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幻想機動輝星  作者: sabuo
序章 ある研究員の記録 『ZERO』 IS SLEEPING
13/74

第9話 初めての休日

第九話です

その日、朝五時に起きて、茜が仕掛けたであろうトラップ(爆弾)を解除し、シャワーを浴びたところで、

今日が休日であることに気づいた。

聖暦3017年 四月十三日。

土曜日である。

浜大津総合学校は通常の高校と異なり、週五日制。土曜日である今日は休みだ。

太陽暦と七陽暦を採用していることに今更ながら気づかされた。

「・・・どうしたものか」

食堂に向かいながら今日の行動を検討する。


A案 部屋で一日中寝る。


却下、茜に襲われる。



B案 研究室で魔力の研究をする。


却下、また何かやらかす可能性大。もう少し期間を開けるべきだ。



C案


茜とデート。


却下、前の時みたいに銃撃される。



・・・駄目だ、全く予定が立てられない。

というか、今日はもしかしなくても異世界生活初の休日ってことになるのか?

ならば、なるべく有意義に過ごしたい。

この世界で生活し始めてから四日、たった四日間で色々な事があった。

ここは一つ、自分の考えを整理するためにもどこか静かなところに行きたい。

そう、例えば海とか・・・






「行けました」

正確には海上だが。

ヘリポートの柵から下を見ると、そこには青色の海面があった。

午前十一時、俺はヘリで建設中のプラント連結式橋方海上要塞、『Akashi Large Bridge』に来ていた。

あの後、食堂でエルメス局長とばったり出会い、今日の予定などを相談した結果、紹介してくれたのがここだった。

(ご丁寧にヘリまで用意してくれた。マジ好待遇)

ちなみに、服装は、昨日貰ったはんてんにパーカー、ジャージというスタイルだ。

「・・・にしてもでかいなここ」

この海上要塞は、人間界の明石海峡大橋及び大鳴門橋と同じ位置、同じ長さに作られている。

まあ、そのほうが作るのが楽らしいのだが。

同じ長さといえ、明石海峡大橋や大鳴門橋より十倍ほど大きい。

一番大きい所で全幅500メートル。全高360メートル。

遠くから見れば大きな壁が海の上に浮いているように見える。

メインは鉄橋型のプラント、その両側に多くの立方体形プラントが連結されている。

橋は三段構造、一番下と上そして中段の両側にガイドレールが設置されており、それを使ってプラントごと移動させ、様々な形態に変形できるようになっているらしい。

それだけではない。

「・・・プラントが浮いている!?」

山城基地と同じく六角形(ヘックス)。それが橋の周りに浮いている。相当な数だ。

プラントとプラントの間では、WGやヘリが飛び回り、資材を搬入している。プラントの上にある物も様々だ。

宙に浮いた船を整備しているプラントもある。船が宙に浮いている時点で突っ込み所満載なのだが、しかしこれだけは言わせてくれ。


凄すぎである。

おまけに、明石大橋大橋と大鳴門橋と同じ位置に作っているから、メインである鉄橋型のプラントは二つある。

そのどちらも同じ構造になっている訳で。

(どうやったらそんなことが出来るのか・・・)

この世界は建築技術も発展している。

俺はそう思いつつ、橋の中段、居住区や管理区のあるエリアを歩く。

橋のいたるところで人間や魔族、神族が行きかい、ハンマーの音や溶接の火花が出ている。橋も残りは通信やエネルギーシステムの設置だけであり、その作業も最終段階に入っているそうだ。

中段を何分か歩いた後、プラント区画に足を運ぶ。ガイドレールを横断し、端から海を眺める。

ヘリポートで見たときと違い、より、水色に輝いていた。潮風の匂い。

(そういや、歴史研究部の面子と一緒に舞鶴に行ったことがあったな)

その際、海上自衛隊のイージス護衛艦が空から降ってきて山に落ちるとかいう奇妙な事件が起きたが。

まあまあ楽しかったと思う。

ん、イージス護衛艦を山に落としたのは誰かって?

