第42話 ごはんを食べよう③
遅くなりました・・・
スランプなのかしら?
俺は思わず立ち止まってしまった。
何ここ、パラダイス!?
「トール?どうしたの?」
サラが訝しげに俺を覗き込み、
「ちょっと、何泣いてるのよ!?」
驚いている。
だって・・・
「この通り・・・パラダイス・・・」
「え?」
だって・・・だって・・・
「この通り、丸ごと食料品店なんだもの!」
あぁもう、幸せ!
「おいしいものを食べることが生きがいな俺はこうやって豊富な素材が盛り沢山なスーパーマーケットが大好きなんだ!」
ダダァーと涙を零しながら拳を握り力説。
ちなみにおねむなモーリオンは頭の上に移動してもらってる。
でも、なんでモーリオンこんなにおねむなんだ?
まぁ、それはいい、とりあえずおいておこう。
「買い物だー!」
「トール、無駄に燃えるのやめなさい。周りの視線が痛いわ」
「まったくじゃ」
「それで、何を買うの?」
「えと、小麦粉、砂糖、塩、これは必須ね。それから乳製品。牛乳とできれば生クリーム、バターにチーズ、ヨーグルトもあったらいいな。スパイス関係と、あと、この世界の調味料?肉や野菜、魚は今はいいや。どんな物があるかだけ見ておきたい。あ、でも卵は欲しい!」
「結構あるわね。手分けしましょうか?ここならトールが危ない目にあうこともないと思うし」
「いいの?じゃぁじゃぁ小麦粉と砂糖と塩をお願い!後は俺が見て買いたいから」
「了解。どれくらい買えばいい?」
どれくらい・・・
「んー、結構たくさん?旅に必要な分も買っちゃっていいと思う」
「そうねぇ・・・旅に小麦粉とかあまり持っていかないんだけど・・・」
「あぁ、そういえば材料はほぼ現地調達だったもんね。後は保存が効く硬いパンが主食・・・」
あのパンは不味かった。
硬いし、パサついて口の中の水分持って行かれちゃうし。
「とりあえずたくさん!・・・そんなに高くないよね?」
「そうね、塩が若干高いけど、トールに渡してもらってるお金、半端なく多いから大丈夫よ」
「・・・多いの?」
「多いわよ。3年は働かなくても普通に生活できるくらいよ」
うそん!
そんなに多かったの?
俺が驚いてると、
「金貨に銀貨、皮袋いっぱいずっしりとあったじゃない。おまけに白金貨まで。渡されたときは普通に受け取ったけど後で袋の中を確認して3人で呆然としちゃったわ」
溜息混じりにサラが言う。
「とりあえず、これだけ渡しておくわ。無駄遣いしないようにね?」
小袋に銀貨十数枚を入れて渡された。
「ありがとう!じゃぁ行って来る!」
俺が駆け出そうとしたら、
「待て」
ケープをガッシリとアリアンが掴んだ。
「妾もそなたと行くぞよ」
「俺と?」
「うむ」
「でも・・・」
俺はサラを見上げた。
「アリアン、おとなしくしてトールの言うことをちゃんと聞くならいいわよ」
「む・・・なんじゃ、その言い草は。妾がいつそなたらに迷惑をかけたと申すのかや?」
「こうやってお買い物するの、初めてでしょう?朝からずっとはしゃいでいるじゃない。トールも買い物に夢中になりそうだし、こんな人混みではぐれちゃったら大変よ?」
サラが困ったように言う。
「大丈夫じゃ。妾はちゃんと透流に目が届くところにしか行かぬ」
俺"に"かよ・・・
「わかった、信用してるからね。じゃぁ、買い物が終わったらここに集合ってことで、解散!」
サラの号令で俺たちは二手に分かれた。
「それで、どこから行くのじゃ?」
「そうだなぁ・・・」
宿のおばさんに教えてもらった乳製品を売ってる店はどこだろう?
