第9話 朱里の事情
朱里の事情。
天使だって思ったの。
☆
小さな頃から私の周りは大人ばかりだった。
赤ちゃんの頃からTVとか雑誌のモデルをしていたから周りにいるのは大人ばかりだった。
幼稚園なんて行ってないから子供の友達なんてぜんぜんいなかった。
だから・・・・・・
「こんにちは朱里ちゃん、この子は透流っていうのよ。仲良くしてあげてね」
お隣に越してきた透流くん。
お母さんの足にしがみついて大きな真っ黒い目で私のことをじっと見つめていた透流くん。
にっこり笑いかけたら花がほころぶように笑い返してくれた透流くん。
その笑顔がとっても綺麗で眩しくて。
天使だって思ったの。
大人に囲まれて育ってきた私は年の割りに大人びていた。
そんな私にとって年相応に子供らしい子供である透流くんがキラキラ光って見えた。
「あかりちゃん、あのね」
ニコニコと私に笑いかけて幼稚園であったこととかをたどたどしい言葉で話してくれた透流くんが大好きだった。
少し小柄な透流くんは守ってあげたくなるように可愛くて。
さらさらな真っ黒い髪で、ばさばさ睫に縁取られた大きな目も真っ黒でキラキラで。
元気よく泥だらけになって駆け回る背中には小さな天使の羽根があるように感じてた。
すごくすごく可愛いの。
子供心に、何でみんなはこの可愛いさに気がつかないのかと不思議だった。
私よりも可愛いのに。
でも、誰も気がつかないから私が独り占めできるんだとも理解してた。
大好きで大好きで、誰にもあげたくないって思ってた。
それは今だって同じ。
大好きな大好きな透流くん。
好きで好きで好きすぎて、いつも一緒にいたくて。
中3の時仕事を辞めた。
そうでもしなきゃ、あいつに透流くんを盗られちゃう。
小学生になって、学校に行けば今まで以上に一緒にいられると思っていたのに透流くんの側にあいつがいた。
高垣浩輔。
当たり前のように透流くんの横にいた。
当たり前のように透流くんに話しかけ、べたべた触って抱きしめて。
私の透流くんに何するの!
そいつがいる反対側の腕を取る。
小学校の入学式。
私は生涯の、ライバルであり共犯者である存在に・・・・・・会った。
☆
ライバルで共犯者の浩輔くんの腕の中で遠ざかる透流くんに必死に手を伸ばす。
嫌よ!嫌よ!
私から透流くんを奪わないで!
何で?どうして!?
透流くん!透流くん!透流くん!
「朱里!」
半狂乱になる私を浩輔くんが抱きしめる。
「大丈夫!大丈夫だ!透流なら絶対大丈夫だ!あいつを信じろ!」
透流くんを信じる・・・・・・そう、信じなきゃ。
だって透流くんだもん。
何があっても泰然としてる透流くんだもん。
ぽろぽろ涙をこぼしながら透流くんを見るとすごく綺麗に笑ったの。
小さい頃と同じようなとっても綺麗な笑顔。
それを見て、私の心は落ち着いた。
「透流・・・・・・」
浩輔くんがギリッと歯を食いしばる音がした。
抱きしめてくれてる腕を掴み浩輔くんを見上げると強い目で小さくなる透流くんを見ている。
大丈夫、きっと大丈夫。
私たちは絶対に透流くんにまた会えるから。
私たちの執着心をバカにしないでね!
普通ならヒロインポジションなのでしょうか。
誤字等ございましたらご連絡ください。
即行直します。
苦情も受け付けます。
ただし、内容によっては対応できない場合もございます。
ご了承くださいませ。