第48話 やっと会えた!
透流くんsideの話です。
「ほんとにもう!心配したんだから!」
「まったくです。帰ってきたら部屋がこの有様ですし、待てど暮らせどトールは帰って来ませんし」
只今絶賛叱られ中です。
でも、同じことの繰り返しになってきたからほぼ終盤だと思います。
そうそう、叱られる時「そこに座りなさい」って言われると無意識に正座しちゃうよね?
俺はしちゃいます。
指差されたの椅子だったかもしれないけど、無意識に床に正座しちゃいました。
「ちょっと、聞いてるの!?」
「聞いてます!」
背筋が伸びました。
サラ、怖いよ・・・
でも、モーリオンもアリアンも、一緒に叱られてくれるって言ったのに・・・
ベッドに座っている2人を恨みがましく睨むと、アリアンはばつが悪そうに視線を外し、
――我は一緒に叱られるとは言っておらぬぞ――
モーリオンは笑いながらそう言った。
2人ともずるい!
助けてくれたっていいのに。
――叱られて小さくなって怯えている透流は可愛いからな。もうしばらく見ていたいのだ――
酷い!
モーリオンの意地悪!
俺、泣いちゃうよ!
「トール!ちゃんと聞きなさい・・・って、何泣いてるのよ!?」
「ああああ、それ以上泣いたら目が腫れてしまいます!」
いきなりボロボロ涙を零し始めた俺にサラもセレンも大慌てだ。
セレンが俺を抱き上げてベッドに座らせると、サラは濡らした布で目元を押さえる。
ありゃ?
誤解されちゃったかな?
「あぁもう!許してあげるわ!」
「もう心配かけないでくださいね!」
誤解されたままにしとこう。
「うん。ごめんね、ありがとう」
――ちゃっかりしておる。しかし、そんなところも可愛いぞ――
モーリオンは肩に乗ると俺の目元にキスをくれた。
意地悪・・・
――だが、好きなのだろう?――
うー・・・意地悪なモーリオンも好きだ・・・悔しいけど否定できない。
俺、Mじゃないのに!
ベッドに座ってうーうー言いながら布で目を冷やしていたらラウルがポンポンて軽く頭を叩いた。
布をずらして見上げると、
「ほどほどにな」
苦笑を浮かべていた。
「・・・・・・ラウルのバカ」
「なんでそこでそう言うのかなぁ!」
腕で頭を締め付けられた。
「痛い痛い痛い痛い!」
マジ痛い!
「ごめんなさいは~?」
「やだ!絶対言わないー!」
言うもんかー!
「こんにゃろー・・・」
グリグリ攻撃追加されました。
「痛い痛い痛い!モール、助けてー」
――承知した――
モーリオンがラウルの頭にアイアンクロー。
「うわ!ちょ!まてって!」
ラウルの手が緩んだ隙に逃げ出して、
「お返しだー」
両手をワキワキ。
「ま、まて!」
「まちませーん!くすぐり攻撃ー」
「うわぁ・・・ひゃぁぁぁぁぁぁぁああぁぁん」
おお、いい声だ!
「いい加減にしなさい!」
ゴンゴンコン
拳骨もらいました、3人とも。
モーリオンだけ中指関節で"コン"だったけど。
あれ、結句痛いんだよね。
羽の下に頭入れてフルフルしてる。
可愛い。
俺もラウルも頭押さえてうずくまってるけどね。
え?足は痺れてないのか?
痺れるわけがないでしょう!
正座のお説教は慣れてるから!
遅い夕飯をとろうと食堂に向かう。
食堂は酒場に変わってた。
客層はいいみたい。
陽気な酔っ払いが陽気に飲んでいる。
いいな、この感じ。
わくわくするよ。
「いつもはこうなる前に食べてたからな。トール、大丈夫か?」
ラウルが心配そうに俺を見る。
「平気!むしろ楽しい!」
嬉々として答えたら、
「そうか」
頭をグリグリ撫でられた。
ほんと、ガキ扱いするんだもんなぁ。
空いていたテーブルに着く。
さて、今日は何食べようかな。
それなりに美味しいんだけどバリエーションが少ないし微妙に薄いんだよね、この世界の料理。
スープ?出汁?の味も単調だし。
なによりパンチが足りない!