はっはっは、そのようなことは知らないよ・・・それより君、ちょっとシベリアで木を数えるバイトをしてみないかい?

「先輩、それはバイトという名の追放なのでは・・・」

見れば、後輩の交野がいた。




「ああ、交野か。なぜここに?」

「いや、バイト先に忘れ物をしちゃって、それを取りに」

「バイト?」

「ええ、ここの資材搬送をやっているんです」

「資材搬送をか? ここは一応軍事施設のはずなんだが・・・」

「そこらへんフリーなんですよここは。現場監督の人曰く『機密を盗み出したところで実際に作れるわけが無い』そうで」

「なるほど」

こんなものそう作れるものじゃないって。

「しかしバイトとは・・・やっぱり学費か?」

「いえ、そっちは奨学金で。体を動かしたかったんです」

「そうか・・・前のお前なら絶対そんなことは言わなかったな。いい傾向だ」

「それについては僕も驚いています。一度死んでせいでなんだか色々吹っ切れたようで」

「それはよかった・・・俺もお前を見てなんだか安心したよ」

「それはよかった。これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ。頼りにしてるぞ」

「「ははははは」」


狙撃。


俺たちは柱の影に滑り込む。

「やっぱり来たな・・・視線の正体はあいつか」

「『仲のいい先輩と後輩作戦』成功でしたね。僕もおかしいと思ったんです。いつも起きると目の前に浅葱が拳銃を突きつけているのに今朝は何も無かったんですよ」

「じゃあ今のは浅葱か・・・というかお前の所もか」

「先輩の方は?」

「いつも起きたらナイフが首元に」

「姉妹そろって・・・どうして恋人を殺したがるんですかね」

「分からないし分かりたくも無い」

言ってるそばから足音が聞こえた。二人。

辺りに人はいない。襲撃には絶好の場だ。

「どう考えても茜先輩と浅葱ですね」

「茜は俺がやる。お前は浅葱を」

「了解」




5分後、付近を巡回していた警備兵が、海面に何かが落ちる音を聞いた。




「あれは少しやりすぎたかな・・・それにしても先輩、手馴れてません?」

「浅葱を速攻ダウンさせたお前が言うな。完全に三分クッキングだったろ・・・まあでも助けぐらい出しとけ」

「分かりました」

そう言って交野は端末で誰かと連絡を取った。

「今救援に向かってるそうです・・・本日三十五度目の」

「どんだけ人落ちてんだよ!!」

まあいい。ここまではいつも通りだ。平常運転だ。

俺は本題を言う。

「なぜ俺たちはこの世界に来たのか、お前はどう思う?」

交野はちょっと考えて、真剣な顔で言った。

「分かりません」

「だよな」

予想はしていた。

「一応先輩が寝ている間、精神統一とかして『探り』をしてみたんですけど・・・」

「何も感じられなかった、と」

「はい。むしろ・・・静かで」

「静か?」

「はい。前のときはいつも何か感じたんです。けどこの世界の場合、何にも感じられないんです」

「待った。それはもしかして、『探り』をしていない時もか!?」

「はい。まったく何も聞こえず、感じないんです。僕がこの力を本当の意味で制御しきれてないのかも、と思ったんですが」

「ありえないだろうそれは、お前はあの時自分を認めたんだ。制御できないはずがない」

「そうですよね・・・となると、最後に考えられるのは」

「息を潜めている・としか考えられないからな」

恐らくこの世界の魔力は俺達が元いた世界より多い。それなのに交野が何も感じられないというのはおかしい。

