ちびふくろうの成長
その日の黒猫はネズミを沢山つかまえました。
自分が食べるよりも多くのネズミをつかまえてしまったので、差し入れを持っていくことにしました。
「ひさしぶり~」
持っていく先はもちろんふくろうのお母さんです。
「あら、久し振りね坊や」
「うん。今日はネズミがいっぱいとれたからちびたちに差し入れ」
「あらあら! ありがとう!」
お母さんは大喜びでした。
「最近ほんっと際限なく食べちゃうから困ってたのよ。あたし一人だと限界があるしねぇ」
「お父さんは?」
と、訊くとお母さんはギロリと目を据わらせました。
「ひうっ!?」
黒猫が反射的に後ずさります。
「あのバカは『俺には新たなる冒険が待っている!』とか言って飛び去っていったまま帰ってこないわよ」
「……ごめんなさい。嫌なことを思い出させたよね」
「坊やのせいじゃないから気にしなくていいわよ。女手一つで子供を育てるのも結構大変だけど、恨み言をいう暇があったら餌を取ってこないとチビ達が育たないからね。頑張るだけさ」
「うん、そうだね」
それを見た黒猫は立派なお母さんだなあと思いました。
「チビども~。差し入れだよ~」
黒猫は持ってきた三匹のネズミを小屋に放り入れます。
「あ、黒猫のにーちゃんだ」
「差し入れさんきゅーっ!」
「ありがたくいただきます」
三羽のちびたちは仲良く一匹ずつ食べています。
前と同じであっという間に平らげてしまいました。
「でもだいぶ大きくなったよねぇ」
小屋の中にいる三羽のちびふくろうを見て黒猫がしみじみと言います。
最初に見たときはまだ子供だったのに、しばらく来ないうちに目はぱっちりして羽根はふさふさになって、大人の姿に近づいているのが分かります。
「もうすぐ巣立ちの時だからね。そろそろ餌の量を制限しないといけないかも」
「そうなの?」
「自分で取ってこられるようにしないとね。いつまでも親に頼り切りじゃ一人前になれないでしょ?」
「そうだね」
さすがに子供を育てるお母さんの言葉は重みが違います。
黒猫は一人きりですが、それでも短くない時間を一緒に過ごしたお母さんの記憶が残っています。
あの温もりが、ときどきたまらなく恋しくなる日があります。
「巣立ちの日には是非とも見送りに来ておくれよ」
「うん。絶対に来るよ」
小さなふくろうが一人前になったところを黒猫も見てみたいと思いました。
「じゃあぼくはもう行くね」
お母さんとちびたちに見送られながら、黒猫は空へと飛び立ちました。
お父さんのお話はタブーのようです。
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