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華も嵐も踏み越えろ!  作者: ゆえ
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第8話 重なる偶然と必然

異世界の時間は元の世界とほぼ同じだった。

ただ細かな区分が無いだけで体感する時間感覚に違和感は殆どなかった。

1年とか1ヵ月という区分は無く季節で分けている。

春夏秋冬、四季があるのは日本と一緒だ。

他の場所はわからないけど少なくとも今俺がいるところは四季があるらしい。

らしい・・・と曖昧なのは俺がここに来てまだ夏の季と、秋の季の初めしか体験していないからだ。

春分の日から夏至の前日まで春の季、夏至から秋分の日の前日までを夏の季、秋分の日から冬至の前日までを秋の季、冬至から春分の日前日までを冬の季と4つに分ける。

1日も大まかに6つの時間帯らしい。

俺が今送っている生活ではそんな時間帯なんて関係ないんだけど、人間はその時間に従って生活していると狼の長が言っていたとモーリオンが教えてくれた。

モーリオンは人間との交流はほぼ無かったために人間社会のことに疎かったりする。

狼の長はここから離れている冬の季に人間の集落近くまで行くため結構知っているのだ。


人間は、この森のこちら側には入ってこない。

いや、入ることができない。

数百年前に、しつこくドラゴン討伐に訪れる人間たちに嫌気が差したモーリオンがこの森に守護結界を張ったためだ。

何度か結界ぎりぎりまで行ったことがある。

2度ほどRPGの冒険者風の人間たちを見かけた。

こちら側からは向こうが見えるけど向こうからはこちらが見えないようで、結界のほうへ向かってきていても何故かその手前で方向を変えて去ってゆく。

幻惑系の結界なのかな?

守護結界自体は強力ではあるが、魔力が高い者であれば破ることはできないまでもすり抜けることは可能らしい。

俺が見た死体の山はそうやって侵入してきた人間たちのようだ。

もちろん、動物たちやモーリオンが認めた存在は自由に出入りできたりする。


しかし・・・森をすっぽり覆う結界が張れるドラゴンの魔力ってどれだけすごいんだよ。







秋も徐々に深まり、俺は冬の準備をするために食糧確保に専念していた。

魚を獲って干物にしたり、ウサギや鳥の肉を干し肉にしたり燻製にしたり・・・・・・

狼の長も群れの移動時期までは俺に付き合ってくれるらしく、その日も俺に付いてきていた。

一人でも大丈夫だと言うんだけど、モーリオンに頼まれてるのか、付いて来るんだよなぁ。

群れはいいのか群れは!とか思うんだけど、モーリオン曰く、


――そろそろ長役を次期に譲るつもりらしいぞ――


引退してのんびり隠居生活する気満々だそうだ。



「今日は魚を釣って干物を作る。違う魚も欲しいし、いつもより遠出するから走るぞー」

狼の長にそう話しかけると俺は走り出した。

伊達に自然の中で4ヶ月も暮らしてきてるわけじゃない。

俺はこの藪や倒木などの障害物がありまくりの森の中を全力で駆け回るスキルを習得していた。

2階くらいの高さなら平気で跳び下りるし、足場や手掛りさえ確保できれば垂直な崖でも登れる。


人間、必要に迫られればなんだってできるんだ!


とか何とか考えながら森を駆け抜け本日の釣場に到着。

ここは意外と大物が釣れるんだ。

さらに5メートルほど進むと守護結界がある。


――何があるかわからないから結界の近くには行くな――


そうモーリオンは言うけれど、俺、モーリオンの結界を信じてるし、いざとなったら狼の長もいるし、それに逃げられるだけの距離はとってるつもりだ。

こっちから人間たちに接触する気なんてまったく無いしね。

森に入ってくるのはほぼドラゴン討伐のパーティーだ。

接触なんてしたらモーリオンが危険になるからね!


