第51話 救世主と討伐対象の語らい
しばらくモーリオンと遊んでたら浩輔が起き上がった。
「大丈夫?」
何だろう?
やたら疲れてるっぽいんだけど?
「大丈夫だ」
「そう?」
「あぁ、問題ない」
浩輔は笑いかけてくれた。
「そっか。でもさ」
浩輔、たまに無茶することあるからさ、
「きつかったらちゃんと言えよ?」
俺じゃ頼りないだろうけど力になりたいからね。
「あぁ、ちゃんと言うよ。だからそんな心配そうな顔するなって」
頭をグリグリ撫でられた。
「子供扱いするなよ」
浩輔も朱里もすぐに俺のこと撫でるんだよな。
「しょうがないだろ?撫でやすいとこにあるんだから」
「・・・絶対身長伸ばしてやる」
男は25歳まで伸びるって言う話だし、希望はある!
「俺としては今のままがいいんだが?」
「せめて170cmは超えるんだ!努力したらきっと超える!」
拳を握り力説したら、
「報われないとしても、努力することはいいことだよな」
浩輔はどこか遠い目をしながらそう言った。
それからまた俺のことをいっぱい話した。
ラウルたちのことやモンスターやギルドのことや・・・衣装のこと・・・・・・
「似合ってるぞ」
「・・・嬉しいけど嬉しくない・・・俺としてはもっとかっこいい装備がよかったよ」
「そうか?十分かっこいいじゃないか。・・・可愛いほうが際立ってるけど」
「う~・・・・・・」
また頭を撫でられた。
・・・俺の頭ってそんなに撫で易いのだろうか・・・・・・
アリアンと出会ったときのことを話してたら、
「そういえば、何でお前は透流のところにいる?あまりにも馴染みすぎてて聞くのを忘れてたんだが・・・」
浩輔が不思議そうに問いかけた。
「言ったであろう?そこに透流がおるからじゃ」
しれっと答えるアリアン。
「いや、それ答えになってないんだけど?」
浩輔の米神がピクピクしてるよ。
アリアンは溜息を吐いた。
「面倒じゃの。仕方がない、説明してしんぜようぞ。心して聞くがよい。妾が透流の傍におるのはな、透流がリィンの息子だからじゃ」
「えぇ!・・・ってか、やっぱり!?」
やっぱりって・・・・・・
それから今度は浩輔たちの事情というか状況を聞いた。
王都にも母さんの肖像画があるらしい・・・・・・
それはさておき・・・
「朱里が後宮にいるのが心配だよね」
「一応油断するなとは言ってきたし、まぁ、あいつのことだうまくやってるだろう。やりすぎてるかもしれないけど朱里自身は完璧に無事だと思うぞ」
「状況を思いっきり楽しんでるかもしれないと思うと・・・・・・」
「あー・・・透流が言ってたのは周りのことか」
「うん、朱里は絶対無事だと思うから」
「確かにな・・・とばっちりと尻拭いはごめんだぞ・・・」
「浩輔、帰ったらがんばれ!」
「お前も一緒に帰るんだぞ?」
「俺はやだよ、王宮なんて。朱里の尻拭いがもれなく付いてくるんだぞ?ご一緒に忌み色差別はいかがですか?とかどっかのファストフードみたいにスマイル0円で。貴族様とかお金持ちとか忌み色の差別酷いじゃん。浩輔に会いたくて領事館に行ったときなんてすごかったんだぞ!この衣装着てなかったら全身打撲の流血沙汰だよ、たぶん」
思い出すだけでうんざりだ。
嫌悪感丸見えの醜い顔で俺のこと殴ったり蹴飛ばしたりするんだから。
でも、初めての村で石投げられたほうが怖かったけどね。
あの時は、村の人も俺のこと本気で怖がってたし・・・だからものすごい怖かった。
殺されるかと思ったもん。
「何かされたのか?」
「突き飛ばされて殴られて蹴られて踏まれた」
「そうか、ちょっと行ってくる」
ものすごい笑顔で頭をグリグリ撫でられた。
