第5話 契約内容
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ぽっかりと意識が浮上する。
・・・・・・暖かい・・・
暖かいそれに擦り寄り着ている布を引き上げる。
――起きたか?――
優しい声。
「ン・・・・・・後5分・・・」
――・・・・・・・・・そうか、ゴフンが何かはわからんが、ゆっくり眠るといい――
「ぅん・・・・・・寝る」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って。
ガバァッ!
っと音がしそうなくらい勢いよく俺は起きた。
――起きるのか?――
目の前にドラゴン・・・いやモーリオンの顔。
夢じゃない。
夢じゃなかったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
感動に震えていると、
――大丈夫か?――
いたわるような声。
「大丈夫って・・・何が?」
と問い返してから・・・・・・・・・思い出した。
昨夜?昨日?洞窟の中だから時間感覚が覚束ないからよくわからないけど、とにかく寝る前のあの衝撃!
思い出すだけで心臓が跳ね上がりぞくぞくして熱くなる・・・・・・
落ち着け俺の心臓、冷めろ熱!!
よし、落ち着いたぞ・・・・・・たぶん。
「モーリオン、あれは何?契約って何?」
俺、なんもわかんねぇ。
――契約は契約だ。我の名を望んだのはお前だろう?――
モーリオンは面白そうに言った。
「いや、でも、俺はあんたのこと名前で呼びたかったから聞いただけだし、それが契約って・・・・・・」
――我らが人に名を教えるというのはそういうことだ――
「な・・・っ!?」
――我らは生涯にただ一度だけ契約を結ぶことができる――
何で・・・何で・・・・・・
――名を交わし、お互いの生命力の一部を交換し、繋がりを持つ。そのことでそれぞれは相手の恩恵を受けることができる――
「何で断らなかったんだよ!」
――・・・・・・透流、我と契約を結ぶことは嫌か?――
俺の目の奥を覗き込み、静かに問う。
「嫌だとかそんなんじゃなくて、この契約って対等じゃないだろう?」
ドラゴンとただの人間。
生命力の差は歴然だ。
自分に意識を向けると大きくて温かい波動を感じる。
意識を向けるだけで全身を包む波動を感じる。
これがきっとモーリオンの生命力だ。
モーリオンには何のメリットも無い契約。
そんなのって・・・嫌だ。
対等じゃなきゃ嫌だ。
――透流、お前はいずれ我が下を去る。友を探し、自分の世界に帰るのだろう?――
すごく優しい声だった。
――契約を交わすことにより、我はいつでもお前を感じることができる。どんなに遠くに離れたとしてもお前の存在を我の内に感じることができる――
でも・・・・・・
「でも、そんな大切な契約ならモーリオンにとって一番大事なヤツと契約したほうが・・・っ!」
――お前が我に名を問うた時に言ったはずだ。我の名を呼べるような存在は無い、と――
――我は、我と対等の者としか契約をしない――
「・・・・・・俺は対等なの?」
――それ以上だ――
「俺でいいの?」
――人が我と対峙したとき我に向けるものは畏怖と敵対だった。だがお前は違った。お前から感じるものは喜び。それはとても心地良く、我はお前が欲しいと思った――
モーリオンの言葉に心臓がドキドキする。
――名を聞かれた時、お前になら支配されるのも楽しいだろう・・・そう思った――
「支配?」
――互いが互いを縛り支配する、我らの契約とはそういうものだ――
「そん・・・な・・・っ!?」
――我との契約は嫌か?・・・だがもう遅い。契約は成った。お前は我のものだ、そして我はお前のものだ――
モーリオンの言葉が俺を縛る。
でもその束縛はとても気持ちよくて・・・・・・
「嫌じゃない・・・俺はあんたと契約できてとても嬉しい」
