修部隊の支援を求む!!』『要請受諾!!Fプラント高射砲群のやらせてからそっちに回す!!持ちこたえろ!!』『それさっきも言ったよなあ!!』
(((修羅場だああああああ!!!)))
話しかけようにも誰に話しかければ、いや、話しかけていいのか分からなかったが、ただ突っ立ってるのもアレなので、
俺はそこで班長らしきエルフ族の男性に声を掛けた。
「すいません・・・あのお」
「ああ新入りか、よく来てくれた。大津に行け」
(たった三文で簡潔に命令された!?)
いきなり命令された。
だがそれも簡潔に、用件のみを伝えている。非常に分かりやすい。俺が国語の先生だったら花丸をつけている。
ていうか大津?
「何でですか?」
「大津からの弾薬類が遅れている。行って確かめて来い!!」
「わっ分かりました・・・でもどうやった行けばいいんですか?」
「ヘリに決まってんだろうが!!」
・・・・・へ?
「ヘリってヘリコプターですか!?」
「それ以外に何がある!?」
「空からフリークスが降ってきているこの状況でですか!?」
「ああそうだ!!甲板に何機かある筈だ。アヴェント!!ザジル!!」
「「はい!!」」
来たのは同じクラスのインキュバスと竜人、アヴェント・アーサーとザジル・バルボルドだった。
「班長、何ですか?」
「この三人を大津まで連れてけ!!知り合いだろう。後は任せた!!」
そう言って整備班長は作業に戻り、俺達五人がそこに残された。
・・・なんかすごい睨まれてる。気のせいかもしれないがすごく睨まれてる。
「お前は確か朽木・・・だったな」
口を開いたのはアヴェントだった。
「ああ、そうだが」
「・・・そうか、まあ話は後だ。とにかく行くぞ」
そう言って走り出したアヴェントを追いかける。その後にザーフ達が続く。
「自己紹介がまだだったな、私の名はアヴェントだ、よろしく頼む」
「ああ。よろしく頼む。アヴェントはヘリの操縦が出来るのか?」
「一応、幼少のころに教わった、親の仕事柄とでも言っておこう」
「当然だろうよ。なんせアヴェントは北海通運の跡とグバあああ!!」
ザジルの拳がザーフの頭に直撃し、倒れかけたのをラビラトスが受け取りそのまま走る。
「ああ、安心しろ朽木」
ザジルは言った。
「平常運転だ」
「平常運転なの!?」
すごい音したけど、というか竜人の拳って結構攻撃力あるんじゃあ。
「こいつには気絶させといた方が身のためだぞ。こいつと行動するときは特にな」
「・・・アヴェント、敢えて聞くが、何があった」
「死に掛けたとだけ言っておこうか」
・・・詮索しないでおこう。
「状況報告!!」「G3、4、5番生きています!!」『G7、復旧までもう少しまってくれ!!』「リフト5番、応急処置終了!!」
『こちら管制室、135号機を目視!!』「誘導灯点灯しろォ!!」『西11リフト開放!!』「作業員退避!!」「上から来るぞ、気を付けろ!!」『着床まで3・2・1』『逆噴射!!』『降着!!』『・・・着床を確認』「西11リフト下げろオオ!!」「リフトダウン!!リフトダウン!!」『こちら整備区画、収容を確認した。このまま七式一機、ミサイルガン積みの奴を上げる!!』「了解した!!」『G7カタパルト、復旧終了、いけます!!』『管制室、G7で七式を出す。誘導任せた!!』『了解した。準備する』『アテンション!!アテンション!! 発令所より山城基地各部署、琵琶湖方面より新たな敵の増援を確認した、注意しろ!!』「このタイミングでか!!」「対空監視怠るなあ!!」『Gプラント甲板部、ジョナス大隊第一中隊所属、第一、第二、第三小隊の十五式計12機、補給の降下する』「内訳は!?」『全機弾切れだ』「甲板で直接補給する。いいか!?」『あーちょっとまて・・・何だ・・・ああ・・・ああ・・・ウィザドニアの!?・・・分かったちょっと待てこっちの方先やるから・・・管制室了解。誘導は任した。降着しだい補給作業を行え』「甲板部了解、スペース開けろ!!直接補給する!!」『甲板部より第八層!!弾薬を上げてくれ!!』『了解、三番を使う!!』「三番装甲坂、開くぞ!!気を付けろ!!」
(((修羅場だああああああ!!!)))