「ほぇ?」
「なに、心配するな。ちょっと行って領事館とその周辺の家を焼き払ってくるだけだ」
「何言ってんの?」
「大丈夫、ちゃんと透流を傷つけたやつらは根こそぎころs・・・再起不能にしてくるから安心して待ってろ」
「今、殺すって言おうとしたでしょ?しなくていいから・・・って、何モーリオンまで浩輔と行こうとしてるのさ」
――何、ただの散歩だ。そのついでにとある場所でブレスを一発吐いてくるだけだ――
「うむ、再起不能なぞ生温い。一族郎党滅するまでせねばな」
「アリアンまで何言い出すの」
「あの仕打ち、手を出すなと言う透流の手前我慢はしたが・・・やはり据えかねる。何、心配は要らぬぞ?妾の力と黒竜殿の力があればものの数分で方は付く」
「何それ怖いやめてよね」
「怖いことなんかないよ、透流。お前はここで待ってればいいんだし。大丈夫、うまく殺るから」
「今、何か漢字当てたよね?そんなことしたら絶交だからね?モーリオンもアリアンもだよ?謝ったって許してあげないよ?」
「透流・・・」
――・・・む――
「じゃがな・・・」
「3人とも、俺の言うこと聞いてくれないの?・・・泣くぞ」
俺がそう言って目をウルウルさせたら3人とも大慌てで前言撤回してくれた。
・・・うん、これは使えるね!
緩くなった涙腺ありがとう。
これからも活用させてもらうからね俺の涙腺。
「それで、透流は本気で俺と一緒に来ないつもりなのか?」
「うん、せっかく会えたんだけど・・・朱里のことは別として、王宮行くのって不安なんだ。不安というより・・・浩輔の話し聞いてたら行きたくないって思っちゃったんだ」
浩輔は仕方ないな・・・と溜息を吐いた。
「俺も救世主の仕事というか義務というかまだやることが・・・そういえば、俺の討伐対象はお前らなんだよな」
「あ、うん、そうみたいだ」
「参ったな・・・」
「困ったよね」
「間抜けな展開よのぉ」
――まったくだ――
俺達がどうしたもんかと考え込んでいたら、扉がノックされた。
「はいどーぞー」
ノックするくらいだからきっと隊長さんかな?
「失礼するぞ」
思ったとおり隊長さんだった。
「コースケ殿、そろそろ帰らないと拙いんだが・・・」
「わかった。下で待っててくれ、すぐに行く」
浩輔がそう答えると隊長さんは頷き出て行った。
「アリアン、行くぞ」
「ん?何故妾が行かねばならんのじゃ?」
「何故って・・・お前、そんなんでも一応救世主の剣だろう?」
「嫌じゃ」
アリアンはそっぽを向いた。
「嫌って・・・・・・」
「妾は透流と離れとうない」
今度は俺にしがみつく。
「しかし・・・救世主の剣がないと色々拙いと思うんだが?」
「・・・ふむ、拙いかのぉ?」
俺を見上げて聞かれても困るんだけど・・・
「まぁ、拙いんじゃないかな?」
「・・・・・・仕方がない」
「そうか、じゃぁ行くぞ」
「誰が行くと言った。妾は行かぬ、その代わり・・・」
アリアンは髪を1本抜き、軽く息を吹きかける。
あら不思議、あっという間に1本の髪の毛が一振りの綺麗な剣になりました。
「おおー・・・」
思わず拍手しちゃったよ。
「これを持て。安心せい、以前の妾と殆ど変わらぬ力を持っておるぞよ」
「・・・髪の毛1本でか?」
「以前の妾は魔力が少のうなってしまっておったからの。今は十分満ちておる。髪の毛1本でも以前の妾とはほぼ同等じゃ」
「少なくなってたの?」
「うむ、せっかく産み出されたというのにつまらぬ王族に下賜されて・・・ずっと神から賜った神剣として壁に飾られておったのじゃ。まこと、不自由な上に退屈であった」
「・・・飾られていたから魔力がなくなったの?」