潜んでいる。

「浅葱はどうだった」

「だめです。浅葱も何も感じられません」

「そうか・・・」

進展、無し。

「まあでも、いずれ分かると思いますよ。なんとなくそんな気がします」

「・・・本当に成長したな、お前」

「そうさせてくれたのは先輩です」

交野は明るい顔で続ける。

「いつも下ばかり見てた僕の目を、上に向けてくれたのは朽木先輩です。そのおかげで、僕は希望を持てるようになったんです」

「・・・そうか、安心したよ」

本当に、そう思う。

「先輩、このあと暇ですか?」

「ああ、そうだが」

「じゃあ、一緒にこの海上要塞を見て回りません?僕の忘れ物をとった後で」

「そうさせてもらおうか・・・で、本音は」

「黒崎シスターズ」

「ですよね」

再度襲撃してくる可能性は十分ある。

「じゃあ、いきましょうか」

交野の背中を見ながら、思う。

(交野、その希望は忘れるなよ。それは、忘れてはいけないものだ)





大きな影がある。

長さにして、約15キロ。

幅は、最大で約450メートル。

その上には当然、日光を遮る物体がある。

あった。

全長約15キロ。全幅約450メートルの、航空戦艦が。

「・・・・・は?」

淡路島航空基地。

二つの鉄橋型プラントの接合部分がある淡路島。

その瀬戸内海側の沿岸部には、航空艦の地上ドッグがある。

そこに作られた岸壁から、俺はそれを見ていた。

三胴艦、それだけでも凄い。もっと驚くのは中央後部。八個、いや八枚の飛行甲板が羽のように展開している。

左舷艦、右舷艦の側面外殻装甲が開き、巨大なカントリークレーンが展開し、空中で航空艦の整備を行っている。

甲板上では物資の搬入作業が行われているらしく、時たま小さな輸送艦やヘリが航空戦艦から飛び立っていく。

下からではよく見えないが、甲板の上には多数の航空巡洋艦などがランディングギア(着陸脚)を展開し、着床している。

周囲をWG一個中隊、計24機が旋回し、周囲の警戒を行っている。

それだけではない。周辺の空域には多数の航空巡洋戦艦や航空護衛艦などが飛行している。

素人でも分かる。

大艦隊だ。

「なんじゃこれ・・・」

『その疑問、お答えしましょう』

声が聞こえた。端末がいつのまにか起動している。画面の中には、

「アレサ!?」

アレサの顔が映っていた。

『はい。やっと通信規制が解除されました』

「そうか。それはよかった」

昨日からアレサは戦技研に連れ去られたまま何の音沙汰も無かったが、

「そうか、無事なんだな」

『ええ・・・体は改造されましたが』

「マジ!?」

『全身義体化です』

「どこの公安九課所属のサイボーグだよ!?」

まあいい。冗談と詳しい話は後で聞くとして・・・

「あれ、何?」

『あれはギガル皇国の第二航空艦隊ですね』

「ギガル皇国? なんでこんな所にいるんだ?」

『不明、ただ第二航空艦隊は普段国内の警戒を行う艦隊ですのでそれ相応の理由があるかと』

「そうか・・・あの馬鹿でかい三胴形の航空戦艦は?」

『ギガル皇国第二航空艦隊旗艦、リナイ級リナイ型航空戦闘母艦一番艦『リナイ・イナク』。全長約15キロ、全幅約500メートル。表層甲板に多数の航空艦を搭載可能。WG一個師団を収容可能。多数の魔力砲、及びミサイル発射管を搭載。リナイ級のネームシップです』

「覚悟はしていたけど・・・末恐ろしいなおい」

全長約15キロ、しかも第二艦隊旗艦って、第一艦隊旗艦はどうなってんだ。

・・・てあれ?