「看板にミルクの入った瓶の絵が描いてあるって言ってたよな」
「ふむ・・・あれではないか?」
アリアンが指差す先、建物の2階の張り出しの角に木製の揺れる看板。
・・・牛乳瓶だ・・・・・・
「うん、あそこだね」
何か脱力。
「では行こうぞ」
アリアンはうきうきと踊るような足取りだ。
微笑ましくてちょっとだけ笑っちゃったよ。
「こんにちはー」
店を覗いて声をかける。
「いらっしゃい」
カウンターの裏で作業していたのか、俺の声で男の人が立ち上がって笑いながら出迎えた。
「おや、初めてだね」
「はい、宿の人に紹介されてきました」
そう言うと、男の人(若いからお兄さんだな)はにこやかにカウンターから出てきて、
「何がいるんだい?」
とちょっと腰をかがめて俺を覗き込んできた。
やっぱりこの世界の人ってでかいよ。
また子供扱いされてるみたいだし。
「えと、扱ってる乳製品は何がありますか?」
とりあえずそれが知りたい。
「そうだね・・・今朝搾ったばかりの乳と乳脂、乾酪や発酵乳もあるよ」
おお!
揃ってる!
「乳は何の乳ですか?乾酪の種類は?」
物によっては癖が強いからね。
「うちで扱っているのは牛と少ないけど山羊もあるよ。乾酪はこれしかないけど・・・」
ハードタイプのナチュラルチーズ!
マジっすか?マジなんすか!?
イヤッフーーーーーッ!!
食の充実に向け1歩どころか365歩前進!
「じゃぁ、牛の乳と乳脂、乾酪、発酵乳もください!」
興奮してそう言う俺にお兄さんは微笑んで頷いた。
もう一個気がついたことがある。
この世界、イケメン率半端ねぇ!
確かにムサイヤツやキモイヤツもいるけどこのお兄さんはテライケメン。
比較対象が浩輔だから俺の審美眼は結構厳しいはずなんだけど、この兄さんかっこいいぞ、悔しいな。
きっと近所のおばさんや奥さんに人気があって店も繁盛してるんだ!
「どれくらい要るんだい?」
「えと、牛乳はこの店で扱ってる一番大きな瓶で、乳脂と乾酪も大きく一塊、発酵乳は牛乳の瓶より一回り小さいのでください」
「それは・・・たくさんだね。持てるかい?」
「大丈夫、表に荷物運んでくれる使役獣がいるんだ」
使役獣って言葉嫌いなんだけど、ここではそう言うのが一般的だから仕方ないよね。
「それじゃ、大丈夫だね。用意してくるからちょっと待っててね」
お兄さんはそう言いニッコリ俺に笑いかけると店の奥に入って行った。
興味深そうに店の中を色々見ながらうろついていたアリアンが俺の傍に来て、
「なんじゃ、あの男は。妾の透流にやたらべたべたしおって」
ちょっと怒りながらお兄さんが入って行った店の奥を睨む。
俺、アリアンのものじゃなくてモーリオンのものなんだけどな。
「俺のこと子供だと思ってるんだよ。子供がお使いで来たと思ってるよ絶対」
「そうかのうぉ・・・」
アリアンは納得いかない様子で店の奥を見ている。
「そうに決まってるよ」
そんなこんなしていたら、お兄さんが牛乳が満たされた大きな瓶と一回り小さいのはヨーグルトかな?それから紙の包み2個を抱えて出て来た。
「かなり重いけど大丈夫かい?」
「大丈夫!」
俺はエコバッグを取り出した。
買い物時の最強アイテム!
代金を払うとエコバッグを開き、大きい瓶を2本と大きい包み2個を入れた。
お兄さんが驚いて見てる。
下手に説明すると墓穴掘りそうだからスルーね。
「ありがとうございました!」
俺は元気よく挨拶すると、
「またおいで」
そう言ってさわやかに笑うお兄さんに手を振ると店を出た。
んふふ~いい買い物した!
うきうきと足取りも自然に踊るようになる。
「・・・透流・・・」
「ん~?何?アリアン?」
「その歌を・・・やめてはくれぬか?」
ほえ?