俺達は階段を駆け上がり、甲板に続くハッチを開けると、そこは修羅場だった。
割とマジで。
「なあ、ザーフ・・・は寝てた。アヴェント、この状況でヘリのっていいのか?」
「ああ、だが思っていたよりひどいな。この状況で私が操縦すれば落とされるかもしれない」
「まいったなそれは・・・何か手は?」
「無いでもないが・・・ん?」
見れば、今まさに飛び立とうとしているヘリがあった。
「あれに乗せてもらおうか」
「いいのか?」
「任せておけ」
そう言ってアヴェントは駆け寄り、獣人族のパイロットに話しかけた。
「すいません、これは大津のほうに行きますか?」
「ああ、アヴェントか、なぜそんなことを聞く?」
「整備長に大津の方を確かめて来いって」
「整備長が?ようし分かった乗れ!!」
「朽木、乗るぞ!!」
俺達が乗り込み、ヘリは離床した。
開け放たれたキャビンスライドドアから落ちないように下を見る。
山城基地がどんどん離れていく。地平線の向こうでは戦闘の光が見えた。
「アヴェントもここで働いているのか?」
「ああ、バイトでな。甲板部での輸送作業や整備区画での雑務といったところか。技能も身つく上、給料もそう悪くないからな」
「なるほど」
みんなバイトしているんだな。もしかしたら、していないのは俺だけかもしれない。
「ついでに聞くけど、ザジルは何やってんの」
「俺か、俺はWG整備区画で整備そのものをやっている。WGを実際に整備できる機会は少ないからな、非常に役立っている」
「あれ?ザジル君って工業科じゃなかった?」
ラビラトスが聞いてきた。
「一年のころ主席だったけど。というか今も主席だけど」
「工業科で学ぶことについてはについては一年生の時全て履修した。まあでも何もしないのもあれだからな、暇つぶしだ」
「暇つぶし・・・」
暇つぶしの粋なのか?通常のバイトならまだしも軍事施設で兵器の整備のバイトを暇つぶしと言っていいのか?
それとも俺のこの世界における価値観が違うのか。
そう思った時、通信が入った。
『ヤマシロ・タワーよりG35、応答されたし』
「こちらG35、どうした?」
『単刀直入に言う、民間人を回収せよ』
「民間人?こんな時にか」
『ああ。それも曰くつきのな。そいつから回収要請があった。それ以上は言えない。今最も近くにいるのがお前達だ』
「了解、で、回収ポイントは?」
『浜大津総合学校グラウンド、急いでくれ、さきほどフリークスを確認した』
「型は?」
『ワイバーン型レベル1、一部タランチュラ型がいる可能性がある』
「タランチュラ型だと!?レベルは?」
『報告によれば3、が、まだ遠くにいる。今のうちにすませろ・・・あと』
「なんだ?」
『エルメス局長が・・・増援を出すと言った。注意しろ』
「・・・了解」
パイロットはこちらを向き、
「聞いたとおりだ。まあでも同じ方向だ、別にいいだろう」
「まったくもって問題ありません」
「それはよかった・・・行くぞ」
ヘリが左に旋回し始めた。俺は念のため、拳銃の弾倉を確認した。
「朽木・・・お前戦略機動隊所属なのか?」
ザジルが聞いてきた。
「ああ。戦技研で働いている。もっとも、先週入隊したばかりだがな」
「そうか・・・ということはお前は魔術師なのか?」
「どうしてそう思う?」
「戦技研は今深刻な魔術師不足だからな・・・ある程度の魔法技術を持っている奴なら大勢いるが、魔術師のように魔法術式を組める奴はそうそういないからな」
「その定義でいくと俺は魔術師では無いな」
それ以前に、この世界での魔術師の定義が可笑しい。魔法術式組めるやつが魔術師って、ハイレベル過ぎる。
「確かに俺の家は魔術師の名家だといえるけど・・・俺はただ魔力について研究していただけだ」
「魔力?魔法や魔法術式では無く?」
「ああ。それがどうした?」
「いや・・・」
機体が揺れた。
「回避!!回避!!」
左側を、ワイバーン型が抜けていって・・・・・散った。