「今、リナイ・イナクって言わなかったか?」

『はい、それが?』

「いや・・・」

クラスメイトの中にリナイ・イナクっていたよな。何か関係性があるのだろうか。

何かあるのは間違いないだろうが。

「けどあれ、航空戦艦ということになっているけど、どう考えても移動要塞だろあれ」

『そう思うのも仕方が無いかと、なぜならあれは単艦で、『戦域を制圧する』ことを前提に作られていますから』

「まずあれが戦域に突入。戦域を確保した後、艦を拠点化。後から来る航空艦の指揮、補給を行う。こんなところか?」

『はい。それ故、リナイ・イナク単艦で作戦行動をすることはあまりありませんが、しかし』

「それは戦域を円滑に制圧するためであって、リナイ・イナクそのものの攻撃力は決して低くないと」

「そういうことです」

俺が下した結論は一つ。

「この世界ヤバイ」

『予測どおりの返答でした』

予測されてた。

『まあそれはいいとして、交野様はどちらに』

「ああ、あいつか。あいつは物資集積所に忘れ物を取りに行ったけど・・・」

「ああ先輩、そこでしたか」

見れば、そこに交野がいた。

「おう。意外と遅かったな」

「すいません。探すのに手間取って」

「忘れ物か・・・ちなみに何を忘れたんだ?」

「えーと、何て言えば良いのか・・・取り合えずこれを」

交野が見せたものは。

双剣だった。

両方とも形も色も同じ。黒塗りではないが、柄がない。鉄がむき出しだ。それ以外は普通(?)なのだが・・・

知っている。俺はこれを知っている。

雰囲気でも、直感でも分かる。これは、ただの武器ではない。

「・・・交野君。私の脳内検索にこの双剣に似たようなのが挙がっているんだが。敢えて聞こう。これは何だ」

「先輩の予測どおりだと思いますが・・・」

交野は言った。

「『ソニックブラスト』・・・の武器です」





『選ばれし者』それぞれの『神の力』は、それぞれ異なった防具、異なった武器、異なった能力など、それぞれ違っていたため、分かりやすくするために、武器や防具を一括して名前を付けた。

交野が持っている『神の力』。それが『ソニックブラスト』だ。

名前の付け方は突っ込まないでやって欲しい。本人もがんばって考えたのだから。

防具は甲冑に似たようなものだが、兜が無かった。武器は双剣。

こいつには固有の能力がある。

『加速』

文字通り自分の動きを早くするのだが。交野の場合、元より剣の才能があったらしく、さらに『加速』の能力が付加される事で、

完全にどこぞやのライトセーバー使ったりフォース使ったりしている人になっていた。

おまけにこの『ソニックブラスト』発現時の武器であるこの双剣は、戦闘中にビーム刃を形成するため余計そう見える。

「見つかったときは目も当てられないような状態で・・・戦技研に直してもらったんです」

「戦技研が?」

「ええ。なんでも『参考になる』そうで」

「なるほど」

やっぱりそう思うよな。

「ってあれ、お前防具はどうしたんだ?」

「防具もあるのはあるんですが・・・修復不可能だそうです。この双剣も収納機能は失われています」

「じゃあ今は、こいつが『ソニックブラスト』そのものって訳か・・・」

「そうなんですけど・・・実は」

「・・・まさか『ミュートゥス・ギア』もあるのか?」

「・・・はい」

・・・マジかよ。

「今はどんな状態だ?」

「さあ。一応山城基地の地下にあるはずですよ」

「そうか」

暇なとき見てみよう。

「じゃあ先輩。そろそろ・・・」

そう言った時、交野の端末が鳴った。

先輩、すいません、と、言ってから交野は通信に出た。

「あ、はい。交野です・・・今週の書類? それならもう提出したはずなのでは?・・・出ていない!?・・・分かりました。今そちらに向かいます」

「何か問題でも?」

「ええ、すいません。すぐ終わらせてきます」

そう言って、交野は来た道を走っていった。

視線を海のほうに戻そうとしたとき、ふと、岸壁に接岸している艦の方を見た。

空母だろうか、艦の後部に飛行甲板が見える。前甲板に三連装砲らしき物が搭載されている。

(・・・というかなんだろう、なぜか違法建築めいたものを感じるんだが・・・うん?)

