第49話 ドラゴンの心は仏様より狭い
サブタイトル、「進まない話」にしそうになった。
ベッドの横に椅子を持ってきて眠っている浩輔を見る。
相変わらずのイケメンだよなぁ。
眉間にシワ作ってても。
ツンツンと眉間のシワを突いてみると、
「う・・・ん・・・」
むずがるような声を出しさらにシワが深くなった。
おっと、痕になったら大変だ。
ムニムニと揉み解す。
――なにをやっているかと思えば・・・――
頭の上から覗き込んでたモーリオンがあきれたように言う。
「うん、なんとなく・・・ね」
――・・・そうか――
「うん」
――で、こやつが浩輔か?――
「うん」
――透流の親友――
「うん」
――よかったな――
「うん」
穏やかなモーリオンの声。
胸がじんわり温かくなってまた泣きそうだ。
モーリオンを胸に抱くと頬擦りをする。
モーリオンも俺の目尻に溜まってたらしい涙を舐めてくれた。
「このバカップルめが・・・」
アリアンが呆れたように呟いた。
俺のベアハッグ(?)もどきで気絶した浩輔を隊長さん(シグルドさんと自己紹介された)に部屋まで運んでもらった。
もちろんその前に見習い神官のテスラさんに治療をしてもらったけどね。
神官のヒール(?)は俺がやるのとは違って悪いところ、傷めたところに魔法の光が集中する感じだった。
神様から力を借りて行うとか言ってたな。
今度詳しく教えてもらおう。
階段を昇る時、
「トールとコースケの再会を祝してカンパーイ!」
と言うサラの声と唱和する酔っ払いたちの濁声が聞こえた。
俺たちをダシにしてさらに飲むつもりなんだろう。
カオスっぷりがアップしそうで残ってる唯一素面なテスラさんに合掌しておいたよ、心の中でだけど。
「あやつら、サラ以外はまた二日酔いかのう」
アリアンがニヤニヤ笑いながら言う。
いつも思うんだけど、せっかく可愛いんだからもうちょっと笑い方考えたらいいのに。
――仕方あるまい、性格だ――
それ言っちゃうとおしまいだけど。
「隊長さん、重くない?」
振り返って聞く。
部屋が一番奥だからちょっと申し訳ない。
「大丈夫だ」
うん、確かに羨ましいほどゆるがないよ、腕も足腰も。
しかし・・・・・・
「コースケ、隊長さんにお姫様抱っこされたって知ったらどんな顔するんだろう」
想像したら面白くなってきた。
後で教えてあげよう。
「俺としてはコースケ殿よりトール君を抱っこしたいけどね」
バチンと音がしそうなウインク付きで言われた。
「あはは・・・遠慮しときます」
やっぱさ、お姫様抱っこは男としての矜持が・・・ね?
されるよりしてみたい。
ベアハッグで浩輔を落とした今ならできそうな気がする!
「あ、そうか、俺が浩輔運んでもよかったんだ」
俺がそうこぼしたら、
「それは・・・コースケ殿の矜持のために止めたほうがいいと思うぞ」
「うむ、透流に姫抱っこされたと知ればこやつはきっと泣く」
――泣くであろうな――
3人とも苦笑を浮かべ、しみじみ言った。
そうか、泣くのか・・・・・・・・
機会があったらやってみよう。
――透流・・・――
モーリオンが溜息を1つ吐いた。
部屋がやたらと新しいのに驚く隊長さんを適当にごまかして追い出し今に到る。
隊長さんは、
「せっかくだから便乗して飲んでくるよ」
そう言って階下へ降りて行った。
「二日酔いの人員増えたかな?」
「たぶん大丈夫であろう」
「隊長さん・・・強い?」
「仕事中だからじゃ」
ほえ?今も仕事中?
「浩輔がここにいるからの、気は抜けぬ」
「もしかして護衛してるとか?」
「・・・そのようなものじゃな」
ふーん、そっか。
俺は浩輔に目を戻した。
早く起きないかな。
「なに、しばらくすれば起きるじゃろう。透流がおるからの」
アリアンがクククと笑う。
「念願の透流じゃ、おちおち寝てはおれんよ」
念願・・・って・・・・・・
なんだか溜息が出た。
浩輔、いったいアリアンに何話したんだ?
