第6話 異世界の基本的生活事情
斜め下を暴走中。
狼と対峙する俺。
今度こそ、ピンチ?
後ろにはこっちに向かって来るモーリオンがいるけれど、確実に到着する前に狼に襲われるよな。
でも狼は襲うような素振りは見せなくて。
後でわかったことだけど、俺が色濃くモーリオンの気配を纏っていたから襲わなかったらしい。
ビバ!契約!!
――どうした、透流?――
モーリオンが来た。
――ああ、長か。久しいな――
「知り合い?」
――うむ。この山でいちばん大きな群れの長だ――
「すごい狼なんだな」
狼の長を見ると咥えていたウサギを地面に置き右前足で押さえ、お座りをした。
小首をかしげた感じが可愛いんですけどーーーー!
俺はドラゴンがいちばん好きだがもふもふしたものも好きなんだ!
ぱさぱさ振って地面を叩いてる尻尾に触りたい!
首にしがみついてあのもふもふ毛皮にもふもふしたい!
わしゃわしゃ撫でてぇぇぇぇぇぇっ!
・・・てか、ウサギ生きてる?
ジタバタもがいてるウサギを片足で器用に押さえつけてるのってすごいね!
あの足にも触りたい!
などと考えつつまじまじと見ていたら、
――・・・・・・・・・・・・・・・フゥ・・・――
モーリオンが露骨に溜息をついた。
「モーリオン?」
見上げると一瞬だけ目があって・・・・・・初めてモーリオンのほうから視線を外した。
雰囲気も硬い。
胸が痛い・・・・・・
モーリオンが視線を逸らした瞬間、俺の胸がツキンと痛んだ。
俺、マジでモーリオンが好きなんだな。
視線外されただけで何か泣きそう・・・てか、もう涙出てきてるんですけど。
涙腺弱すぎ!
袖口でこぼれる前に涙を拭ったり、鼻水を啜り上げたりしていると、モーリオンの雰囲気が柔らかいものになった。
それだけじゃなくなんか笑ってる?
笑みを刷いた視線をちらりと俺に向け、また視線を外す。
笑ってる・・・完全に笑ってるじゃないか!
俺からかわれた?
何かむかつく。
モーリオンの前足に蹴りを入れる。
痛かったのは俺の足の方だった。
☆
狼の長は挨拶に来たらしい。
冬の間南の方に移動していたが、夏になったので群れを率いてこの近くに戻って来たとのことだ。
ウサギは手土産だ。
ペット・・・じゃないよな、食べるためだよな。
――食べるか?――
モーリオンがウサギを示して俺に聞くけど・・・・・・
「う~ん・・・捌き方知らないんだよな。生じゃ食べられないし、モーリオン食べちゃってよ」
モーリオンは頷くとウサギをパックリ。
踊り食いですね・・・・・・
「それだけで足りるの?」
――うむ、十分だ。当分食事はしなくともいいだろう――
異世界のドラゴンはエネルギー効率がいいようです。
燃費の良いエコなドラゴン。
異世界に優しいエコドラゴン。
低燃費ドラゴンでTNPD。
クリーンエネルギードラゴン。
エコドラゴンは異世界を救う。
助けてドラゴえ〇ーン。
あぁ、おなかすいたな・・・・・・・・・・・・・・・フフフ・・・・・・フフフフ・・・・・・
空腹すぎて虚ろになって行く俺の目というか表情というか思考にモーリオンはあわてて狼の長に
――透流を何でもいいから人間がそのまま食べても大丈夫なものがあるところまで連れて行ってくれ!――
頼み込んでいた。
☆
狼の長は、背中にぐったりと負ぶさるように乗る俺を落とさないようにして、桃らしき果実のなる木の下まで運んでくれた。
良い人・・・じゃなくて良い狼だ・・・・・・
桃らしき果実はちょっと硬めだけど桃のような味で・・・・・・桃でいいや。
俺は桃をいくつかもぎ取るとその場に座り込んで食べ始めた。
狼の長はそんな俺のすぐ傍に寝そべり目を閉じている。
でもきっと寝てないんだろうな。
時々耳をピコピコ動かしている。
触りたいなー、でも触ったら怒られそうだよなー
狼の長の耳と尻尾を観察しながら桃を食べ終えた俺は、今度は水が欲しくなった。
「水場のあるとこ知らないか?・・・なんて聞いても言葉通じないし・・・・・・」
あぁ困ったなどうしよう、飲めないって思うと余計に乾く。
溜息をつく俺を一瞥すると狼の長は体を起こした。
そして数歩歩くと俺を振り返り、また数歩歩く。
それはまるで付いて来いと言っているようで、俺はあわててその後ろを追いかけた。
しばらく獣道を進むと水の匂いがした。
藪を掻き分け進んだ先には綺麗な泉。
透き通った水を湛える泉は簡単に見渡せるほどだけど広くて、真ん中に小さな島があった。
泉の周りには何匹かの動物が水を求めて来ている。
俺は思わず狼の長を見た。
「お前、俺の言葉理解してるの?」
狼の長は理知的な目で俺を見た後、先に泉の水を飲み始めた。
そして俺を振り返る。
もしかして、「この水は危険じゃないよ」と教えてくれてる?
俺はその優しさが嬉しくて泣きそうになった。
ほんと、涙腺弱くなったよな、俺。
水は冷たくておいしかった。
一息ついた俺は、更なる問題が持ち上がったのに気がついた。
今度はトイレ事情だ。
きょろきょろと周囲を見る。
あ、ここって洞窟のすぐ傍じゃん。
木立の向こうに洞窟に続く斜面と入り口が見えた。
モーリオンいない・・・・・・
・・・じゃなくて、トイレにいい場所どこだーーーーーーー!
とりあえず水場から離れた斜面の下の岩陰で用を足し、今後のことを考えてトイレを作ることにした。
土を掘るシャベルなんてものは無く、木の棒と短剣を使って掘った。
こんな使い方をしても傷一つ付かない短剣。
マジックアイテムってすごいね!などと時々現状逃避をしちゃったりなんかする。
・・・・・・異世界まで来て直面するこの現実。
何かもう溜息しか出ないよな。
あ、トイレットペーパーどうしよう?
異世界のトイレ事情。
実際問題、これって必須ですよね?
山にキャンプとか行くととりあえず作るし・・・・・・