艦首、作業服を着た一人の女子が見えた。知っている顔だ。

黒髪褐色。頭から猫耳を生やしている。それは、

「タリ・タリヌ?」





以外と大きかった。

それもそのはずだ。こいつの全長は、

「852メートル・・・だと?」

近江(おうみ)山城(やましろ)』と言うらしい。

正式名称、アルマダ級山城型航空巡洋艦一番艦改『近江(おうみ)山城(やましろ)

全長852メートル。全幅100メートル。

兵装は三連装50センチ魔力砲五基十五門、ミサイル発射管50基、魚雷発射管12基、多数の対空砲を装備。

大和型戦艦の前に伊四〇〇型潜水艦をくっつけて、艦の後部と両舷を空母の航空甲板で挟み込んだような形をしている。そのせいか、艦の後部辺りは三胴式になっている。

これで巡洋艦って。

でかさは旧日本海軍の『大和』を越している。

しかもよく見れば、複数の艦をくっつけて建造したらしい。

違法建築とかそういうレベルじゃない。オーバード違法建築だ。

誰だよこんな艦設計したやつ。

まあいい。とにかく俺はそれに乗り込み(警備の人は俺が端末を見せるとすんなり通してくれた)、甲板に上がった。

居た。

艦首に一人、佇んでいた。

「・・・よう」

俺が声を掛けるとタリヌは振り返って。

「・・・同じクラスの朽木光男」

「・・・ああそうだ」

「・・・・・」

「・・・・・」

気まずいいいい。

予想はしていたけどここまでとは、

ヤバイ。こいつ、まじで静かだ。自分からは絶対に発言しないやつだ。

だが、このままでは撤退しようにもできない。気まずすぎる。

仕方がない。

(コミュニケーション能力、最大!! なんとしてでも会話を成立させてやる!!)

「・・・ここで何をやっているんだ」

「バイト」

「何のバイトなんだ?」

「清掃」

それは本来乗組員の仕事なのでは

「そうか・・・何のために」

「祖国にいる家族のため」

理由が重過ぎる!!

だが、進展はあった。

「一つ、聞いていい?」

「なんだ?」

「人のことを聞きまくるあなたは所謂・・・ボッチ?」

「・・・いや違う。ただ暇なだけだ。お前もそうだろ?」

「・・・否定はしない」

しないんかい。だが、その後の質問に俺は驚いた。

「朽木光男、あなたは夢についてどう思う?」

「!!!」

心に釘を刺された。

その質問は、いたって普通なのだが、しかし、俺の心はその質問に、釘を刺された。

なぜかは分からない。そもそも今のこの気持ちを、どんな表現が最適なのか、なんと言って良いかわからないが、

心に釘を刺された、と思った。

比喩的で支離滅裂な文章ですまないが、俺だって精一杯表現しようとしてるつもりだ。混乱している。修正が必要だ。

ともかく俺は答える。

「一種の希望のようなものだと思う」

「そう」

そういってタリヌは、俺の目をじっと見た。

十秒ほど見つめて、タリヌはこう言った。

「割れてる」

「・・・割れてる?」

いったい何がだ? 何が割れてる?

「砕けていたものが二つになり、今に至っている」

「それはいったい、なんだ?」

「分からない。だから私は質問する」

タリヌは質問する。

「あなたは何故、自分を保っていられるの?」

「・・・どういう意味だ」

「あなたはすでに一度死んでいる」

ドキリとする。

何年も感じたことは無かった、感覚だ。

俺は質問を続ける。

「どうしてそう思う?」

「当て勘、でもあなたの反応を見ると図星のよう」

嵌められたあああ!!

こいつ、鋭い。静かなだけじゃない。洞察力とか観察力が半端じゃない。

何者だ?

「まあ、深くは追求しない」

「・・・そうしてくれると助かる」

「一つ、アドバイス」

「?」

「『古城荘』の警備のバイトをやることをお勧めする」

古城荘? どこだ? いやそれ以前になぜ警備のバイト?