「!?」
直後、四機のWGが飛んでいった。だがそれは、戦略機動隊所属では無い。
青紫色の、丸みを帯びた形状、見たことも無い機体だ。
ザーフが叫んだ。
「ウィザドニアのMark8(アハト)!?」
「ザーフ、起きたのか? いやいい、Mark8って?」
「ウィザドニア・インダストリアル製のWG、先行量産型ができてつい先日ウィザドニア国軍に配備されたばかりの最新型。でもあのカラーリングは恐らく王立学園所属だ!!」
「なぜそんなものがここに!?」
「わからん。大体、ここまでフリークスの侵攻を許したこと自体無い」
「いつもどこで戦っているんだ?」
「高槻の辺りだ。悪くて中書島まで」
「じゃあ相当攻め込まれているな」
「みんな!! あれを!!」
見れば、ヘリの進行方向、町が見える。浜大津だ。しかし、明らかにまずい。
「燃えてる!?」
町のあちらこちらで火災が発生している。規模は小さい。だが、
「このままだと町が全て焼けるぞ!!」
アヴェントが叫んだそばから、また町の一角が火を噴いた。よく見れば、町のいたるところにフリークスがいた。
その時、ザジルが叫んだ。
「横だ!!」
ヘリの右側、ワイバーン型がこちらに向かって突っ込んでくるのが見えた。
「どけえ!!」
そう言ってザーフは俺を押しのけ、片手で2メートルほどの長い筒のような物を構える。
対フリークス用の個人携帯型魔力砲だ。
「発射!!」
衝撃と共に緑色の光球が発射された。それはもの凄い速さで飛んで行き、ワイバーン型に直撃した。
ワイバーン型はバランスを崩し、下のほうに落ちていった。
「ワイバーン型がここまで来るとは・・・パイロット、浜大津総合学校はまだか!?」
「分かっている・・・くそ、ウィザードシステムが使えない!!」
「使えない!?」
俺は思わず聞き返した。
「使えないって!?」
「ああ。おかげさまで無線を使うしか通信手段が・・・あった!!10時の方角。確認した!!」
浜大津総合学校だ。だが、
「校内にフリークスを確認・・・・・発光信号!?」
空に緑色の光が上がった。校舎の間からだ。
それと同時にノイズまじりの無線が入った。
『じょ・・・のへ・・・聞こ・・・か・・・・・・える・・・・』
「周波数は185に合わせてください。民間用はそれです!!」
ラビラトスの指示通り、パイロットが無線のダイアルを回した。
『上空のヘリ、聞こえるか!?聞こえるか!?』
「こちら戦略機動隊。回収要請を出したのはお前か!?」
『リナイ様、通じました!!・・・そうだ、回収要請を出したのは私だ!!』
「そうか、グラウンドまで行けるか!?」
『なんとか行ける!!』
「こちらからも支援する!!・・・お前達も手伝ってくれ!!」
「「「了解」」」
その時、見た、前方、大きなクモのようなやつがいる。機械のような、生物のようなそれは明らかに
「フリークス!?」
「タランチュラ型だ!! 攻撃来るぞ!!」
そう言った時、赤色のレーザーがヘリのすぐ近くを突き抜けていき、山に直撃した。
「あんなものに当たったらひとたまりも無いぞ!!」
「分かっている。しっかりつかまれよ!!」
直後、タランチュラ型を緑色の光が貫いた。
「・・・・・へ?」
一つだけでない、二つ、三つ、合計四つの緑色の光がタランチュラ型を貫いた。
「何がどうなっている!?」
アヴェントの叫び、その解答として、俺の端末が鳴った。通信だ。出る。
『先輩、聞こえますか!? 聞こえますか!?』
「交野か!?」
上空から、何かが飛んできた、それは緑色のラインを描きながら向かってきて、目の前で停止し、ホバリングした。
それは騎士だった。
鉄でできた騎士だった。
灰色の装甲、バイザー型のセンサー、背中には羽のようなものが付いている。大きさは大体30メートルほど、
以前見たときはもっとがっしりとしていたが、今はスリムになっている。武装も前のようにごちゃごちゃしておらず、非常にシンプルな二つの剣のみになっていた。背中の羽からは緑色の粒子がでている。魔力粒子だ。バイザーが緑色に光り、こちらを捉えた。
