期待外しの社にて⑥
社の中央には、いかにもといった風の巨石が置いてある。
ただし、これはただの庭石だ。
出鱈目に書いた符をベタベタ貼り付けると、それらしく見えるのだから不思議なものだ。
いわゆる“見える”人間ほど、このダミーには引っかかったことだろう。ここに何もないという噂を流した烏傘だが、先んじて「期待外しの社」の話が自然発生していた可能性は否めない。恣意的な偽情報は蛇足であったかもしれない。
「本命」はその奥にある。
庭石の奥の戸板を釘抜きで剥がすと、鼻のもげるような獣臭が漂ってきた。
「こいつは、予想より封が弱くなってますね」烏傘が板を剥がしながら、呻くように言った。
剥がれた板の下から、毛虫やゲジゲジ、蜘蛛などの蟲が夥しい数が這い出て来た。
魂外しの出す障気に呼ばれたものだろう。
もう少し時を置けば、霊感などなくとも異臭に疑問を抱く者がいたとしてもおかしくない。図らずも危ういタイミングであったわけだ。
「本命」である瓶を運ぶのには、さすがにバイガンも手伝った。
瓶そのものはただの陶器だが、当然のことただの入れ物ではない。蓋の周りに、ガムテープのように何十枚もの札で隙間なく目張りされている。ここまでしなければ、魂外しは封じられない。