子猫と黒猫
「にゃー……」
弱々しい鳴き声が耳に届きました。
「ん?」
日課になっている空中散歩をしていた黒猫は、か細い泣き声を耳にしました。
「た、大変っ!」
大きな木の枝に白い子猫が乗っかっています。
泣きながら震えて下を見下ろしていました。
「だ、大丈夫!?」
「うー、こわいよぅ……おりられないよう……」
どうやら子猫は高い所まで登って降りられなくなったようです。
黒猫は子猫を助けるために同じ枝へと着地しました。
「大丈夫。ぼくが降ろしてあげるから」
「ほ、ほんとう?」
「うん。本当だよ。じっとしていてね」
「う、うん」
黒猫は子猫の襟首をぱくんとくわえます。
あごの後ろにある皮膜は痛点が鈍化しているので、痛がることはありません。
「じゃあ降りるよ。大人しくしていてね」
「うん」
黒猫に言われた通り、子猫は大人しくしていました。
黒猫は翼を広げて飛び立ちます。
「わ、とんだっ!」
「うん。ぼくは飛べるからね」
黒猫はふわりと地面に着地してから子猫を降ろしてあげました。
「はい、もう大丈夫」
「ありがとう!」
「どういたしまして」
もう高い所に登ったら駄目だよ、と言ってあげたいのは山々なのですが、猫は安心を求めるために本能的に高い所へ行きたがる習性があるのでそれは無駄なのでした。
同じ動物である黒猫にはそれがよく分かっています。
昔から猫は高い所が好きで落ち着く性質を持っています。
これは猫が野性だったころの名残で、森の中で暮らしているときに地上から敵に襲われにくい場所として木の上に登っていたようです。
そこで眠ったり、また外敵に襲われそうになったときも木に登れば避難することが出来る為、本能レベルで高い所を好む傾向にあるのです。
この子猫も意識しないところで『高い所は安全で落ち着く』という本能に従ったのでしょう。
ある程度成長した猫は高いところから落ちたときの着地はとても上手なので問題はないのですが、この子猫にはまだ早かったようです。
「いいなあ、いいなあ。お兄ちゃんのつばさ、ボクもほしいなあ」
「ごめんね。これは他の子にあげられるようなものじゃないんだ」
キラキラと目を輝かせる子猫に、黒猫は申し訳なさそうに言いました。
「そうなの?」
「うん。流れ星に願えばもらえるかもしれないよ。ぼくはそうやってこの翼を手に入れたから」
「うんわかった。こんど流れ星を見かけたらねがってみるよ!」
「手に入れられるといいね」
「うん!」
子猫に見送られながら黒猫は再び空を飛びました。
心の翼を広げる黒猫の背中を、子猫は見えなくなるまでずっとずっと眺めているのでした。
ほのぼの話。
黒猫と子猫のにゃんこ祭り。
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