俺はこれを、知っていた。
これは交野の、
「『ミュートゥス・ギア』・・・『ヴィントシュトース』か!!」
『はい先輩。エルメス局長に頼まれて応援に来ました!!』
「エルメス局長が・・・しかしどうやってここまで?」
『私が誘導しました』
その声は、
「アレサ!?」
『はい。交野さんと同じようにエルメス局長に頼まれて』
「まだ動けないじゃあ無かったのか」
『義体の方の調節にはまだまだ時間がかかりますが、意識は動けます』
『ウィザードシステムが使えないため、衛星を使って探したんです』
「操縦は?」
『久しぶりなので前より腕は落ちていると思いますが、行けます!!』
「分かった。今から民間人の回収を行う、完了するまで援護を頼む」
『了解!!』
通信が切れた。
「今の、同じクラスの交野か!?というかあれはなんだ!?」
ザーフが驚いた表情で聞いてきた。当然だろう。
「WGを超えるもの、とだけ言っておこうか。とにかく交野が援護している間に回収する。行って下さい!!」
「なんだかよくわからんが了解した!!」
上空から『ヴィントシュトース』が援護している中、機体が下降し、浜大津総合学校に向かう。校舎が見えてきた。
「ザジルとラビラトス、右の方の監視を頼む、見つけたら言ってくれ!!」
「何を見つければいいの!?」
「フリークス以外に決まっているだろうが!!」
機体はさらに下降し、校舎のすぐ上まで来た、が、
「ザジル、確認できたか!?」
「いや、こっちにはいない。グラウンドはどうだ!?」
「駄目だ、いない・・・どこに行った!?」
「グラウンドの向こう側!!」
アヴェントが言った方を見ると、走ってくる学生服姿が二人、一人は金髪ケモ耳の幼女、もう一人は緑髪の女・・・って
「リナイ!? イータ!?」
間違いない、しかしリナイ達が置かれている状況は非常にまずかった。それは、
「タランチュラ型レベル1、多数確認!!上から来ている!!」
「援護!!」
ヘリについてる機銃を撃つ。リナイたちに当たらない様に、しっかりと狙いをつける。
効果は無いかもしれないが、足止め程度にはなるだろう。
「このまま強制着陸する。気をつけろ!!」
ヘリが地面すれすれの位置まで降下する。リナイ達との距離は約100メートル。
「急げ、急ぐんだ!!早く来い!!!」
距離約50m。だがフリークスの方が速い。
「発射!!」
ザジルが個人携帯型魔力砲で一番近くの一匹を撃破する。
残り10m
「走れええええええええええ!!!」
リナイとイータがヘリに飛び込んだ。それと同時に俺は叫んだ。
「回収!!!」
「急速離脱!!!」
ヘリが一気に上昇し、高度を上げていく。眼下にはフリークス達で埋め尽くされようとしている浜大津総合学校のグラウンドがあった。
「このまま山城基地に向かって下さい。ここは危険です」
「同感だ。管制塔に連絡を入れる」
そう言ってパイロットは無線で呼びかけた。
「こちらG35、ヤマシロ・タワー、応答願う」
『こちらヤマシロ・タワー』
「民間人の回収に成功した。今から山城基地に帰投する」
『あー、もしかして・・・まだその空域にいるのか?』
「そうだが」
『G35、全速でその場を離脱せよ!! 繰り返す 全速で離脱せよ!!』
その時だった。無数の光が、フリークスの群れを貫いた。
「・・・へ?」
『先輩、上です!!』
交野からの通信、上を見るとそこには、
「航空艦!?」
それもただの航空艦ではない。
デカイ。
とにかくデカイ。
三胴型、長さは目算で15キロメートルはある。いやしかし、どっかでみたことがあるような・・・て、
「リナイ・イナク!?」
ギガル皇国第二航空艦隊旗艦、リナイ級リナイ型航空戦艦『リナイ・イナク』
まさにそれは先日淡路島で見たものだった。
(ギガル皇国の第二航空艦隊の旗艦が何故ここに!?)