「お前だったら逃げ出せただろう?」
「封じの鞘にて拘束されておった。抜け出すのに魔力の殆どを使うてしまったわ。思い出すだけで腹立たしいことよ・・・・・・」
アリアンは当時を思い出したのか拗ねたように口を尖らせ小声で何かブツブツ言っている。
座った目つきがなんだか怖いから詳しく聞くのはよそう。
そう思いつつ浩輔を見たら浩輔も苦笑を浮かべて俺を見ていた。
階下へ降りると食堂(兼酒場)はカオスだった。
サラのいる一角では飲み比べも後半なのだろうか、ジョッキと酔っ払いが山となり、その山を築きあげたサラとジェイクさんは不適に笑いつつ半死半生の男3人を相手に強そうな酒をジョッキではなくボトルのまま飲んでいる。
ほぼサラとジェイクさんの一騎打ちのだよね、この状況。
サラもジェイクさんも、どんだけ強いんだよ。
それから・・・こっちがさらにカオス。
テーブルに突っ伏してヲイヲイ泣いているガイさんの頭をその斜め横に座ったラウルがニコニコ笑いながらペシペシ叩いていて、そのラウルの頭を横に座ったセレンが撫でつつガイさんの脛を長い足でゲシゲシ蹴っている上機嫌なジルさんと完璧にわけわかんない会話をしてて、ジルさんの斜め横、ガイさんの向かい側に座るテスラさんはそんな4人をウットリと熱のこもった目で見ている・・・というか観察している。
うん、見なかったことにしよう。
隊長さんは・・・いた、一人カウンターに避難してた。
こっちを見て苦笑を浮かべて手を振ってる。
ここから逃げたいという気持ちは十分わかる気がするよ。
「もういいのか?」
「あぁ、待たせてすまない」
「いや、俺もしっかり飲んで楽しんだからな。よし、それじゃぁ帰るとするか・・・ん?」
腰を上げた隊長さんは浩輔が持つ細長い風呂敷包みに目をとめた。
「なんだその包みは?・・・見たことがあるような柄だな・・・」
包みきれなかった柄の部分に気がついたみたい。
やっぱり目聡いよなぁ、隊長さん。
「あぁ、これは救世主の剣だ」
「・・・やっぱり。しかし、何でそれがここに?」
隊長さんはチラッと俺を見た。
「どうも、透流を護るためにここまで来ていたようなんだ」
「トール君を?何で?」
「透流が俺の親友だからじゃないか?」
しれっと答える浩輔に、隊長さんは訝しげに眉を顰めた。
「・・・親友だから・・・ねぇ?」
また俺を見る。
う~ん・・・なんだか探られてる感じがする。
困ったなぁ。
「透流は浩輔の大切な親友じゃからのぅ。救世主の剣は意思を持つと聞いた。賢くも美しい救世主の剣がこやつの思いを酌んで透流の急に駆けつけたのじゃ。事実、剣は危急に瀕しておった透流を助けたのじゃからな」
「ふぅん・・・」
隊長さんは当たり前のように澄まして言うアリアンに目を移した。
しかし、自分で自分のことを賢くも美しいなんて言うとは・・・アリアンらしいよな。
しばらくアリアンと俺を交互に見ていた隊長さんは、
「ま、そういう事にしときましょうか」
ニヤリと笑ってそう言った。
「聡い者は長生きするぞよ」
アリアンもニヤリと笑う。
だから、せっかく可愛いんだからその笑い方は止めようね・・・アリアン。
なんだかんだで浩輔は帰って行った。
「また来るからな!」
そう言い置いて。
うん、きっと明日・・・あ、もう今日か、も来るんだろうなぁ。
久しぶりに一緒に買い物とかしたいな。
でも、浩輔ってば救世主だから無理だろうな・・・
完全なスランプです・・・すみません。
何とか書き上げました。
話が進んだから次回はもう少し早く書け・・・たらいいな。
書きたいシーンまでが遠い・・・・・・
誤字脱字等ございましたらご連絡ください。