「俺・・・歌ってた?」
アリアンを見るとトロンとした目でふらふらと歩いている。
「アリアン!?大丈夫?」
「大丈夫じゃ・・・」
いや、ちっとも大丈夫じゃないし!
俺はしゃがみ込んでアリアンに額に触れた。
「ちょっと熱いかな?触った感じ微熱っぽいんだけど・・・」
「大丈夫じゃ、これは熱などではない」
「え?でも、さっきより体温上がってるよ?」
「・・・眠いのじゃ」
「はぁ!?」
まぁ・・・確かに眠いと体温上がるけど・・・
「透流の歌を聴いていたら眠くなったのじゃ」
そう言うと、アリアンは可愛らしく欠伸をし、目を擦った。
「俺の歌で?なんで?」
無意識に歌ってたみたいだけど、俺の歌で眠くなるって・・・俺、どんなけ単調でつまんない歌を歌ってたんだ!?
「歌を聴くと眠くなってしまうからの、よくはわからぬが・・・そなたの歌声は眠りの女神の祝福を受けておるようじゃ」
「女神様ぁ!?」
何だよそれ!
「お前の歌を好まれたのであろう」
「眠りの女神に好かれちゃったから俺が歌うとアリアンが寝ちゃうの?」
「妾だけではないぞ。僅かでも魔力があるものはその影響を受ける。魔力が高ければ高いほどそれは顕著じゃ」
「そうなの?」
「その黒竜殿もそなたの歌で眠っておるようなものじゃ」
「モーリオンが?」
「妾はあえて聞こえる距離まで近づかぬようにしておったが・・・そなた、心が浮き立つと鼻歌を歌うのが癖じゃろう?」
「う・・・そうかも」
「朝から歌っておったぞ?そこな狼殿もずっと眠そうであった」
アリアンはクスクスと笑う。
「レボも眠かったの?」
――はい、透流様の歌声が心地よくてふわふわと心が浮き立ち春の陽だまりにいるようでした――
「春の陽だまりって・・・」
「相当眠いのを堪えておったようじゃの」
アリアンはレボの頭を撫でた。
「狼殿は魔力量が少ないからの、我慢できたのじゃろうが・・・黒竜殿は堪えきれなかったようじゃ」
「眠気は魔力量と比例するのか・・・」
「うむ」
「あう・・・もう歌えないなぁ・・・」
「それは困るのぉ」
アリアンが小首を傾げて俺を見上げる。
「透流の歌は心地好い。眠気に負けて最後まで聞くことは叶わぬが、妾はそなたの歌が好きじゃ。また夜にでも歌っておくれ」
「そっか、好きなのか」
歌うこと好きだからなんか嬉しい。
「じゃぁ、寝るときに子守唄歌うよ」
「うむ、楽しみにしておるぞ」
アリアンは嬉しそうに笑った。
「して、次は何を買うのじゃ?」
「うーん、できればスパイスが欲しいんだけど・・・ちょっと見た感じ、無さそうなんだよね」
「スパイス・・・ヘルメタートの特産物じゃな」
「アリアン知ってるの!?」
「詳しくは知らぬ!掴みかかるでないわ!」
思わずガシッと両肩を掴んじゃった。
「ごめんー」
「まぁよい。・・・スパイスに付いてはリィンから聞いた。ヘルメタートとの国境に近い街でスパイスを見かけてのぅ、リィンが興奮しておったのじゃ。当時、妾たちは途中で魔獣退治などの依頼を受けて小金を稼ぐような旅をしていたからのぅ、買うことができずリィンは悔しがっておった」
「母さんもスパイス関係好きだからなぁ。外食してても『パンチが足りない』って和食にも胡椒とかかけちゃうし、My胡椒とか持ち歩いてるし」
「うむ・・・わかるような気がするぞよ。その時も地団駄を踏む勢いで悔しがっておった」
「俺の香辛料好きは母さん譲りだもんね。親の味覚、子供に影響しまくりだよ」
俺は苦笑を浮かべた。
「スパイスは、今は諦めよう。後でご飯食べにカレー屋に行くからその時に店の人に聞いてみるよ」
そのほうが手っ取り早いような気がする。
「では、次はなんじゃ?」
「そうだな・・・サラが戻ってきてるかもしれないからいったん合流しようか?」
「うむ、ではそうしよう」
俺たちは連れ立ってもと来た道を戻ることにした。
歌を歌わないように気をつけながらね。
サラと合流してエリンさんの店(と言った方がいいと思うよあの店)に向かう。
お昼ご飯の前に面倒なことはみんな片付けようと思ったんだ。
迎えに行ったら・・・なんだかウキウキしているエリンさんが怖い・・・
「さぁ、行きましょう!」
無駄に気合入ってるよ。
俺、逃げてもいい?