だが、そんなに悠長はしてられない。
「全速離脱です!!急いでください!!いつ流れ弾が当たってもおかしくない!!」
「いや、それは無い」
イータが、否定した。
「何故そう言いきれる」
「私がこちらの存在を『リナイ・イナク』に伝えた。」
その言葉通りだった。
無数の赤い光がフリークスを貫きながらも、こちらを掠める光は一つもない。
本当のようだった。
「リナイ様がいるというのに・・・何たる不祥事、後で本国に連絡しなければ」
「大丈夫、無事、だから、伝えて」
「・・・そうでありました。ではそのように」
イータはリナイに向かってそう言った。
まるで王と王を護る騎士のようだ。
「・・・イータ、お前は何者だ」
「・・・ここまで聞いてしまえば仕方があるまい。答えよう」
イータはきりっとした声で言った。
「私は、ギガル皇国近衛軍所属、イータ・ナシュトゥル。そしてこちらにおられるのは」
一泊入れて、キメ顔で、イータはぶちまけた。
「ギガル皇国第二神にして、ギガル皇国皇位継承権第二位、ギガル皇国第二航空艦隊総司令であらせられる。『鉄神』リナイ・イナク様である!!」
俺は、リナイを見た。
そして気づいた。
目の前の金髪ケモ耳幼女から、大きな霊圧が出ていることに。
それに気づいたと同時に、リナイから神々しい雰囲気が出ていることにも気づいた。
それは、絶対触れては、犯してはいけない、領域、
聖域。
神聖なもの。
(本物だ)
目の前にいるのは、本物だ。
神だ。
本物の、神だ。
俺がそれについて半ば思考停止に陥っている中、ラビラトスが言った。
「ねえ、イータさん」
「なんだ?」
「それ、ばらす必要・・・あった?」
「「「・・・・・・・」」」
無いな、と、みんなの意見が一致した。
WRSSC−03『こんな夜分に何の用だ? Mark8の実践テストの報告は明日の筈だが』
WRSSC−02『緊急事態とも言うべきことが発覚しました』
WRSSC−04『緊急事態? 私達二人の『夜のお楽しみ』を中断して来たんだから・・・相当なことよねぇ、生徒会長』
WRSSC−01『お前らの嗜好なぞどうでもいい。副会長、説明を』
WRSSC−02『先ほど、実践テストを終えたMark8から送られてきた戦闘データを解析したところ、こんなものが』
WRSSC−03『・・・これは!?』
WRSSC−04『・・・へー、あっそう。そういうこと。確かにこれは『緊急事態』ね。副会長、あなたの見立ては?」
WRSSC−02『形状は異なりますが、恐らく『ヴィントシュトース』と推測されます』
WRSSC−03『『ヴィントシュトース』だと!?あいつは死んだ筈、だれも動かせるわけが・・・まさか』
WRSSC−01『交野勝が生きている、ということだ』
WRSSC−04『待ちなさい。何故、そう言いきれるのかしら? 『神の力』の中でも『ミュートゥス・ギア』は別よ。『選ばれし者』以外にも動かせる可能性は無きにしも非ずよ』
WRSSC−03『・・・何か、確たる証拠、またはそれに順ずる何かがあるのか? お前が確信できる何かが」
WRSSC−01『もう一枚の画像を出せ』
WRSSC−02『はい』
WRSSC−04『・・・・・あれまあ』
WRSSC−03『・・・・・どこでこれを?』
WRSSC−02『付近を飛行中のヘリからです・・・右目の眼帯など、細部は違いますが、恐らく』
WRSSC−03『・・・・・『彼』だろうな。間違いなく』
WRSSC−04『・・・ははは、何、あいつはまだ恥を、醜態を晒すつもりなの? あんな顔して・・・相変わらず愚かね、じっとしていてだれにも目を向けられずコソコソと生きていけばいいものを』
WRSSC−03『だがイレギュラーとしては十分だ。そうだろう?』
WRSSC−01『ああ』
WRSSC−01『仮にも歴史研究部の副部長を務めた男だ。用心するに越したことは無いだろう』
『朽木光男が復活した』
第十話、いかがでしたか。
今回は戦闘もあった為、いつもより長くなってしまいました。
次回は光男君のバイトの話をしようかと思っている次第です。
サブタイトルは、ゲーム『アーマード・コア5』のBGMから取らせていただきました、よかったら聞いてみてください。
この物語を読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。