まぁ、香辛料が高いからね・・・
とりあえずシェフのお勧めっぽいのを食べながら雑談。
「それで、明日も行ってみるの?」
サラが3杯目のジョッキを飲み干した。
ほんのり頬がピンクになってて色っぽい。
「うん、なんとしてでも浩輔に会わなきゃね」
ローストした鶏肉をほおばる。
焼き鳥食べたいなぁ。
「その、隊長さんだっけ?ちゃんと伝言伝えてくれるかな?」
ラウルも3杯目を飲んでるけど耳まで赤い。
目も潤んで・・・結構弱い?
「微妙だけど、一応当てにしてみる」
サラダをシャクシャク・・・マヨネーズ欲しいな。
「なに、心配することはないぞ。向こうも妾を探しておるだろうからの。いざとなれば妾が戻ればすむことじゃ」
肉にかぶりついて・・・あーあ、口の周りや手が脂でべとべとじゃん。
「アリアンがさっさと戻ればすむことではないでしょうかねぇ?」
セレンが甲斐甲斐しくアリアンの口の周りや手を拭いてあげてる。
保父さんだ。
「妾が戻るのは最終手段じゃ。せっかくこうやって人型となり透流とも共に居れるのに、何故わざわざ戻らねばならぬ?妾が戻るのは万策尽きた時じゃな」
うっわ~・・・
「わがまま」
わかってたけどすっげーわがまま。
「どうとでも言うがよい。せっかくの自由ぞ?いまさら不自由な剣などになりとうはない」
まぁ、わからないでもないけどね。
そんなこんなで食事は進み、大人3人は飲みに移行した。
俺とアリアンは部屋に戻ろうかとも思ったけれど、この雰囲気が楽しくてお茶を飲みつつ居残る。
サラはビールっぽいのをグイグイ飲んでてセレンはグラスのお酒をゆっくり味わうように、ラウルは・・・セレンの飲んでるのをすっごく薄くしたものにレモン入れて舐めてる。
真っ赤な顔にウルウルの目、グラスは両手に持って・・・って、男としてどうなのよ?
サラがもう何杯目かわかんないお代わりを大きな声で注文してたら、
「サラ?サラじゃないか!?」
声をかけられた。
偉丈夫って言うのかな、マッチョなおっちゃん?にーちゃん?
どっから見ても誰が見ても一目でわかる冒険者。
浅黒く日焼けした立派な体に色あせた金茶色の短髪、目の色は薄い茶色だ。
「ガイ!?」
サラが吃驚した顔でそのガイさんを見上げた。
「やっぱりサラか!久しぶりだな!」
笑うと顔中がクシャってなる。
なんだかいい人っぽい。
「うわー久しぶりねー」
「5年ぶりか?」
「もうそんなになるんだ」
「髪、切ったんだな」
「邪魔だったからね」
ほほう、5年前はサラが髪が長かったんだ。
「仲間か?」
「ええ、ラウルにセレン、トールにアリアンにモールよ」
モーリオンも紹介してくれた。
うれしいね。
――うむ――
「ガイはどうなの?あのときの仲間と今も一緒?」
「何人かは入れ替わったがジルとはまだ組んでる。こうなるともう腐れ縁てやつか?」
ガイさんが振り返ると、
「いい加減こいつのお守りは辞めたいんだがね」
その後ろから枯れ草色のローブを着た魔法使いのお兄さんがひょっこり顔を出した。
くすんだセミロングの金髪を首元で縛った優しげな明るい緑の目が印象的な人。
「サラ、久しぶり」
「ジル!」
「相変わらず美人だね。あ、ここ、座っちゃっていい?どうせならご一緒したいな」
ジルさんは俺たちの中で一番年長者なセレンに向かって言った。
「ええ、かまいませんよ」
「狭くなるからテーブルくっつけちゃおうぜ」
ラウルが空いていた隣のテーブルをくっつけ、空いた皿を整理する。
ガイさんが椅子を並べなおし、
「後2人いるんだ。おーい、突っ立ってないでこっちに来い」
入り口近くに立っていた2人を呼ぶ。
1人は真っ白なローブを着た神官っぽいカールした金髪をポニーテールにした女の子でもう1人は革の防具をつけた短く刈り込んだこげ茶の髪の小柄な剣士だ。
「こっちは1年前から組んでるジェイクだ。こっちは3ヶ月前に組んだ見習い神官のテスラ」
