カラスとの競争
今日はゴミの日です。
「ごっはん~、ごっはん~」
黒猫にとってゴミの日はごはんにありつける貴重な日でもあります。
台所シンクの生ゴミは論外ですが、それ以外にも魅力的なごはんがたくさんあります。
食べかけのお弁当や、賞味期限切れの食べ物など。
人間にとっては用済みの食料も、黒猫にとっては貴重なごはんです。
賞味期限切れ上等! なのです。
うきうきわくわくしながらゴミ捨て場にやってくると、山積みのゴミ袋がありました。
「美味しそうなものないかな~」
黒猫はそれら一つ一つを確認しながらごはんを探します。
食べかけのポテトチップスを器用に取り出してからぽりぽり食べました。
「ちょっと湿気てるけど美味しい!」
普段捕まえているネズミやスズメも美味しいのですが、やはりきちんと加工された食べ物の味は別格です。
「こら、ここは俺達の縄張りだぞ。どこの誰だか知らないけど勝手に荒らすなよ」
「え?」
ポテトチップスを食べているところで声をかけられました。
振り返ると、そこには五羽のカラスがいました。
「縄張り?」
「そうだ。知らないってことはお前、新参だな?」
カラスが偉そうに言います。
「確かに新参者……というか新参猫だけど。でもゴミはいっぱいあるんだからそこまで独占しなくてもいいじゃないか。ぼくは君達の分まで奪い取ったりはしないよ」
カラスたちと争うつもりのない黒猫はそう言います。
喧嘩はよくありません。
仲良くすることが大事です。
「そういう問題じゃない。ここは俺達の縄張りなんだ。他の奴にどうどうと荒らされる訳にはいかないんだよ」
「別に荒らしてるつもりはないんだけど」
ほんの少し食べ物を分けて貰っているだけです。
黒猫がいたところでカラスたちの分が無くなるわけではありません。
しかしカラスは納得してくれませんでした。
「とにかくここに来ることは許さない。どうしてもここのゴミが欲しければ俺を倒してから奪うんだな」
「えー……」
黒猫はすごく面倒臭そうに呻きました。
喧嘩は嫌いです。
「じゃあこうしない?」
傷つけ合うことを避けたかった黒猫は、一つの提案をカラスたちに持ちかけました。
それは空を飛ぶこと。
この場所から町を一周して、先にもう一度この場所に辿り着いた方が勝ちます。
「空を飛ぶだって? お前、猫だろう?」
カラスの一羽が怪訝そうに呟きます。
「確かにぼくは猫だけど、でも飛べるよ。ぼくには心の翼があるんだから」
そう言って黒猫は心の翼を広げました。
実体のない光る翼は、黒くて綺麗な、カラスにとてもよく似た翼でした。
それを羽ばたかせて飛び上がりました。
「ぼくが勝ったら一緒にここを利用しよう。君達が勝ったらぼくはここを諦める。それでどう?」
「………………」
飛んでいる黒猫を見てカラスたちが唖然となります。
信じられないものを見ているようです。
「……いいだろう」
しかしリーダーのカラスが先に落ち着きを取り戻しました。
何故空飛ぶ猫が存在するのか、それを考える前に、まずは持ちかけられた勝負に勝つことが大事だということに気付きました。
「ここから町を一周して、もう一度この場所に戻ってくる。先にたどり着いた方がゴミ捨て場を自由に出来る。これでいいな?」
「うん。ぼくが勝っても君達を追い出したりしないよ。一人じゃ食べきれないぐらいたくさんあるんだし、出来れば仲良くしたいしね」
「それは助かるが、俺達が負けたとしてもお前と共存するつもりはないぞ」
「それはまあ、仕方ないよね」
黒猫は小さく肩を竦めるだけでした。
こちらが仲良くしたいと思っていても、相手が同じように思ってくれるとは限らないのです。
「じゃあ始めようか」
「うん。こっちの準備はいつでもオッケーだよ」
リーダーがそう言うと、黒猫も地面に着地して再び飛び上がる準備を始めました。
「よーい」
「どんっ!」
残りのカラスたちが声を上げて、
「せいっ!」
「でやあっ!」
リーダーのカラスと黒猫が地面を蹴って空に飛び上がりました。
縄張り争い、みたいなのって他の動物同士ではどうなっているのかなぁ。
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