第46話 逢いたくて
俺の目の前でモーリオンとアリアンが嬉々としてシンプルなシュガーバターのクレープを食べている。
そば粉のクレープだ。
あぁ、そば食いたい・・・・・
でも、この世界には醤油が無い!
醤油が無いんだ!
・・・塩で食うのもありだよね?
後でそば粉買ってそば打とう。
露店の前に並べられた折りたたみのテーブルセットの一つにぐったりともたれかかり手の中のコップを玩ぶ。
中身のちょっと酸味の強い(アセロラっぽい味だった)ジュースは当の昔に一気に飲み干されている。
宿からここまでほぼ全力疾走。
いや、する必用もなかったんだけどなんとなく・・・そこはほら、後ろめたいと言うかなんと言うか・・・・・・
あぁ、どうごまかそう。
「お嬢ちゃん方、果汁のお代わりはどうだい?」
この店主、どう見てもこんなファンシーな食べ物を売ってるとは思えない髭もじゃマッチョなオヤジだ。
「うむ、いただこう。次はその緑色の物をたのむ」
アリアンが勝手に追加オーダーしている。
お金出すのは俺だぞ。
てか、青汁?それは青汁か?!
「うむ、なかなかの味じゃ。店主、気に入ったぞ」
うまいのか!?
思わずガン見してたらアリアンがコップを差し出してきた。
「透流も飲むかや?」
なんだか気になる・・・
「・・・一口くれ」
コップを受け取り一口。
なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!
余韻どころか舌に残りまくる甘さと鼻につく青臭さ、ねっとりと絡みつくような喉ごし!
口直し・・・口直しをぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!
「おっちゃん・・・さっきのもう一杯くれ・・・」
HPどころかMP残量もレッドゾーン。
「お嬢ちゃんの口には合わなかったか」
がっはっはーと豪快に笑いながらアセロラもどきジュースを渡してくれる。
お嬢ちゃんじゃないんだけど・・・訂正する気力も無い。
一気に飲んで何とかハイパー青汁の余韻を流せた。
侮りがたし、ハイパー青汁。
口に入れるまで臭いが分からないってどうよ!?
「なんじゃ、だらしがないのう。このような美味なるモノを・・・」
お前の味覚がおかしいんじゃ!
俺はまたテーブルに突っ伏した。
ちなみにこの間、モーリオンはず~っとクレープと格闘・・・じゃなくてお召し上がりになられてました。
気に入ったようです。
レボは「くわぁぁぁぁ・・・っ」と欠伸をして優雅に寝てるし。
世は事も無しって感じ、俺の内心以外。
あぁ、リフォームの言い訳どうしよう。
☆
食料品を売っている通りと並んで、色んな物、雑貨や武器防具に得体の知れない薬?(たぶんポーションの類)を売っている露店が並ぶ通りがあり、俺たちは今そこを歩いている。
胡散臭い店もあるけどそんな店を避けつつ冷やかしながら歩いていると、背中で軽い振動を感じた。
お、きたかな?
カバンから取り出すと、携帯糸電話が振動して石が光ってる。
真ん中の透明な石とサラの赤い石。
「はい、透流ですよー」
蓋を開けて応答すると、
『聞こえる!!すっごーい!』
サラがすっげー嬉しそうにはしゃいでいた。
その後、ラウルとセレンも代わる代わる使って驚いたり感心したり。
ひとしきり遊んでから、サラはおもむろに、
「そうそう、なんかね王都から偉い人が来たらしいって大騒ぎなのよ。巻き込まれないように気をつけてね」
言った。
それって・・・まさか!?