ジェイクさんはニヤリと笑うと俺たちみんなと握手。
テスラさんは一瞬俺とラウルを戸惑うような表情で見たけどすぐにニッコリ笑って元気よくぺこりと頭を下げた。
それからしばらく・・・
みんなどんどん酒が進んでいい感じに壊れてきてる。
セレンとジルさんは頭をつき合わせてやたら小難しい(でも噛み合ってない)魔法談義してるし、ラウルとガイさんは肩を組んでわけわかんない歌をてんでに歌ってるし、サラとジェイクさんは飲み比べっぽいノリでがんがん飲んでるし、何故か知らない酔っ払いたちが俺たちのテーブルを取り囲みそんな2人の勝負(?)をやんやと囃したて、俺とアリアンとテスラさんはそれをあきれたように見ながら女将さんサービスのアイスクリーム(3個目)を食べてた。
テスラさん、最初俺とラウルに吃驚してたけど偏見は無いらしくすぐに馴染んだ。
曰く、
「親しくする機会がなくて身近に黒髪の人がいなかったの。噂通りで黒髪の人には綺麗な人が多いのね。吃驚しちゃった」
だそうだ。
黒髪には美形が多いらしい。
まぁ、俺は異世界人だから当てはまらないだろうけど、確かにラウルは黙ってまじめな顔してたら綺麗だよな。
いつもヘタレててあんなんだけど。
そう言うと、
「そんなことありません!十分観賞に値します!今だって・・・・・・」
ホウ・・・と両手で頬を挟みうっとりとラウルと何故かガイさんを見てる。
なんかこう、つっこんで話しちゃいけないような気がする。
そっとしておこう。
ちなみにモーリオンもアイスをもらって嬉しそうに食べてる。
あぁ・・・可愛いなぁ。
そんな時だった。
「坊や!お友達が来てるよ!」
女将さんが俺を呼んだ。
何度も止めるように言ったんだけど俺のこと坊やって呼ぶんだよね。
でも、友達って・・・
「え?誰?」
酔っ払いを掻き分けて除くとそこには・・・・・・
う・・・そ・・・
なんで・・・?
「浩輔・・・?」
その瞬間、
「透流!」
浩輔は椅子を蹴倒しテーブルを飛び越えこっちに向かってきた。
「浩輔!」
俺も酔っ払いを押しのけて駆け寄ろうとしたけど、その前にきつく抱きしめられてた。
浩輔だ、浩輔だ!
「浩輔・・・ッ、浩輔!」
ギュッとしがみつく。
「透流・・・透流・・・透流・・・ッ」
浩輔の優しくて甘い声だ。
「浩輔、浩輔・・・ッ!」
やっと・・・やっと会えた!
「俺、ずっと、ずっと会いたかったんだ・・・ッ!ずっと・・・浩輔に・・・ッ!」
涙が零れる。
ほんと、涙腺弱くなったよね。
でも、泣いたっていいよね、やっと会えたんだもの。
――透流、よかったな――
うん、うん、ありがとモーリオン。
「浩輔、浩輔、会いたかったんだ、浩輔・・・ッ!」
何度も何度も浩輔の名前を呼ぶ。
会いたかったんだ、会いたかったんだ、会いたかったんだ!
「透流・・・・・・」
浩輔が俺の名前を呼び返してくれる。
嬉しい、嬉しいよ。
俺は嬉しくて、もっと浩輔を感じたくて強くしがみついた。
俺を抱きしめる浩輔の腕が震えてる、体も震えてる。
浩輔も泣いてるのかな?
そうだったらいいな、浩輔も泣いてたら恥ずかしさ半減するもの。
「あー・・・トール君だったよね?そろそろコースケ殿を放してやってはくれないかな?背骨がメキメキ嫌な音を立てているし、顔面が蒼白を通り越して変な色だし、目が虚ろだし、さらに口から泡を吹いているんだが・・・」
誰かがそう言って俺の肩を叩いた。
え?
背骨?
そういえば、なんか変な音がするような?
浩輔の顔を見上げたら・・・
「あ」
なんだかやばい感じ。
もしかして逝っちゃってる?
そっと抱きしめてた腕の力を緩めた。
「・・・ごめん」
浩輔は立ったまま気絶してた。
誤字脱字等がございましたらご連絡くださいませ。
しかし・・・なんか色々書きたい設定の新しい話が色々浮かんできてスランプってどうよ・・・・・・