――無駄だと思うぞ――
ごもっとも。
ご機嫌な理由は、雑貨屋の娘さんだった。
なんでも意気投合したそうで・・・
俺にとっては恐怖でしかない。
どうか・・・何事も起きませんように・・・俺に対して。
「よう、坊主、来たか」
ダグがニンマリ笑って出迎えてくれた。
もうさ、嫌な予感しかないんだけど・・・
パタパタと奥に走って行ったエリンさんが何かを手に戻って来た。
「さぁさぁ、早速着けてみて!」
手渡されたモノは前のとは違ってて、たぶん額にあたる部分?が幅広の手触りのいいベストと同色の布でできている。
デザインと補強を兼ねてるのかな?全体に布と同色の糸で蔓草模様の細かいステッチ、ところどころに使ってある銀色の糸がアクセントだ。
布の両端を、銀のこれもまた蔓草の透かし模様がデザインされた布より少し幅が狭い金具で留めてあり、そこから後頭部にかかる部分が5本。
1本が幅1cmくらいの銀の蔓で、4本が半透明の白い石と透き通った緑の石が所々に入った細い鎖だ。
「へぇ・・・綺麗じゃない」
「ふむ、上品なデザインじゃのう」
サラとアリアンが手元を覗き込んできた。
「この金具の部分の蔓草が絡み合ったのがいいわね」
「うむ。エリンのデザインなのかや?派手過ぎず、嫌味もない。良い物じゃな」
いや、俺にとっては十分派手だよ・・・
「ささと着けてみよ」
アリアンに急かされ、エリンさんやサラの期待に満ちた目と、ダグの面白がっている目に見つめられながら俺はソレを着けてみた。
額に当たる布は柔らかく気持ちいい。
布が留めてある金具はこめかみから耳にかかるくらいまであり、デザインの蔓草がちょうど耳に引っかかってずれないように固定されてる。
後頭部にかかる蔓もちょうどいい位置で止まってて・・・・・・
ただ、細い鎖がシャラシャラと首筋にかかるのがくすぐったい。
「ほう・・・」
アリアンが感嘆した声を上げ、
「あらあら・・・」
サラがクスクス笑い、
「思った通り!」
エリンさんがドヤ顔をした。
「坊主、よく似合っているぞ。さらに女か男かわからなくなったな」
ダグが笑う。
「サラ!鏡かして!」
サラに鏡を借りて見る。
幅広の布が額を覆い、顔にかかっていた長い前髪を分けている。
視界がクリアになる分はいいんだよね。
少し残ってしまった前髪を払う。
契約石も隠れてるし、布だからバンダナっぽい感覚だし。
でも・・・
左右の金具の繊細なデザインとか、シャラシャラしてる細い鎖が綺麗過ぎる!
「ちょっと・・・派手じゃない?」
「「「「ちっとも!」」」」
あうぅ・・・
鏡の中の自分を困ったように見ながら払っても払っても落ちてくる残ってしまった少しの前髪を指で弄くっていたら、
――透流は気に入らぬのか?我は好きだ。よく似合っている――
「モーリオン?」
――それにな、目がよく見える。今は碧い目ではあるが、我は透流と目を合わせて話をするのが好きだ――
モーリオンが小さな鏡を一緒に覗き込んできた。
――透流によく似合っている。お前がさらに可愛らしくなって我は嬉しい――
「あぅぅ・・・」
顔が赤くなっちゃったじゃないか!
