期待外しの社にて②
「今日でなきゃいけない理由なんて、たくさんあるじゃないか」
バイガンと呼ばれた少年は、うんざりしたように答えた。
「まず魂外しの封をこの地に置いたのは、ヤツの恐ろしさを知る者が一人もいないし、最悪の事態があっても被害の少ない田舎だったからだ。
ヤツを知り怖れる者が近くに居れば、それはヤツに力を与えるからな」
そう言いながら、バイガン少年は制服の内ポケットから紙の束を出した。それは不明瞭な文字が綴られた札の束だった。
「功を奏してヤツは弱っていったが、一方でこの封印の重要性を信じる者も少ない。それは封印の弱体にも繋がる。
これ以上放置すれば、ヤツより先に封の力が無くなる危険がある。弱ったままのヤツでも自力で封を解くかもしれないだろ」
少年は札の数枚を老人に渡した。そして、数カ所の地面を指差した。
老人は溜め息をついて指された地面を小さなシャベルで掘り始めた。
「しかしバイガン様はまだ若すぎる。
貴方が帝家きっての天才であることに間違いはありませんが、だからこそ万が一があれば損失は計り知れません。
まだ機を待つ必要が…」
老人の穴掘りは遅々として進まない。
「弱体したとはいえ魂外しは国家転覆を図った魑魅魍魎ですぞ。くれぐれも侮っては…」