「さて、今日もいっぱい釣るぞー!」


俺はうきうきと釣道具を準備した。




のんびりと釣り糸を垂れる俺の脇で狼の長も優雅に寝そべっている。

一見眠っているようだけどぴくぴく動く耳や思い出したように振られる尻尾に眠っていないことがわかる。

そんなに警戒していなくてもいいのになぁ。

過保護な保護者(モーリオン)の頼みを忠実に実行する狼の長ってば律儀すぎるよ。


のんびりとした時間に眠くなる。

ふと気がつくと狼の長の姿が無かった。

狩にでも行ったのかな。

よくあることだし、この分だと肉もお土産になるかも。

ちょっと嬉しい。


などと思っていたら狼の長が戻ってきた。


「おかえりー・・・って、手ぶら?狩に行ってたんじゃなかったんだ」

ちょっと残念。

「ん?何?」

狼の長が俺の袖を咥えて引っ張る。

「何かあったのか?・・・・・・んじゃ帰るか、結構釣れたしね」

狼の長がこんなことをするのは珍しい。

たぶん俺にとってよくないことがあるんだろう。


狼の長も意外と過保護なんだよね。


手早く釣った魚を近くに生えていた笹っぽい草を使って纏めて立ち上がる。

軽く伸びをした時だった。


いきなり・・・それを感じた。



懐かしい、大事な大事な二人の幼馴染。



浩輔と朱里の二人が、今、この世界に来た。







それは、いくつかの偶然というか要因が重なり合ったことで起きた必然だったのかもしれない。



俺が結界のすぐ近くに来ていたこと。


浩輔と朱里がこの世界にその時に来たこと。


先行して帰ろうとしていたため狼の長が俺の後ろで背を向けていたこと。


そして、結界のすぐ向こう側に人間が現れたこと。



その時俺の頭の中には浩輔と朱里のことしかなかった。

モーリオンのことも狼の長のことも吹っ飛んでいた。


だから・・・・・・


人間たちに向かって駆け出し、結界を出てしまったんだ。



何も無いところからいきなり現れたように見えたのかもしれない。

3人の冒険者風の男たちはひどく驚いたように俺を見ていた。


まずった!

そんな人間を見た瞬間、俺は自分のしでかしたことに気がつき、固まった。



先にフリーズが解けたのは冒険者たちのほうだった。



「へぇ・・・こんなガキなのかよ」


大きな剣を鞘から引き抜き、剣士の一人が言う。

聞いたことが無いイントネーションなのに何を言っているかがわかる言葉に驚くよりも、その声に含まれる悪意に俺は足が竦んでしまった。


「油断するな、こう見えても相手はドラゴンだぞ。人間に化けてこっちを油断させるのが手かもしれない」


魔法使いらしい男が懐から大きな水晶球を出しかざす。


え?何?


「大丈夫だろう?怯えて固まってるぜ?・・・双黒ってことはこいつが情報どおりの黒竜だな」


何を言ってるんだ?


「さっさと殺って心臓と竜珠を持ち帰ろうぜ。鱗も欲しいが・・・殺せば竜型に戻るかもな」


もう一人の剣士が禍々しい気を発している剣を鞘から引き抜いた。

その殺気と禍々しさに俺は一歩後ずさる。


こいつら、モーリオンを殺しに来たの?

俺をモーリオンと間違えてる?


恐怖に声すらでない。


その時、俺の背後から狼の長が冒険者に襲い掛かった。


「何だ!?この狼は!!」

「くそっ!邪魔だ!!」


魔法使いが杖を掲げ何かをつぶやく。


杖の先にエネルギーが集まり、


(いかずち)よ悪しきモノを撃て!」


狼の長に向かって放たれた。


「長!だめだ!逃げて!!」


かろうじて魔法攻撃は避けたものの、


「ギャンッッ!」


狼の長は剣士が横薙ぎに払った剣に切られてしまった。


ドクドクと流れ出す赤い血。


「長!!」


狼の長に取り縋ろうとしたとき、



「滅びよドラゴン!!」



魔法使いの掲げる水晶から巨大なエネルギーが俺に向かって放たれた。




閃光と轟音。




一瞬の静寂の後、ピキン・・・ッというかすかな音を立て俺を守っていたアクセサリーが壊れた。


「チッ、流石はドラゴンだ、この攻撃に耐えたか」


「あ・・・あ、あ、・・・あ・・・・・・」

叫ぼうにも声にならない。

俺と、俺の後ろに倒れ伏す狼の長の周りを少しだけ残し、辺りは焼け焦げ燻っていた。


「だが、これはどうだろうな。竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の剣だ」


禍々しい剣の先が俺に向けられる。


「死ね!」


避ける間もなく腹部に焼け付くような熱を感じた。

すぐ目の前に血走った目でいやらしく嗤う男の顔と・・・生臭い息。


男が離れると同時に俺はその場に倒れてしまう。


腹部は熱くて痛いのにとても寒い。

庇うように押さえているところからあふれ出る暖かい血。


俺、死ぬの?死んじゃうの?


「とどめだ!」


逆光の中、振り上げられた剣が一瞬だけきらめき、次いで大きな影が落ちた。



最後に聞こえたのはドラゴンの咆哮と、





――透流ーーーーーーーーっっ!!!――





モーリオンの悲痛な声。




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