この場面でそんなこと言っちゃうわけ?
――我の本当の気持ちなのだが?――
とか言って小首傾げてるし!
天然タラシ成分配合ドラゴンめ・・・
嫌だって言えなくなったじゃないか。
「モールがいいようになだめてくれたみたいね」
「まったく、素直になればよいものを」
「着けていただけさえしたら私は満足です」
女性陣(一人は男の娘)が何か納得しちゃってるし、
「夜道は独りで歩くなよ?」
ダグは・・・何かもうどうでもいいよ。
サラの武器の細かな調整の話も終わり、俺たち工房を出ては昼食に向かう。
エリンさんはまだ何かダグと話があるみたいで工房に残った。
「ふへへ・・・カレーだカレーだーぁ」
「トール、本当に嬉しそうね」
「うん、嬉しいよ!今日はさ、食べるだけじゃなくてスパイスも分けてもらえないか聞こうと思ってるんだ」
「スパイスを?」
「無理かもしれないけど、とりあえず聞いてみないことにははじまらないしね」
「・・・トールって、料理が好きなの?」
サラが小首を傾げて聞いてくる。
「料理が好きってわけじゃなくて、美味しいものを食べるのが好きなんだ。だからなんだかんだで自分で作ることになるというか・・・」
母さんがいたら作らなくてもいいんだけどね。
「あ、サラの料理が不味いって言ってるんじゃないよ!サラの料理、美味しかったし!」
あわてて言うと、
「わかってるわよ。美味しい美味しいってガツガツ食べてたものね」
サラは苦笑を浮かべた。
「あれって塩だけじゃなかったよね?スープが美味しかった」
「干したキノコよ。昔、一緒にパーティー組んでた仲間に教えてもらったの。干したキノコや野菜を使うと美味しいスープができるんだよって」
「あぁ、なるほど!」
乾物売ってるとこあったよね。
あとで行ってみよう。
店に着くと、愛のメモリーなウェイターが迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、昨日に続きご来店ありがとうございます」
相変わらず笑顔(というか歯)が眩しいよ。
「昨日は迷惑かけちゃってごめんなさい」
俺が頭を下げると、
「いえいえ、こちらこそ」
キラーンと歯を光らせながら愛のメモリーなウェイターは笑い返す。
「時々あのような方々が来店されて迷惑してたんですよ。いつもはお金を渡して穏便に帰っていただいていたのですが・・・お客様が喧嘩を吹っかけ・・・いえ、きっかけを作られたおかげで常連の皆さんも反撃することができたと喜んでおりました。迷惑なんてとんでもない!」
「そう言っていただけると俺も安心します」
俺もニッコリ笑い返した。
「今日は何をお召し上がりになりますか?」
「どうしようかな・・・サラはキーマ?」
「そうね、私はキーマが食べたいわ」
「アリアンは辛いもの平気?」
「妾は何でもいけるぞよ!カレーとやらも1度だけ食したことがある。まことに美味であった」
「へぇ、いつ食べたの?母さんと?」
「うむ、妾の内なる世界での、リィンがイメージしてくれたものを具現化したのじゃ」
なんて便利なインナースペース!