――そうか、我も嬉しい――
笑いかけると笑い返してくれた。
何かさ、契約した後のほうがモーリオンの感情とかがわかりやすい。
これが繋がるってことなのかな。
☆
さて、困ったぞ。
契約云々のことが終わると現実に直面した。
ここは異世界の洞窟の中。
マックを食ってからどれくらい経ったんだろう。
俺は今、切羽詰っている・・・・・・・・・空腹で。
「腹減ったぁ・・・」
俺、今なら何でも食える気がする。
――透流?――
じっとモーリオンを見上げる。
――透流・・・我は食っても旨くないと思うぞ――
モーリオンは溜息を一つついた。
――今は夏の季だ。外へ探しに行ってみたらどうだ?――
「外!?」
――外だ――
「外あったんだ!」
――・・・・・・・・・普通はあるだろう?――
モーリオンはまた溜息をついた。
「溜息つくと幸せ逃げるぞ」
――つかせているのはお前だろうが・・・・・・――
とにかく空腹をどうにかしないと!ってことで俺は洞窟を出ることにした。
肉系は諦める。
とりあえず、果物とか木の実とか食えるものが欲しい。
「モーリオンも一緒に行くのか?」
隣を歩く巨体を見上げた。
――いや、入り口まで送っていく――
「途中、危険なの?」
――さほど危険は無いはずだが、ここしばらく外には行っていないから小さきモノが入り込んでいるかもしれない――
「ねずみとかかな?」
――そうだな・・・だが、我が共に行けば案ずることは無い――
まぁ、そうだろうな、ドラゴンの気配がしたら普通は逃げるよな。
「あ、わき道がある」
――帰りに間違えるでないぞ?――
モーリオンが笑いを含んだ声で言う。
「間違えないよ!わき道、狭いじゃないか!」
モーリオンが通るためなのか、本通りが広いのに対してわき道は狭く荒れていて、暗い。
・・・・・・・・・何か出てきそう。
思わずブルッと震える。
俺、幽霊とか嫌いなんだよね。
本は色々読むけれど、ホラー系だけは読めない、読まない、読みたくない、表紙すら見たくない。
読むヤツの気が知れないよ。
ふとモーリオンの視線を感じた。
何?と見上げると、
――いや、可愛いものだなと思っただけだ。我が人ならば抱きしめているところだ――
その優しさと愛おしさがこもった声に俺は顔どころか耳まで熱くなった。
――透流?――
真っ赤になって動きを止めた俺を心配そうに見る。
タラシだ・・・こいつ、天性のタラシだ。
好意を直接表現されると嬉しいけど恥ずかしいじゃないか!
謙虚さが売りの日本人の王道を行く俺にとってそれは凶器だよ!
もういい。
「先に行く!」
俺は駆け出した。
後ろからモーリオンの唸り声(笑い声)。
笑えばいいよ!
緩い右カーブを曲がりきりモーリオンの姿が見えなくなってほっと息をつく。
そして気がつく。
俺ってば、恋する乙女の行動してる!?
それもモーリオンに会ってからずっとかもしれない!?
ガーーーーーーーンッ!!
かなりショックなんだけど!!
でも、そんな俺を面白く見ている俺もいるわけで。
これってもしかしたら初恋!?
初っ端からハードル高いな俺!
たぶん超が付くほどの年の差で同性でおまけに異種族!
でも、モーリオンも一応好意を示してくれてるし・・・・・・
うっひゃーーーーーーー!
心で奇声を上げながら~って、これもモーリオンには筒抜けですかそうですか・・・・・・とにかく、悶えていたら、前方に何かの気配。
ふと我に返ってそっちを見ると、そこには・・・・・・でっかいシベリアンハスキー?じゃなくて狼?
口に丸々太ったウサギらしきものを咥えてこっちを見ていた。
なんだか視線が痛いような気がする・・・・・・・・・
傍から見てると主人公の言動はアレですが、本人は普通だと思っています。
妄想が人の斜め下を行くといわれる筆者の書くお話にどこまで付いてきていただけるかがちょっと心配な今日この頃。
脱字発見こっそり手直し(3/22)