第45話 匠と呼んでもいいよ
ご無沙汰しております。
ほぼ9ヶ月ぶりの更新です。
ミシミシメリメリ・・・・・・
部屋のあちこちから嫌な音が聞こえる。
うん、なんだかやばそうな気がする。
えと・・・
「モーリオン・・・大きさはこのまま?」
――今はまだこの大きさが限界だ――
「いや・・・そうじゃなくて・・・」
メリメリミシミシピシピシピシ・・・・・・
さらに音の種類が増えた。
「小さくなれる?」
――うむ、なれるが・・・やはり透流は我が小さいほうがいいのか?――
少し悲しげな目で小首を傾げて俺を見る。
あぁ・・・大きくなってもそんな仕草が可愛い・・・
じゃなくて!
「このままじゃ部屋が壊れる!なれるんだったら小さくなって!」
俺の叫びにはっとしたモーリオンは急いで小さくなってくれたんだけど・・・・・・
部屋の状況を見て俺たちはあわててバスルームに逃げ込んだ。
「なんともまぁ・・・ひどいものじゃな」
アリアンがあきれたように呟く。
確かに・・・
大きくなったモーリオンの体で見えなかっただけで、部屋は惨憺たる有様だった。
床も壁も天井も歪んだ上にヒビが入っている。
よく壊れなかったもんだ。
ベッドやテーブルとかは壊滅だけど。
――壊さぬよう気をつけたつもりだったのだが・・・――
つもりじゃダメなんだよ・・・・・・
俺は小さく溜息を吐いた。
修復・・・できるかな?
とりあえず床だよね、最初に直すのは。
バスルームの入り口に立つと術を展開する。
森とかを修復したものと微妙に違う感じ。
自然と人工物の違いかな?
・・・まぁ、深くは考えないことにしよう。
「よし、できたかな?と思う!」
軽く息を吸い、呪文を唱えようとしたら、
ドンドンドンドンドン!
ドアが激しくノックされ、
ビクゥッ!
俺は激しく動揺し、
「あ・・・」
展開した術は霧散するのではなく、
パァァァァァァァァァァァァァァッ
部屋全体に拡散して発動し一気に修復。
えと・・・・・・・・・
「結果オーライ?」
――・・・透流・・・――
「相変わらず・・・規格外のやつじゃな」
あきれたように見る2人の視線を華麗にスルー(できていたかは疑問・・・最近スルースキルがうまく発動できないのは何故だ?)しドアに向かう。
「坊や、大丈夫かい!?何があったんだい!?」
ドアを叩いているのは女将さんみたいだ。
モーリオンとアリアンを振り返り静かにしてるように唇に人差し指を当て合図を送るとそっとドアを開けた。
「あぁよかった、無事だったんだね」
女将さんは心底ほっとした表情で俺に笑いかけてくれ、
「はい、大丈夫です」
俺もぎこちないながらも笑い返す。
とりあえず、今は部屋に入ってもらうと困るから少しだけ開けたドアから廊下に出ることにした。
女将さんの後ろにはこの宿に泊まってるお客さんの冒険者っぽい男の人が3人いる。
「心配したよ、ものすごい音と揺れだったからね。どこも怪我はしてないかい?」
「はい、ご心配おかけしました、すみません」
頭を下げたら、
「まったくだよ。坊やの部屋からだって聞いたときは心臓が止まるかと思ったよ」
そう言って俺をムギューーーーーって抱きしめてきた。
2回目の豊満なお腹とお胸の圧迫!
く・・・苦しい!死ぬ!死ぬ!死ぬ!
ジタバタもがいていたら無精ひげの冒険者っぽいおじさんが救出してくれた。
ヒョイって両脇を支えられて軽々と・・・・・・
あぁ、苦しかった。
でも・・・この抱き上げ方は小さい子供か小動物に対する扱いっぽくてなんとなく屈辱。
だけど、一応助けてもらったんだからお礼言わなきゃ。
「ありがとございます」
抱き上げられたままの状態でにっこり笑ってそう言うと、
「い、いや、無事でよかった・・・」
無精ひげのおじさんは視線を軽く外しながらギクシャクと降ろしてくれた。
耳が赤くなってる?
・・・ま、いいか。
「それにしても、何があったんだい?」
さぁ、なんて言ってごまかすか・・・
正直にモーリオンが大きくなって~・・・って事は言わないほうがいいよね?