「じゃぁ、アリアンもキーマでいいんだね。それから・・・モールもキーマ」
――うむ、今日は我を忘れぬように気をつけよう――
うん、信用してるからね。
「俺はどうしようかな・・・キーマも食べたいけど・・・」
「それではグリーンカレーはどうですか?」
「おお!それで!」
「かしこまりました。パンにしますか?それともライスで?」
「俺はライス!みんなは?」
「私はパンがいいわ」
「妾はライスじゃ」
――我もライスがいい――
「モールもライスって言ってるからライス3つにパンが1つで」
「はい、かしこまりました」
注文を受けたウェイターが下がり、俺たちは雑談しながら待つことにした。
昼食の時間からずれているためお客さんも俺たち以外いない。
話が何故か俺の魔術のことになり・・・
「透流、妾のクッションじゃが、どうやってカイロとか言う物にするのじゃ?」
「そういえば、トールが魔法をかけてるとこ見たことがなかったわね」
「あー、そうだっけ?」
「ねね、今ここでかけることってできる?」
「ここで?」
「うんうん」
「できるけど・・・」
俺はモーリオンをチラッと見る。
――他に客もおらぬ。少しくらいなら構わぬのではないか?――
ん、モーリオンがそう言うなら。
俺はクッションを取り出してテーブルに置いた。
カイロにするのと、あとはクッションだからつぶれ難くして、ネコ状態で使うことも見越して防汚処理かな。
結界に包んで術を展開。
「ほかほかクッションにな~ぁれ!」
ピカッと光って完成。
俺はできたばかりのほかほかクッションをアリアンに渡した。
「おお!」
「呪文はともかく、すごいわね」
2人は代わる代わるクッションを抱きしめてご満悦だ。
あ、そうだ、ついでに・・・
「サラ、髪の毛1本もらえる?」
「髪を?何にするの?」
「うん、持ち主登録するんだ」
俺はサラ用のぬいぐるみを取り出し、もらった髪の毛と一緒に結界に包む。
うまくいくかな・・・
術を展開・・・何とかなりそう。
「DNA登録~」
おお!うまくいっちゃったみたい!
相変わらず原理とかまったくわかんないけど!
わかんないのに使えちゃうって・・・ヤバイような気がする。
うん、考えないようにしよう!
「おおー!・・・って、何したの?」
「もし何処かに置き忘れてもちゃんとサラのところに帰ってくるようにしたんだ」
俺はぬいぐるみを持ってテーブルを離れる。
店の入り口、これくらいならいけるかな?
ぬいぐるみを床に置く。
しばらく・・・数秒後、ぬいぐるみはフルフルと震え、立ち上がった。
「よし!」
そして、ヨチヨチと歩いてサラの元へ。
「えぇぇぇぇっ!なにこれ!すっごく可愛いじゃないの!いやぁ~ん」
サラ、もうデレデレ。
ヨチヨチトコトコ、ラウルに似ているクマのぬいぐるみはサラのところまで一生懸命歩いて来て、小首をかしげて腕を差出し・・・ぽてんっと転んだ、というか動きを止めた。
「イヤァァァァァァァァァッ!」
サラは悲鳴だか叫びだかよくわからない奇声をあげ、ぬいぐるみを抱き上げる。
「ちょっと、なにこの子可愛い!もう悶え死ぬ!ラウルそっくり!でもラウル以上に可愛い!」
そうか、サラにとってラウルは萌の対象になってるのか。
なんかさ、さっきの魔術かけるときこのクマってばラウルにそっくりーとか思いながらかけたんだよね・・・
もしかして・・・性格がラウルなのか?
さっき『抱っこして~』って時に傾げた首の傾き具合とか、転んで動きを止めた姿とか、なんだか動きがラウルっぽい?
「この子、最高!私の物なのよね!?」
「うん、そうだよ」
「ああん、この姿が見たくてわざと置き忘れちゃいそうだわ!」
「それは可哀想だからやめたげて」
なんて騒いでたら、
「お客様、どうされましたか!?」
置くからワラワラ人がでてきた。
手に、包丁とかお玉とかしゃもじとかお盆とか構えて。
さっきサラがあげた奇声のせいかな?
「あぁ、なんでもないです、ちょっと興奮しちゃって」
ニッコリ笑ってそう言うと、
「・・・!・・・そ、そうですか、何事もないならそれでいいです」
包丁を構えていた白いロングタイプのエプロンをつけた若いコックさんが何故か顔を赤くして答えてくれた。
事件でもないのに包丁構えて飛び出してきたのが恥ずかしかったんだろうね。
――いや、それは違うと思うぞ・・・――
モーリオン?