「なぜ勧める?」

「分からない」

そう言って、タリヌは俺の方に足を上げ、歩こうとし、

足元のバナナの皮を踏みつけて見事に後ろに転んだ。

場所は艦首。

後ろは海である。





俺の判断は正し・・・く無かった。

下は海なのだから、落ちても即死というわけではない。第一、彼女は人間ではない。人間より身体能力が高い筈。

それに、そんな事も考えず飛び出した俺だってバナナの皮を踏みつけ、見事に前につんのめって、艦首から落ちた。

やっちまった。

眼前に海が見える。落ちていくタリヌも見える。どうがんばってもタリヌには届かない。そこでようやく先ほどの判断が正しくなかったと気づく。だがもう遅い。俺とタリヌは重力に引っ張られ、海に落ちていく。

まあでも即死ではない・・・と思ったが、そういえば俺は泳げないことを思い出した。

落ちて浮き上がらなければ死ぬ。普通に考えればそうだ。最悪なことに俺は泳ぐどころか、水に浮くことすら出来ない。

これぞまさに

(絶体絶命ってやつかあああ!!)

よくもまあこんな状況でこんない早く思考できたなと思いつつ、落ちていく。

落ちて落ちて落ちて緑色の軌道が見えて落ちて落ちて落ちてタリヌの姿が消えて落ちて落ちて落ちて岸壁がえぐれ落ちて落ちて落ちて、

着水・・・しなかった。

吹っ飛ばされた。そして、地面に落ちた。

「・・・なんとか間に合ってよかったです、先輩」

見れば、息を切らした交野が座り込んでいた。

手には、緑色のビーム刃を形成している双剣があった。

「・・・交野か。今のはやはり」

「『加速』です。防具が無いせいで衝撃が吸収されませんけど」

「多用はできないか・・・能力自体は衰えてないようだな」

「はい。ただ先輩も言ったとおり多用は出来ませんよ。体が持ちません」

「だろうな」

あんな超加速+機動力。防具なしでやれるほうが凄い。そもそも制御すら出来ない。

それを生身でやるとは、純粋に交野はすごいと思う。

それはさておき、

「おーい、大丈夫か?」

俺は地面に寝ているタリヌの身を起こし、揺さぶってみると、目を開けた。

ずっと空を見ていたが、顔をこちらに向け、俺を確認すると。

「これが所謂(いわゆる)、『親方!! 空から女の子が!!』」

それを聞いた俺と交野は、互いに頷き、結論を下した。

((こいつ、不思議ちゃんだ!!))





その後、タリヌは「仕事」とだけ言ってどっかに行ってしまった。俺と交野は基地内の食堂でうどんを食い、山城基地に帰った。

夕食の時、茜がナイフで刺そうとしてくるのを対処しつつ、エルメス局長に古城荘の警備のバイトについて聞いてみた。

本当にあった。

業務内容は夜十時から翌日の五時まで。期間は一日でもいいらしい。

一日一万G、日本円で一万円((ゴルド)と円は同価値)

一日だけでも良いならスケジュールに簡単に組み込める。やりながら勉強するのもありだ。

睡眠時間を削らなければならないのは痛いが仕方が無い。

いろいろと経験できるだろうし、給料はこちらの世界でもいい方らしいので、こんどやってみようと思い、俺は就寝して、この世界に来て初めての休日は終わった。





油断していた・・・と言えばそれまでだ。事実、そんなノリで俺はそのバイトに応募したのだ。

もっと考えるべきだった。何故こんなに給料が高いのか。考えて、契約書をよく見るべきだった。

結果的に俺は、経験することになった。経験してしまったのだが、それはまた別の話。







第九話、いかがでしたか。

光男君にとってこの世界初の休日ということで、アクションは少なめに書きました。

この物語を読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。

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