う~ん・・・困った。
笑ってごまかす・・・わけには行かないか。
俺が困って曖昧な笑みを浮かべて女将さんとおじさんたちを見ていたら、
「妾の所為じゃ」
モーリオンを抱いてアリアンが部屋から出てきた。
「アリアン?」
何をいきなり言ってるんだ?
問いかけようとすると視線で黙らされた。
「お嬢様の所為?」
女将さんがしゃがみ込んでアリアンと視線を合わせる。
「うむ、妾の所為じゃ。妾とこの黒竜殿の所為じゃ」
アリアンはニッコリ笑うと、
「黒竜殿と一緒に昼寝を楽しんでおったら夢見が悪くての、驚いて目が覚めたのじゃが無意識に魔力を放出したらしく黒竜殿が驚いてしまったようじゃ。妾に釣られて魔力を放出してしまい相乗効果で部屋の中にあふれかえってあのような音と振動を起こしてしまった。なに、大事無い。音と振動のみじゃ、椅子や棚は倒れてしまったが透流が直してくれた。あとは無事じゃ。心配せず仕事に戻られたらよかろう」
一気にそう言った。
「そ・・・そうかい?それならいいんだけど・・・その、お嬢様は・・・魔法使い?」
女将さんが戸惑ったように問うと、
「ちと違うが・・・似たようなものじゃ。確かにこの騒動のきっかけは妾じゃが、大半は黒竜殿の所為じゃからの。小さくとも竜種の魔力は甚大。この程度の被害で収まっただけでも儲けもの、人死にや怪我人が出たわけでもなかろう?気にするでない。執着が強き者は幸薄き者じゃ。せっかくの運を逃したくはなかろう?妾もそなたらのような善き者が不幸になるのは見たくはないからのう」
アリアンはニィ~ッコリ可愛らしく、ソレはもう可愛らしく、ちょっと背中に冷たい汗が流れるくらい可愛らしく笑った。
その勢いに女将さん&冒険者のおじさん×3は飲まれたように引き上げていった。
納得・・・させられたな、アレは。
女将さんたち4人と遠巻きに見ていたギャラリーを見送って俺たちは部屋に戻った。
うん、戻ったんだけど・・・・・・現実を直視したくない気がする。
「見事なものじゃのう」
アリアンが嬉々としてベッドに寝そべる。
「見よ、シーツも真っ白じゃ。ごわつきも無く、これならば気持ちよく眠れようぞ」
・・・こうなる前もぐっすり寝てたくせに。
――臭いも消えたな――
モーリオンが目を細め、臭いを嗅ぐように首を伸ばす。
――僅かだが饐えた臭いがしておったが、今では・・・むしろ木の匂いがする――
まぁ、壁とか床とか天井とかカーテンとか新しくなったから染み付いてた臭いは消えただろうね。
しかし・・・窓の上の薄汚い布切れがカーテンだったとは・・・・・・
部屋は見事にピッカピカの新品状態になっていた。
モーリオンが壊したところだけじゃなく、長年使ってきたため傷んだり汚れたりしたところまで全部修復。
術が拡散した結果がコレだ。
もうね、気分は"なんということでしょう"だよ・・・・・・
風に揺れる真っ白なカーテンが目に痛い。
サラが帰ってきたら怒られそう・・・いや、確実に怒られるね。
決めた!
現実逃避する!
「モーリオン!アリアン!お出かけしよう!」
時間的には午後の3時過ぎくらいかな。
携帯糸電話もあるし、大丈夫、問題ない!
「散歩に行こう!市場の近くに屋台とか出てたから買い食いしよう!」
お小遣いまだ残ってるしね!
モーリオンを頭の上に乗せエリンさんにもらったカバンを肩に引っ掛けアリアンの手を引いて部屋から出る。
鍵をかけるとき、視界いっぱいのドアは見ないことにした。
うん、見えない、何も見てない。
カウンターで女将さんに鍵を預け、飛び出すように宿を出る。
レボと合流しながらそっと見上げた部屋は・・・・・・
大丈夫、リフォームは内側の壁だけだ!
ドアも窓も・・・外から見たら枠だけは新しくなってたけど、汚れが目立たない黒っぽい木が使われててよかったとしみじみ思う。
大丈夫、目立たない!・・・はずだ!
「透流の部屋の窓だけ綺麗じゃな」
言わないで・・・・・・・・・
俺、涙目。
久しぶりの執筆。
読み返したけど・・・微妙に文体違うかも。
すみません。