――前髪で隠されていないお前の笑顔は・・・いや、なんでもない――
俺の笑顔?
そんなに変だったかなぁ・・・
普通に笑ってるつもりなんだけど、あまり笑ったことなかったからぎこちなかったのかも。
モーリオンがテーブルの上から俺を見上げて溜息。
失礼な、溜息吐くことないじゃん。
「あなたたち何をしてるの!?」
厨房から女の人が覗いた。
かなり綺麗なお姉さん?・・・いや、よく見たらおばさんだ。
「ほらほら、すぐに持ち場に付いて!料理出来上がったわよ」
そう言って両手にカレーを持って出て来た。
「キーマカレーお待ちどう様。残りのもすぐに持ってくるわね」
アリアンとモーリオンの前に皿を置く。
「あなたが昨日の勇敢な坊や?」
俺を見て小首を傾げた。
迫力の美人だ。
身長とか体格とかサラより少し大きい?
そう、似た女優をあげるとしたら二コール・キッドマン。
彼女を筋肉質にした感じだ。
「今日の分、私の奢りよ。たくさん食べていってね」
「え?あ、でも・・・」
「あぁ、私がこの店の店主のリンチェよ。よろしくね。それでね、あなたが昨日あのバカどもに喧嘩を売ってくれたおかげでうちの従業員も常連さんたちもなんだか滾るものがあったらしいのよ。何でも『あんな可愛い子が健気にがんばってるのに俺たちがこのまま泣き寝入りしてていいのか!?』とか何とか・・・」
なんなんだそれは?
「昨夜も匂いに釣られた酔っ払いが数人来てね、ちょっと揉めたんだけど、従業員とお客さんで叩き出しちゃったのよねぇ。いつもは暴れる無頼の輩におびえて手も足も出なかったんだけど皆がんばってくれちゃって」
リンチェさん全開の笑顔だ。
「私が店のほうに出ていられれば追い払うこともできるんだけど、あいにく厨房にかかりっきりでしょう?騒ぎを早く収めるために仕方なくお金渡してたのよね。余計な出費にもなるし、ほんとイライラしてたわ。でも、もうこれからはそんなイライラも感じなくてすむし、坊やのおかげで大助かり!」
拳を握って力説。
「坊やの分は今後も私の奢りよ。だからいつでもいらっしゃい」
なんだかよくわからないけど感謝されてるのはわかった。
「ありがとうございます」
迫力の美人の有無を言わせぬ迫力に、俺は頷くしかなかったんだけど・・・
これってさ、スパイス分けて貰ういいきっかけになるよね?
俺は思い切って切り出した。
「あの!」
ちょっとドキドキする。
マジでリンチェさん美人なんだもんな。
「ん?どうしたの?」
「俺の分、ただにしてもらわなくてもいいので、その代わりにスパイスを分けてください!」
よし、言ったぞ!
でも・・・リンチェさん、きょとんとして俺を見てる。
う・・・ダメかな?
「スパイスが欲しいの?」
「は、はい!」
「でも、君、使い方わかるの?」
「基本的なことならわかると思います。料理で使ったことあるし」
「ふぅん・・・とりあえず、それ食べちゃいなさい。食べ終わったら厨房に来て」
「わ・・・わかりました」
なんだかリンチェさん面白そうに笑ってる。
「ちゃんといらっしゃいね?」
「はい!」
軽く手を振って迫力の美人コックさんは厨房に戻って行った。
スパイス、分けてもらえそうな予感。
俺は急いで食べることにした。
スプーンでグリーンカレーを口に運ぶ。
「う・・・うまぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
マジで美味しいよ、ここのカレー!
やっと書けたー!
ほんと、マジでスランプなのかな?
でも、文字数最高ww
ふぅ、萌充填しすぎたのかも。
間違い等がございましたらご連絡くださいませ。
また、感想なども・・・贅沢は言っちゃダメ!
自重しろよ、俺。