「ふむ、浩輔たちが着いたようじゃな」
電話を切り、アリアンに向き直る。
「着くのは明日かと思っていたが、意外と早かったのう」
のんびりと言うアリアン。
「浩輔はどこにいるんだ?」
そんなアリアンの前にしゃがみ、目線を合わせて問う。
「どこにいるかはわからぬが、目的地は知っておる」
「それってどこ!?」
思わずアリアンの肩を掴む。
抱かれていたモーリオンが俺の肩に移動した。
「焦るでない。ここまで早く着いたと言うことは馬を乗り潰したとみる。それにこんな時間じゃ、すぐには出立しまいて」
掴まれた肩が痛かったのだろう、アリアンはちょっと顔をしかめたが、俺の手を軽くなだめるように叩いた。
「そうかもしれないけど!・・・俺、浩輔に会いたい」
俺に笑いかけてくれる浩輔、そして朱里の顔を思い出す。
「透流・・・」
優し気なアリアンの声を振り切るように立ち上がり、
「会いたいんだ・・・・・・」
俺は夕闇の空を見上げた。
この世界に来て、モーリオンやレボ、ラウルにサラにセレン、精霊さんたち、そしてアリアン、エリンさんたち。
たくさんの人に出会って今まで過ごしてきたけど、やっぱり俺は・・・・・・
――透流・・・――
モーリオンが頬を擦り寄せてくれる。
――透流様――
レボも寄り添ってくれる。
うん、優しいね。
「透流」
アリアンが俺のケープの裾を握り、
「では、会いに行くか?」
大人びた優しい笑みを浮かべた。
アリアンは迷い無く俺の手を引いて行く。
「その・・・領事館だっけ?場所、知ってるんだ?」
「いや、詳しい場所は知らぬ」
おいおいおいおい。
「まぁ、どこの都も似たような造りじゃ。中央に城があり、その周りを貴族どもの屋敷が囲い、そして平民の住む地区が囲む」
・・・確かにそれが一般的だろうね。
山の麓や海に面しているとかだと違う造りになるだろうけど、アレノスは平原にある都市だ。
守りを固めるとなればそんな造りになるだろう。
商業地区、前に俺が迷い込んだような高級っぽい住宅の立つ地区を抜け、ちょっと広めの水路にかかる跳ね橋を渡ると建物の雰囲気が変わった。
やたらでかい。
てか、塀が高く、木々の向こうにチラッとお屋敷の屋根が見える感じ?
たぶん貴族様のお屋敷なのだろう。
無駄に広い!
掃除が大変そうだ。
長い塀をぐる~っと迂回し、大通りに出る。
俺たちがいた露店の並ぶ通りはは大通りからかなり外れたところだったから結構回り道になった。
まぁ、商業地区で大通りに出るよりは中心に近い分短い回り道だったけど。
通りの奥、真正面に半端無くでっかくてやたら派手な門が鎮座していた。
アリアンがその門を指差し、言う。
「あれが領事館じゃ。・・・たぶん」
たぶんかよ!
門は確かに領事館の門だった。
しかし、何だこの人垣は!
門に近づけやしない。
口々に、
「救世主様!」
「救世主コースケ様!」
連呼してる。
中には、
「コースケ様愛してるぅぅぅぅぅ~❤」
「抱いてぇ~❤」
「犯してぇぇぇぇ~❤」
なんて叫んでる女や・・・・・・男・・・・・・
見なかったことにしよう。
「なんとまぁ・・・」
アリアンがあきれてみている。
「まぁ、浩輔が係わるとこんなもんだよ」
フェロモン駄々漏れだからな。
「それに、朱里が加わるとこんなもんじゃないよ」
俺は星の瞬く夜空を見上げた。
ふ・・・・・・
懐かしい思い出さ・・・・・・・・・
「で、どうするのじゃ?門には近づけぬぞ?」
そうなんだよね、近づけないんだよね。
人垣を掻き分けようとしたら、
「何だお前は!?」
「忌み色だわ!」
「何て不吉な色!」
「汚らわしい!」
門番まで、
「あっちへ行け!ここはお前のような下賎な者の来る所じゃない!」
罵られて突き飛ばされて殴られて蹴られた。
防御付形状記憶服のおかげでノーダメージなんだけど、殺気立ったモーリオンとレボ、アリアンを宥めるのが大変だった。
う~ん・・・どうしたもんか。
――裏門か、使用人の通用口に回ってみたらどうでしょう?――
レボ!ナイスアイデア!
俺はしゃがみ込んでレボを撫でまくった。
くぅぅ・・・相変わらず気持ちいい触り心地だ!
ひとしきりモフモフを堪能し、おもむろに立ち上がると、
「裏に回るぞ!」
俺は力強く小声で宣言した。
だって他の人に聞かれたくないじゃん。
だが、裏門は正門とほぼ同じ状況だった・・・・・・
まだ通用口がある!
通用口があるのはたぶん商業地区に近いほうだよね。
塀に沿って歩くと、地味なつくりの塀に埋め込まれた両開きの木戸があった。
荷馬車も通るんだろう、結構大きい。
槍を持った門番?警備兵?・・・門番でいいや、が2人暇そうに欠伸しながら立っている。
「こんばんは」
俺たちは挨拶しながら近づいた。
もちろん、ニッコリ笑いながら。
それでも、
「何者だ!?」
槍を向けられ誰何されちゃったけどね。
でも、表と違って排除はされないっぽい?
