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プロローグ 《突然の死!》

 『夕飯はカツカレーにしよう』

 そう思わなければこうはならなかった。

 何がどうなったのかを簡潔かつ端的に言うと、俺は死んだ。

 俺こと、神凪(かんなぎ) 真人(まさと)は死んでしまったのだ。



 それにしても死に方が呆気(あっけ)無さすぎる。

 階段から転げ落ちて死ぬなんて、人間て意外と脆弱(ぜいじゃく)なんだな。

 『階段からの転落死』は聞いたことならあったが、実際に自分の身に降りかかると、悲しいとか恰好悪いと感じるよりも先に、すごくびっくりした。それはもう、すぐには信じられ無かったさ。

 だが、すぐに信じざるを得ない状況になった。



 「お前は死んだのだ」

 俺の目の前で脚を組んで玉座に収まっている女性がそう言った。

 よく見ると後光っぽいものを放っている。彼女がこの世を統べる“神様”だ。

 個人的な神様のイメージといえば杖を持ったおじいさんや、黒服の美青年、緑色の異星人なのだが、本物が女性だったとは。

 それにしても凄い美人だな、どう表現すればいいのか解らないけど、とりあえず『人外的な美貌』と言っておこう。神様は人間じゃないからそれが正しい表現だと思う。

 「お前、やけに落ち着いているな。普通の人間なら死を受け入れられず、阿鼻叫喚(あびきょうかんするというのに……」

 俺がその美貌を観察していると、神様が話しかけてきた。

 「ええ、まぁ…物解りは良い方なんで……」

 まさか、『貴女の美貌に見惚(みと)れていました』と正直に答えることは出来ないので、適当に誤魔化した。

 「はぁ……」

 神様が溜め息を吐いた。

 俺が見惚れていたことに気付いて()きれてしまったのだろうか。

 どうやって謝ろうかと考えていると、神様は難しい顔になった。

 「あのな、何と言えば良いか……まずは、済まないことをした」

 「こ、こちらこそ済みませんでした!」

 神様の急な謝罪に驚いて俺も謝ってしまったが、“済まないことをした”というのは一体どういう意味なのだろう。

 


 神様は俺の反射的な謝罪に一瞬だけ驚いたようだったが、すぐに顔を逸らしてうつむいてしまった。

 “済まないことをした”というくらいだから、何か言いにくい事なのだろう。

 俺は自分からは聞かず、神様の言葉を待った。

 しばらくすると、神様は組んでいた脚を(そろ)えて俺に向き直った。

 神様は軽く咳払いをすると、こう言った。

 「神凪真人、お前は死ぬ運命ではなかった」

 その驚くべき言葉を聞いて、俺はまるで時間が止まってしまったかのような感覚に囚われた。

 『お前は死ぬ運命ではなかった』

 その言葉が頭の中で何度も繰り返される。

 『お前は死ぬ運命ではなかった』

 ――そうか、俺は死ぬべきして死んだんじゃなかったんだな。

 『お前は死ぬ運命ではなかった』

 ――そうだよな、階段から転げ落ちて死ぬなんて俺の最期に相応(ふさわ)しくない。

 『お前は死ぬ運命ではなかった』

 ――じゃぁ、何で俺は死んでいるんだ?



 「じゃぁ、何で俺は死んでいるんだよ!!」

 その疑問は、言葉となって俺の口から発せられていた。

 「それは……私のミスで………」

 「ふざけんなよ!」

 俺は神様を怒鳴りつけていた。

 「お前、神様だからって人間をナメてんじゃねぇぞ!」

 怒りの感情に支配された俺は、それだけは止まらずに神様を罵倒(ばとう)し続ける。

 「神様なんだから人間の一人間違って殺したくらいどうってことないよな!人間の命なんて尊いと思ったことなんて一度も無いんだろ!そうだよな、神様だから尊ばれることはあっても、尊ぶ感情が存在しないんだよな!!」

 「私だって……こんなっ…こと……したくてした訳じゃないのに……」

 気が付くと、一方的に罵倒されていた神様、その美貌をくしゃくしゃにして今にも泣き崩れそうになっていた。

 「あ……」

 何か言おうとしたが、言葉が出なかった。

 何しろ、俺はこの短い人生の中で、誰一人も泣かせたことが無いからだ。

 人の涙は感動したときに出るものや、あくびをしたときに出るものくらいしか見たことが無かった。

 それに女性を泣かせたとあってはどうすればいいのか解らず、俺は混乱するしかなかった。

 ただ、混乱するのと同時に怒りの感情が消えてくれたのが幸いだった。



 「神様を(ののし)るなんて……俺、はどうかしていました!先程の無礼をどうかお許しください!」

 俺は冷静になったおかげで“神を罵倒した”という(ゆる)されざる事実に気付き、頭で床を叩き割る勢いで土下座をした。

 「いいんですよ、悪いのは私なんです。顔を上げてください」

 顔を上げると神様の顔が目に入った。もう泣き出すような様子は無いが、まだ表情は強張っている。

 その“申訳(もうしわけ)無い”という表情を見ていると、また謝罪の言葉が飛び出してきそうな気がしたので、俺は話を変えてみることにした。

 「そう言えば、俺が死んだのって間違いなんですよね?」

 「はい……だから…その……」

 「もう謝らなくていいですから!」

 案の定、神様は謝ろうとしたので、俺はすかさずそれを(さえぎ)った。

 「正直なところ、人間が神様から謝罪を受けているというこの状況、おかしくないですか?」

 「それは、悪いことをしたのは私だからおかしくは無いと思いますが……」

 「それはそうなんですけど……何というか、人間として神様に謝られるってのは凄く違和感のある状況で……」

 「それなら気にしなくてもいいんですよ。私、神様でもまだ下っ端ですから」

 「え、下っ端!?」

 「はい、私が神になったのは先月なので、まだ上司に迷惑をかけるばかりです」

 ――下っ端?上司?何だそれ!?神って一般企業か何かだったのか?それに“迷惑をかけるばかり”だと!?

 この発言で俺は気が付いてしまった。あの全知全能で世を統べる神様が間違って人を殺すなんてミスを犯すはずがない。彼女の言葉からすると、こんなミスをするのはいつものことなのだろう。

 それに気付いてしまったために感じた不安のせいで、俺は次の質問が出来なかった。

 『俺を生き返らせることは可能なのか?』

 俺は、不安で()けなかった。

 


 

 

 

 

 

 

 

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