アリアンやモーリオンと話しつつ浩輔の様子を窺っていると、
「あ、瞼がピクピクしてる。起きるかな?」
キュッと眉が寄せられて瞼が震える。
「浩輔?」
呼びかけたらゆっくりと目を開けた。
「浩輔、大丈夫?」
浩輔は焦点の合わない目でじっと天井を見ていたけど、数回瞬き視線を俺に向け、
「透流!!!」
ガバッと起き上がった。
その勢いに思わず腰が引けたけど、
「透流!」
腕を掴まれ引き寄せられて抱きしめられた。
上半身だけベッドに乗り上げる形で結構辛いんだけどしょうがないか。
ギュウギュウ抱きしめてくる浩輔の背中をポンポン叩く。
しばらくそうやってたら満足したのかな、ほっと息を吐いて開放してくれた。
いつもは俺の保護者気取ってる浩輔がなんだか可愛い。
そんな事を思って浩輔を見ていると、
「透流・・・」
また腕を引かれ抱きしめられ・・・・・・・・・
「うわっぷ!」
る前にモーリオンが浩輔の顔に張り付いていた。
「何だこいつは!痛い痛い痛い!爪刺さってるし!」
――我の透流に2度も抱きつきおって!3度も我が許すと思うてか!――
「痛い!痛い!透流!笑ってないで助けろ!」
「モーリオンが"我の透流"だって・・・嬉しい・・・・・・」
「透流!・・・って、痛ぇぇぇぇぇえぇぇえっ!!!」
――馴れ馴れしくしおって!――
「こやつらはまったく・・・・・・・・・」
結局アリアンに、
「いい加減にせぬか!」
拳骨もらうまで騒いでいた。
「アリアン・・・ひどいよ」
タンコブできるまでじゃないけどかなり痛いよ。
「ふん・・・」
浩輔とモーリオンはタンコブになった頭を抱えてウンウン唸ってる。
「透流には手心を加えたやったぞよ?」
「ううう・・・ありがと・・・なのかな・・・」
ありがたくないんだけど・・・
拳骨のダメージから復活するや否や睨み合う浩輔とモーリオンだったけど、
「もう一発どうじゃ?」
満面の笑みのアリアンにおとなしくなる。
うん、確かに痛かったもんね。
俺達が並んでベッドに座ると、
「さて、近況報告とまいろうか?お互い聞きたいことがあるじゃろう?」
椅子の上に腰に手をやり仁王立ちのアリアンが2人の顔を交互に見る。
幼女が仕切り高校生が従うって・・・ま、いいけど。
「てか、何でアリアンがここにいるんだ?」
浩輔が不思議そうに言った。
「透流がここにいるからじゃが?」
アリアンは『何当たり前なこと聞いてんだこのバカ?』という表情。
ちょっと浩輔が可哀相な気がするけど・・・アリアン相手じゃこんなものか。
「やっぱり透流が救世主なのか?」
はぁ?
何言ってんだよ。
「俺が救世主のはず無いじゃん、救世主は浩輔だろう?」
「うむ、透流は救世主ではないぞ?」
「あれ?そうなのか?」
「救世主は浩輔じゃ」
浩輔は首を捻っている。
「てっきり透流が救世主だとばかり思っていたんだけどなぁ」
「そんなわけあるか」
俺が救世主なわけないだろう?
「救世主が誰かなどどうでもよい。さっさと話したいことを話して寝るぞよ。睡眠不足は美容の大敵じゃ」
アリアン、腕を組んで踏ん反り返っている。
あんまり反り過ぎると椅子から落ちるぞ。
「・・・まぁ、確かにもう11時過ぎだからな」
「あ、浩輔、腕時計!」
「ん?あぁ、ちゃんと機能してるぞ」
「俺、携帯とか途中で落としちゃったっぽいんだよなぁ。写真とか一杯保存してたのに・・・」
「残念だな」
浩輔が頭を撫でて・・・って、
――触るでない!――
モーリオンが腕の中から頭に飛び移って浩輔の手にキックを入れた。
うはぁ、この独占欲!
愛されてる~って実感!
「透流・・・この黒い羽付トカゲはいったいなんだ!」
「羽付トカゲって・・・モーリオンはドラゴンだよ?」
失礼だな、もう。
「じゃぁ言い直そう。このチビドラゴンはいったいなんだ?さっきから俺のことを目の敵にしているようなんだが」
チビって・・・まぁ、実際に今はちっこいけど。
「モーリオンはね、・・・えと、俺の番?」
――うむ――
「うん、番だ。ダーリン、ハニーな関係だもんね」
そう言うと、モーリオンは頭の上から首を伸ばして俺の目元にキスしてくれた。
くすぐったいぞ!
嬉しいけど!
「つ・・・つ・・・つ・・・」
いつの間にか立ち上がってた浩輔が震えながら俺達を見てる。
「つ?何?浩輔?」
「つ・・・番だとぉぉぉぉぉ!?うをあぁっ!・・・ッぶね!」
いきなり俺に掴みかかろうとしてモーリオンにまた蹴られていた。
今度は避けたけど。
さすがは浩輔だ、反射神経抜群!
「おぬしら・・・また妾の拳骨が欲しいかや?」
「「いえ!結構です!」」
浩輔のお目覚めのシーン、あの有名な台詞を言わせたくなったのは内緒です。
誤字脱字等ございましたら以下略。
もし、浩輔視点で例のあの台詞をからめるとしたら・・・・・・
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目が覚めた。
ここはどこだろう?
ぼんやりと天井を見ているとすぐ横に気配を感じる。
懐かしい、愛する人の気配だ。
首を動かし窺い見ると、透流は目をキラキラ輝かせて俺を覗き込んでいた。
両手を胸の前で組み、頬を上気させ、薄く開かれた唇は何か言いたげで。
あぁ、何て可愛いんだろう。
キラキラと、キラキラと輝く瞳は本当に綺麗で・・・・・・
俺は視線を天井に戻し、
「し・・・知らない天井だ」
透流の期待にこたえるのだった。
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うん、こんな感じかな?