「えと、ただの冒険者です」
そう言うと、
「冒険者?」
「お前がか?」
じろじろ見られちゃったよ。
確かにこんなコスプレした冒険者はいないと思うけど・・・・・・
「これ、証拠」
俺が腕輪を見せると2人の門番は軽く目を見張り、苦笑を浮かべた。
「すまないね、お嬢ちゃんのような小さい子が冒険者だとは思わなくてな」
おや?なんだか優しいぞ?
でも・・・お嬢ちゃん・・・小さい・・・・・・
無駄な時間かけたくないから我慢しよう。
「それで、何の用だい?可愛い魔獣使いさん」
可愛い・・・・・・我慢我慢。
俺は二人の門番を交互に見て、
「浩輔・・・いや、救世主に会いたいんだ」
単刀直入に言った。
「「ダメだ」」
即答ですか。
それでも食い下がってみる。
「一目会うだけでいいんです」
「むしろチラッと見るだけでも!」
「いや、向こうが俺を見るだけでもいいんだ!」
でもやっぱりダメで。
なんだか泣きたくなってきた。
だって、目の前の建物の中には浩輔がいるんだぞ!
手の届くところにいるんだぞ!
どう諭しても梃子でも動かない俺に門番は困ったように顔を見合わせている。
どれくらいそうしていただろう、不意に木戸が開き、体格のいい男の人が数人出てきた。
「ん?どうした?」
1人が声をかけると、門番はあわてて居住まいを正す。
偉い人なのかな?
この人に頼んだらどうだろう?
俺はとりあえず、近くにいた人の服を逃がさないようにガッシリ掴み、
「浩輔に会わせて!」
半分睨むように見上げた。
結局その人、隊長さんにも浩輔には会わせられないって言われて・・・・・・
「それじゃぁ・・・伝言頼めますか?」
悔しくて悲しくて声が震える。
きっと泣きそうな顔してるんだろうな。
隊長さんがクシャって頭を撫でてくれた。
「あぁ、伝えといてやるよ。なんて言えばいいんだ?」
「俺、透流って言います。浩輔に、俺は無事だからって、緑の小鹿亭っていう宿にいるから時間があったら会いたいって・・・伝えてください」
言ってるうちに涙が出てきた。
俺はグイッて手の甲で涙を拭うと隊長さんに深く頭を下げて踵を返すと駆け出した。
「嬢ちゃん!?」
「透流!」
――透流様!――
あわててアリアン達が追いかけてくるけど、俺は振り返らずに走った。
涙がボロボロ零れる。
こっちに来てから涙腺弱りすぎ!
いくつか角を曲がると俺は足を止めた。
――透流・・・――
背中にしがみついていたモーリオンが肩に移動して零れる涙を舐め取ってくれる。
――透流・・・――
「モーリオン・・・俺・・・」
――・・・透流――
モーリオンは軽く溜息を吐くと俺を宥めるように、
――急に走り出すな、落ちるかと思ったぞ――
そう言った。
そっちかよ!
でも、おかげで涙が止まった。
モーリオン、ありがと。
胸に抱いたモーリオンと小さい頃の話をしながら宿に向かってゆっくり歩いていたら、
「透流!探したぞ!」
アリアンがレボに乗って追いついてきた。
一緒に追いかけてきてた隊長さんはいないみたいだ。
「急に駆け出しおって」
「ごめん、泣けてきちゃって恥ずかしかったんだ」
アリアンは溜息をつくと手を伸ばし、俺の目元に触れた。
「まったく、心配したではないか。目が真っ赤じゃぞ」
「ごめん、ありがと」
「さて、帰ろうぞ。帰ってサラに叱られねばならぬからの」
「あー・・・・・・帰りたくないなぁ」
「共に叱られてやる。妾は空腹じゃ、帰ろうぞ」
「うん、俺もお腹空いた、帰ろう」
レボから降りたアリアンと手を繋ぎ、俺達は帰路につく。
空は晴れて満天の星。
見覚えのある星座が一つもないのが寂しいね。
宿の前、3人が待っていた。
ニッコリと微笑むサラとセレン、その1歩後ろで困ったように笑うラウル。
鬼神だ・・・鬼神が2人いる・・・・・・
でも・・・
俺の顔を見たら2人の表情が困ったような笑顔に変わる。
「ごめん・・・」
そう言うと、サラがギュって抱きしめてくれた。
セレンとラウルも頭を撫でてくれる。
みんな優しいよね。
お胸で窒息する前に放してくれたらもっと嬉しいけど。
そして、その後こってり叱られたのは言うまでもない。
文章力、もっとつけなきゃなぁ・・・・
誤字脱字等ございましたらご連絡ください。
誤字、修正しました。
ご連絡いただきありがとうございます(_ _*)ペコリ