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初期練習作(短編)

案の定

 僕は荷物を小脇に抱えて疾走している。

荷物はそんなに大きくなく、

大して走る邪魔にはならないのが、せめてもの救いだ。

中からは小さくコチ、コチ、と時計のような音がする。

僕はこのゲームに参加し、大金を貰う約束をしている。

ただ参加するだけで良いらしい。

もちろん勝てば、上乗せの賞金をいただけるそうだ。

ゲームは簡単。走って逃げて、制限時間中に、

追っ手に捕まらなければ勝ちだ。

制限時間は分からないようになっている。

ランダムで決まっているとの説明があった。

時間がそこまで長くないというのは、

今までの大会を見ていても分かる。

長くても3時間ほどと、常識的な範囲におさまっている。

それまで荷物を大事に持っていれば良い。

さあ、あとは走るだけだ。

風が呼んでいる。ぜひ友だちになろう。


 しばらく経つと、追っ手が追跡を開始したという意味の

サイレンが鳴り響く。

大丈夫。スタート地点から、すでにけっこう離れている。

僕は、走りには自信があるよ。

何せ、6年間も陸上部に所属していたのだから。

マラソンの持久力は、だいぶあると思う。

まあ、マラソンは花形種目だったから、

僕は選ばれなくて走り幅跳びだったけど……

僕の目からは汗が出てきた。


 さらに走って行くと、大きなサバンナに出た。

地平線まで見渡せるほど広くて、風が心地よい。

今までは林の中に、舗装された道が続いていた。 

ここまで視界がよいと、隠れる場所もなさそうだ。

僕は逡巡したが、思い切って草原に飛び出した。

とにかく遠くまで逃げ切れば良い。

追っ手も走るしかないから、相手が追いつけなければ僕の勝ち。

しかし、ライオンに襲われたらどうしよう……

僕はちびりそうになった。


 「32番の選手、草原に到達したようです」

フィールドにあるカメラの情報を、本部がテレビ映像で伝える。

この競技は衛星放送によって、全世界に生中継されている。

大会本部にも観客の熱気が伝わってくる。

今は双方向のメディアが発達しており、

視聴者からのコメントが殺到していた。

「あれ大学交流戦で、走り幅跳びだった人じゃない?」

「彼の荷物、何だろうねー」

「そうそう、助走中に転んでた人だっけ……」

匿名コメントによってひどい扱いを受けている。

まだ過去が消えていなくて、可哀相である。

しかし今を走る彼には、そのことを知る術がない。

観客など、競技者にとってはただの幻想に過ぎない。

なお、彼の荷物の中には、爆発物が入っている。

時間になると、白いクリームが飛び散り、

観客の笑いを誘うという趣向である。

選手それぞれに用意されているものが違っていて、

ジョークのようなものもいくつかあるし、

非常に体力がある人には重いものを持たせる場合もある。

それ故、人気のあるテレビ番組なのであった。


 彼は制限時間ギリギリまで粘り、結局賞金を逃してしまったが、

大蛇の尻尾を踏む、荷物をうっかり池に落とす、女の子に騙される等、

視聴者からの注目を集めるトラブル続出により、たちまち人気が出た。

その為、この競技以降、彼はテレビでひっぱりだこになり、

いつしか天然系コメディアンとして有名になるのであった。

人生は、どのように転ぶか分からない。

彼は無限の可能性に満ちている。

過去に陸上のコーチは烙印を押したが、そうテレビ局の人間は評価した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すーっと、文章が入ってきました。また読みたいです。
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